***ROYALE-system Ver2.0***
set up........
dimension chr.# (12)
{Matrix}
{the World}
{the World R:2}
{Brain Burst 2039}
{SE.RA.PH}
{Happy Studium}
{Swrod Art Online}
{ALfheim Online}
and........
loading......
#1,2
attribute=BATLLE ROYALE
.
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succeed
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私、速水晶良がふと目を覚ました時、そこには白しかなかった。
白。
前も、後ろも、全方位どこを見渡してもただ白い空間があるだけで、解放感もなければ閉塞感もない。
まるで何も設定されていない世界に私の身体を放り込んだかのようで……
「て、えぇ!」
私は思わず声を上げてしまった。
そこに来て気付いたのだ。
自分の身体が、速水晶良のものでなくなっていることに。
褐色の肌、白い髪、露出度の多い鎧。
それは私本来の姿とかけ離れたものでありながら、同時にひどく馴染みのあるものでもあった。
「ブ、ブラックローズ……」
私はその身体の名前を口にした。
それは私の持つもう一つの名前。
ネットゲーム「The World」において、弟が勝手に作ってしまったPCであり、そして
カイトと共に激戦を繰り広げたPCだ。
精巧なポリゴンで形作られた身体に触れ、それが確かに自分であることを認識する。
「どういうことよ、もう」
悪態を吐きながら、私は「床」と思われる場所に足を付けた。何も見えはしなかったが足を付けることはできるようだ。
ここは……the Worldの中?
周りを見渡しても、手がかりになりそうなものはおろか、他の存在すら見えそうにもなかった。
「ここって……」
何も見えなかったが、私はここに見覚えがあった。
何のグラフィックも設定されていない真っさらな空間。
前にリョースに――システム管理者によってカイトと共に捕えられた場所に、良く似ている。
ということはここはやはりthe Worldの中なのだろうか?
「あれ?」
ふとそこで、とある疑問が私の胸に生じた。
「ここ」がthe worldの中であるのなら――
「私」は一体どこに居るというのだ。
ディスプレイの前……に私は今居ない。
存在する筈のリアルの自分を動かそうとしても、それがどこにあるのか見当も付かなかった。
「えーと。ここは一体……」
愕然としていると、不意に声が聞こえた。
何もなかった筈の場所に、一人の男が現れていたのだ。野球帽を被った男であり、自分と同じく生身の人間ではなくゲーム上のアバターのようだった。
だが、その姿は自分のものとはかけ離れている。
可能な限り現実の質感を再現したブラックローズの身体とは異なり、デフォルメされ頭身の下がったそのキャラクターはよりゲームらしいといえる。
勿論the Wolrdにこんなキャラは存在しない。
「あの」
私はその男に声を掛けてみた。
が、彼には全く聞こえていないようで、私の方を見向きもせずおろおろとしている。
唐突に爆音が響いた。
耳をつんざくような音がして、私は思わず耳をふさいだ。
「しぶといな」
音のした方向を見ると、ボロボロのローブを纏った奇妙なPCが居た。
黒と黄を基調にしたボディを持ち、鋭く尖った耳のような突起が特徴的だ。
爆音の元凶はどうやらそいつのようで、その手から硝煙を立ち上らせている。
「全く、周りのことも少しは省みてくれ。私まで被害を受けそうになった
君の攻撃力は中々のものだが、この空間はそんなことでは抜け出せそうにないぞ」
そのロボットようなPCの近くに、もう一人別の者がいた。
綺麗なPCだった。黒いドレスを纏った美少女に、漆黒の蝶の羽が生えている。
その言葉に対し、ロボットの方は彼女に目もくれず「ふん」と苛立たしげに唸っただけだ。
彼女の声が聞こえていないのか、はたまたただ無視しているだけなのかは私には判別できなかった。
「おいおい、何だ? もう始めているのかい?」
また新たな声がした。
振り返ると、そこには見たこともない制服に身を包んだ男子生徒がいた。
彼は「馬鹿だね」と言って、やれやれという風に手を上げた。
周りを見下した、神経を逆なでるような口調に私は反感を覚える。
何よ、コイツ。ワカメみたいな髪をして。
「せっかちなことだ。ま、それで聖杯戦争のライバルが減るなら、こっちとしてはありがたいけどね」
私の反感をよそに、彼はぺらぺらと喋り出す。
聖杯戦争? 見慣れぬ言葉を彼は口にした。
自信満々に語る彼は、何かこの状況を知っているのだろうか。
と、そこまで来てまた新たな存在が現れた。
これまでとは全く異質な登場の仕方だった。
真っ白な空間にノイズが走り、歪んだ空間から、その男は私たちの遥か上に見下ろすようにして現れた。
それは一見して侍のような恰好をしていた。
和服を着ていて、ちょんまげのように結ってある長髪。
だが、ただそれだけのPCでないことは明らかだ。
そのPCは黒い何かに浸食され、ポリゴンの形が崩れてしまっているのだ。
「諸君、これから私が
ルールを説明しよう」
私たちを見下ろし尊大な口調でその男は言った。
「ふむ、流石にこれだけの人数を一斉に起動させることはサーバー負荷が強かったようだな。
スムーズに同期が取れていない者も居るようだが、まあいい。私の姿と声は聞こえるだろう?」
と、そこで私はその場に人が更に増えているのに気付いた。
それもかなり多い。多種多様な格好をした人間たちが白い空間に現れていた。
彼は急に現れたのではないのだろう。男の言葉によれば「同期が取れていなかった」だけで、最初からそこに居たのだ。
そのこと自体はそこまで驚くべきことではないのかもしれない。が、私はその統一感のなさに面食らっていた。
私と同じくファンタジー小説から抜け出してきたかのような者、ロボットのようなメタリックな姿の者、かなりデフォルメされた者、不気味な黒コートの者などなど。
全く違うジャンルのネットゲームからアバターをひっこぬいてきたみたい……、そんな印象を抱いた。
「私の名は榊。このVRバトルロワイアルの進行役を務めさせてもらう。
今、諸君らには既に基本のルールが記されたテキストデータが配布されている。先ずはメニューウインドウを展開し、アイテム欄からそれを開いて貰いたい
取り出し方は分かるかね? アイテム欄に触れると【使う】のコマンドが出るからそれを押して貰いたい。また外にあるものをアイテム欄に入れる場合には【拾う】のコマンドを推す必要がある」
そいつ――榊と名乗った男の言う通り私はメニューを開こうとする。
と、すぐに目の前にウインドウが開かれた。勿論ボタンなんて押していない。ただ「開く」と思っただけで開いたのだ。
そのことに戸惑いつつ、開かれたメニューを見るとそれは見慣れたthe Worldのもの――ではなく、無機質なグレーカラーのメニューだった。
【ステータス】
【装備】
【アイテム】
【設定】
その四つで構成されたシンプルなメニューだった。その上には小さな文字で時刻0:00:00と記されている。
慣れないメニューに困惑しつつも、【アイテム】の文字に触れ、展開されたアイテム欄の中から「rule.txt」を見つけて選んでみた。
そして、私を更なる衝撃が襲った。
『VRバトルロワイアル
・これから貴方たちには殺し合いをしてもらいます。
・生き残った一人のみが優勝となります。』
出てきたテキストの冒頭がこれだった。
その文面に私は「なっ……」と思わず声を漏らす。
「フハハ! 驚きかね。そう、諸君らにはこれから殺し合いをしてもらう。
会場内で参加者PCを全てkillすることが優勝条件だ」
榊の不快な声が響く。
「詳しいことはそのテキストに書かれているので省くが、先ず覚えて貰わえねばならないことを説明しよう。
一つはこのVRバトルロワイアルの優勝者へ贈られる賞品だ。
【元の場への帰還】と【ログアウト】そして【あらゆるネットワークを掌握する権利】これが進呈される。
望むなら現実で使える金銭や地位も加えて与えよう!」
賞品がログアウト?
榊の言葉に不安を覚えた私は急いで他のメニューも確認してみる。
【ステータス】……ブラックローズのパラメータが載っているいる他「状態:健康」なんて記されているだけだ。
【装備】……何もない。恐らくアイテム欄で武器を選択すると変化するのだろう。
【設定】……ウインドウの形式だとか、日本語英語の翻訳システムの設定だとかくらいしかない。
ない。どこにも見当たらない。【ログアウト】の文字がどこにもないのだ。
その事実を目の当たりにして、私の背中に背筋に冷たいものが走る。
「さて、やる気が出たかね、諸君。特に『死の恐怖』のハセヲ君。君には期待しているぞ。
好きだろう? 得意だろうPKは? PK100人斬りを成し遂げた君ならバトルロワイアルでもいい結果を残せるだろう」
榊の言葉に私は顔を上げた。
『死の恐怖』
それは、私たちが最初に倒した「禍々しき波」である「
スケィス」が冠していた名だ。
それと同じ二つ名を持ったプレイヤーが居る?
私はそのハセヲとやらの姿を探してみたが、見当たらなかった。
どうやらまだうまく同期できていないらしい。全ての参加者が見えている訳ではないようだ。
「お前の言う賞品とやらが確実に渡される保証はどこにある」
別のところから声がした。見ると、それは黒いコートに身を包んだ強面の黒人だった。
「たとえ優勝しお前の下に辿りついたとしても、帰還できる保障など一切ない」
「ふむ、確かにそれは君の言う通りだな。私を信じてくれ、としか言いようがない。
が、諸君らがどうしても戦わなければならない理由、ということなら今示すことができる。
覚えて貰わなければならないこと、その二つ目だ!
今、諸君らのPCはウイルスに感染している! 致死性のものに、だ」
榊の言葉に、男は言葉を失った。
致死性のウイルス。その言葉が意味することはつまり……
「今、一人のPCのものが特別早く発動することになっている。そろそろの筈だ」
榊の言葉が終わるのを丁度見計らったかのように、その悲鳴は響いた。
「う、うわぁぁぁぁ! 何でや! 何でワイが……!」
ファンタジー風の装備の男性PCが赤い何かに浸食されている。
毒や麻痺のようなバッドステータス状態とは明らかに違う。PCのポリゴンが醜く崩れ、霧散していく。
彼は、痛切な悲鳴を挙げ続け、そして全身が赤く浸食されると同時に消え去った。
余りのできごとに、私は何も言うことができず、周りの人間もただ呆然とそれを見ていた。
【キバオウ@ソードアート・オンライン Delete】
後には何も残らない。ただ白い空間だけがあった。
「さて、これで分かっただろう? たとえ私が信じられずとも、諸君らは戦わなくてはならないことを。
だが、安心して欲しい。諸君らに仕込まれたウイルスはすぐには障害を表さない。
ウイルスは遅行性だ。時間と共に進行していき、通常では24時間程度で先の彼のように死亡する。
これを遅らせる方法はただ一つ。他の参加者PCをkillすることだ。一人PKするごとに原則6時間の猶予が与えられる」
榊の言葉は止まらなかった。
厭味ったらしく間を置き、更なる言葉を口にした。
「そして、最後に諸君らに知って貰いたいことを言おう。
この場でPKされること――それは即ち真の死を意味する。
バックアップデータでの修復などあり得ない。永遠にそのデータはロストされることとなるのだ」
真の死。
それが何を意味するかは、私にもすぐ分かった。
意識不明に陥ったカズの――弟の姿が脳裏を過る。
「では、諸君。【VRバトルロワイアル】の開幕だ。次に会う時は6時間後の放送の時になる
無論、それまで生きていればの話だがね」
その声が響くのと同時に
私は、ここから居なくなった。
「カイト……私は――」
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program.start
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【進行役:榊@.hack//G.U.】
最終更新:2017年04月16日 00:02