月のいはかさの呪い(難題式) ◆30RBj585Is
「妬ましいわ。あんな力を持っているなんて・・・」
地下に住む妖怪、水橋パルスィは森の中を走っていた。
大抵の妖怪すら近づかぬ魔法の森の中を走っていくのは非常に困難であろう。
それなのに、特にこれといった目的を持たない彼女が何故走らなければならないのか?
その理由は・・・
「くっ、肩が痛いわ・・・」
パルスィは血が流れる左肩を押さえながら呟いた。
そう、彼女は何者かに攻撃されたのだ。
こんなに屈辱的なのは初めてだ。妬ましいにも程がある。
普段の彼女は意外にも温厚で、殺し合いに乗るような妖怪ではない。
そのため、攻撃される前は特にこれといった目的を持たずにさ迷っていた。
あえて目的を挙げるならば、この薄気味悪い森から出ること。それに、このゲームの主催者であるあの女が妬ましいから制裁を与えたい。
といったところ。
その道中での出来事だった。
何気なく横を見ると、そこには何者かがいた。それは、黒髪の高貴な着物を着た女性だった。
誰だろう。そう思っていたとき、その女性がいきなり黒い塊を向けた。
その瞬間、パルスィの左肩が破壊された。
何が起こったのかが分からなかった。せいぜい、女性が持っていた黒い塊が一瞬光ったことくらい。それを知覚する前に攻撃を受けたように感じたのだ。
「あの女、ただじゃおかないわ」
パルスィは走りながらそう言うと、ジッと緑眼で後ろを睨みつけた。
だが、その彼女の眼は逃げ一方な負け犬の眼ではない。獲物を狩る猛禽の眼だった。
正体不明の攻撃を前にすると、普通はこのように逃げるのがよいだろう。
だが、緑眼の橋姫は一度妬んだ相手をただで済ませるつもりはない。
そのため、圧倒的に不利な状況でもパルスィはこのまま逃げる・・・いや、逃がすつもりはない。
妬ましい輩には、死あるのみだ。
走っているうちに、あの女からだいぶ距離を離しただろうか。周りを見渡しても姿は見えないし音も聞こえない。
「そろそろ反撃といこうかしら」
そう言うと、近くの岩陰に身を潜め、息を殺す。
そして、すぐさまスキマ袋から武器を取り出した。後はあの女を待ち伏せるだけ。
ここまでの行動はあの女には見られていないはず。そう思い、パルスィは支給品であるアサルトライフルを構えた。
銃の扱いはよく分からないが、とにかく引き金を引けば攻撃できるのだろう。
そう思い、武器を両手で強く握り締めた。
待ち伏せをしてどのくらい経っただろうか。
岩陰からチラっと覗いても、相手の姿は見当たらない。
だが、
「もうすぐ来るわ・・・もうすぐ・・・」
それでもパルスィは相手が近づいていることが分かっていた。
特にこれといった根拠はない。だがこれまでの経験から、妬んだ相手が近くにいるとその嫉妬心が無意識に強くなるのだ。
今の彼女はまさにその状態だった。
その嫉妬心は徐々に徐々に強くなり・・・
そして
ビ、ビ、ビ、ビ、ビビビビビ・・・
「妬ましいわ!」
パルスィのスペルカード、グリーンアイドモンスターが発動した。
ビ、ビ、ビ、ビ、ビビビビビ・・・
緑色の弾幕はヘビのような形をしながら進んでいく。
本来、パルスィには相手がどこにいるかは分かっていない。
だが、緑色の弾幕グリーンアイドモンスターは自分が妬んだ相手を自動的に追跡する。
その速度は遅いものの、弾幕の形に変化が表われれば相手が近くにいるということ。
そして、弾幕の形が不自然な形を描くとき、相手はその弾幕に追われているということになる。
「・・・いたわ。妬ましい」
弾幕の後を目で追っていくと、何やら人影が見えた。
月明かりを遮断する木々で姿は見えないものの、弾幕に追われているように動くその影は妬ましい相手で間違いない。
「後は狙い撃つだけ・・・。弾幕はもう要らないわ」
そう言い、一旦スペルを解除する。
実を言うと、森の中を怪我を押してまで走ったときの疲労が溜まった状態で、これ以上の弾幕を撃つのが辛かった。
とはいえ、だいたいの位置さえ分かれば後はそこから目と耳を傾ければそいつを見失うことはない。
そのため、サーチのために使ったスペルはもう必要ないだろう。
そう思い、目と耳、そして湧き出る嫉妬心に集中して、相手が姿を見せるのを待つ。
そして姿を確認した瞬間、この銃で相手を撃ち殺す。
これであの妬ましい相手に死の制裁を与えることが出来る・・・
はずだったが・・・
「おかしい・・・。あの女から音が聞こえないわ」
実は、あの女と遭遇したときからずっと気になることがあった。
それは、あの女から発せられるはずの音が一切聞こえないことである。足音も、枝を折る音も、草を払う音も、何もかもだ。
別にパルスィは音に頼って生きている妖怪ではない。
ただ、こう暗い空間内で相手を捜すのは目だけでは難しい。全方位から認知することができる音が必要なのだ。
しかも、相手は正体不明の攻撃を行うため、こちらの居場所がばれたら危なすぎる。
それなのに
「く・・・見失ってしまったわ」
どこにいるのかが分からなくなってしまった。これによりチャンスが一転して大ピンチになった気がする。
だが、狂いそうなほどの嫉妬心が芽生えていることから、相手が近くにいることは分かる。
詳しい場所を知るため、もう一度グリーンアイドモンスターを発動させるか?
そう思い、スペルカードの準備をする。
その時・・・
バスッ!
「・・・!ヅアアァ!?」
今度は右腕が破壊された。
「クッ・・・!」
まただ、また原因不明の一撃を受けた。その拍子に銃を落としてしまう。
どうやら、とうとう逆にこちらの居場所がばれてしまったようだ。
だが、嫉妬パワーが全開のパルスィはこの程度では怯まない。構わずに、辺りをキョロキョロと見渡す。
すると、明らかに誰かが自分に何かを向けているのが視界に映った。
今なら分かる。自分が今持っているものと同類の銃とやらである。
「よくもやったわね・・・!」
これに完全に怒ったパルスィは、相手に向けて弾幕を発射する。
それはドカンドカンと木に命中するものの、相手はこれに怯んだだけで当たった様子はない。
だが、あくまでもこれはけん制だ。その隙に先ほどの攻撃を受けて落としてしまった銃を握り締める。
「そこまでよ、覚悟しなさい!」
パルスィが持つ銃、アサルトライフルは相手が持つ銃よりも大型だ。威力も高いに違いない。
これで攻撃すれば、あの妬ましい女は無残な肉塊と化すだろう。
そう思い、パルスィはアサルトライフルの引き金を引いた。
ドン!!
あの女が撃った銃とは違い、大きな銃声が鳴り響いた。
「うあ・・・あ、ッ!?」
パルスィは相手に向けて銃を撃ったはず。
しかし、当の彼女は右腕を押さえて悶えていた。
本人には何が起こったのかは分からないだろうが、この結末は当然とも言える。
銃を撃つと、そこから強い反動が発生するものである。特にライフル銃は拳銃に比べて高威力なため、発生する反動も激しいものだ。
そんな銃を、反動のことを考えずにしかも負傷した腕でまともに扱うことはほぼ不可能だ。
当然、銃弾は狙いとは明後日の方向に飛んでしまう。その証拠に、相手は非情にも無傷である。
「まだ・・・終わらせるものか。
何があっても・・・あなたを妬んでやるわ・・・!」
こんなことになっても嫉妬心は失せない。
が、今のは大きすぎる隙となった。
そんな彼女に・・・相手は容赦のないとどめの一撃を食らわせる。
その一撃は腹部を貫く。その瞬間、意識も嫉妬心も完全に途切れてしまった。
「危なかったわ・・・。なんてしつこい妖怪なのかしら」
硝煙の昇る銃を右手に持った蓬莱山輝夜はそう言い、ため息をついた。
初めての獲物は、逃げたと思ったら弾幕による奇襲を仕掛けるわ、先手を打ってもしつこく反撃するわで大変だった。
特に、パルスィが銃を撃ったときはどうなるかと思った。
が、結果として、何とか一人目を殺すことに成功した。どうやらツキはこちらにあったようだ。
血を流して倒れたパルスィがもう動かないことを確認し、彼女のそばに落ちていたスキマ袋とアサルトライフルを拾う。
すぐに新しく手に入ったスキマ袋を覗くが、どうやらもうランダムアイテムはないようだ。
「はぁ・・・収穫はこれだけか。まぁ、いいけどね」
あれだけ苦労した割には、手に入ったのはもう一人分のスキマ袋と銃だけ。何だか物足りない。
だが、所詮参加者の一人を殺しただけにすぎない。
これからも参加者を殺せば有利になるものが手に入るはずだ。
それに、脅されているであろう永琳を助けるためにも、まだまだ殺人を続けなければならない。
自分や永琳、そして先ほど殺した妖怪を除いても50人くらいの人数が全滅するまでとなると気が遠くなるが・・・
「まだ戦いは始まったばかり。この勢いを永遠に続けないとね。
そのためにも・・・」
これからはもっと辛い戦いになるだろう、気合を入れた輝夜は大きな袋を見つめる。
実は、その大きな袋は輝夜がパルスィを攻撃したときからずっと抱えていたものだ。
今は、これまでの酷使やパルスィの弾幕によって一部が割け、中身が露出している。
その中身は・・・
「協力してもらうわ。月の妖精さん?
特に・・・あなたの妖力が蓄積される、月の出ている夜の間はね。
まぁ、あの月は偽物みたいだけど・・・関係ないか」
輝夜は袋の中身にそう言った。
袋の中にいたのは月の妖精こと、ルナチャイルド。
彼女は周囲の音を消す能力を持つ。
パルスィが、輝夜から発生するはずの移動音そして銃声を認知できなかったのはそれによるものである。
このことから分かるよう、音の無い者は肉眼でなければ存在を認知できず、銃撃を食らうまでは攻撃したことにも気づかれない。
これが消音の恐ろしさだ。
(この人、怖い・・・!)
殺人の道具として使われたルナチャイルドは、輝夜の言葉と表情にただ恐怖するしかなかった。
私達三月精は、いつもどおりにイタズラの計画を3人で練っていたはずだった。
そのはずが、目を覚ますとそこは暗くて狭い空間。しかも、身動きが取れなければ喋ることも出来ない。
そこをスターサファイアみたいな奴に出してもらったかと思ったら、また袋の中に詰められてしまうという、酷い扱いを受ける。
そして、使いたくないのに何故か勝手に発動してしまう消音の能力。
ついには、再び袋の外が見えたと思ったら、血を流して倒れた妖怪がいるという・・・。
もう、何が何だか分からない。
ただ、分かることは・・・
自分がとてつもない大異変に巻き込まれていることと、スターみたいな人が怖いということだった。
【F‐4 一日目 黎明】
【蓬莱山輝夜】
[状態]やや疲労
[装備]ウェルロッド(2/5)、アサルトライフルFN SCAR(19/20)
[道具]支給品一式×2、ルナチャイルド、予備の弾あり
[思考・状況]優勝して永琳を助ける。鈴仙たちには出来れば会いたくない。
[行動方針]人の集まりそうなところに行き、参加者を殺す。
※ルナチャイルドはサニーミルクと違い、月の光で充電できます。他は三月精と同じ機能です。
※今のルナチャイルドは動きと口を封じられ、能力を強制発動させられています。
【水橋パルスィ 死亡】
【残り 47人】
最終更新:2009年06月28日 01:35