本編1617~1627

『紅蓮の鳳凰を追え!』-1

作者・ホウタイ怪人
1617

横須賀上空***


ライディーンホーク「今日こそは逃がさへんで!」
シグフェル「くっ…!」

真夜中の横須賀上空で、激しい空中カーチェイスを繰り広げている
謎のヒーロー・シグフェルとそれを追うブレイバーズ

海上自衛隊の施設近くにある研究所で、
イーバに襲われていた再生者(リザレクター)の科学者を
救い出した帰り、シグフェルは待ち伏せていたらしい
ブレイバーズの部隊に執拗に追跡されていた。

ライディーンブラッド「おおっと、ここから先は通せんぼだ!」
ライディーンアーザス「神妙にお縄を頂戴するでゴザルよ!」

シグフェル「……(見た事もない連中だ。新手か…?)」

ライディーンコンドル「取り囲んだぞ!」
ライディーンセイラ「「私に任せて。ライディーンレイピア!」」

女ライディーンの新戦士・ライディーンセイラの細身の剣が、
相手の動きを止めようと牽制するが、シグフェルは翼を一羽ばたきさせると
素早くそれを回避して包囲から抜け出てしまう。

ライディーンイーグル「よしっ! 狙い通りだ」
ライディーンクロウ「あとは任せたぞ」

どこかへ手筈通りと連絡を取るライディーンイーグルとライディーンクロウ。
それもその筈。シグフェルの逃れた方向の先には、
加速装置を装備した二人のゼロゼロナンバーサイボーグが
虎視眈々と待ち構えていたのだ。

009「――加速装置ッ!!」
002「行くぜッ!!」

009と002の二人がマッハクラスの超スピードで
シグフェルの速さに食らいついて行く。
スーパーガンに備わっている麻痺光線が
シグフェルの腕を掠めた。

シグフェル「このままじゃ捕まる! いったん地上に降りよう!」

シグフェルは009たちの追跡をなんとか振り切り、
まずは地上へと逃れる。


ヴェルニー公園***


横須賀駅から続く海に面した公園の中へと逃げ込んだシグフェルだったが、
まだそこでも思わぬ伏兵が待ち受けていた。

アシュラ「サイバー分身! シュラー!!」
シグフェル「――なにっ!? うわああっ!!!」

ドクター・アシュラとその分身シュラー3人衆が
両腕に付いたカッターからの光線と、巧みな連携プレーで
シグフェルを見つけた獲物のように容赦なく攻撃する。

アシュラ「多少痛めつけても構わねえ!
 なんとしても生け捕りにするんだ!」
シュラー赤「…するんだ!」
シュラー青「…するんだ!」
シュラー紫「…するんだ!」

シグフェル「くっ…コイツら!!」

シグフェルは指先から炎の一閃を呼び起こして、
その隙にアシュラたちから逃げ出した。

1618

変身を解き、公園の公衆トイレの建物の裏側に身を潜める牧村光平。

光平「参ったな…。まさかここまで追跡が厳しくなるなんて」

どうやってこの場から逃げ出そうかと光平が考えていると、
突然背後から男に声を掛けられた。

嵐「おい、そこの坊主!」
光平「うわっ!?」

驚いて声を挙げてしまう光平。

嵐「なに驚いてる…??」
光平「あ、い、いえ…いきなり話しかけられたもんで、つい。
 すみません…(汗」

まるで路上のロックシンガーか暴走族みたいなイカつい格好の姿をした中年の男――
――毒島嵐は、人が入りそうな大きなサイズの虫取り網を肩に担いでいた。
これで何かを捕まえようと言うのだろうか…?

嵐「それよりもお前、今ここの近くで赤色と金色が混ざったような
 翼の生えた変なヤローを見なかったか?」
光平「…さ、さあ。特にそういうのは見かけませんでしたけど」
嵐「そうか、邪魔してすまなかったな。…ちっきしょう、すばしっこい野郎だ。
 ――おいお前ら、今度はあっちの方を探してみるぞ。500万の賞金首だ。
 逃がしてたまるか!」
シュラー赤「…たまるか!」
シュラー青「…たまるか!」
シュラー紫「…たまるか!」

光平「――!?」

光平は嵐が引き連れていた3人組の姿を見て驚く。
それは明らかに先程自分を襲ってきた怪人の手下たちだったのだ。
もしやこの男は、さっきこの怪人たちと一緒にいた親玉だったのか…。

嵐「…あ、そうだ。おいお前!」
光平「は、はい!?」

もしや自分がシグフェルだと正体がバレたのかと、
一瞬警戒して身構える光平だったが…。

嵐「もう未成年者が外を出歩いていい時間じゃねーぞ!
 早く自分のうちに帰れ! 親も心配してるぞ!」
光平「えっ…!?」
嵐「気をつけて帰れよ~!」
光平「ど、とうも…」

見かけによらず、意外にいい人だったようだ…。

1619

日本海溝・ブレイバーベース***


結局、今まで以上に万全の態勢を敷いていたにもかかわらず
この日もシグフェルに逃げられてしまったブレイバーズの面々。

小野「よりにもよってシグフェルを攻撃するなんてどういうつもりなの!」
忍「そんなこと言ったってよぉ」

シグフェルについ攻撃の手を加えてしまったTHE HEARTSに
ついお小言を言ってしまうレッドマフラーの小野隊員。

ジェット「そもそも攻撃の手を一切加えずにシグフェルを捕獲するだなんて
 土台最初から無理な話だぜ」
カイル「そうそう、その通りでゴザルよ」
一夜「第一、一向に我々からの呼びかけに応える気配すらないのは、
 シグフェルの側にも何かやましい事情があるからではないのか?」
フランソワーズ「まさか。今までの報告によるとシグフェルは
 度々私たちの事も助けてくれているのよ」
村中「彼らの言い分にも一理はあると思いますが、
 今夜の件でこちらから手を出してしまった事で、
 シグフェルの心証を著しく害してしまった可能性はありますね」
剣持「う~む…」

村中隊員の意見を聞き、暫し考え込む剣持隊長。
剣持を悩ませていたのは、同じくシグフェルを追うロゴス寄りの
コルベット隊の動きもさることながら、最近になりマスコミまで
シグフェルに関する報道が露骨に派手になりだしたからだった。

剣持「なんとか不測の事態が起きる前に、シグフェルと接触を取ることが
 出来ればいいんだが…」


翌朝……。

グラントータス・司令室メインルーム***


勇介「そうか、嵐の奴がシグフェル探しに躍起になってる理由はこれか!」
丈「いきなり大声あげてどうしたんだよ勇介?」
勇介「コイツを見てみろよ!」

朝食の最中、天宮勇介から朝刊の社会面を見せられた大原丈と岬めぐみは、
そこに書かれていた記事に「IT実業家でニュースサイト『HIGH ROLLERS HI!』を
運営している今野明氏が、シグフェルに関する有力な情報提供者には300万円、
直接シグフェル本人を自分のところまで連れて来た者には500万円を懸賞金として
出すと申し出た」とニュース内容が記されていたのを目にしたのだった。

めぐみ「嵐ったら、最近ドロテ博士の仕事をサボって何やってるのかと思ってたら、
 こんなことに手を出していたのね!」
鉄也「でもなんだか面白そうッスね」
純一「500万円かぁ…。もしそれだけお金があったら何に使おうかなあ~」
丈「コラッお前ら! 何考えてる!?」
鉄也「じょ…冗談、冗談ッスよ。本気な訳ないじゃないですか…(汗」

後からやって来た矢野鉄也と相川純一の些細な軽口を、心配して注意する丈。
一方の勇介は、不安そうに朝刊の記事にずっと目を通し続けている。

めぐみ「勇介…」
勇介「こうマスコミの報道が騒がしくなってくると、シグフェルもますます
 表には出て来にくくなるんじゃないかな…」

1620

下田・地球連邦軍第13格納庫***


コルベット「まだシグフェルは見つからんのか!」
バルザック「申し訳ありません」

ブレイバーズとは別にシグフェルの行方を執拗に追っている
コルベット准将の連邦軍部隊の仮陣地である。
副官のバルザック中佐以下担当指揮官たちが
コルベットに情勢を報告している。

コルベット「もし岡の伊豆駐留軍部隊やブレイバーズ
 先を越されてみろ。ワシのメンツは丸潰れだ」
バルザック「すでに怪しいと思われる東京臨海地区周辺を
 半径100kmに絞っておきました」
コルベット「50kmにしてもらおうか。このままだとバルザック中佐、
 君の評価も見直さざるを得なくなるぞ」
バルザック「心得ております」

コルベットが退室した後、バルザックは改めて部下たちに指令を出す。

バルザック「特にシグフェルが潜伏している可能性が高いと思われる
 メガロシティ及びヌーベルトキオシティの各所に、連邦軍権限で
 検問を張れ。日本の警察当局には私から伝えておく」
将兵たち「「了解しました!」」


メガロシティ・海防大学付属高校近く***


慎哉「なんか凄い物々しい雰囲気だよな…」
光平「………」

今朝、二人で家を出てから学校に着くまでの通学路で、
道路を走る戦車や装甲車を何度も目にした牧村光平と朝倉慎哉。
それは他の生徒たちも同様のようで、学校にも戸惑いが広がり始めていた。
校門前でも多数のTV中継車が停車し、リポーターたちが通りかかる学生に
次々とインタビューを試みている。
光平のガールフレンド・沢渡優香も、そんなマスコミに捕まった一人だ。

冴子「おはようございます。日の出TVの八神冴子です。
 少しインタビューをさせてもらってよろしいでしょうか?」
優香「え、あの…その…」
冴子「噂の謎のヒーロー、シグフェルがこの近くに潜伏しているという
 情報が出回っていますが、その事についてどう思われますか?」
優香「私…何もわかりません!」

優香が困っているのを見つけた光平は、すぐに側に近寄って
彼女の腕を掴むと強引に冴子のインタビューを振り切り、
さっさと校門の中へと入って行った。

優香「光平くん…!?」
冴子「…あ、ちょっと待って!」
光平「ごめんなさい。僕たち本当に何も知りませんから!」

1621

海防大学付属高校・校舎廊下***


優香「ありがとう光平くん、おかげで助かっちゃった」
光平「ごめんな…。俺のせいで優香まで変な騒ぎに巻き込んじまって」
優香「そんな! 違うわよ! 光平くんのせいなんかじゃない」
慎哉「そうだよ! 今のは勝手に騒いでるバカなマスコミが悪いんだ。
 お前が気に病むことなんて決してないぞ!」
光平「優香……慎哉……」

教室に向かって3人が歩いていると、ふと掲示板に貼られていた
一枚のポスターに目が留まった。そこには「外務省主催、長期海外
語学留学生募集」と大きく書かれてあった。この語学留学生は、
言わば外務省に外交官として採用されるための登竜門と言ってもいい。

光平「これは……」
優香「光平くん…?」
慎哉「あっ…」

そのポスターを感慨深げに無言のまま見つめている光平。
そこへ彼らの後輩である一年生の岡島雄大がやって来た。

雄大「光平先輩、慎哉先輩、優香先輩、おはようございます」
慎哉「よっ、雄大♪ おはよう!」
優香「岡島くん、おはよう」
雄大「3人でいったい何を見てるんですか?
 …あ、これは外務省主催の留学生募集のポスターじゃないですか!」
光平「…雄大?」
雄大「そっかあ、光平先輩の夢は外交官ですもんね♪
 当然、光平先輩もこれに応募するんですよね?
 我が校の誇る秀才の光平先輩なら絶対選抜に合格しますよ!」
光平「………」
慎哉「………」
優香「………」
雄大「…あれ、皆さんどうしちやったんですか?
 急に…暗い表情になっちゃって…(汗」

突然気まずそうな表情を浮かべて沈黙してしまった光平たちの様子に
雄大は理由が分からず戸惑っている。

光平「ごめん。俺、先に教室行ってるから…」

一人だけ先に教室に向かってしまった光平。

雄大「どうしたんでしょう光平先輩…。
 もしかして留学したら優香先輩と離れ離れになるのが
 イヤだから……とかじゃないですよね?」
慎哉「ちょっと来い!(怒」
雄大「痛いッ! いきなり何するんスか慎哉先輩!
 放してくださいよぉ~(泣」

1622

同校舎・屋上***


雄大の耳を引っ張り、他に誰もいない屋上まで
強引に連れて来た慎哉とそれに優香。
雄大は涙目になりながらも慎哉の仕打ちに猛抗議するが…。

雄大「痛いじゃないですかぁッ!
 何なんですかもうッ!!(怒」
慎哉「お前ちっとは空気読め!」
雄大「…はい?」
優香「岡島くんも知ってるでしょう?
 光平くんの出自の事は…」
雄大「知ってますよ。確か光平先輩のお父さんは外務省の外交官で、
 中東のアルなんとか家っていう大金持ちの娘さんと結ばれて
 光平先輩が生まれたんですよね。それがどうしたんですか?」
慎哉「そのアルシャード家の血を光平が引いている事が問題なんだよ」

慎哉は雄大に向けて今一度懇切丁寧に、光平を巡る複雑な事情を説明した。

光平の両親の結婚は、事実上の駆け落ち婚だ。
それは日本政府と中東の石油王アルシャード家の
双方の意に反する形で行われた。
その結果、光平の父であった牧村陽一郎は
所属する外務省から徹底して冷遇され、
危険な紛争地帯や貧困に喘ぐような小国を中心に
赴任先を転々とさせられた。
その息子である光平は、父の事で日本政府を恨んでいる筈…。
そんな光平が、もし母方アルシャード家の有する巨万の富を相続したら、
日本国家に対して何かよからぬ事を企み実行するのではないか?
そんな絵空事を危惧する猜疑心の強い人間が、
今も日本の権力層の中に少なからず存在している。

普段から父・陽一郎の生前からの縁で、
光平たちと昵懇な間柄である内閣安全保障室長・土橋竜三も、
建前上は「政府から派遣された光平の監視役」という意味合いが強い。
だから日本の外務省が、最初から光平を留学生に選ぶ訳などないのだ。

雄大「それじゃあ…! 光平先輩はどう頑張ったって
 外交官にはなれないって事ですか!?」
慎哉「少なくとも日本の外交官にはな…。
 地球連邦政府に国際公務員として登用されるのを
 目指す手もあるけど、それだって結局は
 日本の外務省の推薦が必要なんだ…」
雄大「あまりにも光平先輩が可哀想ですよ!
 どうにかしてあげられないんですか!?」
優香「私たちだって光平くんの夢に手を貸してあげたいわよ。でも…」
慎哉「今も政府のお偉いさんの中には、光平の事を一方的に
 目の敵にして、隙あらば葬り去りたいっていう連中が
 うじゃうじゃいるんだ。だから現状ではどうしたって迂闊な事は
 できないんだよ」

1623

雄大「………」

話を聞いていた雄大は、慎哉と優香の二人をじろっと見つめている。

慎哉「なんだよ? いきなり黙って…」
雄大「本当にそれだけなんですか?」
優香「どういう意味?」
雄大「最近、光平先輩もお二人も様子が変ですよ。
 もしかして何か隠し事をしてるんじゃないですか?」
慎哉「――!?」
優香「――!?」

慎哉も優香も、雄大の鋭い指摘に驚く。

優香「それは……」
雄大「二人とも僕にだけ隠してるだなんて水臭いですよ!
 もし何か困った問題が起きてるなら、僕にも遠慮しないで
 教えてください! 出来る限り力になりますから!」
慎哉「雄大……」

なんとか雄大を説き伏せて納得させ、その場から去らせた慎哉と優香だったが…。

慎哉「一瞬、ドキッとしたよ。アイツ昔から結構勘が鋭いところがあるからな…」
優香「ごめんね岡島くん…。でも今はまだ、シグフェルの秘密を他の人に
 漏らす訳にはいかないの…」

ただでさえ難しい立場の光平がシグフェルの正体だと世間に知れた時、
おそらく光平の居場所は、もう日本国内には存在しないだろう。

優香「どうしたらいいの。やっぱりフィリナさんの言ってた通り、
 ブレイバーズに名乗り出てみたら…」
慎哉「バカ言うなよ! ブレイバーズだってどこで政府と繋がってるか
 分かんないんだぞ」
優香「そうよね…」
慎哉「光平は…絶対に俺が守って見せる!」


永田町・民自党本部 役員会議室***


その日、内閣安全保障室長・土橋竜三は、
与党の長老政治家たちに呼び出されていた。

長老A「どうかね? その後、牧村陽一郎の小倅の様子は?」
土橋「様子はと言われましても…。特に変わった事は何もございませんが」
長老B「土橋君、君に与えられた役割は理解しているね?」
土橋「無論、よくよく承知しております」
長老C「あの小倅がもし万一にもアルシャード家の相続権を手に入れ、
 我が国に対して報復的な画策を企てたりでもしたら、由々しき事だ」
土橋「お言葉ですが、そもそも光平君にそんな大それた事を目論むような
 動機は見当たりません。先生方のご心配のし過ぎではないでしょうか」
長老D「そのような楽観論は、国の行く末を誤る元だ」
長老E「父親が出世コースから外れて冷や飯を食わされたというのに、
 それを息子が恨まないはずはない!」
土橋「光平君は今でも亡き父親の外交官としての仕事を誇りに思っています。
 父親が左遷されていたなんていう認識すらありませんよ」

光平の父・牧村陽一郎の事は、土橋も彼の生前からよく知っていた。
当時の陽一郎は、本省でのデスクワークや予算獲得の仕事よりも、
日の丸を背負い海外で国際外交の最前線で働ける事にむしろ積極的だった。
息子の光平は勿論、陽一郎本人だって不満は微塵もなかった筈だ。
陽一郎の持っていた志については、土橋も何度も口を酸っぱくして
長老議員たちに説明してきたが、「永田町の論理」にはとても理解できない代物らしい。

長老A「今世間ではシグフェルやイーバとかいう正体不明の怪生命体が
 うろついている、何かと騒がしい昨今だ。それに便乗してどんな動きが
 起きないとも限らん。これからも牧村陽一郎の子供の監視は続けてくれたまえ」
長老B「言うまでもないが、あくまでも非公式にだよ…」
土橋「承知致しました」

1624

首相官邸・総理執務室***


桃太郎「党の老人たちに手ひどくやられたようだな」
土橋「いやあ、長老方のイヤミにはもう慣れっこですよ。ハハハ!!!」

官邸へと戻った土橋室長にその苦労をねぎらう内閣総理大臣・剣桃太郎。

優子「その牧村光平君というのはどんな男の子なんですか?」
土橋「うむ、父親同様に正義感が強く、夢と志にあふれた
 今時には珍しい高校生だよ。私も見ていて若い頃の陽一郎君を思い出す」

今、土橋に牧村光平について訪ねた、このロングヘアの女性――
――名前を木葉優子といい、元首相・板垣重政の主治医を長年務めていたが、
首相を退任した板垣が何かの役に立つだろうと、新総理となった剣桃太郎の側近くに就けた人物だ。
現在は「内閣医務官」の肩書きを持ち、官邸の総理執務室にも頻繁に出入りしている。

桃太郎「今は亡き牧村参事官には、私も一年生議員だった当時から親交があった。
 その御子息が今ではどのように立派に成長したのか、一度見てみたいな」
土橋「お会いになられますか?」
桃太郎「…いや、やめておこう。下手に現職総理と接触など持っては、
 余計に奥の院の老人たちの不興を買うことになるだろう。
 その少年にとっても、かえって迷惑に違いない」
優子「ところで総理、下田に駐留しているコルベット准将指揮下の部隊に
 動きがあるようです」
土橋「連中にも困ったものです。地球連邦軍の威光を笠に着て、
 臨海副都心を中心にあちこちに勝手に検問を設置し始めています」
桃太郎「すでに国民の平穏な生活にも支障をきたし始めている。
 これ以上は政府としても看過する訳にはいかんな。しかるべき手を打つ!」


豊洲住宅街・朝倉家***


光平「………」

その日、学校から帰った光平は、自分が小学2年生・8歳の時に海外の難民キャンプで
両親やフィリナ、そして現地の同世代の子供たちと一緒に取った記念写真を見つめていた。

あの頃の記憶が脳裏に蘇って来る…。

◇   ◇   ◇

今から9年前のこと……。
北アフリカの某難民キャンプで、まだこの時10歳だった従姉のフィリナも一緒に
両親の仕事現場に連れて来られた幼い光平は、紛争や自然災害を逃れて
辿り着いた見知らぬ土地で懸命に暮らす人々の様子を目の当たりにしていた。

父・陽一郎は日本国を代表して現地に派遣されてきた外交官として、
キャンプの護衛に当たる平和維持軍との折衝や、各国から送られて来る
援助物資の受け入れ準備に奔走。医師資格を持つ母・エメリアも、
国際ボランティアの一員として難民の健康管理や衛生問題の改善活動等に
従事していた。

1625

光平「ねえ、お父さん、この人たちはどうしてここにいるの?」
陽一郎「いつの日か"普通の暮らし"を取り戻すためだよ」
光平「"ふつうのくらし"…?」

長期化する難民キャンプの生活はとても過酷である。
灼熱の夏と氷点下の冬。強風と砂埃。未来が見えず、不安を抱える人々がいる。
勉強をしたい子ども、仕事をしたい大人。
みんなが、戦争が起きる前の「普通の暮らし」を取り戻したいと願っている。
だからこそ難民たちはその日が来るのを信じて、日々を懸命に生き抜くのである。

陽一郎「だからお父さんもお母さんも、その人たちが希望を失わずに生きていくことができるように。
人々の"自立して生きたい"という想いを支えるためのお仕事をしているんだよ」
光平「そっかあ…。お父さんもお母さんも、とても立派なしごとをしているんだね。
 ボクも大きくなったらきっと"がいこーかん"になって、お父さんのおしごとを手伝う!」
陽一郎「ははは! それは頼もしいな」

陽一郎は笑いながら、幼い息子の頭を何度も撫でた。

フィリナ「光平! こっちでみんなと一緒に遊びましょう!」

他の難民の子供たちとサッカーをして遊んでいたフィリナが、
光平にも一緒に遊ぼうと呼びかける。

陽一郎「ほら、行っておいで」
光平「うん♪」

難民の子供たちやフィリナと一緒に混ざって
楽しく遊んでいる、まだ無邪気で幼い光平の姿がそこにはあった。

しかし、悪夢はこの2年後に訪れた。


◇   ◇   ◇


その2年後(今から7年前)…。

エイラシア首都テヘラッド***


光平「父さん! 母さん!」

当時日本にいた10歳の光平は、サラジアで両親が爆破事故に巻き込まれたと知り、
急いで成田から中東行きの便に乗り、両親が担ぎ込まれたという
サラジアの隣国エイラシアの病院まで駆けつけたのだが…。

フィリナ「光平!?」
光平「フィリナ! 父さんと母さんは!?」
フィリナ「ダメよ! ここから先に行っては!」

病院にはすでに、当時まだ12歳だったフィリナやアルシャード家の関係者、
そして日本大使館の担当者ら数人がロビーで待機していた。

1626

先へ進もうとする光平をなぜか押し留めようとするフィリナ。
やがて手術室から布に覆われた2台のストレッチャーが出て来た。
光平の目の前を通過する間際、僅かな弾みで一部分だけ布がめくれて
中の様子が見えてしまう。

光平「――!!」
フィリナ「見てはダメ!!」
光平「…あ…ああ!?」

日本大使館関係者A「事故現場で発見された時には
 もう外見からは身元が判別不能なほどに
 二人とも全身が焼け爛れていたそうだ…」
日本大使館関係者B「あんな小さな男の子を一人だけ
 遺して…。気の毒にな」



光平「うああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


◇   ◇   ◇

光平はその後、父やフィリナとも仕事上の付き合いがあった
朝倉家に一人引き取られた。これも従姉フィリナの計らいである。

そして現在……。

光平「ごめん父さん、それに母さん。
 あの時の約束、果たせそうにないよ…」

光平は悲しそうな瞳をしながら、
あの時の大切な思い出の写真をそっと
机の棚の中に仕舞うのであった。

1627

○ライディーンイーグル→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○ライディーンコンドル→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○ライディーンホーク→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○南條一夜/ライディーンクロウ→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○カイル・ムーン/ライディーンアーザス→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○海堂忍/ライディーンブラッド→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○ライディーンセイラ→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○009→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○ジェット・リンク/002→横須賀上空でシグフェルを追跡していたが、見失う。
○フランソワーズ・アルヌール→ブレイバーベースで、これまでのシグフェル追跡の結果を分析。
○毒島嵐/ドクター・アシュラ&シュラー3人衆→ドロテ博士の手伝いをサボり、横須賀のヴェルニー公園でシグフェルを追跡していたが見失う。
○天宮勇介→朝刊社会面のシグフェルに懸賞金がかけられた記事を読む。
○大原丈→朝刊社会面のシグフェルに懸賞金がかけられた記事を読む。
○岬めぐみ→朝刊社会面のシグフェルに懸賞金がかけられた記事を読む。
○矢野鉄也→朝刊社会面のシグフェルに懸賞金がかけられた記事を読む。
○相川純一 →朝刊社会面のシグフェルに懸賞金がかけられた記事を読む。
○剣持保→ブレイバーベースで、これまでのシグフェル追跡の結果を分析。
○村中隊員→ブレイバーベースで、これまでのシグフェル追跡の結果を分析。
○小野隊員→ブレイバーベースで、これまでのシグフェル追跡の結果を分析。
○八神冴子→海防大学付属高校前で、朝登校中の生徒たちに突撃リポート。
○土橋竜三→民自党の長老議員たちに呼び出される。
○剣桃太郎→土橋竜三から牧村光平について聞く。
○木葉優子→土橋竜三から牧村光平について聞く。
●コルベット准将→芳しくないシグフェル捕獲作戦の成果に苛立つ。
?バルザック・アシモフ中佐→なぜかコルベット准将の配下に戻っており、東京の臨海副都心地区各所に軍の検問を配置する。

○牧村光平/シグフェル→9年前と7年前の出来事を回想する。
○朝倉慎哉→次第に苦しい立場に立たされつつある牧村光平を気遣う。
○沢渡優香→次第に苦しい立場に立たされつつある牧村光平を気遣う。
○岡島雄大→朝倉慎哉と沢渡優香が自分に何か隠しているのではないかと疑う。
○フィリナ・クラウディア・アルシャード→12歳当時、光平の両親に連れられ、幼い光平や難民キャンプの子供たちと遊んでいた。(回想)
○牧村陽一郎→まだ8歳だった幼い光平を、自分の仕事場の北アフリカの難民キャンプまで連れて行く。(回想)
【今回の新規登場】
○バルザック・アシモフ中佐(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 連合防衛軍少佐。従軍記者に扮してスペースナイツに潜入し、テッカマンブレードのデータを持ち帰る。
 その後、そのデータを基に作られたソルテッカマンのパイロットに自ら志願、中佐に昇進する。
 スラム街の孤児だった彼は、その生い立ち故に上昇志向が強く、テッカマンブレードにも強い対抗心を燃やしていたが、戦いで重傷を負ったところを農場を営む女性リルルに助けられ、その弟リックとともに農夫として生活していているうちに権力欲を捨てて人間らしさを取り戻し改心。スペースナイツに合流後は、ソルテッカマン1号機改に搭乗し、Dボゥイの仲間として彼をサポートした。ラダムとの最終決戦にてテッカマンソードと相討ちになり戦死した。
 リルルとの間にはまだ生まれていない彼の子が、忘れ形見として遺された。

○八神冴子(獣神ライガー)
 財閥令嬢であり、日の出TVで「八神冴子の突撃レポート」というニュース番組を担当している人気TVレポーター。
 考古学者の祖父の影響で考古学に詳しく、また英語やフランス語も堪能な才女。ライガーを目撃したことで報道関係者の魂に火が付き、その動向を追っていた。やがて大牙剣らと関わりを持ち、祖父がドラゴ帝国の研究をしていたことで、剣達の協力者となる。

○木葉優児=木葉優子(マーダーライセンス牙)
 木葉流忍術の14世継承者。諜報活動や暗殺活動の他、奥義の1つ「マッスルコントロール」で全身の筋肉を自在に操り、頭髪以外の全てを女性へ変形させることさえ可能。男性での表の顔はスイミングスクールやアスレチックのインストラクターにしてスポーツ栄養学のコンサルタント。女性での表の顔は板垣重政首相の主治医・木葉優子という素性になっている。
 日本でただ一人「殺人許可証」(マーダーライセンス)を持つ人物で、実は血を分けた父親である板垣から指令を受け、法で裁けぬ悪を抹殺する役割を担う。


○牧村陽一郎(闘争の系統オリジナル)
 牧村光平の父親。外務省の元参事官であり、現在では既に故人。

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最終更新:2020年12月03日 08:19