「ああ……どうもありがとう」
森の中で出会ったその男は死に瀕しているように見えた。
暗がりにうずくまり、苦しそうに何かを漏らしていた。艶のある長い銀髪が地面に垂れその身に合せ細かく震えていた。
行き合ったその様子があまりに儚く、そして危うかったのだ。
…………。
ダン卿との一件からしばらく経った頃。
新たに訪れたこのエリアを進んでいる最中に彼を見つけ、こうして話している。
この広大な森の中で彼を見つけられたのは、一重にユイのナビゲーション能力によるものだ。
聞くにエンデュランスという名であるらしい彼は、第一印象通り危うい人間のようだった。
端正な顔立ちを感極まった表情に歪め、彼は
カイトへ告げた。
「ああ……、本当にありがとう。君と会えてよかった。カイト――に似た人。
君が何なのかは良く知らないけど、でもいいんだ。マハ――ミアが居たんだろう?
なら、それでいい。それで……」
「ド#%」
「どうも、だそうです」
偶然出会った彼はなんとカイトの知り合いであったらしい。
カイトが居た元の世界では長らく敵対関係にあったという彼だが、二人の間に特にわだかまりは見えなかった。
本来ならばこうして摩擦なしにコミュニケーションが取れたことを喜ぶべきことなのだろうが、しかしどうもエンデュランスが持つ「危うさ」に目がいってしまう。
(うむ、何とひょろっちい優男だ。余が少し力を出せば誤って手折ってしまいそうな柔さではないか)
耳元でセイバーの声がした。
当初は実体化していた彼らだが、流石に動く度に音がする森では霊体化してもらっている。基本可能な限り戦闘は避けていく方針な訳であるし。
(さっすが脳筋ヒロイン、言うことが違います。か弱い乙女であるところの私じゃあり得ない発言です)
次いでキャスターの声も響いた。
……聖杯戦争の合間を縫って日夜拳のトレーニングを積んでいた貴方が言いますか。
思わずそう返したくなるが、ここはぐっと我慢である。この場で去勢拳なぞ食らう訳にはいかない。
今後男性アバターに戻るようなことがあれば十分に気を付けよう。
(まぁでも確かにこのビジュアル系イケメンさん。なーんか危ういんですよねー。危ういっていうか、危ない?
そこはかとないヤンデレ臭がします。私のメル友とちょっと似てますねー)
キャスターの印象も何となく分かる気がした。
このエンデュランスという男は、どことなくあのピエロ――ランルーくんに似たものを感じるのだ。
無論、碌なコミュニケーションが取れなかった彼女とは違い、彼は常人の域には十分あるとは思う。
だがしかし、その思いの方向性には似たものを感じるのだ。
「ありがとう」
エンデュランスは今、自分たちにひざまずきひたすら礼を述べている。
それは彼を保護したからではない。彼は何も命の危険に瀕して倒れていたのではないのだ。
「本当にありがとう。これでミアに会える」
そう。
死んだように倒れていた彼だったが、しかしカイトがミアーーありすと共に居たあの猫のことを告げた途端、弾けるように身体を起こし、目を輝かせて礼を始めたのだ。
その情緒不安定さが危うくもあり、そして危ないと思わせる原因だ。
その後、情報交換を始めたが、聞くにエンデュランスは自分たちの他にはまだ一人しか出会っていないらしい。
黒いロボットのようなアバターに襲われたと聞く。撃退には成功したらしいが、しかし倒すまでにはいかなかったのだという。
まだ近くに居るかもしれないその危険人物のことは頭に留めておくとして、こちらからもエンデュランスにアメリカエリアの情報を告げておく。またこれからエリアを横断し、馴染みのある月海原学園に向かうことも。
それをエンデュランスは茫洋とした表情で聞いていた。どうにも興味なさそうだった。ミア、のこと以外には非常に淡泊な反応だ。
「ああ、あともう一つ……カイトのような人、ハセヲは見なかったかい?
彼は、彼がどこに居るのか分かるかい?」
不意にエンデュランスがそう言ってカイトへ詰め寄った。その様子には鬼気迫るものが感じられる。
カイトは黙って首を振り、それを見たエンデュランスは俯き「そうか……」と弱々しく漏らした。
どうやら彼にとってハセヲ、という参加者もミアと同様に重要なようだ。
(ハセヲ、か。最初の場であの男が言っていた名だな。
確かPK100人斬りを成し遂げた伝説のPKKということだが)
アーチャーの落ち着いた声が響いた。
ハセヲ。最初の空間、開幕を告げる場所で確かに聞いた名だ。どうやらあの榊という男と因縁があるらしいPKK。
PKというのは慎二から聞いた記憶がある。ネットゲームに他のプレイヤーを襲うプレイヤーだという。
となればPKKというのは、そのPKを襲うプレイヤー、という訳か。
話だけ聞くならば完全に危険人物であるが、カイトやエンデュランスの知り合いということを考えると、あながちそういう訳ではないのかもしれない。
同じようにエンデュランスが入れ込んでいるミアにしたって、謎めいた存在ではあったが、自分たちを助けてくれたのだ。
詳しく話を聞くべく口を開こうとしたが、
「……じゃあ、僕は行くよ」
しかし、エンデュランスはもう用は終わったとばかりに去ろうとしていた。
その足取りはふらふらとしたものであったが、同時に妙な迷いのなさも感じさせた。
「もう行ってしまうんですか?」
ユイが呼びかけると、エンデュランスは首だけをこちらに向けて、
「ああ、急がないと、ミアがまた遠くへ行ってしまうからね。立ち止まっている時間はないんだ」
そう告げて、再び歩を進め始めた。
その背中は儚げではあったが、しかし有無を言わせぬ拒絶の意志も感じられた。
……引き留めるのは無理か。
そう思い、あとで月海原学園で合流しよう、とその背中に告げた。エンデュランスは振り向かず手を上げて了解の意を示した。
これで運が良ければまたあとで会える筈だが……
「アアァァァ……」
「マハの碑文を持っている彼は強いから大丈夫、とカイトさんは言っています」
正直危険人物が居ると分かっているエリアに、彼を単独で向かわせることに躊躇はあった。彼の探し人が危険人物――ありすと同行している可能性が高いとなれば猶更だ。
とはいえ彼自身も結構な実力者であるらしい。
マハ、というのは先ほどのカイトはミアに対しても言っていた単語だ。
その碑文をエンデュランスは持つと言うが、二人の関係性にもあとでカイトに聞いておきたい。ハセヲという参加者のことも併せて。
(不安か、マスター? 何なら、私が張り付いて監視するというのも手だが)
思考を読んだのか、アーチャーがそう提案してきた。
少し思案した末、首を横に振る。彼は先ほどまでほぼ限界まで単独行動していた身だ。またすぐに単独行動するのは魔力面でリスクがある。
またここで下手に別れて合流できなくなるのは避けたい。ここはエンデュランスの幸運を祈る他にないだろう。
そう思ってエンデュランスを見送ったが、しかし、彼の姿はやはり見ているこちらが不安にほど儚げであった。
何がそう思わせるのか、その言動所作全てが死に惹かれているかのような、そんな危うさを彼は湛えているのだった。
◇
「ミア……ミア……」
森の中を出るべく、エンデュランスは一人歩を進めていた。
夜は何時の間にか開けていた。夜明けが来たのだ。トワイライトに秘められたもう一つの意味。夜明け。
「また、会えるんだね。本当に……」
憑りつかれたかのように彼はぶつぶつと呟きを漏らしている。
その脳裏に過るのは、かつての思い出だ。
彼がエンデュランスでなく、エルクとしてThe Worldを旅していた頃の思い出。
何も取り柄がなかったエルクと、ミアは優しく遊んでくれた。
一緒に冒険して、一緒にエノコロ草を集め、一緒にお話しして、ずっと一緒だった。
カイトが来てからは様子がおかしくなったりもしたけど、でもミアはエルクを一人にしないでくれた。
「ああ……」
エンデュランスは一人身悶えた。流れゆく思い出の誘惑は、あまりにも蠱惑的で彼を離さなかった。
エルクは既に二度ミアを喪っている。
第六相『誘惑の恋人:マハ』として覚醒した彼女は、カイトによって討たれた。
それが初めの喪失。しかしその後、ミアは真っ新な状態で復活した。彼女は全てを忘れてしまっていたが、帰ってきた。それだけでエルクにとっては十分だった。
しかし、二度目の喪失がやってきた。
かつてのThe Worldが崩壊することになったあの事件。そこでミアはThe World諸共死んでしまった。
それがエルクを、一ノ瀬薫をどん底に突き落とした。
そこを、エンデュランスとなった彼はAIDA猫に付け込まれた。
それを救ったのがハセヲであり、彼は過去と決別した筈だった。
しかし何の因果か彼と彼女は再び会おうとしている。
その結果、何が起こるのか、そもそも何がしたいのか、彼自身分かってはいない。
でも、ひたすらに歩いた。この森を抜ければ彼女に会える。そんな気がして。
【E-7/森/1日目・早朝】
【エンデュランス@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、憑神暴走
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1~3、基本支給品一式
[思考]
基本:「愛する人」のために戦う
1:???
2:アメリカエリアに居るというミアに会いに行く。
[備考]
※憑神を上手く制御できていません。感情が昂ぶると勝手に発現します。
【
岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(中)、令呪:三画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/女性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、女子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:男子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:ありす達に気を付ける。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
6:ダンたちにも気を付ける。
7:エンデュランスが色んな意味で心配。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、アーチャー(無銘)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:健康
[ステータス(Ar)]:健康、魔力消費(中)
[ステータス(Ca)]:ダメージ(小)
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと三分程度です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。
【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:ダメージ(小)、MP70/70、『痛み』に対する恐怖/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:ダメージ(中)
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
最終更新:2013年10月09日 12:17