本編949~953

『大統領暗殺計画』-2

作者・ティアラロイド
949

ドバイ市内の某ホテル グラントの客室***


フィリナ「…ない! ここにもないわ!」

その日の深夜、グラント前国防長官の泊まっているホテルの客室へと
忍び込んだフィリナは、部屋の中を家捜しし始めた。

フィリナ「彼らが大統領を暗殺するつもりなら、
 その詳細な計画書がどこかにあるはず。大変なことに
 なる前になんとしても探し出さないと――」
グラント「そこで何をしているんだね、お嬢さん?」
フィリナ「――!!」

驚いて振り返るフィリナ。
グラントがパーティーから戻ってきてしまったのだ。
グラントの手には銃が握られ、その銃口はフィリナに向けられている。

グラント「これはこれは、アルジェの名門アルシャード家の
 ご令嬢が泥棒の真似事とは…」
フィリナ「私の事をご存知なの? ミスター・グラント」
グラント「無論だ。合衆国政府の高官の中で君の顔を
 知らぬ者などおらんよ」
フィリナ「………」
グラント「いったいどうやってこの部屋に忍び込んだ?」
フィリナ「貴方の秘書だと言ったら、警備の人が簡単に通してくれたわ。
 貴方達は合衆国大統領を暗殺するつもりね?」
グラント「やはりあの時聞いていたのはお前か…。
 フィリナ嬢、君は今非常に悪い立場にいるのだよ」
フィリナ「近寄らないで! 大声を出すわよ」
グラント「おいっ、この娘を取り押さえろ」

グラントの命令を受けたボディーガードたちが
フィリナの身柄を取り押さえようとする。

フィリナ「いやッ、だれかあっ、だれか来てえッ!」

その時、銃声がしたかと思うと、部屋を照らしていた蛍光灯が割れ、
真っ暗になった。その隙にフィリナはボディーガードたちの間を掻い潜り
素早く逃れようとする。

フィリナ「…ん!? んむむむ~っ!!!」

その場から逃れようとしたフィリナだったが、
背後から突然口を手で塞がれ、羽交い絞めにされたまま
引きずり出される。

非常電源に切り替わり、再び客室の中が灯りで照らされた時、
すでに部屋の中にフィリナの姿はなかった。

ボディーガード「娘がいません!」
グラント「何をしている! 探せ! 探すんだ!」

950

フィリナ「…んん~っ!んん~っ!」
当「しーっ!静かに! 私だ」
フィリナ「…当さん!?」

ようやく解放されたフィリナが見たのは、
当八郎の顔だった。

フィリナ「貴方が私を助けてくださったの?」
当「パーティーを突然中座した貴女の反応がおかしかったので、
 尾行してきてみれば案の定だ」
フィリナ「ありがとう」
当「そういう話は後だ。まずは一刻も早く
 この場から離れることだ!」

当とフィリナは、グラント配下のボディーガードたちが追ってこないうちに
道端のタクシーを捕まえて乗り込んだ。

当「今迎賓館まで戻るのはかえって危険だ。
 運転手、郊外まで大至急! 全速力でだ!
 チップは弾むぞ」
運転手「旦那、合点ッ」

二人を乗せたタクシーは、フルスピードでドバイ市中心部から離れていく。
その車中で、フィリナは自分が見た一部始終を当八郎に話した。

当「アメリカのマイケル・ウィルソンJr大統領の暗殺か…」
フィリナ「普通、自分が国防長官を罷免された腹いせに、
 暗殺まで企むかしら?」
当「いや、おそらくグラント一人の企てじゃあないな。
 背後にもっと大きな黒幕がいる」
フィリナ「………」
当「それにしてもフィリナ嬢、好奇心旺盛も結構だが、
 それも度が過ぎると今回みたいな危険な目に遭う」
フィリナ「あら、そうかしら。もし私が現地の警察に駆け込んでいたとしても、
 アメリカ合衆国大統領の暗殺計画だなんて、きっと誰もマトモに相手に
 してくれなかったでしょうね。そのために確たる証拠を掴もうとしていたのよ」
当「やれやれ、とんだおてんばのお嬢さんだ」
フィリナ「当さん、これからどうするの?」
当「この近くに信頼できる部族の集落がある。
 まずはそこに身を寄せよう」

951

翌朝…。

その日のドバイ市内の朝刊の一面には、
次のような見出しが躍っていた。

―アルジェの石油王アルシャード家の令嬢、誘拐される!
 犯人は日本人の男か!?―

ドバイ市内・某高級ホテル***


矢吹「君、何かの間違いだよ!
 当君がそのようなことをする筈がない」
キバラ「私もそう思う。当さんはそんな愚かな真似を
 するような人には見えなかった」
UAE警察の警部「しかし当八郎がフィリナ嬢を車に乗せて
 連れ去ったという確かな目撃証言があるのです」

当八郎とフィリナ・クラウディア・アルシャードの二人が姿を消した翌日、
矢吹郷之介は滞在先のホテルで、現地警察から事情聴取を受けていた。

キバラ「しかしまだ身代金の要求があったわけでもなし。
 誘拐と決め付けるのも早計ではないのかね?」
UAE警察の警部「ともかく、事件が解決するまで
 お二人にはドバイ市に滞在していただきます」

部屋から出て行く現地警察の幹部たち。

矢吹「キバラさん、申し訳ない。
 大事な姪御さんを、どうやら何かの事件に
 巻き込んでしまったようだ」
キバラ「当さんが一緒についているならば、
 心配はいらないでしょう」
矢吹「桂君、そこにいるかね?」
めぐみ「はい、矢吹さん。ここに控えております」

矢吹郷之介の傍らに控えていたこの女性の名は、桂めぐみ。
表の顔はクラブJのママだが、その実態はプロの諜報員でもある
矢吹郷之介の秘書である。

矢吹「当君から連絡は?」
めぐみ「残念ながらまだありません」
矢吹「至急、APPLE極東支部のゼネラル藤井に連絡を取ってくれ。
 是非ともお力をお借りしたいとな」
めぐみ「かしこまりました」

952

同市内・別のVIP御用達高級ホテル***


アルハザード「フフッ…これは面白いことになってきたな」

同じ日の朝、ロイヤルスイートルームで椅子にゆったりと座り、
朝刊の一面に目を通していたアルハザードは、静かにほくそ笑んでいた。

秘書N「当八郎とフィリナ・クラウディア・アルシャードの二人は、
 昨夜、アメリカの前国防長官グラントと接触し、トラブルがあった
 ことが確認されております」
アルハザード「当八郎の素性は掴めたか?」
秘書R「サラジア本国の情報部と外交ルートに問い合わせましたところ、
 当八郎は、今はAPPLEの所属になっているマイティジャックの前任の
 隊長だったようです」
アルハザード「当八郎…やはりただのアマチュア登山家などではなかったか。
 そしてドバイに米国の国防長官を解任されたばかりのグラントがわざわざ来ていた。
 これの意味するところがわかるか?」
秘書N「さあ…」
秘書R「私どもには一向に…」
アルハザード「お前たちは聞いたことがあるか? 地球連邦政府にロゴスがあるのと同様に、
 アメリカ合衆国にも影の政府が存在するという話を…」
秘書N「そのようなスパイ小説の空想の産物のようなものが実在するのですか?」
アルハザード「ある。アメリカにも影の政府は確実に存在する!」

アメリカ影の政府は、ギャングのように機関銃をぶっ放すような派手な振る舞いはしない。
KKK(クー・クラックス・クラン)のように子供じみた衣装をつけて、人前に現れたりもしない。
彼らは、アメリカ政治と経済の舞台裏で複雑に絡み合った権力の同盟なのだ。

アルハザード「一週間後にアメリカのマイケル・ウィルソンJr大統領が、ここドバイを訪れる。
 中東の安全保障の枠組みを同盟国と話し合うためだ。もしかしたらそこで面白い見世物が
 見られるかもしれんな。滞在を一週間延ばす。そのように手続きしてくれたまえ」
秘書R「かしこまりました。至急そのように」


ドバイ市郊外の砂漠・某部族の集落***


昨夜の一件の後、当の知り合いだという部族の集落のテントで
フィリナは一夜を過ごした。朝になり目を覚ましたフィリナは
テントの外へ出て、朝日の下で気持ちよく背伸びをする。

当「やあ、お目覚めかい」
フィリナ「当さん」
当「コーヒーはいかがかな?」
フィリナ「ありがとう」

フィリナは当から淹れたての温かい一杯のコーヒーをもらい、
それを飲み干す。

長老「当さん、大変じゃ!」
当「これは長老、血相変えてどうしました?」
長老「これを見てみいっ!」

部族の長老は今朝の新聞を当に手渡す。
それに目を通す当。

当「まいったなこれは…」
フィリナ「当さん…?」
当「どうやら私が君を誘拐して連れまわしていることに
 なってるらしい…」

953

○フィリナ・クラウディア・アルシャード→危ういところを当八郎に救われる。
○当八郎→危機に陥っていたフィリナを救うが、翌日にフィリナ誘拐の濡れ衣を着せられてしまう。
○矢吹郷之介→ドバイ市内のホテルに滞在。
○キバラ特使→ドバイ市内のホテルに滞在。
○桂めぐみ→矢吹郷之介の指示で、APPLE極東支部のゼネラル藤井に連絡を取る。
●グラント→計画を聞かれたフィリナを捕らえようとするが、逃げられる。
●アフマド・アルハザード→ドバイでの滞在予定を一週間延ばす。

【今回の新規登場】
○桂めぐみ(マイティジャック)
 普段はクラブJのママだが、実は諜報活動のプロとして国際舞台でも活躍する
 マイティジャックの隊員である。そのおだやかな物腰、男性に見せる優しさとは裏腹に、
 時には小型戦闘機ピブリダーで戦闘に参加する勇敢さも見せる。

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最終更新:2020年11月22日 13:50