4◆◆◆◆
「ユイイイイイイィィィィィィィィィィィィィッ!」
オーヴァンに捕らわれて、そのまま消えてしまったユイちゃんを前にキリトは泣き叫んでいる。
俺も悔しかった。何もできず、みんなが傷付いていく姿をただ見ていることしかできなかった無力さに。
「フン……ここまで惨めな姿を晒すとは」
そして俺達の道を塞いでいたフォルテは、心の底から軽蔑した目線で俺達を睨んでいる。
しかし、圧倒的な殺意はそのままで、構えているバスターには膨大なエネルギーが集まっていた。今のフォルテなら、俺達3人をすぐに殺せるはず。
「……人間、キサマは一体なんだ?」
「えっ?」
そんな中、フォルテが予想外の言葉を口にしてきたことで、俺は呆気に取られてしまう。
「キサマの中から、キサマと全く同じ声がもう一つだけ聞こえている。まさか、何者かがプラグインでもしているのか?」
「なっ……!? お前、もしかして『オレ』のことを……!?」
「まぁ、どうでもいいさ。キサマ如きが、俺を止められる訳がないからな」
フォルテの言葉に俺は動揺した。
あいつは俺の中にいる『オレ』に気付いている。どんな能力を使ったのか知らないけど、フォルテは俺の心を読んで『オレ』の存在にたどり着いたのだ。
しかし、俺達が戦う手段を持たないことを察したのか、すぐに興味をなくす。
「跡形もなく消えてしまえ」
フォルテが収束したエネルギーが俺達に向けられて、放たれるまであと僅かだ。
もう、俺達にどうすることもできない。キリトはユイちゃんを奪われて戦意喪失し、黒雪姫は未だに眠り続けている。もちろん、俺にこの危機を乗り越える力など持っていなかった。
『……ジローさん!? 聞こえますか、ジローさん!? 一体、何が――――』
世界が元に戻ったおかげか、ようやくレオの通信が聞こえてくる。
でも、レオでもどうすることもできない。今から駆けつけても間に合う訳がないし、何よりもユイちゃんを奪われてしまったのだから。
俺が殺されるのはこれで2度目になるけど、今度は走馬灯すらも見えない。だから、せめてパカのことだけでも考えたかった。
(ごめん、パカ……やっぱり俺は――――)
大切な少女の笑顔を思い出そうとした瞬間、唐突に世界が大きく振動する。
「ちっ! いったいなんだ!」
フォルテの苛立った声が聞こえたが、その理由を俺が知ることはできなかった。
なぜならその直後、膨大なノイズと共に、俺の意識ごと足元が崩れ落ちることを感じて、すぐに何も見えなくなったからだ。
5◆◆◆◆◆
「ミッションクリアおめでとう、オーヴァン。確かにユイの身柄を確保できたようだね」
導きの羽を使ってプラットホームから忘刻の都に戻り、知識の蛇に帰還した途端、榊が満足げな表情で出迎えてくる。
彼だけではない。白衣の男……トワイス・H・ピースマンと見知らぬ金髪の少女も並んでいた。
「私の名はアリス。榊やトワイスと同じ、GMの一人です。以後、お見知りおきを」
オーヴァンの疑問に答えるように、アリスと名乗った少女は前に出る。
華奢な体躯を黄金の鎧で纏い、装飾の至る所には青色が混ざっていて、どこか中世の騎士を彷彿とさせるアバターだ。
アリスにユイを渡すと、深く礼をする。この態度から考えて、彼女がGMの監督役である可能性が高かった。
「俺は君達の仲間になったからには、これくらいのことはしないとね。これで、君の評価は上がったかな?」
「あなたが余計なことをしない限り、私は何も言いません。ユイを確保したことについては、高く評価しています」
鎌をかけてみたが、アリスは特に動じない。無論、彼女が口を滑らすとも思えなかったので、問題ないが。
「それにしても、やはりオーヴァンは期待通りの働きをしてくれるね。
フォルテもあと少しで理性的であれば合格だったのだが、まさか肝心のユイすら破壊しようとするとは……まぁ、こうして確保できた以上、何の問題もないのだがね」
「……そのフォルテは、今は何を?」
榊の称賛を受けても、オーヴァンは特に何も感じない。
それよりは、彼らのその後の方が、オーヴァンは気になっていた。
あのまま何事もなければ、キリトたちはフォルテに破壊されているだろうが。
「ああ。彼らなら、ネットスラムの崩壊に巻き込まれ、ロストした。
生存の可能性もある以上探索だけはするつもりだが、次の放送までに見つからなければ敗退扱いとなるだろう。
付け加えるなら、ネットスラムを修復するつもりもない。あのレベルの崩壊では修復自体不可能だし、そもそもその必要もないからね」
どうやらタウンに戻る直前のあの揺れは、ネットスラム崩壊の前兆だったようだ。
元々ネットスラムでは、フォルテやスケィスゼロが幾度も暴れたことで、データが不安定になっていた。
一応、メンテナンスの度に修復していたようだが、あくまで表向き。そんな状態で憑神やAIDAなどが力を発揮したことで、ネットスラムの至る所に致命的な亀裂が走り、コルベニクがイニスと戦った頃には崩壊寸前だったのだ。
もしも、タウンへの帰還があと一歩でも遅れていたら、崩壊に巻き込まれた可能性もあっただろう。
リコリスの調査が事実上不可能になったことだけが、残念でならなかった。
「……榊。俺はこれからハセヲ……残りのプレイヤー達を探すために、破壊された学園に向かう。今後のためにも、彼らの居所を探った方が得だと思うからね」
「それもいいかもしれないね。では、君には対主催生徒会の捜索を命じよう。
我々の方でも何か掴め次第、こちらから連絡を入れよう。いい結果を待っているよ」
オーヴァンの提案に榊が頷く。
これで、今後の行動方針が定まった。オーヴァンとしても、対主催生徒会と接触する機会を狙っていたので、動きやすくなる。
「さて、お喋りもいいが我々にはまだやるべきことがあるはずだ。榊、アリス……ユイを連れて、例の場所に向かおうじゃないか」
「そうだったね、トワイス。ユイを手に入れた以上、我々の計画も大幅に進む。
それとオーヴァン。要である彼女を捕まえてくれた君にも、相応の成果が与えられる。
報酬としては、そうだな。タウンでの移動可能範囲を増やそう。
……もっとも。その先での行動次第では、我々も君の身の安全を保証しかねるので、せいぜい気を付けてくれたまえよ」
得意気な笑みを浮かべる榊と、相も変わらず表情を動かさないトワイスはカオスゲートに向かい、何処かへ去っていく。
残るアリスはオーヴァンに警戒の視線を向けた後、ユイを抱えながら知識の蛇から去っていった。
「……どうやら、あまり時間は残されていないようだ」
そう呟いたオーヴァンもまた知識の蛇から去っていく。
ユイの確保に成功したことでGMの計画は確実に進行した。デスゲームの『真実』に辿りつく時まで遠くないが、オーヴァンからすれば準備不足に等しい。
榊らの語った”計画”の全貌は未だに知れず、またこちらの戦力も不充分だ。現段階でGMとの戦いに突入しても勝ち目は薄い。だからこそ、ハセヲ達のヒントが残されているであろう月海原学園を調査する必要があった。
その為にも、向かうべき場所もある。
†
オーヴァンが辿りついたのは『忘刻の都 マク・アヌ』にて顕在する巨大な塔の前だった。
不気味な威圧感を放つ塔の扉に触れた瞬間、先程とは異なって侵入することができるようになった。恐らく、ユイを確保した報酬としてGMから権限を認められたのだろうが、今はまだ侵入しない方が良さそうだ。
榊とアリスから釘を刺された以上、現段階では侵入自体が罠であるリスクが高い。
(今はこの忘刻の都……そして、ここで出会った”あの人物”のことを交渉の道具にしなければいけない。俺が求める『真実』を得るには、彼らの力が必要不可欠だ)
恐らく、対主催生徒会はユイがGMの手に落ちたことを把握しているはず。
彼らにユイの居所を教え、そして忘刻の都の情報を提供すれば交渉に応えるだろう。追跡者についても、ユイを取り戻す為ならこちらの要求を飲まざるを得ない。
(その為にも……もう一度だけ会う必要がある)
オーヴァンの願いに応えるように、忘刻の都にノイズが走った。
そして空気が静止する中、足音が聞こえてくる。新たに感じた気配に笑みを浮かべながら、オーヴァンは振り向いた。
案の定、”あの人物”が現れる。
「やはり、君か――――――」
”あの人物”を前に、オーヴァンは…………
【?-?/知識の蛇→?/一日目・真夜中】
※システム外の力が振るわれ続けた影響で、ネットスラム全域が修復不可能なほどに完全崩壊しました。
※キリト、ブラック・ロータス、ジロー、フォルテの4名は崩壊に巻き込まれて消息不明になっています。
次の放送までにGMが発見できなければ、表向きでは敗退扱いとなります。
【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP0%、PP0%/通常アバター、睡眠中、憑神覚醒、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ、自分自身に対する絶望
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:?????????
0:?????????
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。
※キリトを守りたいという気持ちに応えて、イニスの碑文が覚醒しました。
【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:バトルロワイアルを完遂させ、己が目的を達成する。
2:再構築した
ロックマンを“有効活用”する。
3:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第二相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。
【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:より良き未来に繋がるよう、ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※第八相『再誕』の碑文@.hack//を所有しています。
※モルガナの目的が果たされた時、本当の『再誕』が発動し、トワイスは死に至ります。
【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:
xxxxが訪れる前に、自身の“使命”を果たす。
2:榊らを監視し、場合によっては廃棄する。
3:ゲームに生じた問題を処断する。
【?-?/忘刻の都 マク・アヌ/一日目・真夜中】
【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP40%、PP60%
[装備]:マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)}@.hack//G.U.、{スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
0:現れた人物と話をする。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
4:いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
5:月海原学園に向かい、GMの隙を見て対主催生徒会と交渉する。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※
スケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及び
ロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。
※榊からこのデスゲームの黒幕がモルガナであることと、その目的を聞きました。
しかし、それが本当に“真実”の全てであるか疑問を抱いています。
※忘刻の都の塔に侵入可能となっています。
【????@??????】
支給品解説
【月のタロット@.hack//G.U.】
指定した相手1体を睡眠状態にする。
6◆◆◆◆◆◆
「あれ……ここは……?」
倦怠感と痛みを感じながら、ジローは瞼を開いた。
足元が崩れて、そのまま落下したことで意識を失っていたらしい。
まさか、俺は死んだのかと背筋が凍ったが、こうして意識はある。すぐ隣では黒雪姫が倒れたままだ。
「く、黒雪姫……! 黒雪姫、しっかりしてくれ! 黒雪姫!
それに、キリトは……キリトはどこなんだ!? キリト、いるなら返事をしてくれ! キリトッ!」
黒雪姫のアバターを揺すっても、彼女は目を覚まさなかった。
キリトのことも探したけど、彼の姿は見当たらない。周囲を見渡してみたけど、人の気配は感じられなかった。
不幸中の幸いと言えるのは、フォルテの姿も見当たらず、襲われる心配がないということくらいだ。
「な、何なんだよここは……どうして俺達がこんな場所にいるんだ……!?」
そして、周囲に漂う冷たくて重苦しい空気を感じて身震いする。
空想上で語られる地獄の中に放り込まれたようで、ただの人間に過ぎない俺は不安になった。レオに通信してみるが、俺からのSOSは届かない。
迷子のように動揺していて、これから何をすればいいのか考えられなかった。黒雪姫は起きないし、さっきの件で不貞腐れたのか『オレ』は口を開かない。
「…………そういえば、フォルテはなんで『オレ』のことに気付いたんだ?」
『オレ』を思い出すと同時に湧き上がる疑問。
まるでフォルテは『オレ』を察知したかのようだったが、『オレ』は俺の深層であるので誰かが気付ける存在ではない。それこそ、心を読まない限り不可能だ。
だけど、ここにフォルテがいない以上は考えても仕方がない。今は黒雪姫やキリトを助けて、レオ達にユイちゃんが捕まったことを伝えるべきだ。
「どうすれば……?」
その時、俺の視界に大きなシルエットが飛び込んでくる。
先程、俺達がいたネットスラムには存在しなかったような建築物のようだ。もしかしたら、あそこに誰かがいるのか?
そんな僅かな可能性を賭けて、一歩前に踏み出した瞬間。
「…………な、なんだよこれは!?」
その異様な光景に、俺は絶句した。
体力が 40下がった
こころが 13下がった
変化球が 9下がった
やる気が 20下がった
【?-?/????/一日目・真夜中】
【Bチーム:ネットスラム攻略組】
※ネットスラムの崩壊に巻き込まれ、ゲームの表エリアの外に放り込まれました。
※共有インベントリにより、所有しているアイテムが表記とは異なる可能性があります。
【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP数%/デュエルアバター 、強い憎しみと悲しみと絶望、零化現象、《異形の聖痕》が刻まれている
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~3、{エリアワード『絶望の』×2、『選ばれし』×2 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、noitnetni.cyl_3 }@.hack//、{インビンシブル(大破)、パイル・ドライバー、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3、蒸気バイク・狗王@.hack//G.U. 、不明アイテム×1
[ポイント]:358ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:――――――――――――
0:――――――――――――
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。
※《異形の聖痕》が刻まれ、自分の無力感に絶望して零化現象が起きました。
【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨×1@.hack//G.U. 、不明支給品0~1(本人確認済み) 、不明アイテム×1
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:なんだよ、これ…………!?
1:今は黒雪姫を守りながら、レオ達の元に戻りたい。
2:ユイちゃんの事も、守りたかったけど……。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
6:黒雪姫のことが心配。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「
逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
7◆◆◆◆◆◆◆
フォルテは翼を羽ばたかせて飛んでいた。
ネットスラムの崩壊に巻き込まれ、ゲームの外に放り込まれても飛び続けている。
まだ、戦いは終わっていないからだ。
「……俺が生きているなら、奴らも生きている可能性が高そうだ」
自らの生存を根拠に、先のネットスラムで戦っていた人間達も今もどこかにいるとフォルテは確信していた。
だが、無様な負け犬をわざわざPKする気にならず、あれほど湧き上がっていたキリトに対する怒りも冷め切っている。もはや、名前を口にする気すらも沸かない程に失望していた。
もちろん、何か残されたスキルがあるかと警戒して、思考予測で3人の脳内を覗き込んだ。その結果、ジローと呼ばれた人間の中に別の人格が潜んでいることは判明したが、フォルテからすれば弱者に変わりはない。
「もっとも、今となっては負け犬どもはどうでもいいが」
あの負け犬がまた新たなる力を持って挑むのであれば、徹底的に破壊してもいい。しかし、その可能性には期待できないだろう。
何故なら、オーヴァンにユイが連れて行かれる時も、惨めに泣き叫んでいただけだから。
自らの怒りを無意味にされたも同然だが、もう負け犬どもに興味はない。無様に朽ち果てようとも、知ったことではなかった。
「ヤツらに使ったこの力……人間相手ならば充分だろうが、まだ足りない。
これだけでは、オーヴァンや榊……そして“災い”を破壊し尽くすには足りないな」
<Gospel>と《ダークフリーズオーラ》、そして《データドレインG.A.P》で先の戦いを優位に進めることができた。しかし、全てを喰らうには不充分だろう。
オーヴァン/コルベニクとの決着をつけるにしても、相討ちまたは満身創痍になった上での勝利は避けられない。AIDAと碑文を喰らったからこそ、オーヴァン/コルベニクの異質さが理解できた。
また、ゲーム外に放り込まれてから“災い”……―――の気配は更に強まっていき、殺気も高まっている。ネットスラムでの戦いも、“災い”にとっては児戯に等しく、その気になればすぐにでも集まったプレイヤー達を奈落に放り込めたはずだ。
「だからこそ、俺は力を手にしなければいけないッ!
俺が手に入れられる力はこんなものではないはずだ! まだ、どこかにあるはずだ……俺を強くして、そしてより強大で完璧な存在にさせる力があるはずだ!
その全てを手に入れるまで、俺は戦い続ける! そして、最強の存在になってみせるッ!」
ただ、力を求めていた。
どこかに、更なる進化を果たすための力があるはずだ。GMが用意した駒から力を奪ってもいいし、あるいはネットの海から新たなる力を探す必要もある。
今はただ、“災い”に立ち向かうための新たなる力だけが必要だった。
「俺は強くなる……そして、全てをデリートする! 例え何者が待ち構えていようとも、俺は負けない!
キサマがいかに強大だろうと、俺はそれを超えてみせる! 待っていろ……―――ッ!」
預言の力で存在を知った“災い”……―――の姿を思い浮かべながら、フォルテは飛び続ける。
“災い”がどれだけ強大だろうとも、その闘争心が衰えることはありえなかった。
【?-?/????/一日目・真夜中】
【フォルテGX・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP30%、激しい憤怒、心意覚醒、憑神覚醒、キリト達に対する失望
[AIDA]<Gospel>(第七相の碑文を完全に取り込んでいます)
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×2@.hack//、黄泉返りの薬×2@.hack//G.U、{光剣・カゲミツG4、SG550(残弾24/30)}@ソードアート・オンライン、不明支給品0~4個(内0~2個が武器以外)、
参加者名簿、基本支給品一式×2
[アイテム(キリト)]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣、黄泉返りの薬×1}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ユウキの剣、死銃の刺剣}@ソードアート・オンライン.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0~1個(水系武器なし) 、プリズム@ロックマンエグゼ3、サチのクリスタル@ソードアート・オンライン、基本支給品一式
[ポイント]:1320ポイント/7kill(+3)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
0:今は新たなる“力”を得るために戦う。
1:すべてをデリートする。
2:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
3:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンや榊たちを破壊する。
4:オラクルが警告した“災い”とやらも破壊する。
5:負け犬の人間どもに興味はないが、力を取り戻したなら相手をしてやってもいい。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※『第七相の碑文』の覚醒及び『進化の可能性』の影響により、フォルテGXへと変革しました。
またそれに伴い獲得アビリティが統合・最適化され、以下の変化が発生しました。
〇『進化の可能性』の影響を受け、『救世主の力』をベースに心意技を習得しました。
心意技として使用可能な攻撃はエグゼ4以降のフォルテを参考にしています。
〇AIDA<????>がAIDA<Gospel>へと進化しました。ただし、元となったAIDAの自我及び意識は残っていません。
また第七相の碑文はAIDA<Gospel>に完全に吸収されています。
〇碑文の覚醒に伴いデータドレインを習得し、さらにゲットアビリティプログラムと統合されました。
これによりフォルテのデータドレインは、通常のデータドレインと比べ強力なものとなっています。
〇オーラや未来予測など、その他のアビリティがどう変化したかは、後の書き手にお任せします。
〇AIDA<????>の減速空間の効果により、フォルテと隣接するプレイヤーの速度を自動的に減速させることが可能です。フォルテから離れれば減速から解除されます。
○エネミー及び破壊されたネットスラムのデータを捕食した結果、AIDA<Gospel>は成長しています。
※オラクルを吸収し、預言の力を獲得しました。未来予測に伴い、特定プレイヤーの思考すらも予測することが可能です。ただし、乱発すると相応の負荷がかかります。
※オラクルが警告した“災い”の姿を予言しましたが、現段階では断片のみしか見えていません。今後、どうなるかは後の書き手にお任せします。
※オーヴァンから『忘刻の都 マク・アヌ』にて得た"情報"を聞きましたが、それほど重要視していません。
※《データドレインG.A.P》を使い、キリトからスキルとアバターを奪い取りました。
※共有インベントリにより、キリトから奪ったアイテムが表記とは異なる可能性があります。
※思考予測からジローの深層意識に気付きましたが、あまり興味がありません。
8◆◆◆◆◆◆◆◆
ネットスラムの崩壊によってゲーム外に放り込まれた者達は生きていた。
ジローとブラック・ロータス、フォルテはそれぞれ異なる未知のエリアに放り込まれて、新たなる道を歩もうとしている。
そして、最後の一人であるキリトもまた、表エリアからでは把握できないエリアに流れ着いていた。
「っ……ここは……?」
ジローがそうだったように、キリトも一瞬の不明から目を覚ます。
周囲を見渡せば、そこがどこかの洞窟らしいことは見て取れる。だがわかるのはそれだけだ。
自分が今、正確にどこにいるのかを知ることが出来そうなものは、何一つとして見当たらなかった。
「っ、そうた……! ジローさん! ブラック・ロータス! ユイ……!
………………、くそっ!」
黒雪姫たちがいないことに思い至り、声を上げて呼びかけてみるも、返ってくるのは洞窟に反響した自分の声だけ。
この場所には今、自分だけしかいないということを、嫌というほど理解させられただけだった。
「どうにかして、みんなと合流しないと―――、あ………」
自身の状態を確認し、装備を整えようとメニューを開いて、思い出す。
いいや、違う。懸命に目を背けていた事実に直面させられる。
キリトというPCのデータは、フォルテのデータドレインによって全てを奪われ、初期化されたのだという現実に。
黒の剣士キリトは、もはやリアルの貧弱な自分、桐ケ谷和人と何も変わらないのだということに。
「っ……いいや、まだだ。まだ何か、できることがあるはずだ」
懸命に首を振ってそれを否定し、自分に残された唯一の武器を装備する。
――折れた青薔薇の剣。青い氷で形作られた、刀身の半ほどで折れてしまった剣。
なぜこの武器だけが、フォルテのデータドレインから免れたのかわからない。いやそもそも、エリュシデータもダークリパルサーも、フォルテに破壊されると同時に消滅した。
だというのに、オーヴァンに破壊されたこの剣だけは、こうしていまだに残っているのはなぜなのか。
「……いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。早くみんなと合流しないと」
こうして装備できる以上、武器として使えることだけは確かなのだ。青薔薇の剣の柄を握り、その感触を心の支えに洞窟を探索する。
そうして程なく、ハセヲたちがプラットホームと呼んでいた転送装置を発見する。
「………………。……だめだ。この装置は、使えない」
だがプラットホームの色は白。つまり機能していないことを現している。
それでもとすがるようにアクセスしてみたが、転送コマンドはグレーアウトしており、起動させることはできなかった。
「しかたない。他の方法を探そう……」
いつまでも使えない手段に拘っている暇はない。来た道を引き返し、反対側。つまり洞窟の奥へと向かう。
――――そうしてそこで、キリトは“彼女”と再会した。
洞窟の最奥、大空洞の天井から逆さに形成された、あまりにも巨大な水晶。
その水晶の中で身動き一つせず、静かに眠り続ける少女――サチに。
「あ……ああ………」
知らずサチの眠る水晶の前まで歩み寄る。
サチは……彼女はあれから、すっとここで眠り続けていたというのだろうか。この、人一人訪れることのないだろう世界の奥底で。
「っ、はあ……!」
堪らず、青薔薇の剣を水晶へと叩き付ける。
この水晶の中からサチを助け出さんと、何度も、何度も、何度も、何度も……何度も。
…………だが、水晶は傷一つ負うことなく、その美しいまでの透明さを保ったままだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を切らし、力なく地面に膝を突く。
そこには、自分では彼女を救えないという現実がそこにあり、そして。
「っぁ…………」
自身の手に握られた、刀身の折れた青薔薇の剣が目に入り、ふと、あの男の言葉を思い出した。
“――――どうした。剣が折れた程度で降参か?”
……そうだ。俺はとっくの昔に、降参していた。
それも、アスナを殺したオーヴァンにではなく、デスゲームの舞台であるこの世界に。
俺の心は、まさにこの剣のように折れていたのだ。アスナに殺された、あの瞬間に。
“――――弱い怒りだ。虫すら殺せない”
あったのは怒りではなく、絶望と諦めだ。
たとえ仲間と力を合わせても、また誰かを失うのではないかという恐怖だった。
だからブラック・ロータスにユイを託し、一人だけでフォルテと戦った。
アスナに続いて、ユイまで失ってしまうのが怖かったのだ。
さらに力を増したフォルテと戦って、一人で勝てるはずがないというのに。
その結果が、これだ。
アスナだけでなくユイさえ守れず、俺自身も何もかもを失った。
俺に残されたのは、また誰も守れなかったという、どうしようもない現実だけ。
「ぁあああぁぁああああ………………っ!!!!」
そうして気が付けば、その象徴ともいえるサチの前で、俺は懺悔するように膝を突き、蹲って叫び声を上げていた。
どうしようもない現実を前に、両目から涙を流して、ただ泣きじゃくっていた。
俺の中には、もう何もない。
唯一残ったものは、再び立ち上がり剣を取ることは、もう二度と、俺にはできないのだという確信だけだった。
†
そうやって慟哭するキリトを、物陰から悲しげな表情で見つめる人物が、たった一人だけいた。
彼は多くのものを失い続けた。
最愛の人を殺され、仲間達は次々とPKされてしまい、そしてたった一人の愛娘も仇敵に奪われた。
だが、そんな彼のために何もできないこと、その人物は知っていた。
だからこそ、誰の手も届かないこのエリアに転送するしかなかった。
ネットスラムの崩壊により、GM達の目をほんの一瞬だけ誤魔化すことができたので、このエリアにキリトを匿ったのだ。
このエリアに干渉できるのはたった一人しかいないため、他のGMに存在を気付かれることもないはずだ。
何しろここは、『The World R:2』が終わるその直前まで発見されなかった、最後のロストグラウンド。
このエリアにいる限り、キリトは誰の目にも届くことはないし、彼が戦うことももうないのだ。
……この場所に来ることでキリトが更なる絶望に襲われることはわかっていたし、結局はその場しのぎでしかないこともわかっている。
だが今の自分に出来るキリトを救う方法は、この他に存在しなかった。
だからもし叶うのならば、彼の側に寄り添って、彼を慰めてあげたかった。
しかし今は、キリトだけに目を向けていられない。
GMはユイの確保に成功して、デスゲームも既に第三段階に突入しようとしていた。“波”は止まることがなく、
xxxxが訪れるまで近い。
だから今は、自らのやるべきことを果たすため、この場を去らなければならない。
最後にキリトをジッと見つめて、その人物はこの場を後にした。
そうして、自らを見つめていた人物に気付かないまま、キリトは少女の前で慟哭し続ける。
彼を見つめていた人物がいた場所には、サチが残したクリスタルが残されていた。
キリトがクリスタルに手を触れれば、いつでもそのメッセージを聞くことができるだろう。
その時、彼にどんな感情を与えるのかは、誰にもわからなかった。
【?-?/クア・ホルム大空洞/一日目・真夜中】
※何者かによってキリトはゲーム外のエリアに転送されました。
※現段階ではGMからも捕捉されることもありません。
※クア・ホルム大空洞のプラットホームは機能しておらず、通常の方法でこのエリアから脱出する手段はありません。
※大空洞の物陰にサチのクリスタル@ソードアート・オンラインが落ちています。
【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP40%、MP80% /SAOアバター、疲労(大)、データ完全初期化、絶望
[装備]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン
[アイテム]:なし
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:――――――――
0:――――――――
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※ALOアバター及びGGOアバターの変更ができなくなりました。
※《データドレインG.A.P》を受けたことで、全てのスキルとアイテムをフォルテに奪われて、また共有インベントリと通信システムの設定も消えています。
※折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンラインが奪われなかった正確な理由は不明です。
※ダークリパルサー及びエリュシデータ@ソードアート・オンラインが破壊されました。
※物陰にサチのクリスタル@ソードアート・オンラインが落ちていることに気づいていません。
【????@????????】
141:TRIALS of AI(1) |
投下順に読む |
143:宵闇 |
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ブラック・ロータス |
キリト |
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ユイ |
|
ジロー |
143:宵闇 |
フォルテGX |
|
オーヴァン |
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榊 |
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トワイス・H・ピースマン |
|
アリス |
143:宵闇 |
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最終更新:2020年07月04日 14:13