空よりも深く

空よりも深く ◆27ZYfcW1SM


このSSはStage2.魔法使いと、その騎士たち後のパートを用いた没SSです。



 ZUNは城の地下でビールの入ったジョッキーを傾けていた。
 地下のこもった空気でも酒の旨みは変わることはない。
 ZUNの椅子の周りに広がる数々のディスプレイにはそれぞれのキャラクターに割り振られた変数の値を表示している。
 開始当時は人数が多くて管理しきれなかったが、残り5人なら一人でも楽に見渡すことができる。
 体力、精神力、状態異常、所持品、記憶のフラグ、そして存在のフラグ。
 体力がなくなれば死に、友人が死ねば精神力が減る。
 腕が斬られれば状態異常のフラグが立ち、武器を拾えば所持品にその所持品のIDが追加される。
 情報を得れば記憶フラグが立ち、存在のフラグがNULL(ゼロ)になればこの世界から消滅する。
 この世界の彼女らはキャラクターと言う名前の構造体をビジュアル化したに過ぎない。
 そして、この世界も自分がプログラミングしたものだ。
 彼女たちというオブジェクトがこの城の中に入ると言うことはプログラム上ありえない。
 取るはずのない変数だ。

 故に難題。

 しかしZUNはこれが覆されるという予感を感じていた。
 有名なところでは風神録の魔理沙の貫通装備だろう。
 通称バグマリと呼ばれるバグで魔理沙の攻撃力がゲームバランスを崩壊させるレベルで強化されるバグだ。
 一流と名乗っても良いZUNでもプログラムを作る上でのバグを完全に止めることはできないのだ。
 そして、プログラマーとしての感か、それとも経験か、このプログラムにはどこか穴がある。
 そう告げているのだ。
 それがどのような答えなのか……
 ZUNは嬉しそうにジョッキーを更に傾けた。

 しばらく時間が過ぎた。
 ZUNが口直しにチェイサーを飲んでいた時だった。
 突如カタカタと酒瓶が揺れ始めたのだ。
 ZUNは手元のマウスを素早く動かして、外の様子を探った。
 ディスプレイに表示される外の状況。
 ZUNは独り言を呟いた。
 「なるほど……それは対処してなかったな……」
 ディスプレイには空にむかって伸びる白い白煙が映し出されていた。

            〆

「この作戦は……」
 魔理沙は紫の遺書を見ながら言った。

 紫が最後に残したメモは、生き残っている者たちの持っている能力を考察し、それをどう首輪解除につなげるかを記したものだった。

 最初に成功率が書かれており、どの方法が現実味を帯びているかひと目で分かるようになっていた。
 100%でも失敗するし、0%でも成功すると言っていた割には、やはり確率はスキマ妖怪でも変えることができないらしい。

 そして、同時に危険度も書かれている。
 成功率が高ければリスクも大きくなるようだ。
 成功率が高いほど危険度も高くなっている。

 そのメモの中で選ばれた案が2つ。
 どっちもロケットを使うという点が同じだが、成功率が雲泥の差であった。
 一方はロケット燃料を爆薬で引火させ、城を吹き飛ばすという作戦であった。
 成功率は低めなものの、リスクがとても低く、死者はまず出ない案であった。

 魔理沙を唸らせたのはもう一方の方だった。
 成功率はかなり高い。
 しかし、危険度が高かった。
 この作戦を行えば……ほぼ確実に一人死ぬ。

 人柱を立てる作戦など魔理沙は決して選択しない。
 それでもこの成功率の高さは魅力的であり、麻薬のような誘惑を醸し出していた。
 ロケットは1発。
 片方の作戦を行えば、もう片方の作戦は行えない。

 失敗は許されない。
 そのプレッシャーが重く魔理沙にのしかかる。

「私……やるよ……」
「お空!?」

 その時、この作戦の人柱、否、キーカードのお空は手を上げた。
「私、できるよ。前の私なら死んじゃうかもしれないけど、私強くなったもん。」

 魔理沙は最初見栄を張っているのだと思った。すぐに考えを改める。
 お空がこのゲームで何を体験したか全てを察することはできないが、その顔には自信に満ちあふれていた。
 このやる気ならリスクの高さなんて吹き飛ばしてくれる。
 そう思わせるほどだった。

「分かった。どうせやるなら地上でやる花火よりでっかい打ち上げ花火だな」

            〆

 城の周りに張り巡らされた攻撃反射結界。
 その術式(プログラム)は比較的に簡単なものだ。
 ある一定以上の大きさのものは通さない。
 これだけであった。
 例えるなら眼に見えないほど細かいネットのようなものである。
 逆を返せば眼に小さいものは通すということだ。
 というのも全てのものを封鎖しては必要な日光やデータ通信用の電波、空気が届かなくなってしまうからだ。

 つまり、この結界を突破して城の中にあるサーバーを破壊するには極小のものを使って攻撃しなければならない。

 生き残った者でそれができるのは霊烏路空。ただ一人だった。


「お空、頑張って」

 フランドール・スカーレットはぎゅっとお空の手を握った。
 手はかすかに震えていた。
 これからお空が行くのは危険な旅。お空が大丈夫といくら言ってもフランの不安は消えることはなかった。

「うん、任せて。……吸血鬼は隠れたほうがいいよ。きっとすごく眩しいから」

 お空はそのことを察し、少し悩んだあとフランの頭に手をおいて冗談を飛ばした。

「……ふふっ」

 フランは懐かしい雰囲気を思い出した。
 弾幕ごっこの前の皮肉が乗った台詞に似ていたからだ。
 ひとつの冗談でフランはこれだけ心配しているのがだんだんバカらしくなる。
 自分がいくら心配したってお空には錘にしかならない。
 心配して送り出すのは自分らしくなかった。反省、自分らしく彼女を送り出すにはこの台詞しかあるまい。

「早苗が一瞬で灰になるくらいのを期待してるわ」

 早苗は大げさにあらあらと手を口元に添える。

「魔理沙さん、私が灰になったらエアーズロックに撒いてくださいね」
「縁起でもないことを言うなよ。というかなんでエアーズロックなんだ?」
「はぁ、無事戻れたら世界の中心で愛をさけぶ人と出会うために婚活でも始めましょうかね」

 文もいつの間にか会話の輪に入ってきていた。

「天狗でも結婚願望はあるんだな」
「文さん、白血病になるんですか?」
「あやややや、病気になるリスクがあるなら婚活はあきらめないといけませんね」
「というかもう一羽のカラスを見習ってお前も仕事しろよ」
「やれやれ、まったく烏使いが荒いですね。というかもう終わりましたよ」

 文はドンとロケットを叩いた。
 一同に緊張が走る。
「いよいよ打ち上げか」
「緊張しますね」
「着地のことは私達に任せて全力を尽くして下さい」

 お空はゆっくりと立ち上がると歩き始める。

「こんなに太陽を焦がれたのは初めてだわ」
 とフラン。
「弾幕はパワーだってことを証明してこい」
 と魔理沙。
「私は能力を使いません。だって確実に起こることは奇跡とは呼べませんから」
 と早苗。
「帰ったらこのことも記事にさせてもらいますよ」
 と文。

 声援を背に受けてお空はロケットへと足を踏み入れた。

「一発逆転のファイナルフュージョン、見せてあげるわ!」

            〆

「制限解除装置、発動を確認。空さんは首輪の呪縛から開放されました」

 文は制限解除装置のスイッチを入れる。

「よし、気質の方はどうだ?」

 魔理沙はフランの方を向く。

「快晴にセット完了したよ。うっ眩しい!」
 フランは気質発現装置を始動させた。
 空に浮かんでいた雲が全て消滅し、見渡す限りの青空が一面に広がる。

「よし、打ち上げには最高の天気だな……最後の最後で霊夢の力を借りるとはね……」

「仕上げだ。打ち上げるぞ! 早苗」

「了解です。5,4、3……」

 早苗はお祓い棒を振るいはじめる。
 ロケットの中でお空は静かに呟いた。

「黒い太陽、八咫烏様。我に力を与えてくださった事に感謝します」

「2」

「私の究極の核エネルギーは全てを溶かし尽くす」

「1」

「時間すら歪む超高温、超高圧の世界は地上の姿を大きく変貌させるでしょう」

「ゼロ!」
「リフトオフ!」
「私が飲み込んだ神の炎! 核エネルギーで跡形もなく溶けきるがいいわ!」

            〆

 お空はロケットの中心に座って上昇圧力に耐えていた。
 ロケットは快晴の気質の手助けもあってグングンと空へ向かって飛翔する。
 わずか数十秒で地上が手のひらで隠せるほどに小さくなっていた。

「うん、そろそろだ……」

 バサリとお空は羽を震わせた。
 漆黒の羽が舞う。

 ロケットから外へ出る扉を開いた。
 中の空気が外に吸い出され、代わりに身を凍らせるほど冷たい冷気がお空を包み込んだ。
 地上300000メートル。空気は薄く、妖怪の体でなければ数秒で絶命してしまう環境だ。
 景色は空と言うよりは宇宙に近い。
 眼下に広がるのは青い空、上を見上げれば真っ黒な宇宙。
 まるで昼と夜の境目にいるような気分だ。
「すごい……こんな景色初めて……」

 お空はロケットから足を離す。
 地球の重力に引かれて少女の体は静かに落下し始めた。
「ファイナルスペル!」

 お空の体が光り始める。
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 CAUTION!!   CAUTION!!    
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 CAUTION!!   CAUTION!!    
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「サブタレイニアンサン」



            〆


 打ち上げてから数十秒の時間、誰一人として目線を外すことはなかった。
 突如、世界は真っ白な光へと包まれた。
 この光こそ、魔理沙たちが起こしたかった光。第二の太陽の光だ。

 高高度で核爆発が起こるとEMP、電磁パルスが発生する。
 その電磁パルスは地上に降り注ぎ、ありとあらゆる電子機器の回路を焼ききってしまうのだ。
 一発で時代を1900年代頃まで退化させる、それがEMPだ。

 眼に見えないほど小さいものは通してしまう城の結界は当然EMPを防ぐことはできない。
 そして、ZUNの使用しているPC及びサーバーは家電量販店で売っているようなものだ。
 EMPなどというまず起こることがない事態に対応しているはずがなかった。

 ZUNのサーバーは最後にこう出力して、その活動を停止した。

【東風谷早苗 死亡】
【霧雨魔理沙 死亡】
【フランドール・スカーレット 死亡】
【霊烏路空 死亡】
【射命丸文 死亡】

【ゲームオーバー 生存者なし】

※EMPが発生しました。
 全ての電子機器は破壊されました。

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最終更新:2013年01月07日 13:58
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