「まいったな……どうすりゃいいんだろこの状況」
博士から休暇を貰ったので、久々に故郷に帰ってみた。
もっとも、故郷とはいえすでに数年前に家族を亡くして独り身なので、
帰省というわけではないのだが。
昔、まだ家族と住んでいたころに、よく食材を取りに行っていた森が近くにあった事を思い出す。
よくお使いで、木の実やらキノコやらを取りに行かされたものだ。
あの森はまだあるのだろうか。
故郷の村を出て徒歩数十分のところに、その森はまだ存在していた。
この様子を見る限り、伐採されたり、荒らされたりしたということは無いようだ。
博士に木の実でも持って行ってあげよう。この前の失敗のことで、まだしょげている博士も、
美味いものを食べれば、少しは気が紛れるだろう。
こんなことを考えつつ、森の奥に入った、その矢先の出来事であった。
エルフの少女が倒れていたのだ。
このまま放っておくわけにはいかないだろう。
ここで先ほどの言葉が出てきたわけだ。
「あの……大丈夫ですか?」
返事が無い。意識を失っているのだろうか。
しばらく待ってみようか。
不意に、ガサガサッ、と背の低い草の揺れる音がした。
前方からも、左右からも、そして後方からも。
「しまった!囲まれたか!」
普段より油断していたせいで、
モンスターの接近を許してしまった。
俺は今、最低限の護身用武器しか持ってはいない。
そんな状況で、意識を失った少女と、逃げ切ることは出来るのだろうか。
見たところ、モンスターは6体ほど。
体格はそれほど大きく無いが、明らかに獰猛な体つきをしている。
噛み付かれでもしたら、ひとたまりも無いだろう。
そう判断した俺は、護身用の武器――博士作の飛び出すナイフを構え、
目の前に立っている1体に狙いを定め、射出した。
飛び出したナイフは、宙を裂き直進して。
モンスターの眼球へと、直撃した。
「ギャオオッ!」
俺はこの時ほど博士に感謝したことは無い。
もし、護身用の武器がこれでなく、ただのナイフだったら。
恐らく、俺は10秒とたたずに肉塊と化していたに違いない。
とっさに怯んでいるモンスターの脇を駆け抜け、全速力で逃げる。
幸い、あのモンスターたちは待ち伏せ型で、追いかけるほどのスタミナ、スピードは無かったようだ。
ほっと一息つき、少女を地面に降ろす。と、少女は目を開けた。
「あなたは……?」
「俺は
機工王国ギムリアースのある工房で、助手をしているものだ」
「どうして、こんな森に……」
「この森は、俺が小さいころよく来ていた森だからな。それにしても妙だな、昔はモンスターなんか居なかったはずなのに」
「モンスターが、世界中いたるところで発生しているようです。ここも例外ではないのでしょう。」
「そうか……」
エルフの少女は、俺に警戒心を持たなかったようだ。
珍しいことだ。
「助けていただいて、ありがとうございました。では、私はこれで……」
そういって立ち去ろうとする彼女に、俺はあわてて声を掛ける。
「行く当てはあるのか?あるなら、止めはしないが……」
彼女は、きょとんとした顔をしつつ、答えた。
「いえ、特にはありませんが……?」
「じゃあ、うちに来ないか?俺はさっきも言った通り、工房で助手をしている。
工房では魔力を使った機械を作っているから、魔力に詳しい人がいると、とても助かるんだ」
「そういうことでしたら、行かせていただきます。私も行き場所が無くて、困っていたところですし」
機工王国ギムリアースの一角に、工房がある。
その工房には、変わり者の博士と、その助手が住んでいる。
最近では、その二人に、新しくエルフの助手が加わったとか。
最終更新:2011年08月12日 12:13