4◆◆◆◆
ダスク・テイカーは黄金の鹿号に乗って撤退を続けていた。
あのジャーナリストの持っていた【魔術結晶の大塊】を使用したおかげで、まだ逃走手段を行えるだけの余裕がある。
彼女は最後まで無能だったが、こうしてMPを回復させてやったことだけは評価に値する。尤も、それもすぐに忘れるが。
ネズミのようなゲームチャンプ(笑)達は振り落として、ようやくネオ・デンノーズとか言う仲良しごっこから抜け出すことができた。
だが、胸の憤りは微塵も晴れない。それどころか、格下にダメージを与えられたという事実に、腸が煮えくり返っていた。
ゲームチャンプ(笑)によって刻まれた傷は、ユウキとか言う羽根付きの女に痛めつけられた個所と全く同じ。圧倒的に力が劣っているネズミに、この傷を触れられて許せる訳がない。
惨たらしく、全てのプライドを打ち砕いて殺してやりたかった。けれど、あのエネミー達が現れた以上、拷問する時間など存在しない。一秒でも構っていたら嬲り殺しにされてしまう。
だからこうして逃げるしかなかったが、これは決してテイカーの望んだ勝利ではなかった。
羽根突きの女と、そしてモーフィアスやカオル。奴らが嘲笑っているかのように、傷が疼いていた。
「アアアアアアアアァァァァァァァァァッ!
くそっ! くそ! くそおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
笑う事すらできずに、ただ怒りを発散させる為に咆哮するしかなかった。
当たり散らすように甲板の壁を蹴飛ばすが、何も変わらない。全身の疲労すらも関係なく、今はただこの感情をぶつけたかった。
「ライダー! おい、ライダー! 出てこい!」
「なんだいノウミィ? アタシは今疲れてるんだから、後に……」
「お前のせいだ……全部お前のせいだぞ!
お前が僕の思い通りに動いていれば、こんなことにはならなかった……!
お前が無能なせいで、僕は大ダメージを負った! どうしてくれるんだっ!?」
姿を現したライダーに罵声を投げつける。そんなテイカーの姿は、我儘な子どもと何が違うのか。
しかしライダーは呆れたように溜息を吐く。反省の色が見られない態度に、テイカーの怒りは更に燃え上がった。
「何だ、その態度は……僕の命令に従わなかったくせに、お前は何様のつもりなんだっ!」
「…………あのなぁ。
さっきも言ったろ? アタシはアンタの言うまま、あの色男と戦った。アンタに火の粉が飛ばないようにだ。
で、シンジのことだって、アンタは聞こうとしたのか? 何も考えないで戦えって、アンタ自身が言ったんだろ?」
「口答えをするな!
それ以上、僕に刃向かってみろ! 今この場で、お前を消してやるからな! 僕はお前のマスターだから、お前の命を握っていることを忘れるな!」
「いいのかい? アンタは分かっているんじゃないのか?
ここでアタシを自害させたら、アンタはたった一人で戦わなきゃいけなくなるだけだって」
ライダーが口にした宣告によって、息が止まりそうになる。
けれどもテイカーはひたすら怒りを緩めない。心を支える手段が他に思いつかないからだ。
「……お、脅したって無駄だぞ! 僕は、僕は……本気だからな!」
「脅しなんかじゃねえ。副官として、アンタに忠告してるんだ。
アンタはいつか、アンタ以上に強え相手と戦わなきゃいけねえ。あのキュウセイシュ様や、アタシ達を襲ったあの死神みたいなよ。
アイツらは只者じゃねえ……アンタだけで戦えるのか?」
「そ、それは…………!」
「それ以前にだ、令呪でアタシを殺したらこの船だって失う。
まぁ、アタシとしてはいつだって覚悟は決めていたつもりだし、船と共に心中するのだって悪くはねぇ。
ただアンタはどうなんだい。アタシが消えたら、マスターであるノウミだって困るんじゃないのかい」
痛みの森で交わされた会話を焼き直したようで、しかし根本的な優位が完全に逆転している。
ここでライダーを殺したとしても、自分から戦力を削るだけ。己が意志を持つスキルでしかないライダーを仕留めたとしても、キルスコアが加算されるとは限らない。
むしろ、ここで残された16人をたった一人で仕留めるという崖っぷちに追い込むだけ。そんな絶体絶命の状況を打破する切り札を、テイカーが持っている訳がなかった。
「…………ライダー!
月海原学園に急ぐぞ! あいつらの言葉が正しければ、そこには大量にプレイヤーが集まっているはずだ!
そいつらからスキルを奪って、そして仕留めてやるんだ!」
「はいよ」
ダスク・テイカーに選べるのは、月海原学園に集まったプレイヤーを一網打尽にするだけ。
ゲームチャンプ(笑)の仲間であるキリトという奴が厄介だが、方法はある。シルバー・クロウのような甘ちゃんだろうから、少しでも情に訴えれば隙を見せるはず。
そこを狙えば、勝機はあった。
(何が英雄フランシス・ドレイクだ! 何が悪魔の権化だ! 何が世界一周を成し遂げた偉人だっ!
プレイヤー一人もまともに殺せない、ただの外れスキルじゃないか!
くそっ! こんな奴を手に入れるんじゃなかった! 失敗だっ! 完全に失敗だ!
こんな奴、さっさと切り捨ててやりたいのに……っ!)
ダスク・テイカーにとって、ライダーというサーヴァントはもう有益なスキルではなかった。ただの足手纏いでしかなく、すぐにでも新しいスキルと交換してやりたい。
それができないことが、また腹立たしく……ただ月海原学園を目指すしかなかった。
【D-3/黄金の鹿号の甲板/1日目・夜】
【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP20%(回復中)、MP40%程度、Sゲージ25%、胴体に貫通した穴、胴体に切り傷、令呪三画、例えようもない敗北感、激しい怒り
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:デスマッチ3@ロックマンエグゼ3、不明支給品0~1、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
1:今は月海原学園に向かって、集まったプレイヤー達のスキルを奪うしかない。
2:もうライダーは必要ない。代わりを見つけ次第、即刻切り捨てる。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP30%、MP30%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。
5◆◆◆◆◆
決着は一瞬だった。
ネオから託された救世主の力によってXthフォームにランクアップした揺光にとって、低レベルのエネミーが群れたとしても敵ではない。
いや、例え高レベルのエネミーが相手になったとしても、脅威となり得ない。唯一の例外は大型エネミーだろうが、幸いにも現れることはなかった。
「……なぁ、これで終わりなのか?
軍団っていう割には、少なすぎたぞ」
揺光は辺りを見渡す。
彼女が言うように、エネミーの出現はぴたりと止んでしまった。軍団と書かれていたのに、実際は20体近くとしか戦っていない。
「恐らく、ある程度のインターバルを取っているのだろう。
軍団を撃破して、ポイントとアイテムを獲得したと油断させて、上位レベルのエネミーを送り込む。
油断こそが、戦場において最も危険な敵だからな」
「た、確かに……」
アーチャーの推測に揺光は頷く。
エネミーの撃破によって、揺光に900ものポイントと3つの癒しの水が手に入った。これでHPの問題はひとまず解決しそうだ。
そうして余裕ができたことで、四人は互いに話し合っていた。
ネオとガッツマンは死に、そしてネオから新たなるアバターを揺光は与えられた。
それを責める者は、誰もいない。誰もが揺光の生存に胸を撫で下ろしていた。
だが、それ以上に重要なことはダスク・テイカーの逃走だった。
「アイツ……ミーナ達を振り落としたのかよ!?
あの、大馬鹿が…………!」
エネミー達の出現と同時に、テイカーは慎二達を切り捨てた。それを聞いた揺光が、怒らないはずがない。
デスゲームに乗ったテイカーが、あのボルドーの様にPKを行うことは充分に想像できた。しかし納得などできるはずがない。
一歩間違えたら慎二とミーナは死んでいたからだ。
「ノウミは……ミーナのことを殺そうとしてた。僕と、僕を助けてくれたミーナごと。
くそっ! また、逃げられるなんて……!」
慎二は悔しげに拳を握り締めている。
彼は許せなかったのだろう。ダスク・テイカーが行った卑劣な行いと、それを止められなかった自分自身が。
それは揺光も同じ。二つの平癒の水をオブジェクト化させて、慎二に差し出した。
「シンジ、こいつを使ってHPを回復させろ。アンタ、あの大馬鹿との戦いで消耗したんだろ?
それに【野球バラエティ】でアンタはアタシのアイテムを当てにしてた……今がその時だろ」
「揺光……」
「アンタ、ノウミからライダーを取り戻すって言ったよな。だったら、HPは少しでも回復させろ。
アタシだって頭に来てるし、この手で殴ってやりたいけど、アイツを倒すのはアタシじゃない……シンジ、アンタが思いっきりぶっ飛ばしてやれ!」
「…………わかったよ。
悔しいけど、君の言う通りだ。僕のHPは残り少ない。
だけどノウミはこの僕の獲物だからね。むしろ邪魔をするなら、揺光ごと叩きのめすつもりだったよ!」
「それくらいの口が利けるなら、大丈夫そうだな」
そうして慎二はHPを回復させる。
完治とまではいかないが、少なくとも半分は超えたはずだった。
それから何を思ったか、慎二はウインドウを操作して、リカバリーのチップをオブジェクト化する。それをミーナに手渡した。
「シンジさん?」
「ミーナ、君もこいつを使いなよ。
君には……助けられたからね。これで貸し借りは無しだ」
「シンジさん…………ありがとうございます。
やっぱり、あなたは悪い人じゃないみたいですね」
「か、勘違いをするな! 僕はその……君には死んでもらったら困るだけだ!
君は確かジャーナリストだったよね? そんな君には、この僕……間桐慎二の栄光と挫折、そして武勇伝を後世に残す義務があるのだから!」
「……へっ?」
微笑みながらも困惑するミーナを尻目に、慎二は揺光を指差した。
「ライダーを取り戻した暁には、まずは揺光をコテンパンに叩き潰して宮皇の座を奪い取ってやるのさ!
そしてアーチャーを岸波に返して、岸波ごとサーヴァント達を倒す! ユウキが認めたキリトや、揺光の仲間であるハセヲって奴も……この僕が一人残らず倒してやるさ!
そうすることで、僕は真のゲームチャンプとなれる! その姿を世界に広める為にも……ミーナ! 君をこきつかってやるからな!」
慎二は指を天に掲げながら、高らかに宣言した。その姿を見て、やっぱり慎二は馬鹿だと揺光は心の中で呟く。
けれども、決して嫌いにはなれない。強くなる為に、ひたすらひたむきに努力をする。それは揺光だって何度もやってきた。
何よりも口先だけでない。実際に【野球バラエティ】でネオ・デンノーズを勝たせる為に、自ら危険球を受けていた。
その時に見せた瞳の輝きは間違いなく本物だ。
「わかりました……その為にも、絶対に生きて帰らないといけませんね。
揺光さん、ライバルができた感想はどうですか?」
リカバリー30でHPを回復させながら、ミーナは尋ねてくる。
答えは一つしかない。
「…………面白いことを言うじゃないか。
けど、アタシだって負けるつもりはない。逆に返り討ちにしてやるとも。
宮皇として、挑戦だったら何度でも受けてやるからな。ゲームチャンプさん!」
負けじと揺光も宣戦布告をする。
アジア圏のゲームチャンプである慎二の実力は本物だろう。けれど紅魔宮の宮皇が、負ける訳にはいかない。
互いの誇りと名誉を賭けて、全力でぶつかってやりたかった。
「世紀の大勝負の幕開けか」
その開戦を祝福するかのように、アーチャーは笑みを浮かべている。
だがすぐに深刻な面持ちへと変わった。
「だが、今は先を急ぐぞ。慎二とミーナのダメージは回復できたからな。
これ以上、ここに長居は無用だ。またエネミー達が現れるだろうし、何よりも学園に集まったマスター達が心配だ。
ダスク・テイカーの実力自体はそれほどでもないが……追い詰められた奴ほど、何をしでかすか分かったもんじゃない」
アーチャーの言葉に全員が頷く。
彼が言うように、ダスク・テイカーとの戦いは未だに続いている。テイカーは自分が生き残る為なら、どんな卑怯な手段でも選ぶだろう。
テイカーの毒牙だけでなく、学園にあの死神が現れる可能性だってある。エネミー軍団やドッペルゲンガーも同じ。
時間の経過と共に、脅威が増えるのだ。
四人は走る。
相棒を取り戻す為の決着を付ける為。
志を同じくする大切な仲間達を救う為。
そして、この世界で巡り合った新たなるライバルに打ち勝つ為。
それぞれの想いが乗った彼らの足取りは軽く、そして凄まじい力が込められていた。
【D-3/草原/1日目・夜】
【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、強い決意、Xthフォーム
[装備]:最後の裏切り@.hack//、エリュシデータ@ソードアートオンライン、PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン、ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:不明支給品0~2、平癒の水@.hack//G.U.×1、癒しの水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能) 、基本支給品一式×3、、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、ネオの不明支給品1個(武器ではない)、12.7mm弾×100@現実、エリアワード『選ばれし』
[ポイント]:900ポイント/0kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める為に戦い、絶対に生きて脱出する。
1:ハセヲ達を助ける為に前を走る。
2:いつか紅魔宮の宮皇として、シンジと全力で戦って勝利する。
3:ノウミの奴は絶対に許さない。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。
※ネオの願いと救世主の力によってXthフォームにジョブエクステンドしました。
※Xthフォームの能力は.hack//Linkに準拠します。
※救世主の力を自在に扱えるかどうかは不明です。
【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP80%、MP25%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れは未だ強い、ユウキとヒースクリフの死に対する動揺、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:強化スパイク@Fate/EXTRA、不明支給品2~4、あの日の思い出@.hack//、エリアワード『選ばれし』、ユカシタモグラ3@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先は真のゲームチャンプとして、揺光達を倒す。
1:決着をつける為に、月海原学園に向かう。
2:ユウキは、もういないのか。
3:ライダーを取り戻した後は、
岸波白野にアーチャーを返す。
4:いつかキリトや岸波、そして揺光やハセヲも倒してみせる。だから探さないとね。
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP10%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。
【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP60%、加速中
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~1(本人確認済み)、快速のタリスマン×1@.hack、リカバリー30@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能)、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
4:ダークマンは一体?
5:シンジさんの活躍をいつか記事にして残したい。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。
【癒しの水@.hack//G.U.】
使用したらHPが100回復する。
[全体の備考]
※【急襲! エネミー軍団!】 のイベントで出現するエネミーを撃破した場合、獲得できるポイント数はダンジョン【月想海】に出現するエネミーと同じです。
※また時間の経過と共に出現するエネミーのレベルは上昇し、それに伴って獲得するポイント数も増加します。
最終更新:2017年05月05日 19:35