新しく工房に来たエルフの少女は、やはりというべきか、魔力にとても詳しかった。
博士の失敗作のうち、コンセプト自体が終わっているもの以外はたいてい彼女の指摘によって
使い物になるものになった。
失敗した『空を飛ぶ機械』ですら、その欠点を指摘し、小型のモデルならどうやら飛ぶようにになったようだ。
人を乗せて飛ぶという、本来の目的には程遠いが。
彼女は料理も上手だ。
俺より上手に下ごしらえも調理も、そして盛り付けもする。
準備も片付けも手際がいい。
俺は『博士の世話係』から『工房の雑用係』にランクダウンしてしまったようだ。
ため息が出る。
「どうしました?お茶でも淹れましょうか?」
「いや、いい」
まさか彼女の目の前で言うわけにもいかないだろう。
格好悪い。
やることも無いので、外に出ることにした。
さて、どこに行こうか。
結局、ギムリアースのスラム街に来てしまった。
ここでは、金さえ出せばほとんどの物が手に入るという。
それだけ、物が多いのだ。
事実、あたりを見渡すと、機械の残骸やら、得体の知れないゼリー状のもの、
魔水晶――ずいぶんとボッタクリな価格だ――、踊る石人形、
驚いたことに、人間の頭蓋骨まで売っている。誰が買うのだ。
「酒冷えてるよ。どうだい一杯?」
「あんたの運勢を占ってあげよう」
「よう兄ちゃん。金持ってそうだな、取引する気は無いかい?」
「恵んでくれー。金を。食い物をー」
少し歩けば、さまざまな人から声がかかる。
この喧騒は、慣れた者にとっては心地良いものだ。
「ギャァァァァァッ!許してくれ!それだけは!」
路地裏から悲鳴が聞こえてきた。
よくあることだ。ふらふらとここを訪れ、持ちもの全て取り上げられ、次の瞬間には金に代わっている。
そして哀れな被害者は置いてけぼりで、その金で宴会が始まるのだ。
首は突っ込むまい。余計なことに巻き込まれる。
「腹減って無いかい?芋、安くしとくよ」
提示された額を見て、俺は一つ、食うことにした。
腹も減っていたし。
スラム街の食い物の中ではどうやら当たりの部類に入る物のようだ。
不思議な味付けだが、美味い。量も結構ある。
食いながら歩いていると、不意に後ろから声がした。
「――!――じゃないか!」
誰だよ馴れ馴れしい。そう思って振り向き。
「――……なのか?」
懐かしい奴に出会った。
最終更新:2011年10月25日 19:56