「だ・か・ら、お前はもう捕虜なの! 詰んでるんだって。
ゲームオーバーなんだから、僕にライダーを返せっての」
「何馬鹿なことを。僕たちはまだ負けていませんよ?
僕とライダーが一度手を上げれば、こんな集団、容易に出し抜いてあげますから」
「はん、この大集団相手に? お前みたいな素人ゲーマーじゃそんなウルトラCは無理だって」
「はぁ、ゲームがうまいことしか取柄がないチャンプ(笑)じゃお話になりませんね」
「負け惜しみかよ。そもそもお前、ロクに歴史の知識もなかったじゃないか。
そんなんでライダーを使いこなせると思ってるのかよ。ずっと年下の僕に負けて恥ずかしくないの?」
「っ……!? 貴方みたいな馬鹿だけは言われたくないですね。
だいたいそんな知識、ネットさえ使えればすぐに調べられますから」
「笑わせてくれるね、こんな状況でさ。
やい、ばーか! ばーか!」
どっちも馬鹿だ。
揺光はげっそりした顔で慎二と能美のやり取りを眺めていた。
野球場に引き続き黄金の鹿号の甲板にても、二人は飽きもせず罵り合っている。
二人とも方向性は違えど、言っている言葉のレベルは同じというか、
争いは同じレベルでしか発生しないという、まさしくそんな状況だった。
―― 一見、仲が良いとさえ見えるんだけどね。
実際は二人は何度も殺し合いをした仲である。
そしてその中心であるライダー、フランシス・ドレイクはというと、興味なさげに欠伸をしている。
どうも二人のやり取りにはすでに飽きているらしかった。
能美はともかく彼女は常に警戒をする必要があるが、どうにも今は戦う気はなさそうに見えた。
揺光はため息を吐き、ちら、と横を見る。
そこには陽が沈みだした夜空が見える。黄昏の空を、黄金の鹿号は悠々と進んでいるのだった。
甲板には多くの人間が集っている。拘束された能美に、それを見張る慎二やガッツマン、今後の打ち合わせをしているネオやアーチャー。
ネオ・デンノーズとしてともに肩を並べたメンバーが、そこには集っているのだ。
しかし、そこには欠けてしまったメンバーもいる。
デウエス……カオルという女性が迎えた結末/オワリは記憶に新しい。
そして、命を賭してPTを救った男のことも。
揺光はぼそりと呟いた。
このゲームで自分と行動を共にした者たち。
みんなみんな、勝手に去って行ってしまう。格好よく決めながら――死んでしまったら終わりなのに――散っていく。
揺光はもう一言呟いた。
しんどいね、と。
そして思う――ハセヲもこんな気分だったのかな、なんて。
「私としては、月海原学園に進路を取りたい」
アーチャーの言葉に、ミーナは思案する素振りを見せた。
「学園……貴方の本来のマスターが向かったという場所ですね」
「ああ、拠点としてはこれ以上ない環境だ。他のプレイヤーが集っている可能性もある」
聞けばアーチャーとそのマスターは、元々能美を捕らえるために別行動をしたらしい。
ウイルス発動の時刻を考えても、アーチャーとしてはそろそろ合流を図りたいところなのだろう。
岸波白野の名は先のメールには記載されていなかった。脱落していない以上、月海原学園に彼ないし彼女がいる可能性は十分にある。
「先のメールだが、どう思う? アーチャー」
「……まず脱落者だが、思った以上にこちらの戦力が削られている」
合流予定だったピンクやブルースが倒れたこと。
そしてキリトが探し求めていたサチやアスナもまた、脱落者に名を連ねていた。
キリト本人は生き残っているようだが、状況次第では彼も危うい状況にあると見た方がいい。
「…………」
ミーナが顔を俯かせている。
死んでいった者たちに対し、思うところが多くあるのだろ。
それは理解している。だが、ネオは敢えてそれを表には出さなかった。
彼はもう慣れている。戦いの中、預かり知れぬところで仲間が倒れることも、何度も経験した。
「だが、こちらにも良いニュースはあった」
……ネオはミーナには声をかけず、言葉を続けた。
自分は前に進まなくてはならない。
トリニティから、モーフィアスから、そしてアッシュが自分に託していった想い。
それを思えばこそ、ただ悲しむよりもまず、見据えるべきことがあった。
「エージェント・スミス、そして
スケィスの脱落、か」
アーチャーは冷静に頷く。彼もネオと同じ目線を共有していた。
まずは現実を見据え、どうするかを率先して示してやらねばならない。
ミーナもそれを分かっているからこそ、何も言わないのだろう。
「スケィスはネットスラムで交戦したことを聞いた。
スミスの方はこのゲームでは接触はしなかったが、危険な存在であったことは間違いない」
「誰かが、彼らを討ったのだろうな」
「……でも、まだ残っているPKはいます。そう、あのネットナビのような……」
フォルテ。
ミーナがその名を口にすると、ネオは顔をこわばらせた。
思わず拳に力が入る。昼間の一戦で――自分は彼に拒絶されたのだ。
ちらり、と辺りをうかがう。
能美を監視しているガッツマンの巨体が見えたが、その顔はうかがえなかった。
「……イベントの方は、とにもかくにもドッペルゲンガーの方だろうな。
一見するとウイルスの猶予期間を延ばす措置にも見えるが」
「罠、だろうな」
ネオはそう言い切った。
先ほど告げられたイベントの中で、ひときわ目を引くのが【月影の放浪者】だ。
しかし揺光が言うにはこのイベントは元々The World R:2で実装されていたものがモチーフになっているらしい。
元々の状態ではそう難易度の高いイベントではなかったらしいが、それこそが罠だ。
このタイミングで実装されるイベントに、安易に飛びつけるほどネオたちは無警戒ではなかった。
「もっとも、罠と分かっていても飛びつかざるを得ないほど、状況は切迫しているが」
アーチャーの言葉に、ネオはうなずく。
もうすでに時間的な猶予はない。一刻も早く、ウイルスだけでも解除しなくては、この空間からの脱出などできはしない。
「それで最初の話に戻るが」
「月海原学園だな、確かに他の当てもない」
元々デウエス撃破という突発的な出来事がきっかけで結成された集団だ。
全体的なヴィジョンなどはなく、行くこと自体に異論はない。
問題は月海原学園へどうやって向かうか、だろう。ファンタジーエリアをまるごと横断する必要がある以上、どうしても時間がかかってしまう。
「この船でいけば、そう時間はかからないが……」
アーチャーは言葉を濁す。
暫定的にこの船――ライダーの宝具で移動しているが、本来彼女はPKであり、決して油断できない相手だ。
「旅の案内かい? 別にかまわないよ。今は虜囚の身だからねぇ、アタシは」
言葉尻を聞きつけたのか、ライダーが口をはさんできた。
彼女は、やれやれ、とホールドアップをしている。
「とはいえ、本格的に移動するとなれば物資が足りない。全く足りない。
ノウミのチンケな魔力じゃあ、呉越同舟してエリア横断なんて夢のまた夢さ」
「……っ、悪かったですね。僕だって破壊できるオブジェクトさえあれば」
能美が不満そうに漏らし、なぜか慎二が得意げな笑みを浮かべる。
が、ライダーはそのどちらも無視をして、ネオたちにニヤニヤした笑みを向ける。
「魔力をよこせ、という訳か、ライダー」
「そうだよ、色男。アタシらを足に使おうってなら、何かしら回復できるアイテムでもないとねぇ。
っていうか、このままだと今にも落ちるよ、この船」
やはり油断のならない相手だ。何が駆け引きに利用できて、どう動くべきなのかを彼女は知っている。
戦力比でいえば、確実にこちらが勝つとはいえ、ここはライダーの船なのだ。何か隠し球を持っている可能性はある。
仕方がなかったとはいえ、そんな船に一度乗ってしまった以上、この場でライダーを下手に刺激する訳にはいかない。
何より――無駄にできる時間はないのだから。
「ミーナ、確か君は魔力を回復できるアイテムを持っていたな」
「……はい、私では使えませんでしたが」
ミーナもまた警戒しつつもアイテム【魔術結晶の大塊】をオブジェクト化し、能美へと使用した。
「毎度」とライダーは充填された魔力を前に一言漏らした。
それを見ながらネオとアーチャーは顔を見合わせる。
どうやらこの後も気を抜くことはできないようだ。こんな食わせ物が一緒では。
とはいえそれが自分たちの役目だろう。“救世主”とかそんな大それたことではない。
この船に居合わせた“大人”として、やるべきことをやらねばならない。
「……はっ、やんなるね」
能美が回復されていくのを、慎二は悪態を吐いて見守っていた。
本来ならば――この船は自分のもののはずだった。何故ならばこの船はライダーのものであり、ライダーは慎二のものだからだ。
――だっていうのに、なんでこんな奴に
そう思うが、しかしもう少しの辛抱でもある。
所詮能美は拘束中の身。岸波たちと合流できれば、いよいよ能美も逆転の機会を喪うだろう。
そう自分に言い聞かせつつ、しかしまだ納得できない慎二はうなりながら甲板を歩いた。
途中、ライダーが愉快そうにこちらをみてきた――気がするが、振り返る頃には彼女は再びけだるげに欠伸をしていた。
むっ、と顔をしかめつつ、慎二は何となしに船の外を覗いた。
眼下に広がる暗い森、草原にぽつんと見える大聖堂、遠くに見えるぼやけて見える水の街。
なんだか見覚えのある風景だ、と思った時、慎二は気づいた。
――そういえば、このゲームで初めて戦ったのも、この辺だったけ。
ゲーム序盤、まだこの舞台を聖杯戦争と勘違いしていた頃、
慎二はライダーと共にヒースクリフに挑み、そして敗北したのだ。
あの時も自分はこの船に乗っていて――そしてそのまま墜ちていった。
今も目を閉じれば聞こえてくる気がする。ひゅううう、と風を切る音、あっという間に近づいてくる地面、そして湧き上がる死の恐怖。
思えばあそこをきっかけにして、何かが少し変わったように思う。
「そういや、アイツ、大丈夫なのかよ」
びゅうびゅうと吹きすさぶ風の中、慎二は一人呟いた。
アイツ、とはこのゲームにおいての同行者、キリトのことだ。
先ほどのメールにて、キリトが探していたサチ、そしてアスナの名があった。
アスナという女には正直全くいい印象がないが、どうもキリトにとっては大事な人間らしいし、加えて話に聞いていた
シノンとかいうプレイヤーの名もあった。
キリトにしてみれば、随分と多くの人間が散ってしまった訳だ。
「アイツ、変に悩みそうだしね。
ったく、メンタルを保つのも一流ゲーマーとしては重要なんだけどね。
まだ協力プレイ/コープしかやってないけど、PvPならやっぱり僕の方が上手だよ」
悪態を突きながら、慎二は不意に目を瞑った。
それは思い出してしまったからだ。
ユウキ。
メールに彼女の名があったことを、アスナの言っていたことが本当だったと、これで認めるしかなくなってしまった。
目をつむり、拳を握る。肩が勝手に震えだした。顔は必死に外に向けた。何故だか今の顔は誰にも見せたくなかったからだ。
「……初めてだったのにさ、僕が、憧れるなんて」
ゲームチャンプ、U・M・Eのような伝説ではなく、
現実のプレイヤーとして、慎二は彼女に文字通り“魅せ”られた。
でもその彼女はもういないのだ。
自分の気づかないところで勝手に死に、そしていなくなってしまったのだという。
あれだけすごいプレイヤーだったのに、もう何の数値も残っていない。
――何時か、なくなっちまうのかな、僕も
ふと、そんなことを思った。
ミーナは、うん、と伸びをしながら甲板を歩いていた。
船は快調に進んでいる。この調子でいけばそう時間もかからずに学園へとたどり着くだろう。
能美とライダーの見張りを交代で行う以外、いまメンバーは各自休んでいる。
胡坐をかいて座るもの、寝転がっているもの、寒いと言って船の中に行くもの、みな様々だ。
多くの人間がここにいる。
出自も目的も違う、雑多な人間たちの集まりが、この船なのだ。
だが――とミーナは思う。
ここがデスゲームであろうとなかろうと、ネットとは元来そういう場所であったのだろう、とも。
ミーナが本格的にネット社会に関わりだしたのは、デウエスとの戦いが始まってからだ。
それ故にあまり意識することはなかったが、あの事件を通じてミーナはネットのありようというものを身をもって知ったと思う。
例えばそう――ジローだってそうだ。
デンノーズのリーダーであるが、しかし彼自身は平々凡々な経歴の持ち主だ。
デウエスの一件を通じてでなければ、言い方は悪いが、単なるフリーターである彼に興味を持つことはなかった。
それを繋げたのがネットだ。ネットを舞台にした事件だったからこそ、たまたま呪いのゲームに巻き込まれた彼と、ツナミの陰謀を追っていたミーナの線が交わることができた。
「……そうですね」
ミーナはふと思い立ち、懐より紙とペンを取り出した。
それは以前訪れたエリアで回収していたものであり、アイテムではない。
実はウィンドウの設定をいじれば、そこでテキストを書けるのだが、ミーナはどうにも落ち着かないのでこの場でも紙を使うことにしている。
そしてペンを握りしめたまま、彼女はとある人物の前に座った。
「なんですか? あなたみたいな何の戦闘力もない人が、僕に何の用ですか?」
能美、というらしいロボット型アバターの前にミーナは座り込んだ。
彼の背後にはガッツマンが巨大な銃を構えて座っている。少しでも変な動きをすれば鉄拳か弾丸が飛んでくるだろう。
それを分かっているからこそ、能美は動かない。
能美も、そしてガッツマンも訝し気な表情でこちらを見つめてくるが、ミーナは彼らを制して、
「いや、今のうちに聞いておく必要ありまして。
いろいろな人の話を、この後、この事件を記事にするためにも」
「変な言葉ですね? あなた、アバターとかじゃなくて本当に外国人なんですか?
ふふん、今の僕なら何でも答えるとでも思ったんでしょうが、残念ながら僕が貴方みたいな無能を怖がるわけが」
「違います。この中で一番先に脱落しそうなのが貴方だからです」
「は?」
虚を突かれたように漏らす彼に、ミーナはいたずらっぽく笑う。
よし先手は取った。記者は常にイニシアチブを取って事を進めなくてはならない。、
「それで貴方、リアルではどんな姿をしているんですか。
まさか現実でもサイボーグだなんてオチじゃないんですよね?」
さぁ何でも来い。
ネットで付き合いがある人が実はオタクだったとか、フリーターだったとか、公務員だったとか、幽霊だったとか、
もうすでに結構なバリエーションは経験している。
「ありす、か」
ネオがその名を口にすると、アーチャーはうなずいた。
「ああ、恐らく君がアメリカエリアで遭遇したという少女たちの名は、それだ」
「おかしな話だ。あまりにも、こう、合致し過ぎている」
「――正確にいえば、彼女らの名はナーサリー・ライム。
子どもたちの英雄、だ」
ありすとアリス。
その正体について聞かされた時、自分は何を思ったのだろうか。
一人の少女の悲劇と、そこに絡んだ凄惨な現実、そしていつか終わる物語/ゆめ。
彼らは今ライダーの監視に当たっている。
その中で脱落者として刻まれていた一つの名前について、言葉を交わしている。
「私とマスターはゲーム序盤であのありすに襲われている。
状況的にもおそらくトリニティを傷つけたのは彼女たちだ」
アーチャーはあくまで冷静に語る。
淡々と、事実だけを述べるようにして。
「そしてその彼女たちももう死んでしまった」
そのうえで問おう。
そうアーチャーは前置きして、
「さてネオ、君は――彼女らを悪とするか?
彼女らに悪意もなく、さりとて善意もなく、秩序も混沌もない。
ただ夢を見ていただけの少女だ。
しかし、現に彼女たちは人を傷つけている。トリニティだけではなく、もっと多くの者にも手をかけているかもしれない」
その問いかけを、ネオは無言で受け止める。
脳裏にフラッシュバックするのは、あの時の妖精だ。ありすを追いかけていた彼女は、ありすの正体に戸惑うネオを糾弾した。
「私ならば――彼女たちを討っていただろう。
たとえその本質が何であれ、排斥を大衆が望むのならば、それを為す。
正義の味方として、プログラムが与えられた役割をこなすように、だ」
赤い外套のアーチャーはそう言い切った。
そこにはもはや何の迷いも葛藤もない。
彼は――そういう者なのだろう。
ネオは彼の出自を一切知らなかったが、しかしその言葉だけでもそれを悟るには十分だった。
正義の味方。彼は自ら口にしたその言葉に、既に取り込まれている。
“救世主”と同じように“正義の味方”というシステムは存在したのだろう。
「そういう意味で私は既に選び終えている。
そこに一切のイフはあり得ない。サーヴァントとはそういうものだ。
だが君は違う筈だ、ネオ。カオルやモーフィアスとのやり取りを通じて、君は何を選ぶ?」
アーチャーはそこで言葉を切った。
やってきた夜の中、船の上には風が吹いている。
掲げられた帆がばさばさと揺れ動く。夜空の中、自分たちはこの船に乗っているのだ。
「……俺は」
そして、ネオは何かを口にしようとした。
「色男同士顔突き合わせといて、なんだかめんどくさい話してるねぇ」
しかしそれを遮ったのは、監視されているライダーだった。
「ライダー、分かっているのかね? 君は」
「あーあー、うるさいねぇ。アタシだって今アンタらと事を構える気はないよ」
うざったそうに手を振りつつ、彼女はネオを見上げ、
「身内がやられたんだろう?
アタシなら、やられたのならやり返す。倍返しにして報復。
それで仕舞いだけどねぇ……それともそんなことさえを否定するのかい? キュウセイシュ様ってのは」
「否定は――しないさ」
ネオは首を振った。
何もかも赦すことが是であるとは思わない。
愛する者が討たれた悲しみと、そこから生まれる憎しみを、なかったことにすることが正しいとは思わない。
そう告げると「お」とライダーは漏らした。
「分かっているじゃないか。
なんでもかんでも赦しましょう。私はあなたを理解したいんです。
――だなんて、そんなのがいたらアタシは一発で詐欺師だと思うからねぇ」
「…………」
――汚いな
ネオの脳裏にはフォルテの拒絶の言葉がフラッシュバックしていた。
――本当に、汚い
あの時、フォルテに言葉を届かせることはできなかった。
理由は、単純かもしれない。
フォルテを機械でなく、人間として扱おうとしたからだ。
機械との融和を、などと題目を掲げたところで、
機械を人として扱うこと、それ自体がある種人間の傲慢なのだ。
何故ならば、その思考の奥にあるのは機械とは人の下にあるものだという観念に他ならないからだ。
けれど、もはやそれは違う。
人は機械を創造した。そして被造物たる彼らもまた、別の何かを創ろうとしている。
そこに人はもはや関係がない。機械は既に人を必要とはしていないのだ。
まずはその事実を認めなくてはならない。機械は人から独立したのだ、というその事実を。
そんな彼らに、一方的に理解するなどと口にしたところで、意味はない。
「前途は――多難だな」
ネオはそう呟く。
この航海はそう易々とは終わりそうにない。
◇
そして、船は行く。
夜空を、わずかな明かりだけを頼りにして、そこに集った彼らは舵を切った。
最終更新:2016年10月12日 00:43