欺瞞走駆のテクトニアー 第一章「加入」

巧みな人間と言うものは、危機に陥ったときに俊敏に体を動かすことでそれを回避することが可能であるものだ。だが、鈍いと危機を認識した瞬間に体が固まってしまう。
これには修練と言うものは必要なものゆえ、戦う必要のない人間にとってはもっとも、この平和な世界(少なくても局地的にこの日本)の人間にとってはそれほど危機に耐えるための訓練と言うのは専門業でもなければ、意味は無いだろう。だからこそ、あの時当たってきた何かを避けれなかったのは、和葉に大きく責任があるわけではない……と思った。まあ、そもそも好奇心に任せて霧の中に入ったのは失敗であった。

「この娘は……既に魔法使……だから、大丈夫……」
「ええ……ということはこの……力に……?」
誰かが会話しているのが聞こえた。男性と女の子の声。頭が痛いせいで会話が断片的にしか聞き取れなかった。少し経つと頭がすっきりしてきた。目を開くと女の子が二人が一人の男性を囲んで話していた。
「あら、起きたの?」
「え、ええ……。」
姿勢を直して頭を上げる。どうやらソファーにでも寝かされていたようだ。

「ようこそ、我等がパフェ・パフィエへ。気分はどうかな。」
「パフェ……パフィエ……?私は、一体……ここはどこなの?あなたは誰?」
疑問が湧き水のように少しづつ、勢いをつけて出てくる。見覚えの無い部屋に、人たち、それに何が起こったのかはさっぱりわからなかった。
「私はここのリーダー、賀茂凛。」
「何で私ここに、確か何かで殴られて……うーん?」
治まったはずの頭の痛みが鈍く、ぶり返してきた。
「あなたは選ばれたのよ『魔法使い』に。」
「『魔法使い』?」
さっぱり言っている事が理解できない。もう一度周りを見回す。それほど不自然ではない女子の部屋と言う感じであった。そこに座っている男性。銀髪で蒼い目、どこかで見たことがあるかのような容姿であった。
「やあ、パフェ・パフィエへようこそ。私は合衆国中央情報局のレイヴァーだ。よろしく。」
レイヴァーとやらは、和葉に手を差し出す。思い出して反射的にあっ、と言ってしまう。そう、今日の朝この男性に助けられたばかりであったことを今頃思い出す。するとここは、というか合衆国中央情報局――CIA――?握手を交わした後に賀茂の方に向き直り、とりあえず混乱を収めるためにこう言った。

「っと、とりあえず水を一杯貰えますか。」
「ええ、もってくるわ。」
そういって賀茂はドアの方へ歩き出そうとするが、勢い良くドアが開いた。賀茂は、苛付いた様子でドアをあけた主を睨みつける。自分もそれが誰か気になっていた。

「新人『魔法使い』が来たって本当なの!?!?」
「えっ、あっ、秋?」
えっ、秋?
友達の名前と同じであった。容姿を良く確認する。確かに柊秋、和葉の友人の図書部員だった。
「あれ、和葉じゃん。なんでここに居るの?」
と言われても、私も良く分からない。
横に首を振って良く分からないことを表現しようとしたが秋には伝わらなかった。しかし、はっと何かを気付いたかのように秋は和葉に近づいてきた。
「もしかして、和葉が新しい『魔法使い』?」
「ええ、多分ね。」
秋の後ろに居る賀茂がそう言った。もう何のことやらよく分からない説明してもらおう。
「水はいいです。賀茂さん、なんで私がここにいるのか、私に何があったのか、あとその『魔法使い』ってのは何なのか教えてくださいよ。」
「もちろんよ。」
賀茂は天井から何かを降ろし、引き下げた。部屋が暗くなり、その引き下げられたものに一つの写真が投影される。
「これは……」
南中、つまり私が通っている中学校の夕方らしい航空写真であった。
「先日、17時から18時頃にこの地域に霧が発生してガンセリアが出てきた。ガンセリアというのは、まあ説明は後にして省くが、そこで活動中の月読クレアの前に八ヶ崎和葉、貴方が現れたの。」
「か、活動?」
「それも後に省くわ。それで、貴方が出てきて私たちの魔獣殺害場面を見たことによって混乱して中心方向に走っていった。私たちパフェ・パフィエは貴方を民間人として保護しようとしたけど、高速移動していた別グループの魔獣にあなたは衝突された。」
「パフェ・パフィエってなn」
「それも後に省くの。」
何も話させてもらえないようだ。
賀茂はさらに説明を続けた。
「あのようなスピードで衝突されたら普通の人間なら死んでいるはず。でも、あなたは保護後に驚異的なスピードでその傷を治癒した。あなたはガンセリアの霧に選ばれた『魔法使い』になった。」
「その魔獣ってのは」
「魔獣は我々の敵、人間に危害を与える亜人のようなものと考えたほうが良いわ。魔獣はガンセリアの発生、つまり霧の輪の中央部に出現して近隣の人間に危害を与える。その前に私たちが奴等を殺してコアを回収するそれがガンセリアの霧、ううん、ガンセリアという現象の意思に選ばれた『魔法使い』に課せられる任務よ。それでその『魔法使い』がどういうわけか集められたのがこのパフェ・パフィエ。どうわかった?」
「え、ええ、なんとなく分かりましたけど……。」
正直言うとなんだこの中二病集団は、って感じだ。
「正直信じられないでしょう、私だって最初は信じられなかったもの~。」
秋が言う。
「どう信じれば良いって言うの。」
「嘘を言ってどうすれば良いって話だと思うよ。」
銀髪の外国人、レイヴァーが言う。
「レイヴァーさん、さっきCIAに所属しているとか言ってましたよね。」
「ああ、良く分からないがあそこをやめた後残っていた同僚に引き戻されて、このWizerdたちを指導、監督して欲しいって話でね。」
「はあ……。」
レイヴァーは椅子から立ち上がって窓の外を眺める。
「まあ、私は君たちにできることはガンセリアの観測くらいでしかない。」
「レイヴァーさん、ちょっと質問していいですか。」
レイヴァーが和葉のほうに向きなおす。
「なんだい?」
「ガンセリアが一般人の目にも見えるのであれば既に日本政府側で対策がなされていると思いますが、それはどう説明するつもりですか。」
「一般人には見えない。」
はあ?
「ガンセリアの霧は一般人には見えない、CIAもやっとのことでこの件にありつけた。なんか良く分からない機械を使ったら円状の霧はとりあえず観測できたらしいけど、凡人が見てもさっぱり霧が在るようには見えない。あの霧が見えるようになるのはガンセリアに選ばれた『魔法使い』だけなんだ。」
「はあ……。」
しかし、私はその『魔法使い』になってどうすればいいんだ?
「君は現在居るパフェ・パフィエに加入して魔獣を退治しコアを回収する。それだけでいいんだ。」
「そ、それだけってあんなに速く動く奴ですよ!」
反駁すると賀茂が横から声を掛ける。
「必ずしも高速の能力を持っているわけじゃないよ。でも魔獣は必ず何らかの能力を保持している。そのために私たちが選ばれ、そして能力を持ったのよ。」
「選ばれたかはともかくとして。」
レイヴァーが自分に話を戻す。
「八ヶ崎和葉君、君は我々に必要な存在なんだ。今まで三人でやってきたがそれでも精一杯だった。君の力を貸して欲しいんだ。」
「……。」
ここまでせがまれては引き下がれない。助けてもらったのもあるし、人を助けるという役目もある。重責だ。
しかし、和葉にはもう一つ疑問点が在った。
「とりあえず、まあ、出来る事はやってみます。ところで、三人って言ってますけど今ここに居るのは二人ですよね?」
レイヴァーは目を丸くして、横に居る二人を見た。
「あー、えっと、彼女、月読君は、特別な事情があってここには来ていないんだ。」
ふむ、つくよみ。漢字が分からないが多分苗字であろう。覚えておこう。
この私が参加してやったのに歓迎もしないとは……なんちゃって。
「和葉は弱者じゃないもの。」
「え?」
秋が小声で言った言葉はきちんと和葉の耳に聞こえていた。別に地獄耳な訳ではない。秋は直ぐにいやいや、なんでもないとごまかしていた。
何か月読さんに関することで変な空気が生まれているような感じもした。
「それで、レイヴァーさん。」
「どうしたんだい?」
「その魔獣とはどう戦えば良いんですか?」
「そうだねえ、魔獣が出てきてくれると早いんだけど。」
そういうと携帯電話を取り出してどこかに連絡をした。
その声を聞いたレイヴァーの顔は涼しい無表情から、微笑みに変わっていた。

「魔獣の出現予想は明日の0600だ。前回と同じところに出てくる。」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年01月09日 01:26