初めは夢だと思った。
バーストリンカ―になって以来、よく見る悪夢だ。その類なんだと。
だが、次第にその認識が間違っていることが分かってきた。
途端に、ハルユキは震えあがった。

「先輩……」

か細い声を漏らす。が、無論返事などない。期待していた訳ではないがそれでも少し寂しかった。
先輩――黒雪姫先輩のアバターも最初の場所で見かけた。たぶん先輩もこの場に来ている。恐ろしいこの「ゲーム」に。
そうゲームだ。VRバトルロワイアルというらしいコレは、きっとゲームのようなものなんだろう。
ルールとしては戦争ゲームの類に似ている。バトルロイヤルという形式もそう珍しいものではない。
ハルユキ自身、これまでもその手のオンラインゲームに参加したこともある。
違っているのは、これが命を賭けたデスゲームであるということ。
ゲームであっても、遊びではない。ハルユキはそのことを強く認識した。

「でも、これ」

ハルユキは己の姿を見た。豚だ。
学内ローカルネットで使っている、真ん丸としたピンク色の豚。
ひどくデフォルメされ、頭身の低いこの姿はどう見ても戦闘向きではない。これで戦えというのだろうか。
ハルユキはメニューを呼び出し、色々探してみた。そして【設定】の中に【使用アバターの変更】という項目を見つけた。

「やっぱりか……」

その項目で設定を変えると、彼の姿は変容していた。
つるりとした顔、細身の体躯、銀色に輝くボディ。
シルバー・クロウ。
ハルユキの持つもう一つのアバター。デュエルアバターの名だ。
この形態をとれるということは、ここは加速世界の中なのだろうか。

「そこに居るのは誰だ」

不意に背後から声を掛けられた。
突然のことにハルユキは「ひぃ!」と情けない悲鳴を上げてしまう。
恐る恐る振り向くと、そこには構えられた剣先が見えた。そこでもう一度声を上げてしまった。

「……悪意を持ったプレイヤーではないようだな」

ハルユキの所作からそう判断したらしい声の主は、少々毒気を抜かれたかのようにそう言った。
その言葉にハルユキは頭を掻き「あははは……」と乾いた笑いを漏らす。
剣先が降ろされ、そしてハルユキはようやく相手の顔を見た。
暗がりの中から見えたその顔はとても端正なものだった。西洋風の鎧を着込み、背中には綺麗な白い翼が生えている。
凄いイケメンキャラにエディットしたんだな……。ハルユキはそんな感想を抱いた。
ネットゲームでの容姿は自由に変えられるものが多いが、あまりにイケメンのものはプレイしていて少々気恥ずかしくなるものだ。
ハルユキ自身もかつてそのような経験があるだけに、彼の堂々とした立ち振る舞いに少し感心した。

「この場で会ったのは俺が初めてか?」
「あ、はい。そうです」
「そうか。俺もここに来て初めて会ったプレイヤーはお前だ。
 ――バルムンクだ。よろしく頼む」

本物の騎士のような喋り(勿論ロールなのだろうが)に少し気後れしながら、ハルユキも「よろしくお願いします」と頭を下げた。
そしてこちらも名乗ろうとして、少し言葉に詰まった。
今の自分はシルバー・クロウだ。有田春雪ではなくそう名乗るのが正確だろう。
だが、目の前の彼、バルムンクはどう見てもデュエルアバターではない。彼にそう名乗るのは少し危険があるのだ。

「ところで一つ尋ねたいことがあるのだが
 お前のそのPC……the Worldのものではないな?」
「え? ええ、まぁ……」

the World、というのが何なのかは今一つよく分からなかったが、バルムンクがやっているネットゲームの名だと当たりを付けて、とりあえず頷いておいた。
やはり彼は知らないのだ。ブレインバーストのことを。

ブレインバースト。
それはハルユキが今現在プレイしているゲームの名である。
ゲーム、といってもただのゲームではない。現実世界にも影響を及ぼす、特異なものだ。
首回りに装着するニューロリンカーと呼ばれる量子接続通信端末を使うVRゲームであり、起動することで人間の思考を「加速」する。
ゲームの外では数秒でしかない時の中で、バーストリンカーたちは日夜戦い続けているのだ。

このゲームの特異性として、その応用性と秘匿性の高さがある。
思考の「加速」。それは何もゲームにだけ使われている訳ではない。常人とは全く違う時間を過ごすことを様々なことに応用――悪用する者も居る。
「加速」することでスポーツで優秀な成績を残すもの、カンニングを行う者……ハルユキは認めたくはないが、そのような使い方をする者も確かに居た。

またこのゲームをインストールするには幾つか条件が存在する。
その条件の一つとして「生誕後まもなくからニューロリンカーを使用していること」というものがある。
ニューロリンカーの登場が今から16年前である以上、バーストリンカーは最年長でも16歳ということになる。
2039年に正体不明の製作者にこのゲームが配布されて以来、ブレインバーストは子供たちの間でのみ知られるものとなった。
大人に対してはこのゲームは秘匿されているのだ。このゲームの有用性を独占しようと、僅か1000人程度のプレイヤーの間でしかプレイされていない。

ハルユキにしても、このゲームの中ではまだ新参者だ。まだまだ知らないことも多いだろう。
だが、それでもバーストリンカーとしての常識などはもう身に付けている。
何も知らない人間にその存在を簡単に喋る訳にはいかないのだ。

「シルバー・クロウです。これはゲームのアバターで、その……」

(えーと、どう説明すればいいだろう。バーストリンカ―のことを喋る訳にも行かないし……
 ていうか何で普通のアバターがここに居るんだよ。加速世界じゃなかったのか、ここ)

ハルユキがしどろもどろになっていたが、バルムンクは「そうか」と短く答えるのみだった。
どうやら深く聞くつもりはないらしい。説明する手間が省けて、ハルユキは内心安堵に胸を撫で下ろした。

「あの場――最初の場には他にも多くの種類のPCがあった。これは予想だが、榊は様々なネットゲームから参加者を集めているのだろう」
「様々な種類の……」
「そうだ。それも一つや二つではないな。最低でも5種類以上のゲームから呼ばれている」

そこまで言って、バルムンクは周りを見渡した。ハルユキも釣られて首を回す。
そこには暗く、迷路のような空間が広がっており、ところどころ幾何学的な模様何かが見えた。
おどろおどろしい雰囲気だ。ハルユキは息を呑む。
ここに送り込まれた当初は混乱でそれどころではなかったが、改めて見渡してみると異様な空間だった。

「何処なんでしょう、ここ」
「ふむ、そうだな」

バルムンクは考える素振りをして、右手で何かを操作し始めた。
メニューを開いているんだ。それに気付いたハルユキもメニューを開き、マップを呼び出した。

「日本やアメリカには見えないし、ファンタジーエリア……という訳でもないですよね」

空間の外観はファンタジーというよりSFに近いように思われた。

「と、なるとここはこのウラインターネットという場か」

ウラインターネット。聞いたことのない名前だ。
裏のインターネットという意味なのだろうが、えらく直球のネーミングである。
ハルユキの知らないネットの暗部なのか、それともそういう名前のダンジョンがどこかのゲームにあるのだろうか。

「近くにネットスラムがあるな」
「知ってるんですか?」
「……ああ、何度か訪れたことがある。とあるハッカーが造った違法サーバーだ」

表情を僅かに陰らせながらバルムンクは答えた。
その「とあるハッカー」とやらのことが気に入らないのかもしれない。

「それがここにあるってことは、そのハッカーがこのデスゲームに関わっている、ということでしょうか?」
「いや……それはどうだろうな。奴は犯罪者であったが、このような悪趣味な催しに加担するとも思えない。
 似た場所を作ったのか、構成データをそのままコピーしたのか――後者だとしたらこの状況を打開する手段が見つかるかもしれないな」
「ほ、本当ですか?」

バルムンクの言葉に、ハルユキは喜びの声を上げた。
どうしようもないと思われていた状況に、可能性とはいえ希望が見えたのだ。

「ああ、あそこはヘルバ……そのハッカーがthe World上の興味のあるデータを収集する為に作った場所だ。
 その膨大なデータの全貌を把握している者はヘルバだけだろう。
 管理者でさえも把握できないようなイリーガルなデータもその中にはあった。それを解析すれば、ここからの脱出に役立つようなデータも見つかる……かもしれない」
「じゃ、じゃあ早く行きましょうよ。そのネットスラムに」
「それは良いのだが……」

バルムンクは困ったように辺りを見渡して、

「これではどちらにいけばいいのか分からんな」
「あ」

配布されたマップには、自分の現在地を知らせるようなマーカーはなかった。
それでも他のエリアなら施設の位置関係で大体の位置は割り出せるのだろうが、このウラインターネットではそうも行かない。
何しろ全体的に薄暗く、迷宮のように道が入り組んでいるのだ。これではネットスラムの所在地はおろか、自分たちがどこにいるかでさえ分からないだろう。

「仕方ない。自分でマッピングしていくしかないな」

バルムンクは言う。確かにそれしかないだろう。
しかし、今時オートマッピングではなく、自力でマッピングするゲームも珍しく思える。
まあハルユキもその手のRPGに経験がない訳ではなかったし、バルムンクも結構なゲーマーに見えるのでそう混乱することはないだろうが。
と、そこまで考えてこんな状況でもゲーム攻略となると、ワクワクしてしまっている自分が居るのに気づきハルユキは苦笑した。

「ところでシルバー・クロウ。自分の装備は確認したのか?」
「あっ、忘れてました」

この場に来て混乱していたせいで、自分のアイテムを確認するのを失念していた。
メニューのアイテム欄からものを確認すると、

「【マグナム2 B】【バリアブルソード B】【ムラマサブレード M】……?」

そこには見慣れぬアイテム名が並んでいた。
説明文を確認してみたが、バトルチップがどうのこうの、よく分からない単語で説明されていた。
が、その説明からして恐らくは武器だろう。これは自分にも使えるのだろうか。

「どうだ。何があった?」
「えーと……よく分からないんですが、たぶん武器ですね。これ使えるのかな……てあっ!」

ハルユキが試しに【マグナム2】を選び、【使う】のコマンドを押した瞬間、彼の身体は空高く飛び上がった。
無論、彼の意志ではなく、勝手に身体が跳び上がったのである。

「う、うわぁぁぁぁ!」

そして更に動作は続き、ハルユキは何時の間にか手にしていたそれを放り投げた。
爆弾だ。ハルユキがそう判断するのと、それが地面に着弾するのはほぼ同時のことだった。
その着弾点にはバルムンクが居て、爆発が彼のもとに――

「何を!」
「ご、ごめんなさーい!」

十分後、何とか爆発を避けたバルムンクに対し、平謝りするハルユキの姿があった。

「ごめんなさい。本当に……」
「……今後は気を付けることだな」

とにもかくにも、バトルチップとやらの使用方法は分かったのは収穫だった。
また先程使ったチップを再び確認したところ【使う】のコマンドが押せなくなっていた。しばらく時間を置かないと再使用できないのだろう。

「とにかく、行くぞ、シルバー・クロウ」
「はい……」

肩を落としつつも、ハルユキはバルムンクに着いていく。
しかし思わぬ失敗があったとはいえ、こうして会話していると、少しは暗澹とした気分も晴れてきた――気がする。
一応の打開策もある上、自分は一人ではない。そう考えることでハルユキは大分落ち着いていたのだ。
安堵と、そして油断が彼の胸に訪れていた。

「む……」
しばらく歩いているとバルムンクがふと足を止めた。
眉を顰め、警戒するかのように辺りを見渡す。
マッピング自体は上手く行っていた。配布されていたテキストデータは適当に編集することで疑似的なメモ帳代わりになった。
二人で同時に行い、時たま互いに確認することでズレを修正する。
その繰り返しで進んで来たのだが……

「どうしたんですか?」
「妙だ。何か音がする」
「音……モンスターとかは居ないみたいだし、もしかして他の参加者かもしれないですね」

言われてハルユキも耳を澄ませると、僅かに音が聴こえてきた。
徐々に大きくなっていくその音は、まるでビームのチャージ音みたいであり――

「逃げろ! シルバー・クロウ。これは攻撃だ」
「え?」

その声が響くのと、巨大な閃光がその場を襲うのはほぼ同時のことだった。




ソイツはまるで死神のようだった。
ローブを羽織い、手から硝煙を立ち上らせ、凶悪な眼光でこちらを睨んでいる。
突如として現れた死神が、何の警告もなくハルユキたちを攻撃したのだ。

「外したか」

死神――フォルテは不機嫌そうに言う。
その姿には並々ならぬ憎しみが感じられ、ハルユキは背筋が凍りつく。

「痛……」

ハルユキは何とか身を起こす。
バルムンクの声にかろうじて反応することはできたが、それでもかわし切ることはできなかった。
被弾した脚部を撫でながら、自分のステータスを見て驚いた。
先の一撃でHPゲージが大きく削れていた。三割は確実に削られているだろう。もし直撃していたら……。ハルユキはぞっとする。

「大丈夫か? シルバー・クロウ」

バルムンクの声が聞こえた。
少し離れたところで、彼も立っていた。彼も完全には回避できていなかったのか、つらそうに胸を押さえている。

「だ、大丈夫です。それよりアイツは……」
「ああ、無警告での攻撃……交渉の余地はないな」

バルムンクの言葉に、ごくりとハルユキは息を呑む。
戦うしかないのか。あの強大な敵に、勝てるのか。負けたらポイント全損どころじゃなく本当に死――

(いや……!)

頭に過るネガティブな感情を振り払い、ハルユキは敵に向かい合った。
フォルテの姿が見える。怖い。その感情はどうしても拭い去れない。
だけど、ここで逃げたら駄目なんだ。
かつての自分なら足がすくんでいただろう。だけど、今の自分は違う。虐めに屈し、卑屈に笑っていた頃の自分とは違うんだ。
そう強く思い、ハルユキは口を開いた。

「戦います。アイツを……倒す為に」
「ああ、行くぞ!」

そして、二人は立ち向かう。バルムンクは剣を構え、ハルユキもまた臨戦態勢を取る。
それを見たフォルテはと「ふん」と短く呟き、再びエネルギーをチャージし出す。

先に駆けたのはバルムンクだった。
翼を展開し、上空から剣を一閃。鋭い刃がフォルテを捉え――なかった。

「何?」

あと少しでフォルテに刃が届く。そう思った瞬間、何かが剣の動きを阻んだのだ。
攻撃を防がれたバルムンクは急いでフォルテから離れようとする。が、その前にフォルテが動いた。
閃光が走る。手だ。フォルテの手がバスターに変化し、バルムンクを撃ったのだ。

「バルムンクさん!」

空中で直撃を受けたバルムンクを救うべく、ハルユキも動いた。
飛行スキルを展開。先に受けたダメージ(とマグナムによる施設破壊)によりゲージは溜まっていた。
銀翼を纏い、ハルユキもまた空の戦場へと駆けつける。
バランスを崩したバルムンクをキャッチし、フォルテから少し距離を取る。

「大丈夫ですか?」
「ああ、あの銃撃の威力は大したことない。さっきのエネルギー波に比べたらな。
 ――しかし、シルバー・クロウ。お前、飛べたのか」
「え? あ、はい」

ハルユキのデュエルアバターであるシルバー・クロウの固有スキル。それは奇しくもバルムンクと同じ飛行能力だった。
この翼は僕の力だ。そうハルユキは強く思う。

「そうか。なら上手く連携を取りたいところだ。
 そしてシルバー・クロウ。さっきの一撃は見たか?」
「……はい。アイツ、剣を防いでいました。そんな素振りなんか全く見せてなかったのに」
「剣を走らせた瞬間、何かに弾かれた。あの感覚はまるで――」

と、そこで会話は途切れた。フォルテが飛び上がってきたのだ。
二人は散開する。フォルテもまた飛行能力を有するようだ。
だが――ハルユキやバルムンクほど速くはない。
そこにハルユキは勝機を見出す。

フォルテの攻撃を紙一重で躱し、ハルユキはフォルテに接近する。
やはりだ。圧倒的に見えたコイツも、空でなら僕の方がずっと速く――加速することができる。
そう確信したハルユキはすれ違いざまに銀の拳を叩き込む。

だが、弾かれた。
何故だ。今の攻撃にフォルテは全く反応できなかった筈――

と、そこまで考えてハルユキは気付いた。
フォルテを周りに球状の何かが展開されていることに。

(バリアだ……コイツ、バリアを張ってる。それも全方位の)

気付いたときには、フォルテはもう動いていた。
獰猛な表情が垣間見えた。ハルユキと同じくロボットに近い姿だが、それでも纏う感情は伝わってくる。

「こっちだ!」

バルムンクが来た。
再びまた剣を振るい、弾かれる。
だが、それはもはや承知のこと。フォルテの注意を逸らすことで、ハルユキを逃すのだ。

「小賢しい」

フォルテは忌々しそうに言う。
それを見ながら再び距離を取る。速さではこっちが勝っている為、ヒット&アウェイをしかけることは容易だ。
とはいえ逃げることも得策とはいえないだろう。
感情的に嫌だということもあるが、最初の一撃のような広範囲攻撃を叩き込まれればひとたまりもない。

「バルムンクさん!」

ハルユキは少し離れたところにいるバルムンクに声を掛けた。

「分かりました。アイツのスキル……全方向からの攻撃を防ぐバリアです」
「……やはりか。となると、どうアレを剥がすかだが」

バリアスキル。
それをどうにかして無効化しない限りはこちらに勝機はない。
どのような類なのだろうか。
HP型。バリア自体にもHPが設定してあり、攻撃を当て続ければ消滅するタイプ。
ダメージ軽減型。どんな攻撃も一定数値の威力を殺されるタイプ。
無効化型。一定ダメージ以下の攻撃は全て無効化されるタイプ。

幾つかの可能性が脳裏に過るが、判断を下すことはできない。
情報が少なすぎるのだ。数回の攻防でそれを探ることは困難に思えた。

「シルバー・クロウ。俺とタイミングを合わせられるか?」
「え? それは……」
「俺と同時に攻撃を当ててほしい。全く同じタイミングであることが望ましい」

バルムンクの言葉に、ハルユキはハッとした。
そうだ。バリアがどのタイプであれ、通用する攻略方法はある。一撃で大きなダメージを与えることだ。
その為には二人で同時に―― 一つのダメージとして計算されるように攻撃を与えることが有効だ。
単純だが、それ故にそれしかないとも思えた。

ハルユキはバルムンクを見た。こんな短時間で敵の攻略法を考案する。混乱することなく常に冷静に。
そんな彼を頼もしく思った。きっと元のゲームでは名のあるプレイヤーだったのだろう。

「では、行くぞ!」
「分かりました!」

言うまでもなく、不安はあった。
作戦は単純明快とはいえ、ハルユキとバルムンクは出会ったばかり。そして、互いのことも良く知らない。
そんな関係で全くの同時攻撃などできるだろうか。それもあの死神相手に。

(難しいかもしれない……だけど!
 やる。やるしかないんだ。僕は、負ける訳にはいかない。先輩の隣に立って戦い続ける為にも!)

バルムンクと並んで飛び、そして散開する。
示し合わせた訳ではない。だが、分かった。呼吸が、彼と自分が合せるべき呼吸が、言葉など介さずとも掴むことができた。
それを見て、フォルテは笑った。憎悪に満ちた獰猛で凶悪な笑みだ。
それに対する怖さは否定しない。だけど、ハルユキはそれを克服しようとする。
その意志が、加速の原動力となる。

「いっけぇぇぇぇぇ!」

ハルユキは叫び、そして攻撃を放つ。
【キック】
何の変哲もない、高く飛び上がり、上空から蹴りつけるだけの技。
だが、それがハルユキの、シルバー・クロウの飛行能力と組み合わさることで強力な技となりえる。
チンケな技だと思う。だけど、高く高く飛び上がることで、その威力はどこまでも上げることができる。ハルユキはそう信じている。

銀の一撃がフォルテに直撃する――それと寸分たがわぬタイミングで、バルムンクの翼も舞った。
キックがバリアを貫き、剣が一閃される。
そして――

「届いた!」

ハルユキは叫ぶ。バリアが弾け飛び、一瞬の明滅を経て消滅する。
これでフォルテを守るものは何もない。

(倒せる。コイツを、僕が……!)

そうハルユキが考えた時だった。
フォルテの顔に、憎悪の炎が宿った。

「舐めるな。人間」

閃光が走った。



「片方はどこかへ飛んでいったか……まぁいい」

戦いは終わった。
そこにあるもの全てが破壊され、破損したデータが宙を漂っている。
その中心には二つの影があった。

一つはフォルテだ。オーラを失いつつも、その闘気は一切衰えていない。
もう一つはバルムンクであり、フォルテの前で頭を力なく下げている。

「くっ……」

その胸をフォルテの腕が貫通し、バルムンクは苦悶の声を漏らしていた。
先の攻防。フォルテは更なるエネルギーの解放を行い、自分をも巻き込むような一撃を周りに放ったのだ。
結果、ハルユキはどこか吹き飛び、バルムンクは補足され、さらなる一撃を叩き込まれた。

「用があるのは人間、お前だ」

フォルテは言った。
その口調は抑えてはいたが、それでも滲みでる憎悪が感じられた。

「人間風情が、のこのこと電脳世界にやってくるとはな」

フォルテは人間を許さない。
かつて自分を創り出した身でありながら、疎み、恐れ、蔑み、そして裏切った彼らのことを。
どこまでも憎んでいた。
身体に刻まれた傷がうずく。それは人間の裏切りの証だ。

「お前は……」

バルムンクが口を開いた。構成データが破壊されていく痛みは如何なるものなのだろうか。

「人を、人間を殺すことに何の躊躇もないのか」
「ふん」

零れ出た愚問に、フォルテは答えることなく、手に力を込めた。
再び悲鳴が響き渡り、そして蒼天の騎士はその命を散らした。

【バルムンク@.hack// Delete】

「躊躇? 躊躇だと」

そんなものがある筈がない。
自分は、人間なしでもどこまでも強いのだから。
バルムンクを破壊したフォルテは、そのデータの残骸に手を伸ばす。

「ゲットアビリティプログラム!」

倒したナビの能力を吸収し、より強くなる。
フォルテに与えられた、彼が最強たる所以の能力である。

ハルユキとバルムンクの敗因は、一重のフォルテの戦闘能力の高さを見誤ってしまったことだった。
初撃こそがフォルテの最強の攻撃であり、それ以上の攻撃は存在しないと思ってしまった。
あるいはそれは願望もあったのかもしれない。そうであってくれ、という。

バルムンクのデータを吸収し、更なる強さを得たフォルテはゆっくりと動き出した。
暗い迷宮に、憎悪に満ちた破壊をもたらす為に。



【???/ウラインターネットの何処か/1日目・深夜】
※どこかにバルムンクのアイテムが転がっています。
 不明支給品2個のほか、付近をマッピングしたメモ、剣(出展不明)があります。

【シルバー・クロウ@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP???%、気絶
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、付近をマッピングしたメモ、マグナム2B@ロックマンエグゼ3、バリアブルソードB@ロックマンエグゼ3、ムラマサブレードM@ロックマンエグゼ3
[思考・状況]
1:気絶中

【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:ダメージ(小)、オーラ消失
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~3個
[思考・状況]
基本:全てを破壊する
1:生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※オーラはしばらくすると復活します。

支給品解説
【マグナム2@ロックマンエグゼ3】
上空から相手の横3パネルを爆撃し、パネル破壊を起こす。
隠しボスであるセレナード戦で重宝するチップ。
スタンダードクラス。支給されたもののコードはB。

【バリアブルソード@ロックマンエグゼ3】
高威力を誇るソード系チップ。
発動が若干遅く通常の攻撃範囲は1マスしかないが、コマンド入力で範囲が大きく変化する。
その為、使いこなすには格ゲーのようなテクニックが要求される。
スタンダードクラス。支給されたもののコードはB。

【ムラマサブレード@ロックマンエグゼ3】
目の前2パネルを切り裂くソード系チップ。
相手に与えるダメージ=それまでに自分が受けたダメージ、というのが特徴。
その為、ノーダメージ状態で振るっても効果がなかったりする。
メガクラス。支給されたもののコードはM。





002:terror of death 投下順に読む 004:守る為に戦う者、奪う為に戦う者
002:terror of death 時系列順に読む 004:守る為に戦う者、奪う為に戦う者
初登場 シルバー・クロウ 037:Confrontation;衝突
初登場 バルムンク Delete
000:プログラム起動 フォルテ 037:Confrontation;衝突

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最終更新:2013年05月15日 23:10