リファーリンの誕生日

「おはよう、カーナ!」
「おはようございます、リファーリン。」

ここは特別警察研究所。特別警察の直属研究機関だ。ヤパエオ(日本)で言うならば科捜研といったあたりだろうか。特別警察には直属の専門検視チームは無かったが近年の必要性に迫られ、設立されたのがこのFhanka faixese'd Lbeal―FFLA 特別警察研究所である。カーナとリファーリンはこのFFLAの第116研究室通称FFLA116に配属されている。

「カーナ、ここに例の試料を置いておくね。」
「分りましたわ。」

カーナは試料を取りながらカレンダーを眺める。来週の火曜日に丸が付いている。

―もうすぐ、リファーリンの誕生日ですわ。
「えぁ!カーナ!なにしてらぁ!」
独特の口調、その声の主はもちろん、
「あっ、ヴァレス。おはようございます。」
ヴァレス・ゲーン、彼もFFLA116の職員である。彼の性格らしくなく白衣を着ながら、奥の部屋で薬品を使った検査をやっていたところであろう。

「今日はどうしたんだぁ?なんか元気が無いねぁ」
「それがですね……ヴァレス……」
それを言った瞬間、FFLA116の出入り口がおもむろに開いた。

「失礼します、特別警察警護部のレシェールです。試料検査をお願いしに着たんですが。」
横には、もう一人見覚えのある人物が居た。
レシェール・ラヴュールだった。

クラディア、ラヴュール、ヴァレス、カーナ、四人はデスクを囲んでいた。
「リファーリンの誕生日……ですか……」
「そうなんですの、彼女と復縁してから最初の誕生日、特別な日にしたいと思ってて。」
ヴァレスは首を斜めにする。
「普通に祝えばぁいいんじゃぇないんかぇ?」
「だめだね、それじゃ特別な日にならないよ。」
ラヴュールが言う。

特別な日と言われても何が特別なのかも分らない。
クラディアは全く分らなかった。
彼女の過去の禍根はここにまで影を落としていた。
しかし、今際そんなことを言っててはカーナや皆の意気を落とすだけだ。

「私は、心がこもった行為なら何でも嬉しいと思いますよ。」
「そうですか……」
自分からはこれ以上は言いようがなかった。
「あ、そうだ、これとかどうかな。」
そう言いながら、ラヴュールは立ち上がりポケットの中から何かを取り出してデスクに晒す。

「ラズ・デパート?」
そこには新装開店などと文字が並んでいた。

「中央フェーユに大型の複合型ストアが出来るらしい。ここに二人で行ってみてはどうかな。」
さすが、ラヴュール。自殺さえしなければ頼れるいい男である。
そんなことを思いながら、カーナの顔を見上げる。

「これで行きますわ。」
どうやら方針は決まったようであった。


「リファーリン、今日は貴方の誕生日でしょう?だから、近くにできたラズ・デパートに行きませんか?」
「いいね。」
リファーリンが答える。
意気揚々と家をリファーリンと出発すると横にサングラスの人間が三人居た。
茂みから三つの頭が出ている。唇だけ動かして何か伝えようとしている。
「……(が)」
「……(ん)」
「……(ば)」
「チッ」
多分、クラディアとヴァレスとラヴュールであろう。なんでついてきたし。
まぁ、リファーリンは気付いていないようだしいいか……。

「とりあえず、バス停まで徒歩で移動ですわ。」
「うん。」

「とりあえず、順調に進んでいるようですね。」

茂みから顔を出してクラディアが言う。
サングラスと要らないであろうちょび髭をつけている。

「あのさぁ、こんな事やってるくらいなら仕事に戻らないかい?」

ラヴュールも茂みから顔を出す。
僕自身あまり乗り気では無い。

「いやいやぁ、こんなぇことでもぉ、特別警察ぅの素質ぁがぁ問われるぁ」

第三の顔が茂みから出る。
もちろんヴァレスだ。
「そうかなぁ、と言うかその前にこのちょび髭要るの?」
「要らない。」

「そうじゃないんですよ!!!」と叫びながらクラディアが立ち上がる。
「こういうのは雰囲気か重要なんですよ、雰囲気。分りますか!?」
「わからねぇよ!てか、お前そんなキャラだっけ!?!?」
思わず大声を出してしまった。ばれるから止めろと言いながら二人に制止される。

「ん?今、ラヴュールの声が聞こえたような……?」
「え、ええ?わ、わたくしは聞こえませんでしたけど……」
額から零れ落ちそうな汗を拭き取る。
野郎どものせいで計画が潰れそうじゃないか……。
てか、ラヴュール……あなた、企画者じゃないの……。
バス停にはつくことができた。
ここからラズ・デパートは少し時間がかかる。それまで、リファーリンと静かな空間を共有できれば良いのだが。

「カーナ、ほら見て!ファールリューディアだよ。」
「あら、噂に違わず綺麗な所ですわね。」
引きつった笑顔がリファーリンの疑問を引き出したかは分らないが、カーナは何時あの三人がまた出てくるか気が気でならなかった。

「バ、バスに乗り遅れました!」
「今度はどうしたんだ、クラディア……」
ラヴュールが呆れ顔で尋ねる。

「カーナとリファーリンを載せたバスは今から3分20秒前にこのバス停留所を出発しました!!」
バスの運行電子掲示板を指差しながらクラディアはぴょんぴょん跳ねている。
「それがどうしたんだよ……」
「私たちはカーナを無事にリファーリンに楽しませる任務を行わせる義務があります。」
無いよ。クラディア……。
「だから、私たちはカーナを尾行し、安全にこの任務を遂行させる必要があります!!!」
「すっげぇ、すっげぇ無理な任務遂行観念!!!」
また思わず叫んでしまったが、クラディアの後でヴァレスが機械を弄りながら何かをしていた。
「やばいぇぞぉ、二人ともぁ!バスのぉ400m先が渋滞だ。」
「な、なんですって!?」
クラディアがオーバーリアクションを披露する。絶対君も疲れているだろ……。
そう思ったが最後、クラディアが立ち上がってこういった。
「私が渋滞を整理します。こうなったら、車を全て破壊するしかありません。」
「は?」
「それではまた。」
そういった瞬間、クラディアは飛び立ってしまった。
一瞬何を言ったか良く分らなかったが、多分彼女はこういった。

『車を全て破壊するしかありません。』

「なんでそうなるんだよ!?!?おかしいだろ!?!?大丈夫か、クラディア君!?!?」
「まぁ、おちつけぇこのぉ特警研ぅ開発ぅのスーパーオチツケールぅをぉ飲むんだぇ」
「そんな内容物不明な、薬品のみたくねぇ!!!てか、特警研何開発してんだよ!!!」
「まぁ、内容物はただのケール100%だぇ。」
「青汁じゃねぇか!」
だが、今は特警研開発スーパーオチツケールのことを案じている場合じゃない。

「クラディア君を追わねば!彼女は渋滞している車両を全部破壊する気だ!!!」
「まぁ、まぁ、ラヴュール君ぅ、このぉスーパーオチツケー」
「うるせぇよ!!!」
ヴァレスを触れて、WPで高圧電流を流す。
「あばばばばばばb」
「やってしまった……しかし、車に乗っている連邦人数十人の命には代えられない。行かなければ!」
ラヴュールはウェールフープの電撃で飛び立った。

「カーナ~。」
リファーリンが横のカーナを呼ぶ。
「なんでしょう、リファーリン?」
嬉々としてリファーリンに返答する。もう結構な時間は経った。多分あの三人はこれ以上は追ってこないはず。
と、ほっとしたのもつかの間、リファーリンの言葉によってそれは打ち切られた。
「前、結構渋滞しているみたいだよ。」
「え。」
バスの車窓から前方を見る。長そうな車の列、渋滞は……40分待ち!?
これは酷い。あの邪魔くさい三人を振り切っても、それでも私たち二人を阻む壁があるとは……。
とはいえ、渋滞はどうしようもない。これも一つ、リファーリンの誕生日に免じて待ってあげよう。
と、気持ちを落ち着かせたと思えば、何故かバスの中が冷えてきているのに気付いた。
『なんか、寒いなぁ』
『バスの運転手さん~暖房つけてくれない~?』
乗客がそんなことを言っている瞬間に前の車両が一つづつ消滅していた。
「あ、渋滞解けたみたいだよ?」
「本当ですわね……」
いつの間に車両が消えたんだろうか……。
謎が深まっていくが、まあいいだろう……。

「ふー、これで一応大丈夫ですね。」
「おい、おいクラディア君!?!?」
空から颯爽に現れたのはラヴュールだ。

「ああ、ラヴュール。渋滞車両なら今片付けたところですよ。」
「車を何処にやったんだい。」
そう訊いた途端にクラディアは上を指差す。
「空」
「は?」
そういった瞬間、ヒューという風を切る音が聞こえ、上を向いて見るとそこには自動車数台が落ちてきているのが確認できた。

「おい、おい、おい……。」
「あ、ラヴュールそこは危ないですよ。車がk」
ボスッ
ラヴュールの眼前に車が落ちてきた。クラディア自身潰れてしまったが多分ケートニアーだから大丈夫だろう、多分。
「クラディアの遺志、ちゃんと受け取ったぇ。」
振り向くとそこにはヴァレス。遺志って、クラディアは多分死んでないぞ。

「ヴァレス君、今度は何をするつもりなんだ……」
「彼女達ぃの前にぁ立ちはだかる障壁ぃは、全て壊すぁ。それが、たとえ衣服だとしてもぁ。」
そういって、ヴァレスはラヴュールの目の前を去っていった。

「……。」

『それが、たとえ衣服だとしてもぁ。』

やべぇ、ヴァレスの奴。カーナとリファーリンの服を引っぺがすつもりだ!!!
なんで、こうアホが集まっているんだ特別警察!!!
「止めねば……」
ラヴュールは、ラズ・デパートへ走り出した。
落下する車の雨を避けながら。

「着いたね、ここがラズ・デパートかぁ~」
「それじゃあ、とりあえず一店づつ回っていきましょうリファーリン。」
なんか予想より早く着いてしまった。
二人はデパートの巨大な出入り口よりその中に入っていった。

まずはファッション関係、ポップな服を取り扱う大手ブランドがここに出店しているらしい。
「うわ~これとかカーナに似合いそうだなぁ」
「えぁ、え~お客様ぁ、え~これとかお似合いだと、え~思いますよぁ~。」
なんか変な店員が居る。
デュイン方言ぽい喋り、これはどこかで聞いた様な。
「あ。」
こいつ……ヴァレスだ……。
「ちょっと、待っててね。リファーリン。」
そういって、変な店員を店の裏に連れてゆく。

「貴方、ヴァレスですわね……?」
「左様、じゃなくて、何のことでしょうお客様ァハハ」
「ふざけるなよ、次邪魔を入れたら血が飛ぶぞ。」
「うぃっす。」
ヴァレスは硬直していたが、すぐに消え去った。
多分、ラズ・デパートからはどっかに行ったと思われる。
安心したカーナはリファーリンの元にもとっていった。

「うむむ……。」

ラズ・デパートの中でラヴュールは唸っていた。
リファーリンとカーナが何処にいるか分からないからだ。
早く見つけねば大惨事になりかねない。

「手当たり次第当たるしかないか……」

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最終更新:2015年07月17日 20:21