「これで――ッ!!」
俺は
モンスター飛びかかるタイミングに合わせて剣を振るう。
「キシャアアア……アァ……!!」
オオトカゲのようなモンスターの口から突き入れた剣は、そのまま心臓を貫きモンスターの息の根を止めた。
完全に動かなくなったのを確認してから俺は剣を抜いた。モンスターの血と内臓がこびり付いている。俺にとってそれは、もう見慣れた当然と言える光景だった。
「あ、あの……」
小さな少女が不安そうに俺に尋ねてきた。
恐らく歳は10歳くらいか。腰まである長い髪はボサボサで、ボロ切れ一枚の薄汚れた格好をしている。その様子からスラム街の子だと一目で分かった。
俺は剣を背中に隠して少女と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「もう大丈夫だ。怖いモンスターは全部お兄さんがやっつけたから、早く家に帰りなさい」
「でも……」
俺は優しく話しかけながらも、少女にとって一番残酷なことを言っている。
スラム街に住む少女が自ら外に出る理由、それは極単純なものだ。そう、食べ物だ。食べ物を求めて少女はモンスターの危険も顧みずに外に出ていたのだ。
「……」
俺の言ったことに少女はなにも言わずじっと下を向いている。
この国は、少なくとも俺の知っている国々の中で錬金術については目覚ましい発展を遂げている国だ。
他の国では発展途上な分野であり、一般人はほとんど知らない錬金術だがこの国は違う。
一般人のほとんどは錬金術の存在を知っている。そして完成された一部技術を町に転用し、人々の生活に溶け込んでいる。
しかし、そう言った目覚ましい発展にも必ず裏がある。
この国で一番問題になっているのは貧困問題だ。
魔法社会から錬金術社会への変化で、沢山の人々がその変化に抗えずに堕ちていったのだ。当然その事は国もお偉方も知っている。だが事実上放置されているのが現状だ。
「それじゃ、俺は行くよ」
立ち上がって少女の下から去ろうとした時、俺の服が引っ張られた。
「ま、待って……!」
振り向くと少女が今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「悪いけど俺じゃこれ以上君の助けは出来ないんだよ」
俺は目線を合わせずに言った。
「私、出来ることならなんでもするから! なんでも……! だから、だから……」
「それは凄い助かかもしれないんだけど、ちょっと君には出来そうにないかな」
「出来る! 出来る、からぁ……! 助け、てよぉ……」
少女はを我慢出来なかったのかその場に泣き崩れた。
過去にこんなことは何度もあった。その度に俺は1つで質問をする
「それじゃあ君、人を殺せる?」
「え――?」
少女が泣き止んだ。
この質問で大半の助けを求め、すがってきた人間は俺から身を引く。
それが当然の反応だ。助けてくれたのはただの気まぐれ。本性は底知れぬ危ない人。子供でも無意識にそう判断し、俺の下から去っていく。
今回も例外なくそうなるはず“だった”――。
「こ、……せ……る」
「な……?」
「ころ、せるよ……! だって私、もう、人、2人殺してるもん!」
帰って来たのは予想だにしない反応。
聞いた瞬間は嘘だと思った。しかし、少女を見た瞬間その疑念は確信へと変わった。
少女は笑っていたのだ。
「あのね、外に出るときにどーしつも邪魔な人がいたから頭に大きな石をぶつけてやったんだ! そしたら、頭がぺしゃんこになったんだよ! 気持ち悪かったー」
嬉々として自らの体験を語る少女に俺は戸惑いつつも、体の奥底から湧き上がってくる高揚感を抑えきれずにいた。
そして俺はまた少女と目線を合わせるようにしゃがみ込んでこう言っていた。
「もっと殺してみたい?」
決して狂ったわけでない。元々“狂っている”のだから。
「分からない。だけどそうしていいなら、そうしたい。お兄さんはそういう仕事をしてるの?」
「そうなんだ。俺は悪い人間を“狩って”いるんだ」
「か、って?」
「そう。俺は“人間”じゃないからね」
「んー? よく分かんないけど、私お兄さんのお手伝い出来るよ! 出来るから! だから……!」
少女はまた俺の服を掴み懇願してくる。どうやら少女にとっては、救いがないないというのが一番の恐怖対象のようだ。
「いいよ」
「ほ、ほんとに?」
「本当だ。その代わりちゃんと働いてもらうよ」
「うん! あ、あの、ありがとうございます!」
少女は掴んでいた手を離し、一歩下がってお辞儀をした。
「礼はいらないよ。それじゃあ行こうか」
「どこに行くの?」
「君にとっては出戻りになるだろうけど、ギムリアースだよ」
静かに「分かった」と言った少女を連れ、俺は機工王国ギムリアースに向かって歩き出した。
最終更新:2011年07月12日 22:13