コレクショントラベル!

コレクショントラベル! ◆KZj7PmTWPo




「うっひょー!」

 とりあえず興奮したね。

 灼熱地獄跡地で業務に従事していたところ、気が付けばいきなり殺し合いだなんてビックリだ!
 なにがビックリかと言うと、やはり今回参加させられたそうそうたる顔触れが一番ビックリだね。あたいら妖怪を始め、人間妖精亡霊閻魔と何でもござれ。あたいと同じく、強制された口だろうか? 志願でも違和感なさそうだけど。
 いずれにしても、出揃った連中は強力無比と言える規格外な人妖が多いと思う。
 鬼のような分かり易いものもいれば、不気味な迫力を漂わせる意味解らん生物もいる。お空のようなお馬鹿もいれば、賢さを滲ませる人妖各種も様々だ。そうそう! やたら強い地上のお姉さん達もいるんだなこれが。
 こんな所でマジになった連中と会ってしまったが最後、凡夫妖怪ならばあっさり挽き肉にされるんじゃなかろうか。あたいはそこそこだから、大丈夫だけどねっ。多分。

 強くて危害がなければ尻尾を振って、危ない奴なら尻尾を巻こう。
 お気楽思考で暗所の道中も危なげなくステップを踏んでいると、湖の畔であれを発見してしまったのさ。
 目を凝らさなくても分かる。スンスンと鼻を鳴らすと、空気中に漂う芳香が我が全身を満たした。傍から見れば、あたいは頬を高潮させながら満面の笑みを浮かべていることだろう。

 だってあたいの眼前に! なんと芳醇で新鮮っぽいアレがあったのさ!
 気色ばんで駆け出した。お預けをくらった大好物を、遂にくらえることができる心情だね。
 だって、それはそうだろう。あたいにとっての大好物が間近に転がっているのだから!

「おぉ……」

 近くに辿り着き、ペタリと膝を地につけた。じっくりと水面を視線で舐め回すと、期待通りのものだと改めて確信できる。

「いい死体だ!」

 ――水死体。あたいが喜びに打ち震えさせるものこそが、無造作に打ち捨てられたこの死体って訳だ。
 ただ、畔とはいえ死体が水に沈んでいるのは確か。猫だけに濡れるのは嫌だったけど、これを捨て置くのはもっと嫌だ。
 という訳で、水際より死体をサルページしよう。こう、その辺に転がっていた木の棒でチョイチョイって感じでね。上手く死体の襟元に引っ掛け、ほいっと力任せに引き摺り上げた。

 ここが浅瀬で幸運だったねこりゃ。死体を見つけるあたいの嗅覚は並じゃないけど、時間の経過と共に流されて深層に沈んでいたら手も出せなかった。
 そもそも死体は沈むものだけど、極端に深くなければ何れは腐って浮いてくるものさ。腐敗ガスがパンパンに溜まった風船死体も嫌いじゃないけど、やはり現物そのままが好ましいね。
 新鮮の範疇――つまり、死んで間もない体だとなお嬉しいってこと。

「よっと」

 死体を水際に打ち上げて、注意深く観察する。
 開いているとも閉じているとも言えない半開きな眼があたいを見ているけれど、構わず死体の状態をまさぐる様に確かめる。肉付きや肌触り、容貌に風貌と様々ね。
 そしてこの死体、一番損傷しているのは首の中腹だ。

「鋭利なもので頚動脈を一刺し! ってところかねぇ」

 厚い筋肉を突き破っての一刺しだ。故意と見るのが妥当かも。
 まぁ、当の本人に少しばかり聞いてみようかね。
 ――そうして何時もの様に死体に“話し”かけたのだけれど。

「んん?」

 うまく聞こえないわ。
 あっれーー。おっかしいなぁ……。
 普段ならば死体や霊との会話はお手の物なんだけど、どうしてか聞き取りずらい。
 確かに聞こえはする。聞こえはするんだけど、酷く曖昧で断片的だ。感じ取ったことは、この死体から僅か困惑の念が伝わってくる程度。しかも一方通行で、こちらの意思は伝わりもしないし操れもしない。
 諦観絶望怨嗟愁嘆と様々な甘美たる感情が伝わり、そこそこの意思疎通ができる筈だったんだけどねぇ。まぁ逐一取り合うのも面倒だから、暇じゃない限りは無視してるけどね。どちらかと言えば、あたいは聞き上手なのさ!
 だけど、今回はその限りで済ませられないわけで。

 ……とにかく。感じ取った困惑念からして、訳も知らずに殺されたってことかな? 大方闇討ちか騙し討ちでもされたのかもね。ただの推測だけど。
 しかし残念。

「話せれば詳しい状況も聞けたのになぁ……」

 そこで思い至る。
 そういや制限って……もしかしてこれだろうか?
 確かに、死体と好き勝手会話して、誰が殺した殺されただの聞き出すのはフェアじゃない。そういうことかいな。

「…………」

 ――めんどくさいなぁ……。
 まぁ、現在の目的に支障をきたすわけでもないから別にいいか。
 とりあえず! 今はさっそく手に入れた死体を運ばなくてはね!

 ―――……。
 あ。

「じゅ、重要なことに気が付いてしまったっ」

 ね、猫車! 猫車はいずこに!? 完全に忘れていた!
 今の今まで気が付かなかったとは、まるでお空並のお馬鹿ではないか!
 そ、そうだ荷物。荷物の中に紛れていないだろうかっ。
 背負っていたバックを引っくり返して、中身をそのまま地面にぶちまけた。

 ――これは水、これは食料。地図と……時計? に書き物と……なんだこの丸っこいのは?
 丸っこいのには説明書があったから呼んでみる。

「えむ67破片手榴弾? ピンを抜けば爆発するのか……」

 爆弾かい。
 他には……植物? これなんだっけなぁ……あ! そうそう、たらの芽だ! 天ぷらにすると美味いんだ。
 んじゃぁ、この容器に入っているドロドロしたのは油かぁ。天ぷらでも作れってか? 鍋と衣はどうしたのさ!!

 ……うん。まぁぶちまけてから一目で確信してたけど……愛用のマイカーなんぞ視線の片隅にすらない。
 うあああぁぁ。こりゃ困ったねぇ。現状、死体運びは一苦労じゃないか。
 さらに考えてみれば、死体の運搬先である灼熱地獄跡地まで戻れるのかどうかも疑わしい。
 が! だからといってあたいが死体集めをやめる理由もないわけで。
 戻れたときを想定して、あたいだけの死体を出来るだけ集めておくのも悪くはない。
 だって極論を言えば、別に自分は灼熱地獄がなくても困りはしないのだ。あたいにとって重要なのは死体を運ぶという過程であって、目的地に死体を持っていくという結果ではないのさ。
 実際死体を灼熱地獄跡地に持っていかないとさとり様に怒られるだろうから持って行くだけで、欲求に従うなら一日中でも死体を連れ回したい所だよ。
 あたいの猫車に沢山の死体を積んで、数多の恨みつらみが荷を引くあたいの背に押し寄せるあの恍惚感が堪らないのさ!!
 そ・し・て、今回はこんな特殊な場所にいるんだ。自由に死体集めてもバレやしないだろう。今は休職扱いでも構いませんよねさとり様!
 ってことで、あたいの猫車、あるいは死体運びに最適な道具を速攻で確保する必要があるね。何が何でも手に入れよう!

 よって、名残惜しいけどこの死体は一時的にその辺に隠しておこう。
 死体自体は上物だ。損傷具合も首を除けば問題はないし、単なる雑魚妖怪の風袋でもなさそう。だから、これを諦めるつもりは毛ほどもない。
 むごたらしい死体も壮絶な最後を想像できて非常にそそるけど、今回のような綺麗な死体は保管兼観賞用に適しているといえるね!

 ひとまず死体は誰かに見つからないよう木の根元に押し込み、小枝や葉っぱを豪快に被せておいた。ついでに地図を開いて湖を見つけ、そこに死体安置場所だと分かり易く書き込んでおく。
 仮に車より先に他の死体を発見してしまった場合は、このようにその場所を書き込むことにする。車が手に入ったら回収しなきゃならないし。
 死体を持ち運びたい気持ちは堪らなくあるけれど、他の人に遭遇して勘違いされるのは勘弁だしね。殺されるのもっと勘弁だけど。

 ――さてさて。それじゃ車探しに出発だ!
 懐へ先の爆弾を二つ程用心にと忍ばせつつ、他の荷物は全てバックに放り込む。
 とりあえず、まずは近いから人里にでも言ってみようかな。道具とか何かありそうなイメージだし。
 あんまり生きている人には会いたくないから、目と耳と鼻だけを澄まして慎重に進むべき。殺されたら死体運びも出来なくなっちゃうしね。君子危きに近寄らず! これに限るわ。

「そっれにしても、変なもんに巻き込まれたものさ」

 殺し合いかぁ……。正直気は進まない。
 だって死体は好きだけど、自分は死体になりたくないし。

 ――でもこれってさぁ、大好きな死体が選り取り見取り……なんじゃないの?
 あたいが手を加えなくても勝手に死体が量産され、普段手の届かない死体も労力要らずで手に入る。

「……いいかもしれない」

 一般妖怪や妖精は勿論のこと、あの強力な鬼とかも手に入るかもしれない。
 するとすると! 地上のお姉さん達も棚からぼた餅的に手に入るってこと!?
 なんかワクワクしてきた。

「いい! とてもいいかも!!」

 ――え、でもちょっと持って。
 その考えでいくと……もしやお空やさとり様のも?

「――――」

 グビリと喉が鳴った。
 お空は友達。さとり様はご主人様。普段なら想像さえあり得ない――二人の死体。
 この場では、それが何故かとてつもなく現実味を帯びた気がした。

 もう一度生唾を飲み込んだところで、あたしは大きくかぶりを振った。
 ま、まぁとにかく今は車。車探しだね!
 誤魔化す様に内心で呟いてから、人里方面へ向けて歩みを進めた。

 第一目的は猫車探し! 道中も死体は出来るだけ確保!
 お、お空やさとり様、こいし様とかとも……うん。とりあえず合流、かな。
 心配であるのは確かだしね。うん。見つけたらそうしよう。



 ――目的を、それこそ自己弁護のように一心不乱に反芻させながら歩く、自由気ままな火焔猫燐。
 だがそこにいたのは、瞳孔を拡大させて唇を舐める――好物を目前にした獣同然の少女だけであった。

【C‐3 霧の湖近く・一日目 黎明】
【火焔猫燐】
[状態]良好
[装備]M67破片手榴弾×2
[道具]支給品一式、M67破片手榴弾×4、大量のたらの芽、食用油(1L)
[思考・状況]基本方針:死体集め
 1:自身の猫車、もしくはそれに類似するものを見つける。そのため、まずは人里へ向かう。
 2:死体があれば率先して確保。その後、地図に場所を明記の上、人目が付かぬよう隠す。
 3:地霊殿の住人達との合流。

[備考]
 曖昧な感情表現ならば、死体や霊であってもお燐は聞き取ることが可能です。
 言葉は一切伝わりません。怒っていることや悲しんでいることが断片的に分かる程度です。

 永江衣玖の遺体が湖から木陰に移動しました。



25:月のいはかさの呪い(難題式) 時系列順 27:消えないこだま/Haunting Echoes
25:月のいはかさの呪い(難題式) 投下順 27:消えないこだま/Haunting Echoes
火焔猫燐 36:マヨヒガの黒猫(マインドラビリンス)


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年04月01日 05:08
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。