『地球の女王(クィーン)』-1
作者・ティアラロイド
1017
秩父山中***
人通りの少ない奥秩父の寂しい山道。
ここで仮面ライダー1号・本郷猛と同じく仮面ライダー2号・一文字隼人の二人は、
ある人物たちと待ち合わせをしていた。
本郷「来たか…」
一文字「………」
現れたのは数人の部下を率いた二人の男女。
それはアンチショッカー同盟日本支部のリーダーである
木暮精一郎と石神千恵だった。
後ろ盾だった南雅彦が失脚し、アンチショッカー同盟は現在、
活動規模の縮小を余儀なくされている。
本郷や一文字とは、ゲルショッカーとの戦いの時
以来の再会である。
木暮「お久しぶりです。本郷さん、それに一文字さん」
千恵「それともこうお呼びした方がいいかしら。
伝説の仮面ライダー1号、2号と…」
一文字「俺たちの正体はとうの昔に知ってるってわけだ」
本郷「それならば話は早い。悪いことは言わない。
ロゴスなどとは一刻も早く縁を切ることだ」
木暮「…もし断れば、今すぐこの場で我々を逮捕して
一網打尽というわけですか?」
そこへ、周囲一帯をくまなく調べていた
アンチショッカー団員の一人が木暮にそっと耳打ちする。
アンチショッカー団員「木暮さん、周囲に警察官は一人もいません」
木暮「なにっ!?」
一文字「やれやれ、俺たちも随分と信用されてないな」
木暮「本郷さん、一文字さん、どうやら我々は
あなた方を誤解していたらしい…」
本郷「では、復讐のための戦いからは身を退いてくれるんだな?」
千恵「残念ですけどそうはいきませんわ」
一文字「おいおい…!」
木暮「私たちにはそう言うが、本郷さん、一文字さん、
あなた方は自分の身体を勝手に機械に変えたショッカーへの
復讐が目的ではないんですか?」
一文字「確かに俺たちの中にも復讐心がこれっぽっちもないと言えば
嘘になるがな。でも復讐のための戦いなんてやめとけ。
経験者が言うんだ。復讐の闘いなんてろくなもんじゃないぞ!」
千恵「ご心配頂かずとも、もうすでに私たちは
ロゴスとは縁を切りました」
本郷「なにっ?」
木暮「向こうは我々を利用していたつもりかもしれないが、
我々の方も地球至上主義者の連中を利用していたんですよ。
実は聖居に近いさる御方が私たちの新たな飼い主となって
くれましてね。しばらくはそこに世話になるつもりです」
本郷「それは聖天子様付きの首席補佐官・天童菊之丞のことか…?」
木暮「――!!」
千恵「――!!」
本郷の指摘に木暮と千恵の表情が変わる。
本郷「その反応から見て、図星のようだな」
一文字「おい本郷、誰だその天童菊之丞ってのは?」
本郷「いや、俺も直接会った事はない。天童菊之丞――
――あの江田島平八氏と肩を並べるほどの実力者でもある
日本を代表するフィクサーの一人だ」
木暮「さすがは本郷さん、何もかもお見通しのようですな」
本郷「天童は一筋縄ではいかない人物と聞いている。
そんな男の側にいては、今度こそ火傷程度ではすまないかもしれんぞ」
木暮「ご忠告は感謝します。ですがこれ以上の議論は
平行線のようだ」
千恵「本日のところはこれで失礼します」
本郷「………」
一文字「………」
一礼して去って行くアンチショッカー同盟たち。
それを本郷も一文字も、ただ黙って見送るしかなかった。
一文字「おい、どうする本郷?」
本郷「天童菊之丞はガストレアに強い憎しみを抱いているそうだ。
そしてその憎しみは"呪われし子供たち"にも向けられている
と聞いている。天童個人の不毛な復讐に巻き込まれなければ
いいんだが…」
1018
本郷猛と一文字隼人によるアンチショッカー同盟への説得が
不首尾に終わったその頃…。
東京千代田・聖居(皇居)***
徳川家康が築いた江戸城。
明治維新後の慶応4年(西暦1868年)、当時の元勲・大久保利通の主導により、
明治天皇が京都から江戸改め東京に入り、以来、
日本国の歴代の天子の居城である。
家康の側近・天海僧正は徳川幕府の永代にわたる存続を祈願して、
上野山に寛永寺を建立したが、この寛永寺こそ江戸城の東北方、
つまり鬼門封じのために建てられたのである。
京都の比叡山延暦寺と同様に上野山という龍脈の突端に建てられた寛永寺は、
おそらく江戸城の鬼門除けとしては最強であった。
天海はまた、東北と正反対である西南の方位、
つまり裏鬼門に当たる場所に芝の増上寺を建て、裏鬼門除けとした。
まさに聖居は、現代の魔物たる怪人・怪獣の類を寄せ付けぬ、
見えない霊的な力によって今も固く守護されていたのである。
◇ ◇ ◇
シスタージルを退けた後、未だよく事情を飲み込めぬままの
セーラームーンこと月野うさぎは、仲間たちと共に黒塗りの高級車に乗せられ、
お堀を渡ってあっという間に聖居の中へと案内された。
ありす「お待ちしておりました。月野うさぎさん」
うさぎ「えっと、貴女は…?」
ありす「これは申し遅れました。私は四葉ありすと申します」
うさぎ「あ、どーも…はじめまして、月野うさぎです」
ありす「その格好のままでは、ご拝謁も叶いません。
まずはこちらの部屋でお召し替えを」
女官「お連れの方は、しばしこちらにてお待ちください」
亜美たちを控の間に残し、うさぎは訳もわからぬまま高価なドレスに着替えさせられ、
四葉ありすと名乗った自分と同じお団子頭の少女と、同じく同行するリリーナ・ドーリアンに案内され、
慣れないハイヒールに悪戦苦闘しつつも、絢爛豪華な洋風ゴシック建築の廊下をなんとか必死に歩く。
そして連れて来られたのは、正殿・松の間であった。
ありす「聖天子様、月野うさぎさんをお連れいたしました」
聖天子「ご苦労様です」
待っていたのは、真っ白なドレスに身を包んだ、
優雅な物腰の、自分と同じ年頃に見える美少女だった。
うさぎ「…えっと…誰?」
リリーナ「………」
この場にレイやまことがいれば、
またも確実に「ニュースくらい見ろ!」と突っ込まれていたことだろう。
しかし側にいる四葉ありすもリリーナ・ドーリアンも高貴な生まれゆえか、
うさぎの反応に少しも動じる様子もなく説明する。
ありす「この御方は聖天子様。
日本国の国家元首であらせられ、
剣桃太郎内閣総理大臣よりも偉いお方です」
うさぎ「ええええ~~っっ!!!!」
ありすの紹介に腰を抜かすうさぎ。
聖天子は居住まいを正すと、手を組んでにっこりと微笑む。
聖天子「はじめまして、お会いできて光栄です。月野うさぎさん」
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聖居・控の間***
美奈子「うさぎちゃん、遅いわね」
まこと「だいぶお話に時間がかかってるみたいだね」
亜美「まさか聖天子様からうさぎちゃんにお呼びがかかるなんて…」
亜美たち4人は、時折侍従から差し出されるお茶を啜りつつ、
先刻からずっと控の間で待機していた。
レイ「それにしても星野君たちはいつ地球に?」
夜天「こっちの星のニュースでも報道していただろう。
星間評議会の特使が地球を訪問中だって」
亜美「じゃあ、星間評議会の特使というのは、
あなたたちだったの!?」
美奈子「あれからみんなどうしてたの?」
ギャラクシアとの戦いを終えて別れた後の事を聞かれ、
星野たちはその後のいきさつを語り始める。
復活したキンモク星へと無事帰還した彼(彼女)たちであったが、
その復興の道のりはやはり苦難を極めるものであった。
星野「そんな俺たちに手を差し伸べてくれたのが、
ジュリアス・カミュエル高等弁務官さ」
美奈子「カミュエル高等弁務官…それって
星間評議会の偉い人?」
大気「かなり近寄りがたい雰囲気のする方でしたが、
キンモク星が異例の速さで復興が進んだのも、
カミュエル高等弁務官の手腕のおかげです」
夜天「今回の
ブレイバーズ設立計画を具体的なところまで
進めることができたのも、カミュエル高等弁務官による
ところが大きいね」
亜美「それほどの方が遠い宇宙の向こうにいるのなら、
一度お会いしてみたいわ」
まこと「…で、さっきまでの茶番は、あたしたちを
その
ブレイバーズにスカウトするための腕試しってわけかい?」
ハニー「厳密には少し違うわ」
ここで如月ハニーたちが説明に入る。
ハニー「貴方たちに所属してほしい組織の名はプリンセス・ユニオンよ」
レイ「プリンセス・ユニオン…?」
まろん「略してPU。
ブレイバーズの戦士たちを側面から支える後方支援組織よ」
ももこ「広義で言えばPUも
ブレイバーズに含まれるんだけど…」
まこと「なんであたしたちがそのPUとやらに?」
ハニー「それは――」
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聖居正殿・松の間***
うさぎ「あたしが地球の女王に即位ぃぃ~っ!?」
ありす「なにも驚かれることはないはずです。
貴女が30世紀の未来において地球を治める
ネオ・クィーン・セレニティとなられることは、
貴女自身もよくご存知のはずですわ」
うさぎ「それはそうだけど…。
でもその事をどうしてあなたたちが?」
ありす「蛇の道は蛇…ですわ」
うさぎの疑問に対して、ありすはにっこり笑ってはぐらかす。
リリーナ「すでにこの件は世界王様会議にて内々に可決され、
日本の聖室は勿論の事、英国女王陛下やバチカンのローマ教皇猊下も
全てご承知です」
聖天子「日本人から次代の地球国王が輩出されることを嬉しく思います」
うさぎ「…ちょ、ちょっと待ってください! まだ心の準備が…」
いきなりの想像もしていなかった展開に戸惑ううさぎ。
確かに自分が将来ネオ・クィーン・セレニティになることは、
未来からやって来たちびうさから聞いて知っている。
しかしこんなに早くその話が来るとは思ってもみていなかったのである。
思えば、自分がいつクィーンとして即位するのか、
ちびうさからは全く聞いていなかった。
自分の能天気さを改めて呪ううさぎであった。
そんなうさぎの手を、聖天子は優しくとって宥める。
聖天子「うさぎさん、戸惑うお気持ちはよくわかります。
ここは一度、当代の地球国王陛下にお会いしていただけませんか?」
うさぎ「…えっ?」
聖天子「今から地球国王のおわすキングキャッスルへ参りましょう」
うさぎ「ええええ~~っっ!!!!!!!」
今度は亜美たちを聖居に残したまま、
聖天子に連れられたうさぎは強引に成田へ直行させられる。
目指すは地球国王の居城・キングキャッスルの所在地、中の都である。
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○本郷猛→アンチショッカー同盟に活動停止を説得するが、不調に終わる。
○一文字隼人→アンチショッカー同盟に活動停止を説得するが、不調に終わる。
△木暮精一郎→本郷と一文字の説得を拒否。新たに天童菊之丞に雇われる。
△石神千恵→本郷と一文字の説得を拒否。新たに天童菊之丞に雇われる。
○月野うさぎ→聖天子に拝謁。その後、成田から飛行機で中の都へ向かう。
○水野亜美→聖居で、新組織プリンセス・ユニオンについて説明を受ける。
○火野レイ→聖居で、新組織プリンセス・ユニオンについて説明を受ける。
○木野まこと→聖居で、新組織プリンセス・ユニオンについて説明を受ける。
○愛野美奈子→聖居で、新組織プリンセス・ユニオンについて説明を受ける。
○星野光→水野亜美たちに、ギャラクシアとの決戦後に別れた後のいきさつを語る。
○大気光→水野亜美たちに、ギャラクシアとの決戦後に別れた後のいきさつを語る。
○夜天光→水野亜美たちに、ギャラクシアとの決戦後に別れた後のいきさつを語る。
○如月ハニー→水野亜美たちに、新組織プリンセス・ユニオンについて説明する。
○日下部まろん→水野亜美たちに、新組織プリンセス・ユニオンについて説明する。
○花咲ももこ→水野亜美たちに、新組織プリンセス・ユニオンについて説明する。
○四葉ありす→月野うさぎを聖天子の許までエスコート。
○リリーナ・ドーリアン→月野うさぎを聖居まで案内。その後、彼女や聖天子と共に
成田から飛行機で中の都へ向かう。
○聖天子→闘争の系統世界では日本は分裂していないため、東京エリアのみならず
日本全体の国家元首であり、現実の天皇に相当する存在。月野うさぎと対面した後、
彼女と共に成田から飛行機で中の都へ向かう。
【今回の新規登場】
○聖天子(ブラック・ブレット)
ガストレア戦争により日本が五つに分断されたエリアの一つ、東京エリアの三代目統治者。
「呪われた子供たち」と「奪われた世代」の共生を模索する名君。里見蓮太郎のことを
信頼しており、個人的にも慕っている。
最終更新:2020年11月22日 14:06