ある小さな工房にて 『2話』

「まいったな……どうすりゃいいんだろこの状況」



博士から休暇を貰ったので、久々に故郷に帰ってみた。
もっとも、故郷とはいえすでに数年前に家族を亡くして独り身なので、
帰省というわけではないのだが。

昔、まだ家族と住んでいたころに、よく食材を取りに行っていた森が近くにあった事を思い出す。
よくお使いで、木の実やらキノコやらを取りに行かされたものだ。
あの森はまだあるのだろうか。

故郷の村を出て徒歩数十分のところに、その森はまだ存在していた。
この様子を見る限り、伐採されたり、荒らされたりしたということは無いようだ。
博士に木の実でも持って行ってあげよう。この前の失敗のことで、まだしょげている博士も、
美味いものを食べれば、少しは気が紛れるだろう。
こんなことを考えつつ、森の奥に入った、その矢先の出来事であった。

エルフの少女が倒れていたのだ。

このまま放っておくわけにはいかないだろう。
ここで先ほどの言葉が出てきたわけだ。

「あの……大丈夫ですか?」

返事が無い。意識を失っているのだろうか。
しばらく待ってみようか。

不意に、ガサガサッ、と背の低い草の揺れる音がした。
前方からも、左右からも、そして後方からも。

「しまった!囲まれたか!」

普段より油断していたせいで、モンスターの接近を許してしまった。
俺は今、最低限の護身用武器しか持ってはいない。
そんな状況で、意識を失った少女と、逃げ切ることは出来るのだろうか。
見たところ、モンスターは6体ほど。
体格はそれほど大きく無いが、明らかに獰猛な体つきをしている。
噛み付かれでもしたら、ひとたまりも無いだろう。
そう判断した俺は、護身用の武器――博士作の飛び出すナイフを構え、
目の前に立っている1体に狙いを定め、射出した。
飛び出したナイフは、宙を裂き直進して。

モンスターの眼球へと、直撃した。

「ギャオオッ!」

俺はこの時ほど博士に感謝したことは無い。
もし、護身用の武器がこれでなく、ただのナイフだったら。
恐らく、俺は10秒とたたずに肉塊と化していたに違いない。

とっさに怯んでいるモンスターの脇を駆け抜け、全速力で逃げる。
幸い、あのモンスターたちは待ち伏せ型で、追いかけるほどのスタミナ、スピードは無かったようだ。
ほっと一息つき、少女を地面に降ろす。と、少女は目を開けた。

「あなたは……?」
「俺は機工王国ギムリアースのある工房で、助手をしているものだ」
「どうして、こんな森に……」
「この森は、俺が小さいころよく来ていた森だからな。それにしても妙だな、昔はモンスターなんか居なかったはずなのに」
「モンスターが、世界中いたるところで発生しているようです。ここも例外ではないのでしょう。」
「そうか……」

エルフの少女は、俺に警戒心を持たなかったようだ。
珍しいことだ。

「助けていただいて、ありがとうございました。では、私はこれで……」

そういって立ち去ろうとする彼女に、俺はあわてて声を掛ける。

「行く当てはあるのか?あるなら、止めはしないが……」

彼女は、きょとんとした顔をしつつ、答えた。

「いえ、特にはありませんが……?」
「じゃあ、うちに来ないか?俺はさっきも言った通り、工房で助手をしている。
 工房では魔力を使った機械を作っているから、魔力に詳しい人がいると、とても助かるんだ」
「そういうことでしたら、行かせていただきます。私も行き場所が無くて、困っていたところですし」









機工王国ギムリアースの一角に、工房がある。
その工房には、変わり者の博士と、その助手が住んでいる。
最近では、その二人に、新しくエルフの助手が加わったとか。

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最終更新:2011年08月12日 12:13
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