外宇宙編114~119

『二人皇帝、エンペリアスを目指す』-1

作者・ティアラロイド
114

惑星エンペリアス・星間評議会首府***


コム「アルマナ姫、地球までの遠路の旅、
 誠にご苦労に存じます」
アルマナ「おかげさまで無事に使命を果たす事が出来ました」

ブレイバーズ創設の協議のため、星間評議会から特使として
地球に赴いていたアルマナ・ティクヴァーが一行が無事に帰還した。
評議会首府の議事堂前大廊下で出迎えたコム銀河連邦警察前長官がその労をねぎらう。

アルマナ「コム前長官には、この度は星間評議会議員に
 ご就任の運びとなったそうで、謹んでお喜び申し上げます」
コム「退任後に政治家ポストに天下るような事だけは
 何卒ご容赦をと頑張ってみたのですが…」
マリーン「結局はカミュエル卿に押し切られたのです。
 ようやくブレイバーズの組織も軌道に乗り始めたばかり。
 まだまだ長官に楽隠居されては困ると――」
コム「マリーン、私はもう長官ではないよ」
マリーン「あら、これは失礼しました」

星間評議会では戦時ながら数年ぶりに間接選挙がおこなわれ、
ジュリアス・カミュエルの要請を受けたコムは、最初は拒み続けたものの、
断り切れず、最高議長の推薦枠で当選。星間評議会のバード星選出代表議員となった。
今回の評議会選挙では、カミュエル率いる政党「摂理の党団」が第一党に躍進し、
カミュエルは行政府の首相に選出される見通しだ。

アルマナ「コム議員も摂理の党団に所属なされるのですか?」
コム「いや、私は無所属だ。どうも政党政治と言うものは
 しがらみが多くてね。私の性に合いそうもない。しかし
 一度議員の地位をお引き受けした以上は、現場で戦っている
 若い者たちのために精一杯の事はやらせてもらう所存だ」
アルマナ「銀河連邦警察は今大変な時期のようですね…」
コム「うむ。ゴードン君には無理な重荷を背負わせてしまったのかもしれない…」

コムの古巣である銀河連邦警察は今、前代未聞の不祥事に揺れていた。
コム前長官の後任を引き継いだニコラス・ゴードン新長官の就任早々の
不正スキャンダルが発覚したのだ。娘の犯罪行為のもみ消しを行ったとして、
ゴードン新長官は現在、宇宙警察本部からの正式な処分が下るまで謹慎中の身である。

コム「正式な新長官が選任されるまで、宇宙警察本部のヌマ・O長官が
 直接銀河連邦警察の指揮を執る事になるでしょう」
アルマナ「それでは宇宙警察の本部の運営がおろそかになるのではありませんか?」
コム「その点についてなのですが、どうもカミュエル卿は
 宇宙警察総裁の官職を復活させるつもりのようだ」

「宇宙警察総裁」とは、三次元宇宙の治安を統括する宇宙警察機構において、
常置職のトップである「長官」よりもさらに上位に置かれる、行政府閣僚級の
臨時職である。宇宙帝国ザンギャックのスパイ・魔空監獄獄長アシュラーダが
成り済ましていたウィーバルなる人物を最後に、今まで宇宙警察に総裁職は置かれていない。

アルマナ「それで、その新任の宇宙警察総裁にはどなたが?」
コム「カミュエル卿ご自身が兼務なされると聞いています」

115

同首府・行政府首相執務室***


仮面の女「行政府首相の椅子の座り心地はいかがですか?」
カミュエル「悪くはないよ…」

星間評議会最高議長ユーガー王子より行政府首相就任の大命を謹んで
拝命したジュリアス・カミュエルは、早速首相専用のオフィスへと入った。

カミュエル「だが椅子の座り心地を満喫している時間は
 我々にはない。首尾よくブレイバーズの組織が設立されたからには、
 次に取り掛からなければならない大仕事がある。それもすぐにだ」
仮面の女「銀河帝国皇帝のエンペリアス星訪問ですね」
カミュエル「その通りだ」

宇宙には「三次元宇宙全体を統べる正当なる覇者である!」と称する
列強国家は数多い。そのような大国は総じて、星間評議会の存在すら
認めていない場合も多い。ローエングラム王朝・神聖第三銀河帝国も
そんな数ある星間国家の一つである。

地球の次は、銀河系宇宙最大の版図を誇る銀河帝国の協力を得る。
それが策士ジュリアス・カミュエルの描く次なる戦略であった。

カミュエル「戦乱の世を治めるためには、どうしても大国の協力は
 欠かせないものとなる。星間評議会の存在を銀河帝国に認めさせるためには、
 この皇帝来訪はなんとしても成功させなければならない」
仮面の女「すでに折衝も終わり、

 帝国の実権を握るヒルデガルド皇太后からも内諾を得ています」
カミュエル「上々だ。引き続き準備を進めてくれたまえ」
仮面の女「かしこまりました」


仮面の女の私室***


一人だけ自室に戻った仮面の女は、ベットの端に腰をかけると
醜悪な悪鬼の顔が刻まれた鉄仮面を静かに外す…。

仮面の女「………」

仮面の女は一年前の出来事を思い出す。

 ◇   ◇   ◇

神聖ブリタニア帝国の第3皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアは
「行政特区日本」の設立記念式典に置いて日本人を虐殺。
「虐殺皇女」の汚名を被って死んだ。そして彼女は黄泉がえった。
しかしユーフェミアが蘇生した世界は、自分が元いた世界とは
全く別の平行宇宙(パラレルワールド)だったのだ。

ユーフェミア「こ、これは……!!」

ユーフェミアは映像を見せられ愕然とした。
自分が式典に集まった日本人虐殺を兵士に命じ、
また自らも率先して虐殺に加わる様子に…。
自分が息を引き取る寸前、枢木スザクは「特区は成功した」と告げてくれた。
しかし真実は、最悪な形で特区は失敗に終わっていたのだ。
全てはギアスの誤作動によるもので、心神喪失の刑法原則から言えば
決してユーフェミアに罪はないのだが…。

残酷な現実を見せ付けられたユーフェミアは
懐剣を手に取り自害を図った。しかしカミュエルによって止められる。

カミュエル「ユーフェミア姫、死んではならん!」
ユーフェミア「いいえ死なせて下さい!

 こうなってはもはや何の望みも…」
カミュエル「いや、貴女は常識や慣習に囚われない柔軟な発想力と
 大胆な行動力をお持ちだ。その貴女の聡明な頭脳が私には欲しい!
 死ぬ事ならばいつだって出来る。だが、その前に今一度だけ
 世のためにその力を存分に使って働いてみようとは思われんか?」
ユーフェミア「………」

 ◇   ◇   ◇

こうして、ユーフェミア・リ・ブリタニアという名の女は
再びこの世から消えた。今ここにいるのは一介の名もないただの女。

仮面の女「………」

暫し休息した後、女は再び鉄のマスクを装着して自室を出て歩み出す。
たとえそれがどんな修羅の道であろうとも…。

116

惑星ビージー***


まだ暁のうちである。今までの黒一色の空が青みがかってくる。
その日のビージー星は、初夏という季節であった。
頭に擂鉢型の塗り傘を目深にかぶった、
銀河帝国より私掠船免状を賜る宇宙海賊・鉄の髭は、
兵法者を装ってもう二カ月も宇宙各地を放浪する旅を続けていた。

鉄の髭「………」

鉄の髭はふと、前方に人影を見つける。
病気か負傷したかで、生き倒れとなったのであろう。
鉄の髭は用心深く近づいて目を凝らした。

若い女だった。ただし尼僧(シスター)である。
うつ伏せになった尼僧の背中が波打っていた。

鉄の髭「どうした?」

鉄の髭は声をかけるが、尼僧はそれを無視する。
この戦乱の時期に、たとえ神に仕える尼僧であろうとも
若い女が広い宇宙を一人旅など無謀である。
ましてやここ惑星ビージーはお世辞にも治安のよい星とは言い難い。
追剥か強姦の犠牲となるのが関の山だ。

鉄の髭「怪しい者ではない。近くの人家まで送ろう」

しかし尼僧は執拗に鉄の髭の救いの手を拒んだ。
そして尼僧の気魄、凛とした気品、使命感に燃えるような眼光。
不審を抱いた鉄の髭は、この女が偽物の尼僧であると見抜いた。
それもかなりの訓練を受けたプロの戦闘員か軍人だ。

鉄の髭「お前は本物の尼僧ではないな?」
尼僧「寄るな!」

女はマイクロチップのような物を取り出して、
口の中に飲み込んだ。密書か何か、とにかく重要な者を
他人の手に渡らぬうちに処分しようとしているのだ。

尼僧「ぐぶっ…」

女の口からは大量の血が出た。
舌を噛み切ったのだ。
気がつくと、鉄の髭は怪しげな黒ずくめの男たちに
取り囲まれていた。

黒ずくめ「その女人の亡骸をこちらに引き渡していただこう」
鉄の髭「…いやだと言ったら?」
黒ずくめ「殺ッ…!!」

リーダーらしき男の号令と共に、5人の黒ずくめが
一斉に刃を向けて鉄の髭に飛びかかった。
鉄の髭の身体は舞うように半回転した。
黒ずくめよりも鉄の髭の太刀の方が数倍早く動いて、先手を取った。
閃光が走り、黒ずくめたちは皆、鮮血を吹き上げて倒れる。

辺りが静まった時、宇宙海賊船パラベラム号が上空に現れた。

シェイン「船長(キャプテン)!」
鉄の髭「シェインか。この女の死体を船の中に運べ。
 大至急調べたい事がある」

117

惑星フェザーン・軍務省***


フェザーン回廊に存在する恒星フェザーンと
4つの惑星から構成されるフェザーン星系。

その第2惑星フェザーンは、かつては自治商人の貿易によって栄えたが、
その後、獅子帝ラインハルトによって銀河帝国に併合され、
後年の遷都令によって、帝国の首都と定められた。

宇宙海賊船パラベラム号と共にフェザーンへと戻った鉄の髭は、
帝国軍務省のある人物の元へ報告に出向く。

ウォルフガング・ミッターマイヤー首席元帥。

銀河帝国の現・軍務尚書である。
獅子帝ラインハルト亡き後のローエングラム王朝を支えた重臣たちの筆頭であり、
過去には宇宙艦隊司令長官も歴任。「疾風ウォルフ」の二つ名で知られ、
建国の父である先帝ラインハルト、そして今現在摂政として帝国の実権を握る
皇太后ヒルデガルドからも最も信頼を受ける勇将である。

鉄の髭「ただ今戻りました」
ミッターマイヤー「出立してよりちょうど、65日目にして
 戻った事に相成るな」

ミッターマイヤーは労をねぎらう目で、鉄の髭に笑いかける。

鉄の髭「かねてよりご命令通り、皇帝行幸の道中安全確保の
 露払いのため、エンペリアス星までの航路上の星々をくまなく
 探索に努めました」
ミッターマイヤー「うむ…」
鉄の髭「しかし辺境の惑星ビージーに立ち寄った際、
 思いがけず奇怪なる女人と巡り合いましてございます。
 つきましては由々しき大事を予言致すがごとき仔細、
 何卒お聞き取り願いたい」

鉄の髭は、惑星ビージーで出会った尼僧を装った女の一件を、
ミッターマイヤーに漏らすことなく報告した。
鉄の髭は話を続けながら、その尼僧の遺体を解剖して
胃袋から取り出したマイクロチップの解読結果を示す。

Auf dem Weg von Miyuki, Schaden der Verwendung Bansaku an verschiedenen Orten auf dem Schiff Spalte Festival,
und die Lauf Spezifikationen mir Ihre des Galaktischen Imperiums Kaiser überlebt.
Einige Zeitregelungen Straße mehr, die wir dringend in Wetter bereit, um die Bewegungen zu erreichen.
Wenn Sie diese Chance verpassen zu tun, in der nur schwer wieder hoffen ...
(ご行幸の道中、各所において万策を用いての危害を艦列に加え奉り、
銀河帝国皇帝のご一命を頂戴仕らんと。かねてよりの手筈通り、
我ら早急に動静を決する覚悟にて候。もしこの機を逃せば、再び望むこと困難にて…。)

118

ミッターマイヤー「一大事だ…」

解析結果を読み終えたミッターマイヤーの顔色が一変した。
鉄の髭が思いがけず、暗殺指令の密書の一部を手に入れた。
それには明白で具体的な皇帝暗殺計画の断片が記されていた。
まさに青天の霹靂であった。

到底信じられない。信じたくもない。だが、信じなければならなかった。
この指令書の秘密を守るために、一人の女が自決している。
悪戯や冗談で出来る事ではなかった。

暗殺者の集団は、必死になって計画を練り上げた。
その計画を、本気で実行に移す気でいる。
間近に迫るアレクサンデル皇帝のエンペリアス星訪問を前にして、
皇帝暗殺計画の実行という一大事が、実際に待ちうけているのである。

ミッターマイヤー「他言は無用だ」
鉄の髭「心得ております」

ミッターマイヤーは深呼吸した。

ミッターマイヤー「さて…」

ミッターマイヤーは目を閉じて考え込んだ。
早急に相応の対策を講じなければならない。
ミッターマイヤー一人でどうにかできる事ではない。
手に余るというより、どうしてよいものか見当すらつかないのだ。
こんな時、前任の軍務尚書ならばどうしたであろうとミッターマイヤーは考える。

パウル・フォン・オーベルシュタイン。

ローエングラム王朝創業の暗部を一身に担った男であった。
おそらくオーベルシュタインならば、誰に打ち明ける事もなく
内々のうちに謀略に対するには同じく謀略を用いて、
水面下のうちに事態を処理したであろう。
生粋の武人であるミッターマイヤーは、
謀略家のオーベルシュタインとはすこぶる不仲であった。
だがそのオーベルシュタインは、もうこの世にはいない。
「いなくなってこそ、その人間の価値が分かる」とはよく言ったものだと
ミッターマイヤーは感慨にふける。

いくら一人で思案したところで、何も見えては来ないだろう。
やはりしかるべき人物と協議すべき事であった。
今は亡きオーベルシュタインと並ぶ知謀の持ち主、
そして同じく亡きジークフリート・キルヒアイスに匹敵する人望を集める
温厚で公明正大な人物といえば、この世に唯一人しかいなかった。

ミッターマイヤー「すぐに皇太后陛下にお目にかかる」

119

○コム前長官→銀河連邦警察長官を定年により退任。星間評議会議員に転身。
○マリーン→コム長官の退任に伴い、自らも銀河連邦警察を退職。コムの議員秘書となる。
○アルマナ・ティクヴァー →無事特使としての退任を果たし、エンペリアス星に帰還。
○鉄の髭→惑星ビージーにて銀河帝国皇帝暗殺計画の情報を掴む。
○シェイン・マクドゥガル→惑星ビージーで、怪しい尼僧風の女の遺体をパラベラム号に収容。
○ウォルフガング・ミッターマイヤー →現在はオーベルシュタイン亡き後の軍務尚書を務めており、
 鉄の髭から惑星ビージーでの出来事の報告を受ける。

△ジュリアス・カミュエル→自身が率いる政党「摂理の党団」が星間評議会の第一党に躍進。
 星間評議会の行政府首相に就任。宇宙警察総裁も兼務。
△仮面の女→その正体は、神聖ブリタニア帝国の第3皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアであることが判明。

【今回の新規登場】
○鉄の髭(モーレツ宇宙海賊)
 海賊船パラベラム号を駆る銀河帝国直属の宇宙海賊。その正体は
 死んだと思われていた加藤茉莉香の父にして先代「弁天丸」船長、
 ゴンザエモン加藤芳郎であった。

○シェイン・マクドゥガル(モーレツ宇宙海賊)
 宇宙船パラベラム号の操舵士。弁天丸の操舵士ケイン・マクドゥガルの双子の弟。
 兄と違ってあるアホ毛が特徴。ネビュラカップ開催の際には兄ケインに成り済まして
 白鳳女学院ヨット部にサングラスに竹刀という熱血教師キャラとして潜入していた。

○ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥(銀河英雄伝説)
 ローエングラム王朝銀河帝国の「獅子の泉の七元帥」の一人で首席元帥。
 ローエングラム陣営の中で親友・ロイエンタールと並んで「帝国軍の双璧」と称される主要提督の一人。
 艦隊司令官としての能力は、ラインハルトやロイエンタールに比類する強者。
 艦隊の機動力を十全に生かした高速移動を得意とし、追撃中の敵艦隊を追い越してしまうほどの
 用兵の速さから「疾風ウォルフ(ウォルフ・デア・シュトルム)」の異名を持ち、各戦役でも
 合理的で迅速な戦術/戦略を得意としている。乗艦は人狼(ベイオ・ウルフ)。

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最終更新:2021年01月07日 07:04