1◆


 幻想的な雰囲気を放つ洞窟・死世所 エルディ・ルーから抜け出して、大分時間が経った。
 空に輝く太陽は徐々に昇ってきている。メニューウインドウの時計も針が止まる気配は見せず、無情に進んでいた。
 つまり、運営から二度目のメールが届く時間が確実に迫っている。残酷な現実がまた告げられてしまうのだ。

カイトよ。先の戦いを見る限り、そちの腕も中々ではないか! これなら、余も安心してそちと力を合わせて戦うことができるぞ!」
「どうやら、カイトさんは私達サーヴァントに引けを取らない程の実力者のようですね。その力に敬意を示して、私もカイトさんの力になりますよ! あ、でもご主人様の期待に答えることを忘れないでくださいね」
「フ&リ…#、ア&+トウ」
「二人ともありがとう、とカイトさんは言っています!」
 セイバーとキャスターは激励し、カイトはそれに頷いて、ユイは笑顔で通訳をしている。
 互いの命を踏み躙り合う殺し合いとはとても思えないほど、和やかな光景だった。できることなら、この時間が永遠に続いて欲しいと思う。

「――――――――」

 そんな彼らの会話に加わる少女がいる。
 サチ……いや、サチの願いに従って行動する”黒点の主”・ヘレンだった。

「――――――――」
「私もハクノさん達の力になってもいいですか? と、ヘレンさんは聞いています」

 それが意味することは、ヘレンもここにいるみんなと一緒に戦ってくれることだろう。
 呉越同舟という四字熟語があるように、昨日まで敵だった者が今日は味方になってくれることもある。
 ヘレンの気持ちは嬉しいし、戦うより笑い合う方がいい。

「ほう。そなたも奏者の力になろうと言うのか、それは実に感心だ! だが、そなたが守っている少女は大丈夫なのか?」
「そうですよ。さっきの戦いを見ていると、ヘレンさん自身はともかくサチさん本人はあんまり戦い慣れていなさそうですよ? サチさんの状態だって、危険ですし」
「私としてもヘレンさんの言葉は有難いのですが、サチさんのことを考えると……」

 みんなはヘレンを、そして一緒にいるサチの身体を心配しているように見つめている。カイトも何も言わないが、それでもサチを心配しているような雰囲気が感じられた。
 実際、サチの状態はあまりにも危険だった。先程、カイトと戦ったせいで彼女のHPは残り10%にまで減っている。カイトを責めるつもりは全くないが。
 今の彼女を無理に戦わせたりしたら、本当にデリートされてしまう危険がある。
 自分はヘレンにその旨を伝えることにした。

「――――――――」
「私も消えたくないから無理をするつもりはない、できる範囲のことだけをする。ハクノさんのこともですけど、ハクノさん達と一緒にいる皆さんにも興味があるから……らしいですよ」

 ……それならいいかもしれない。
 ヘレンが言う『できる範囲のこと』がどこまでを示しているのかはわからないが、ここで断っても空気が悪くなるだろう。
 ただし、サチの為にも積極的に戦うことはしないで、いざとなったら逃げることは忘れないで欲しい。そう、条件を付けた。


「――――――――」
「わかりました。ですって!」

 ヘレンが頷いて、そんなヘレンの意思をユイは伝えてくれる。
 納得してくれてよかった。力になってくれるのはいいことだが、それが原因で死んでしまうなんてあってはいけないことだ。
 こうして関わっていくと、ヘレンがただ他者に害を与えるだけのウイルスではないことがわかる。自分の意思を持ち、サチの願いを叶える為に動いている存在だから、簡単に消していい訳がない。
 ヘレンもみんなと同じように、ちゃんと心があるのだから。


 ……だからこそ、願う。
 ヘレンがもう二度と誰かを傷付けないことを。
 根底にあるのはサチの願いを叶えたいという想いだ。純粋だが、サチがどんなに間違った願いを抱こうとも実現させようとするだろう。
 善悪を判断することがヘレンにはできない。理解をさせる為には、ヘレンを止めながら一つ一つ教えていくしかないだろう。
 大変だが、サチを助ける為の方法がこれ以外に思い付かなかった。


 そして懸念していることがもう一つある。
 ヘレンが何らかのきっかけで、サチの凶行をユイに伝えてしまうかもしれないということだ。
 サチは恐怖のあまりに信頼を寄せていたキリトのことを殺してしまった。信じたくないが、その場に居合わせていない自分には事実であることを受け止めるしかない。
 もしもヘレンがサチのことをユイに伝えてしまったら、ユイはサチのことを恨むだろう。そして、セイバー達もサチを許さないはずだ。
 ヘレンがキリトとサチの一件を話さないこと。そして、キリトが死んだことはサチの勘違いであること。今の自分にはそれを願うことしかできなかった。
 何もしないで、現実逃避だけをしている自分が情けない。だからこそ、みんなが傷付かない方法を考えるしかなかったが、解決法が思い浮かばない。
 時間が止まって欲しいが、ただ流れていく。何もできない自分を嘲笑うかのように時計は動き続けていた。


「そういえば『フラグラド』でしたよね? 私達がさっき立ち寄った、あのエルディ・ルーという洞窟の地底湖にあった白い大樹って」
 キャスターはカイトに尋ねてくる。
 胸の奥から湧き上がってくる不安を打ち消すかのように、彼女の声は明るかった。

「カイトさんは言っていましたよね? 元々のゲームだと、あの木が死者の国を封じていた設定だって」
「アアァァ……」
「そうだけど、それがどうかしたのか? と、カイトさんは言っています」
「いえ、原作にそんな役割がある木がこの世界にもあるとなると、あの大樹は何か特別な意味があるのかな~ って、思っただけです。例えば、あの大樹が私達に知られるとまずい何かを封じている、なんてことが」

 ……確かに。
 ユイはD-4エリアの地下に謎のエリアがあると言った。厳重なプロテクトがかかっているからには、何かがあるのだろう。
 キャスターが言うように、フラグラドの役割はそれが参加者に知られないようにする盾となっているのかもしれない。所謂、ファイアーウォールのような役割となっているのだろう。
 それさえ突破することができれば、プロテクトエリアに突入できるかもしれない。
「アアアアアアアァァァァァ……」
「その可能性は高いけど、迂闊に手を出すのは危険だ。罠があるかもしれない……と言っています」
「なんと! ……でも、言われてみればプロテクトがかかっている以上、考えなしに突っ込むのは危険ですね」

 キャスターの言葉に同意する。
 カイトの助言には助かる。彼は『The World』を守るAIプログラムだから、同じ守護者の役割を果たすプログラムのことがわかるのかもしれない。
 実際、プロテクトが甘ければこの殺し合いは根本から瓦解してしまう。そうさせない為にも、危険な要素は小さいうちから敗訴する必要がある。
 今はまだ、プロテクトを解除する方法自体がわからないし、そんな状況で手を出したらデリートされてしまう危険だってあるだろう。
 プロテクトエリアのことは気になるが、また訪れるにしてもプロテクトへの対策をしっかり取ってからだ。あらゆる結果を想定して、またそれに対抗できる手段も確保する。
 それからでも、遅くはない。


「ふむ……ならば、かつて我らと戦ったあのマスター達がいれば、プロテクトとやらの対策も可能ではないのか?」

 セイバーが言っているのは、レオや慎二のことだろう。
 あの二人はマスターであると同時に、技術者としても高い実力を持っている。彼らが力を貸してくれるのなら、プロテクトにも何らかの対策ができるかもしれない。
 だが、問題が二つある。
 一つは、レオがこの殺し合いの場にいるとは限らないと言うことだ。レオの姿を見ていないのだから、蘇生していると断定することができない。
 そして二つ目は、レオと慎二が力を合わせてくれる場面が想像できないことだ。

「あのワカメさんとレオさんが出会ったら、確実に一悶着が起こるでしょうね。レオさんは意外と空気が読めませんし、ワカメさんはお子様……そんな二人が共同作業なんてできるのでしょうか?」

 酷い言いようだが、キャスターの意見はもっともだ。
 そうだ。仮にレオと慎二でチームを組んだら、確実にトラブルが起こりかねない。レオの何気ない言動に慎二が激怒する恐れがあった。
 元々、慎二はレオに対してあまりいい印象を持っていないように思える。そんな相手からの言葉を気にせず流してくれるなんて、慎二からは想像できない。
 アーチャーやガウェインが上手く宥めてくれればいいが、あの二人だけでどうにかなるのだろうか?

「案ずるな。この余がいる以上、奏者の前で諍いなど起こさせはしない! 奏者は安心して、彼らと手を取るがいい!」
「はぁ? 貴女なんかが出たら、余計に喧嘩がヒートアップするに決まっているじゃないですか。ご主人様、もしも喧嘩なんかが起こるならこんな人より私を頼ってくださいませ。この愛の鉄拳で、頭を冷やさせますから!」

 ……どっちもやめて欲しい。
 セイバーとキャスターは胸を張りながら宣言するが、彼女達には絶対に手を出させたりしない。彼女達には悪いが、もしも実行などされたらチームの空気が悪くなる。
 レオが本当にいるなら、どうか慎二に変なことを言わないことを祈るしかない。あと、慎二もレオの言葉に怒らないことも。
 とりあえず、もしもレオに会えたら何とか手を取り合ってくれるように説得を試みてみよう。彼の目的は人類全てを救うことなのだから、他者の命を無意味に奪うことなどしない。
 だから、慎二のことだって見捨てないはずだ。
 これからレオやガウェインと出会えたら、協力してもらえるように説得をする。ここにいるみんなにそれを告げた。

「確かに、あの男ならば奏者の願いを無碍にすることはしないだろうな」
「ええ。抜けている所はありますが、その器量はどこかのワカメさんにも見習わせたいですね~ あ、でもご主人様の器量には遠く及ばないですが!」
 セイバーとキャスターは頷いてくれる。
 ……とりあえず、キャスターの慎二に対するワカメ呼ばわりはそろそろ止めた方がいいかもしれない。あんまり続けてはトラブルの元になるし、何よりも慎二が不憫だ。
 せめて、アーチャーは慎二に変なことを言わないことを願う。彼だったら心配ないかもしれないが。

「それと、プロテクトエリアって地下にあるってユイさんは言ってましたよね? そこに行く為の道が見つからないのなら、ワープゾーンの様な物が必要でしょうか? でも、今の私達にそんな手段はありませんよ」
「ワープですか……転移結晶さえあれば、エリアの地下に侵入できる可能性があるかもしれませんよ」
「転移結晶?」
 ユイの口から出たキーワードに、キャスターが反応する。

「はい。私達の世界には結晶アイテムという物があるのです。回復や解毒、更には使用したプレイヤーを瞬時に移動させる効果など、様々な効果を持つマジックアイテムなのです!」
「ほう! そいつはとても便利じゃありませんか!」
「いいえ、決して万能という訳ではないのです。一度しか使えない上に、一部のダンジョンでは結晶アイテムが使用することのできない《結晶無効空間》というエリアがあるのです。
 なので、もしかしたらこの空間にも結晶アイテムを無力化するエリアが存在するかもしれません」

 解説をするユイの表情はほんの少しだけ曇っていた。
 もしかしたら、過去に結晶アイテムで何かトラブルがあったのだろうか。
 例えば、絶体絶命の状況に陥って、その状況を打破する為に結晶アイテムを使ったが無情にも発動せず、命を落としたプレイヤーを何人も見てしまった……
 ……その辺は掘り返さない方がいいかもしれない。


「あと、もしD-4エリアで転移結晶が使えてプロテクトエリアに向かえるとしても、行きだけではなく帰りの分も用意した方がいいですね」
「それはそうでしょうね。例え行けたとしても、帰れなくなったら元も子もありませんし」

 だとすると、転移結晶はこの手に多く持っている必要があるかもしれない。
 サーヴァントであるセイバー達は必要ないかもしれないが、同行する参加者達の分もたくさん持つべきだ。
 無論、向かうにしてもしっかりと運営に対する対策を固めてからだが。

「……奏者よ。プロテクトエリアのこともいいが、どうか余の願いも忘れないで欲しいぞ」

 そんな中、セイバーが頬を風船のように膨らませながら見つめてくる。
 セイバーの願い……ああ、アリーナに向かうことか。
 もちろん、それも忘れてはいない。アリーナにも何かあるかもしれないから。だけど、もう少しだけ待っていて欲しい。
 そう告げると、セイバーは安堵としたように胸を撫で下ろした。

「そうか……奏者がアリーナのことを覚えていて、余は安心したぞ。うむ! 奏者の為ならば、余は何時間だろうと待とう!」
「……ご主人様、このままアリーナのことをスルーしてしまっても問題はないと思いますよ?」
 ポツリと呟いたキャスターのことを、セイバーは物凄い勢いで睨みつける。
 このままではまた喧嘩になってしまう。その前に、二人をどうにかして落ち着かせないといけない。
 どうやってこの空気を変えるか……そう考える一方で、サーヴァント達は睨み合いを始めていた。


【C-3/崖/1日目・昼】


岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP95%、データ欠損(微小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、男子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:女子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:―――大丈夫だ、問題ない。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走、ありす達やダン達に気を付ける。
7:ヒースクリフを警戒。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
9:エンデュランスが色んな意味で心配。
10:もしも、レオがどこかにいるのなら協力をして貰えるように頼んでみる。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP55/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん………。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフを警戒。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP80%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。


【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]HP10%、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
1:ハクノ、キニナル。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
※白野に興味があるので、白野と一緒にいる仲間達とも協力する方針でいます。


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064:月蝕の迷い家 サチ 092:もう一度だけ 巡り逢えるのなら

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最終更新:2014年11月10日 19:01