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南側の壁画 - (2006/03/24 (金) 19:21:11) の編集履歴(バックアップ)


いつか、どこかであった、誰かの物語。



■壁画を展望できる、物語の中心へ。


【聖セラ神殿】 [建築物/ギルド]


  • ずぅっと昔の帝政時代。不思議な癒しの力を持った故初代セラは、「ジュノーの聖女」と呼ばれ、圧政による飢えや疫病に苦しんだ民衆の支持を集めていた。
  • (注釈:聖女が真に何者であったのかは、数世紀経った今となっては、もはやそれを知るすべはない。)
  • やがて聖女は、武力による帝政打倒を目指す。しかし激しい戦いの末に成し遂げられず、没した。野心とは縁遠い人柄だったが、成り行きで追い詰められ、やむをえず武力蜂起したと伝わる。
  • 時の皇帝が人心の安定のため故初代セラを皇帝と同等視=神格化。神話として主に自分の名を残すため、神殿を建立しセラを祀る。セラ神殿のはじまり。
  • 「神々の戦い」の一幕として、皇帝とセラの戦が神話として語り継がれる。主な舞台は皇帝の祭事だったが、やがて民衆に伝播していく中で編纂が繰り返され、比較的傲慢に描かれていたセラの表現がやがて真実よりもさらに善の側に傾き、「聖セラ(St.Sera)の神話」として語られるように。
  • いつしか神殿も「聖セラ神殿」と呼称され、帝政に反感を持つ諸侯の後押しなどもあり、一時は他に例をみない栄華を誇る。
  • 影響力を無視できなくなった時の皇帝は、民衆にまぎれていた10代目聖セラを捕獲、皇帝の一族として迎える。しかし、この頃から帝国の基盤は綻びはじめていた。
  • 諸侯の反乱による帝政の崩壊。セラも処刑されるところだったが、聖セラ神殿に縁の深い、ある力のある領主の働きかけで赦されることに。流刑となった。
  • 王権の成立。以後、過去の神話は邪教または異端と位置づけられ、古い時代の神殿などは教会勢力により破壊されていく。優美だった聖セラ神殿も本殿を含む大部分が失われ、後に残ったのは基礎や一部の小規模な建築物のみとなる。
  • 長い空白の時代。一時乱れる事もあったが、王権は総じて安定していた。
  • もはや過去の遺跡と化し、ひっそりと郊外にたたずむ聖セラ神殿に、ある日2人の旅人が辿り着く。セラの血をひく姉妹…。
  • 聖セラ神殿を人が暮らせるように復旧し、姉妹がひっそりと生活をはじめた。神殿は数世紀の永い眠りから、ついに醒めたのかもしれない。




【Sera's Ark (アーク)】 [人物/Wizard]


セラの姉と名乗る女魔術師。耳が長く人間ではないと思われるのだが、真偽の程は定かではない…。
セラがジュノーの僻地から旅をする道中、まるでセラの出生を全てお見通しといった様子で近付いてきた。以降、強引に旅を共にする。
”わたしはセラに災いをもたらす者”と、「セラの棺(Sera's Ark)」を自ら名乗り、また時折まるで見てきたかのように遥か太古の話をすることがある。不思議な謎に包まれた人物。
四大精霊の魔術に精通し、特に炎の壁を操る術をよく用いる。どんな敵の大群を前にしても、うっすらと笑みを浮かべたような表情を変えない度胸の持ち主。
近年は神殿に住みつきながら、「アルカナ騎士団」のシーラ=クレリーの招きに応じて騎士団付魔術師を務めるが、旧時代の図書館の資料研究に夢中の様子で、ろくに戦場に姿を現していない。




【Pan-dora (パンドラ)】① [人物/Critical-Knight]


或る日、聖セラ神殿で祈りを奉げていた弱々しい少女は、突然とその場に倒れ伏し、神の啓示を受けたと呟いた。
いわく、
『汝の萎えた脚に、どんな脅威にも怯まない勇気を与えよう』
『その細い腕に、地上の全てを切り伏せる刃を与えよう』
『その虚ろな瞳に、希望の光を与えよう』
『漣の様に響く優しい声、銀色に輝くしなやかな髪、透き通る雪のような美しい肌を与えよう』
『尽きない幸運と、枯れない若さを与えよう』
気付くと、少女の手には白銀に輝く長剣があり、それは少女に挨拶をするかのように澄んだ音を鳴らせた。
少女はうめいた。
「あぁ神様。私の信心に応えてくださった。ただ神様、私は剣や若さよりも、優しい家族がほしい。それから名前も―私は孤児で、記憶すらありません。あぁなんということでしょう、いま私がどうしてここにいるのか、それすら忘れているのです」
「せめて名前を思い出せるよう、こうして毎日祈っているのです…」
『汝に家族を贈ろう。そはすぐにここへ現われる』
『汝に記憶も返そう。我は汝に全てを贈る』
声が言うと、少女はまた倒れ伏し、それまでの人生をなぞる夢を視た。それは、長い長い、悲しい夢であった…。




【Pan-dora (パンドラ)】② [人物/Critical-Knight]


少女は長い長い夢を視て、色々なことを知った。
家はやはり貧しく、父は大酒飲みで教養がなく、すぐに暴力を振るう男だったこと。母は信仰心はあったがやはり愚かで怒りっぽく、お世辞にも子供を大切にしているとは言い難く、どう褒め称えようとしても器量よしではなかったこと。
父が持ち帰った最低の材料で母が作る料理の味が、だがそれでも堪らなく美味に感じられ待ち遠しかったこと。
どれだけ虐げられていても家族が好きで、家計を助けるために首都に出て、よく花売りをしたこと。
厚切りの贅沢なパンと引き換えに、命より大切だったはずの十字架を売ったこと。
やがて病で母が死に、父がはじめて泣いたこと。泣きながら父が言ったこと―血がつながらない捨て子、”お前が来てからロクなことがない、呪われろ”
父から逃れるために神殿にやってきて、しかしそれでも見つかったこと…死ぬ寸前まで暴力を振るわれた末に捨てられ、傷口からくる高熱と空腹、例えようのない絶望感から、記憶と正気を失っていったこと。
長い長い夢の中でも、ついに最後まで、少女は名無しだったこと。
泣きながら目を覚ますと、声が言った。
『我は汝にすべてを贈る。故に贈る名も、”パンドラ”』
声はもう聴こえない。
少女は気まぐれとも取れる「声」の御心が理解できない。が、しっかりと光を帯びた瞳で立ち上がった。
白銀の剣を虚空に一振りする。この剣を胸に、生きて行こうと思った。
後日、パンドラはある女剣士に出会う…。

(”Pan-dora”には、「すべての贈り物」という意味があります。)




【MuRaMaSa (ムラマサ)】 [武器/Legendary-Blade]


華奢なパンドラが携えるには、いささか不釣合いな白銀の長剣。(本来は日本刀のデザインですが、ここでは西洋剣です。イメージ優先v)
柄も刀身も非常に長く、控えめだが見る者を魅了する装飾と、判別ができないほど古い文字が刻まれている。
両刃の直刀であるにもかかわらず湾刀のような鋭い切れ味で、闇雲に振り回すだけでも強い殺傷力を発揮する。また、ひとたび柄を握る者があると、まるで意思を持つかのように敵の急所に向かっていこうとするという。
高名な剣士はこぞって所有したがったが、剣はごく限られた人間にのみその身を委ねた。選ばれない者が振っていると、時間を追うごとにまるで鉛のように重くなり、身動きが取れない呪いにかかる。

本来は非常に細身で、軽量。それでも女のパンドラが扱うには長大すぎ、両手を埋めても剣に振り回されるような様子だった。
(パンドラは元々ただの村娘なので、十分な剣の修行を積んだ一般的な剣士さんよりも身体能力が劣ります。事実、この剣を手放した彼女は、まだまだ一人前と言えない駆け出し騎士さんと同等くらいの能力しか持たないでしょう。)
世界に数振り存在すると言われているが、パンドラが所有するものは比較的特殊な仕様のもの。




【トライアンフ (Triumph)】① [人物/Vital-Crusader]


アルトリアという名の少女は、ミッドガッツ王国内でも名の知れた貴族の生まれであった。生活には何も不自由なく、広大な宮殿の中で幼少期の殆どを過ごした。
物心ついた年になると、好奇心の強い彼女は宮殿の外の世界に強く興味を示し始める。だが、父上や母上にお願いしようとも、召使いに命令しようとも、外界に出る事は叶わなかった。
最初は悪戯心であった。外界がどんな所なのか、はやる気持ちを抑えられずに宮殿を抜け出しただけであった。だが、少女はその先で見た光景に息を呑む。
荒み切った街並、食料を求める人々・・・少女には、そこに住む人々の生きる希望すら感じる事が出来なかった。
その光景に少女は、ただただ恐怖した。早くこの場所から逃げ出したかった。少女は我を忘れて貧民街を逃げ惑った。
どれ程走ったであろうか。気がつけば少女は、とある教会の前に立っていた。走り疲れた少女は中に入り、祀られた十字架の前で倒れ伏す。
「あぁ、これが宮殿の外の世界・・・人々はなんて疲弊しているのでしょう・・・」
それだけを口にし、少女の意識は闇へと沈んだ。

次に目を覚ましたのはベッドの上であった。どうやら教会の神父が介抱してくれたらしい。私は神父への感謝も忘れ、貧民街での出来事を話す。
神父は、貴族が豊かで何不自由ない生活を送る一方で、他の市民が飢えに脅え、明日を生きる希望すら失っている事、そして我々は貧しい人々が救われる様に、毎日祈りを捧げている事を教えてくれた。

宮殿に帰ってからも、少女は疑問であった。自分はどうしてこんな豊かな暮らしに甘んじているのだろうか、宮殿の外では今も飢えた市民達が倒れ、死んでいっているというのに。少女の中で貴族に対する嫌悪感が生まれる。
数日後、少女はまた宮殿を抜け出す。だがもう恐怖はない。一つの決意を胸に秘め、教会へと駆ける。
教会の入り口に立ち、神父の前で少女は言い放つ。
「私の名はトライアンフ、プロンテラ教会聖騎士団への入団を希望します。」
少女は自分で市民の助けになる事を志し、貧富の差を排斥するという「勝利」を得るために。
少女はアルトリアの名を、ここで捨てる事になる。


tri・umph
【古ローマ】凱(がい)旋(式); 勝利; 偉業; 大成功(の喜び)(goo辞書より)




【春海 (Harumi)】① [人物/Agility-Monk]


 聖職者の父と騎士の母との間に生まれた。
 幼い頃は、母の姿に憧れ「妹たちを守るのは私だもん!」と言って、母を師に剣の修練を重ねていた。
 そうして迎えたノービスから剣士への転職…幼少期の全てを剣技に費やしていた少女には、頼るべき友も、祝ってくれる仲間もいなかった・・・。周りにはギルドの仲間に祝福される剣士の姿が・・・
 「・・・別にいいもん。一人でだって強くなれるもの!」
 自分の心に嘘をつきつつ、一人で強くなろうとする少女がむかったのはフェイヨンであった。

 「父さんがアコライトの頃は、エルダウィローを狩って修練を積んでいたんだよ。」
 「それって私でも倒せる?」
 「ん~・・・まだ早いんじゃないかな。まずはポポリンで腕試しだね。無理をしないように、ゆっくりでいいんだからね?」
 「わかった。」

 「ポポリンより強いなら、もっと修練度があがるじゃん」
少女にはまだ、エルダウィロの強さがわかっていなかった・・・。
 「さてと、この先ね」森に入った瞬間、足元に魔方陣が輝いた。
 「・・・?なにかしらこれ」
降り注ぐ火の玉(FB)
 「くっ・・・こんなことで負けるもんですか!」
Vitalityも鍛えていたおかげで、一撃で倒れ臥すことはなかったが危機である事にかわりは無い・・・
 「こんなに強いだなんて・・・とにかくこの場を切り抜けなきゃ・・・」 「大丈夫ですか?」
 「?!」
いつのまにか商人(Merchant)が近くに来ていたらしい。
 「手伝いますよ」
(なにこの人・・・でも、やられたくないし・・・)
 「お願い!」

 「・・・ふ~ん、Vit騎士を目指してるんだ。でも、ここらへんはまだきついんじゃない?」
 「私ははやく強くなりたいんだ!」
 「・・・強くなるだけなら、修練つめば誰だってなれるよ。」
 「その修練を積むために」
 「一人で?」
 「・・・」
 「一人で強くなるって、途中で目的を失うんじゃないかな?」
 「・・・」
 「・・・そうだ、うちのGのメンバーにVit騎士がいるからうちのGに入らない?」
 「・・・・・・足手まといになるだけだよ」
 「大丈夫、みんなが助けてくれるよ」
 「Gの名前は?」
 「『にゃんこ温泉』っていうんだ」

一人で強くなろうとした少女は、こうして仲間と呼べる人たちと巡り合うことになった。




【春海 (Harumi)】② [人物/Agility-Monk]


それはまだ、森の中でのことであった。
 「あ、しまった」
さきほどから共に狩りをしていた商人がつぶやいた。
 「どうしたの?」
 「いや、ちょっと家から電話があって…。…あ~すぐに帰って来いってさ…」
 「あらら…」
 「うちらの溜まり場は首都の噴水広場の南西だから。行けばわかると思うよ」
 「うん、行ってみるね」
 「それじゃ」
蝶の羽を使い、彼は行ってしまった。
 「…さてと」
周りにモンスターがいないことを確認しつつ、少女は思いを巡らせていた。
 「はぁ…どうしようかな…」
助けてもらった手前、考えさせてくださいとも言えず返事をしてしまったが
 「装備ももらっちゃったし…」
(「前は騎士やっててさ装備売りに出してたんだけど、これ売れ残りだからあげるね」)
義理と見知らぬ場所への畏れとの間で、少女が見つけ出した答えは
 「とりあえず、首都に向かおう!」
妥協案であった。

 「やっぱりにぎやかね~」
ミッドガルド王国の首都、プロンテラ。街の路上では、商人たちが密集して露店を開いている。
 「…フェイヨンから来るには、ちょっと出費が痛いけどね…」
露店を眺めつつ、よさそうな武器を見つけては、値段を見てためいきをつく…
 「…もう少し安ければいいんだけどな~」
どうやら露店で売っているものは希少価値が高いらしく、これ以上は安くならないとのことだ。
 「…武器屋、武器屋…と、ここか」
露店の商人の話では、まず店で売っているものから買ったほうがいいらしい。
-いらっしゃいませ-
噴水広場の北東、プロンテラ武具屋。騎士団の本拠地だからであろう、騎士用の装備が整っている。
 「…でも、やっぱり高いのね…」
店内には、少女の他にも客が見うけられる。ギルドの溜まり場にもなっているようだ。
 『すいません、代わりに買っていただけませんか?』
 『はいはい、いいですよ~』
?代わりに買ってとはどういうことなのだろうか…
 『はい、どうぞ』
 『ありがとうございました。こういう時はDCが便利ですね~』
 『ですね~。安く買えますからね』
「安く」 その言葉を聞き逃す少女ではなかった。
 「…あの、すみません」
 「はいはい」
 「店売りのものを買って頂きたいのですが…」
 「あ~いいですよ。どれがいいですか?」
 「槍騎士を目指しているので、安い槍を1本…」
 「へ~槍騎士志望なんだ」
 「はい。でも、今のところ武器が短剣しかなくて…」
 「槍ねぇ…。僕も槍騎士なんだけど、槍はいいねぇ」
 「BdSがかっこよかったので…」
ふと、彼のギルドを確認してみた。「にゃんこ温泉♪」…偶然なのか、運命なのか…
 「…あの、そのギルドに○○さんという商人さんがいらっしゃいますよね?」
 「いるけど、今はいないみたいだね。どうしたの?」
 「今日その方に、フェイヨンの森で助けていただいたのです」
 「へぇ~やるねぇ」
 「あの、それで、『うちのギルドにはVit騎士がいるからおいでよ』と言われたのですけど」
 「あ、それ、僕」
…どうやら、このギルドに行くことは運命なのであろう。安易な妥協などでは、それに逆らうことはできないようだ。
 「今の時間帯なら、人も多いだろうし、さっそく行こうか」
 「はい、よろしくお願いします!」
--噴水広場南西--
 「ここがうちの…というよりも、うちらの溜まり場。今は7ギルドくらいが集まってるよ」
 「うわ~多いんですね~。…あの…そこで固まってる方は、大丈夫なのですか?」
 「ん?ああ、あの人なら大丈夫。いつもああやってるから。」
 「はぁ…そうなのですか…」
なんとなく彫像と化してそうなシルクハットのプリーストは
 「あと、その人、いちおうギルドマスターだから」
偉い人らしい。

 「今度新しく入った春海さんです。槍騎士志望だそうです。」
 「みなさん、よろしくお願いします」
 『よろしくね~』
 「とりあえず、みんなで自己紹介をしていかないと、誰が誰だか分かんないはずなので」
総勢12人ほどであろうか、溜まり場の方々から自己紹介大会となった。
 「だいたい、いいかな…。今いない人も夜にはやってくるだろうから」
 「はい、みなさんよろしく きゃっ!」
いつの間にやら背後に人がまわっていた。
 「いいね~新人てのは実にいいね~」
 「ちょっ、何するんですか!」
 「さわさわ」
 「やめてください!」
 「あ~、そのWizさんは、そういう人だから、気にしない方がいいよ」
 「あうう…」
彼はどうやら溜まり場内でも高い修練度を誇っているWizらしい…
 「まぁ、いろんな人がいるから、楽しいところだよ」
本当にこのギルドに入ってよかったのだろうか…
少女は、運命とやらを多少恨めがましく思った。



【春海 (Harumi)】③ [人物/Agility-Monk]


別れと言うものは突然に訪れるものである。

少女が溜まり場に来てから数ヶ月、槍騎士へと転職し、溜まり場に妹たちを呼び寄せ、日々自己の修練を積んでいた。
そんなある日、Wizardとなった下の妹(すでに少女よりも修練度が上であった)が、血相を変えて帰ってきた。
 「お姉ちゃん、大変だよ!」 
 「まずは落ち着きなさい。ほら、深呼吸して……いったい何があったの?」
 「あのね…、にゃんこギルドが解散しちゃうかも」
 「!?」
少女は驚きのあまり二の句が告げなかった。
妹の話によると、昨夜アルデバランから家に帰る途中、溜まり場によったそうだ。明け方に近いこともあってか、溜まり場には同僚のWizと「例の」Wizとその相方のPriestさんしかいなかったそうだ。 
 「でね、私が『BOSS狩ってみたい』って言ったら、『じゃあ、ゴスリンでも狩りに行ってみようか』って言われたの」
ゴスリン…正式名称「ゴーストリング」、怨念の塊ともいわれ、普通の武器では傷をつけることもできないという。むろん、少女にとっては相対することなどかなわないモンスターである。
 「Wizardなら、他の職業よりも簡単に倒せるんだって」
『Wizardなら』というよりも、彼の強さの方が大きいだろう。普段の言動にはやや難があるが、腕は確かである。
 「いちおう狩れたんだけど、そのあと溜まり場に戻ってきて、こんなことを言って帰っていったの」

 『じゃ、みんなありがとね。今まで楽しかったよ』

 「…何よそれ、まるでもう冒険やめるみたいな帰り方じゃない!」
 「そうなの…だから相方のPriestさんに聞いてみたの。そしたら」

 『彼ね…冒険者を辞めるんだって。お姉さんに渡したいものがあったんだけど、あなたから渡しておいてくれる?…私もこの溜まり場を離れるから…』

 「……」
 「で、お金を預かってきてるんだけど」
 「……」
少女は何の返事もできなかった。いや、返事をする気力すら失ってしまったのかもしれない…
 「…ギルドをどうするとか、聞いてない?」
唯一口に出せたのは、その一言だけであった。
 「私は何も聞いてないけど…」

少女が所属する「にゃんこ温泉♪」はギルドマスターがいない。いないというより旅に出てそのまま戻ってこないというのが正しいのかもしれない。その間のギルドの運営を任されていたのが、かのWizardなのであったのだが…
 「…明日は忙しくなりそうね…」
妹に聞かせるでもなく、ポツリと言葉が出た。

翌日、にゃんこ幹部であり、溜まり場同盟ギルドのひとつ『小さな世界』のギルドマスター☆に、昨夜のことを報告した。
 「…ん~」
☆はひとしきり考えた後
 「とりあえず、無双のマスターにも報告して、善後策を考えよう」
その夜、緊急会議が開かれた。
昨夜の報告にはじまり、今後のことが話し合われた。
ひとまず避難ギルドを設立することで一応の合意を得たが、誰が設立するかで揉めることとなった。が、
 「彼の資産を引き継いでる春ちゃんでいいんじゃない?」
この一言によって議題は決した。
 「…わかりました。謹んでお受けいたします」
こうして少女は、避難ギルド『にゃんこ旅館♪』のギルドマスターとなった。
かつて、一人で強くなろうとした少女は、その対極の位置であるところまできてしまったのである。
だが、今回のことは、少女の心に深い傷を残すことになったのも事実であった…



【春海 (Harumi)】④ [人物/Agility-Monk]


ギルドマスターとなった少女であったが、あの一件以来、自己修練を積むために外に出ることがなくなっていた。
 「お姉ちゃん、少しは狩りに行こうよ~」
下の妹がしきりに誘うが、少女はそんな気にはなれなかった。
例の一件、同じギルドの者であったのに、かのWizが悩んでいたことにも気づかなかった己の不明さを恥じていた。それに…
 「お父さんの面倒は私が見ておくから、行って来た方がいいよ」
 「ん…ありがと…。でも、そんな気になれないの…」
ひと月ほど前から、少女の父は病の床にいた。
聖職者である父は
 「これで土に還る事も、また主の思し召しなのだろうさ…」
と言って、母の写真を見ている。
 「むこうで、母さんと会えるだろうしね」
 「縁起でもないことを言わないでよ」
 「いやいや、また会えるかと思うと、すこしは気が楽になるよ」
誰の目から見ても、父の命が長くないことは明白であった。
 「…ねぇ父さん。なんでPriestになったの?」
今のうちに、聞けることは何でも聞いておきたかった。
 「ん~今となっては理由は覚えてないなぁ。でも、Priestだからこそ、できたこともたくさんあった」
そういって少女の頭をなでてきた。
 「かわいい娘が3人もできたしね」
 「…お母さんが死んだとき、自分は無力だと思わなかった?」
そう、無力。結局何もできないのだ。誰かが悩んでいようと、助けることなどできはしないのだ。
 「無力…か。確かにそう思わなかったこともない。『おれに力がないばかりにすまない…』ってね。でも、母さんは笑ってこう言ったよ。『あなたはちゃんと助けてくれましたよ。私のことで悩んでくれている、解決しようとしてくれる。それだけで力になっていますから…。誰でも助けることができるわけではないけども、その心だけで十分です』」
そこまで言って父は、ふ~と大きく深呼吸をした。  
 「無力だなんてわかりきってることさ。でも、無力なことと助けないとこには、大きな隔たりがあることも忘れちゃいけない。自己満足と言われるだろうけど、誰かのことで悩み、傷つくことは、決して無駄なことじゃないよ」
そう言って少女の頭をぽんぽんと叩くと
 「もう寝なさい。父さんは大丈夫だから」
と目を閉じた。

3日後、父はそのまま目を開けることはなかった。

 「お姉ちゃん、ここらへんのものものはどうするの?」
 「ん~使えるものだけ残して、あとは売ってしまいましょ」
葬儀も終わり、少女と妹たちは家の中を掃除していた。
 「お父さんの服も売っちゃうの?」
 「……」
父の服、セイントローブ。プパcを装着しエルニウムによって精錬までされているものだ。
 「他の装備は私が使えるけど、お姉ちゃんたちも、これは着れないものね」
 「ん…それはとっといてもらえるかな」
 「いいけど、どうするの?」
 「ちょっとね…」
前々から考えていることがあった。だが、ギルドマスターとなったことで諦めていたことでもあった。
 「るみ、ここの片付けまかせてもいい?」
 「いいけど、どうしたの?」
 「ちょっと行かなきゃいけないとこがあるの。あづと二人でお願  いね」
 「わかった~。いってらっしゃ~い」 
もう迷うこともない。少女が決心して向かった先は…プロンテラ大聖堂
5時間後
 「ただいま」
 「あ、お姉ちゃんおかえ…」
 「?どうしたの?」
 「…だって、どうしたのその格好?」
妹たちが驚くのも無理はない。帰ってきた少女の姿は騎士ではなかった。
 「これならセイントローブも着れるでしょ」 
 「だからって、騎士をやめなくても…」
 「一からやり直すのよ」 
そう、少女はプロンテラ騎士団に騎士職免状を返上し、Acolyteへと転職したのだ。
 「で、お父さんみたくPriestになるの?」
中の妹(彼女も2度転職をしている)が聞いてきた。
 「私は父さんのように、祈りで救うようなことはできないから…」
以前から考えていたこと、それは
 「Monkになろうと思うの」

もう自分を無力だなんて思わない。それが自らが信じたものへの誓いの言葉であった。



【嵯峨 春海 (Saga Harumi)(るみ)】① [人物/Wizard]


るみには二人の姉がいる。一人は騎士になり、もう一人はRogueになった。
 「お姉ちゃん、私も冒険にでるー」
 「だめ」
 「なんでよ~」
 「まだちっちゃいでしょ。もうすこし大人になってからじゃないと」
 「お姉ちゃんのけち」
姉妹のやりとりを聞いていた父は
 「1次職はまだ早いだろうけど、Noviceにならいいんじゃないか?」
 「ちょっと父さん」
 「はるにだってわかるだろ。言い出したら聞かないのは3人そろっていっしょだからな」
 「やった~、冒険者だ~」
姉たちの話を聞いて、いつか外の世界で冒険しようと思っていた。その第一歩を踏み出すことができて嬉しかった。
 「るみは何になりたいの?」
中の姉であるあづ姉が聞いてきた。
 「んんとね…何になろうかな?」
 「早めに決めておいた方がいいわよ。あとあと苦労するから…」
そう言ったあづ姉の後姿に影が落ちたのを、私は見てしまった…
 「明日私が、溜まり場に連れて行こうか?」
溜まり場!はる姉が所属してるギルドの溜まり場はいろんな人たちがいると、いつも聞かされていた。せくはらする人のこととか、動かない人のkととか、すごい人のこととか。

翌日、私は溜まり場に連れて行ってもらった。
 「はじめましてです。いつもお姉ちゃんたちがお世話になってます」
 「う~ん、いいねぇ、さわさわ」 
…どうやらこの人がせくはらする人のようだ。周りからも「えろWiz」と呼ばれてるし…
 「…魔法使いって楽しいですか?」
 「楽しいよ~。こうやってさわれr[スピアスタブ!]
…とりあえずはる姉の槍で吹っ飛ばされたのでよしとしよう。
 「あら、Wizardになるのです?」
話を聞いていた優しそうな(でも威厳のある)お姉さんが声をかけてくれた。
 「Wizardの事でしたら何でも聞いてくださいね」 
天使の羽のHBをつけて、とても優しそうなお姉さんだ。
 「(あんな風な人になりたいな~)私、魔法使いになりたいです!」
 「そうか、おれのようにな[ブランディッシュスピアー!]
…さっき、はる姉にふっとばされた人が、今度はもっとすごい技をくらったようだ。
 「いい、るみ。あの人みたくなっちゃだめだからね」
私は槍でふっ飛ばされたくないです。

とりあえずはMagicianにならないといけないようなのだけど、まだ小さいと言われ、転職は先のことになった。


【嵯峨 春海 (Saga Harumi)(るみ)】② [人物/Wizard]


今日は待ちに待ったMajicianへの転職のとき。
 『じゃあ混合液をつくってもってきてね』
どうやらフェイヨン水溶液が必要らしい。
 「はる姉ちゃん、フェイヨン水溶液持ってる?」
 「ん~持ってないけど、セーブポイントがフェイヨンだから買ってくるね」
 「ありがと~」
 -1時間後-
 「はい、これだけでいいの?」
 「うん、大丈夫だよ~。いってきま~す」
 -30分後- 
 「…ただいま…」
 「転職おめ…あら…まだなの?」
 「あのね…入れるもの間違えちゃって…[黒い液体]ができちゃった…」
 「…もういっこ水溶液買ってくるから待っててね」
 「あうぅ…」
 -10分後-
 「ただいま、買ってきたわよ」
 「…お姉ちゃん、さっきは1時間かかったよね…」
 「エ、ナンノコトカシラ。道ニナンテ迷ッテナイワヨ」
 「…いってきま~す」
 「せめて何かつっこみなさいよ」
 -40分後-
 「ただいま~、転職できたよ~」
 「おめでとう、これであなたも冒険者の一員ね」
 「ありがとう~。ギルドのみんなにも報告に行かなくちゃ」 
 -溜まり場-
 「無事転職できました~」
 『おめでと~、転職祝いにこれあげるね』
と言って手渡される、転職祝いの品の数々。そんな中に[ギルド要請]が…
 「?このギルド要請ってどなたですか?」
 「あ~ごめんごめん。間違えて出しちゃった」
要請を出したのは☆さんだった。
 「どうしましょう?」
 「ん~別に。入りたければ入ってい[ギルドへ入りました]」
 「よろしくお願いします」
Majicianに転職できたし、ギルドにも入ったし、次はめざせWizardだー!
さっそく修練度をあげてこよ~っと
〔次回、「FW修練、迫りくる昆虫軍団」でお会いしましょう〕



【嵯峨 春海 (Saga Harumi)(るみ)】②-2 [人物/Wizard]


〔予定の変更 「ROの不思議」「SS風なので、名前付です」〕
 モンク はる  ダンサ あづ  Wiz るみ  プリ 六条(りく)

1・精錬の不思議
 るみ「ねぇ、お姉ちゃん。聞きたいことがあるんだけど」
 はる「何?」
 るみ「防具の精錬にエルニウムを使うよね?」
 はる「そうだよ」
 るみ「エルニウムって金属だよね?」
 はる「…説明にも『金属』ってあるしね…。それがどうかしたの?」
 るみ「メイルとか盾に使うならわかるんだけど、コートとか布地でできたものってどうしてるのかな?」
 はる「…それはあれよ。ほら、防弾チョッキみたく、繊維がエルニウムに」
 るみ「その分重くならないのはどうして?」
 はる「…ええと……横領?」
 るみ「え」

 あづ「二人して何話してるの?」
 はる「あら、お帰りなさい」
 るみ「あづ姉おかえり~」
 はる「かくかくしかじかでね」
 あづ「ふ~ん…あ~そういえば」
 はる「?」
 あづ「私、前にローグやってたけど、そのときの転職試験で暗号伝えなきゃいけなかったのさ」
 あづ「で、その内容が『ホルグレンは 精錬代を 横領 してはいない』だったんだけど…」
 るみ「…なんとなく怪しいね…」
 はる「精錬代は横領してなくても、エルニウムやオリデオコンを横領してるかもね…」
 あづ「はる姉…何かあったのか?ちょっと黒いよ」 

 はる「ん~、この間 りく が本を精錬しようとして失敗したんだって。結構費用がかかったって言ってたからね…」 
 あづ「…本の精錬ってどうやるんだろう」
 はる「本の背表紙じゃない?」
 あづ「え」
 はる「だから、本の背表紙をオリデオコンで強化して、こう本の角でガツーンと」
 るみ「…すっごく痛そう…」
 あづ「+10とかになったら、本全部がオリデオコンで出来てたりして」
 るみ「…それって本って言うのかな?」
 はる・あづ「さぁ…」

2・Wisの不思議
 るみ「Wisってどういう仕組みなのかな?」
 はる「ケータイ」
 あづ「いや、はる姉。それはさすがに…」
 はる「でも、耳打ち拒否とかできるし、友達登録してると[FRIEND]って出るし」
 あづ「せめて『魔法だ』くらいにしとこうよ」
 はる「じゃあ糸電話」
 あづ「『じゃあ』じゃない!」

 るみ「ギルドの人と話すのはどうなってるのかな?」
 はる「1人1台ノートPCをもってて…」
 あづ「待てはる姉、ケータイ以上に世界観が壊れるぞ」

3・カプラサービスの不思議
 るみ「カプラさんのとこの倉庫サービスって、どこに倉庫があるのかな?」
 はる「横とか後ろの家が、実は倉庫とか?」
 あづ「どこのカプラさんを通しても物引き出せるよね…」
 はる「…カプラさんのエプロンのポケットが実は、四次元ポケットで」
 あづ・るみ「…」
 はる「そんな冷たい目で見ないでー」

4・ミルクや果物の不思議
 るみ「ミルク売ってるけど、乳牛がいない気がするのは気のせい?」
 あづ「どこかに大酪農園があるんじゃない?肉も売ってるし、野菜も売ってるし、果物も売ってるし」
 はる「お花はプロンテラの花畑からとってるのよね」
 あづ「…え?」
 はる「西門のとこと南門のとこと、ヴァルキリーレルムのところと」
 あづ「確かに生えてるけど…」
 はる「それとも、フローラかしら?」
 あづ「いや、あれ『食人植物の花』だから」

5・プロンテラとグラストヘイムの不思議
 るみ「騎士団のところで水道の虫討伐やってたよ~」
 あづ「あれって一応上水道なんだよね…」
 るみ「プロンテラの人たちって、水が飲めないのかな?」
 あづ「ん~…プリーストが大勢集まって『アクアベネディクタク』やってるんじゃない?もしくはセージが集まって『デリュージ』とか」
 るみ「水不足解消のためにみんながんばってるんだね」 

 はる「ただいま」
 あづ・るみ「おかえりなさい」
 るみ「どこ行ってきたの?」
 はる「臨公でGHまでね…そういえばプロのマークとGHのマークって似てるのよね」
 あづ「そうだっけ?」 
 はる「どっちも『双頭の鷲?鷹?』に見えるんだけど」
 るみ「今度行ったら確かめてみよ~っと」


【名も無き者】① [人物/Asassin]


昼間の喧騒もどこへやら、深夜ともなれば首都プロンテラといえど人通りはほとんどない。時折、酒場から出てきた酔っ払いがいる程度だ。
ガス灯の明かりも小さく、闇に生きる者にとっては格好の時間である。
魔力を施された城壁によって、外に蠢くモンスター達は中に入ることはできない。それによって住人は安心して暮らすことができる…
いや、例外があった。何も人の命を奪うのがモンスターだけの特権ではない。それと同じくらい古き歴史を持つ者たち、暗殺者(Asassin)である。
今でこそトリスタン3世によって(その力を人に向けないことを絶対的な契約として)職業として認められてはいるものの、「人を殺す」という技術を持っていること、そして、表向きはともかくとして、今でも依頼遂行をする非公認のアサシンギルドが存在することは、上級下級を問わず、貴族たちの間では公然の秘密であった。

「ちっ、失敗か…?なっ、まさか!」

その日もいつものように依頼を遂げるため、ある貴族を襲撃した。男の役目は目付の目付、すなわち完全な監視役である。
今回の任務は簡単に済むはずであった。何しろエリート暗殺者として育てられた二名でチームを組んでいるのだから。
それゆえ監視の監視である男にとっては、暇な任務であったはずだった。しかし…


「まずいランディー!作戦変更だ」

「我らの存在を知られるわけにはいかない。皆殺しだ・・・」
「・・・・!!」
「ちぃっ!!」

「私の命が目的なら、妻と娘は見逃してくれ!頼む!!」

「何をしている!早くやれっ!!」
「くそっ!この期に及んで躊躇するとは使えない奴だ!!」

「ぐぅ・・・な、なぜだぁ・・・」
「う・・・裏切り・・者・・・」


「おいおい、マジかよ」
男にとっては信じられない光景であった。まさか彼女が裏切るとは…
だが、そんなことは言ってられない。ここで彼女を、ランディーを取り逃がしてしまえば、次に追われるのは自分である…。
「おい何をしている、追うぞ」
「(…やはり、か)」
たかが貴族一人を襲うのに監視を2人もつけるとは大仰な、と思っていたが、どうやら裏では相当大きな力が動いているらしい…。
男のほかにも監視役がいた。
「まったく、厄介なことをしてくれるな、あの女は」
まったくである。おかげで同業者を追うという面倒な任務が増えてしまった。
「お前は右から回りこめ、俺は左から追う」
「了解した」
同業者を追うというのは一番厄介な任務である。なにしろ互いの技は熟知されているし、追跡・撹乱など読みあいになってしまうからだ。
「だがまぁ、やるしかない、か」
男は、ナイトメアの魂のこもったカタール『裏切り者』を装備した。
「ほんとはこんなことに使いたくはなかったのだけれどな…」
男の記憶でも、依頼を投げ出し逃亡した同業者は数えるほどしかいない。そのほとんどは相討ちになったという。追跡者にも逃亡者にも生存者がいないため確認が取れないのだ…。
ゴッ
何かが足に当たった。
人の腕のようだ。
「…」
男にはそれだけで状況が読み取れた。この太さからいって、監視役のものであるのは間違いない。つまりそれは…
カキーン
冷たい金属音が静かな街に鳴り響く。
アサシンどうしの戦いほど静かな、そして冷酷なものは無いだろう。
詠唱も無ければブラックスミスのように気合の声をあげるわけでもない。
ただ刃の打ち合う音だけが聞こえるだけである。

キーン
数十合ほど打ち合いになり拮抗した状況になった。
「なぁ、ひとつ聞きたい」
男はランディーに尋ねた。通常のアサシン同士の戦いでは有り得ない事である。ランディーは一瞬驚いたようだがすぐに
「いいだろう、死に逝く者の望みだからな」
冷徹に切り返した。
「このまま逃げれるとでも思っているのか?」
「ふん、よくある問いだな」
彼女の刀に力がこもる。
「わたしは逃げ切ってみせる」
「…アサシンとして育てられた貴女に帰る場所があるとでも?」
「……」
この問いには答えず、ただ刀に力が入るだけであった。
そう、いくら逃げおおせたとしても、帰る場所も無い生粋のアサシンにとって、逃亡はただの放浪に過ぎない。
「…俺は逃亡を遂げたある一人のアサシンを知ってる」
    • へっざまぁねぇな--
「そいつは追跡から逃れることには成功したが、自分で命を絶っちまった」
    • 逃げたは良いものの、何をしたらいいかわからねぇ--
「そしてこう言ったよ」
    • 「俺には守るべきものも誇るべきものも無いのになぁ…どうやら俺が逃げたがっていたのは「人を殺すアサシン」ということからだったらしいぜ」--
聞いているのか無視しているのか、ランディーに反応は無い。
「…いいだろう」
考え込んでいたのか、不意にランディーは声を出した。
「逃げおおせて見せるさ、『殺人者としてのアサシン』からな!」
拮抗が解けた。
急激なラッシュだ。
か わ し(腹部に右の短剣が刺さった)き れ な い
[クローク!]
男はアサシンの技、[クローキング]で姿を隠した。本来なら追撃に用いるのであるが、




















【ランディー (Randy)】①  [人物/Two-Swords-Asassin]


「昔の事?そんな事覚えちゃいないねぇ」
女は吐き捨てるように、そう呟いた。

白銀に輝く髪・均整の取れた体躯・少女から大人の女へと、可愛さから色気を帯びつつあったその顔立ち。その姿を見て、誰もが息を飲んだ。
しかし、その羨望の眼差しはすぐに一変する事になる。

その体躯を包むのは、機能的にも極限まで無駄を省き、また闇に溶け込みそうな暗い色の装束。手に携えるは、殺傷能力を追求して完成された武器・カタール。しかも、的確に急所を突けるようになるという不思議な力を帯びた、「ソルジャースケルトンカード」と呼ばれる魔力の札を挿して、まさに一撃必殺の凶器に仕立て上げていた。
そして、その身を包むのは、純然たる殺気。見る者はすべて、羨望から恐怖に慄くようになるのだった。

物心つく頃から天涯孤独。両親の顔も、家族の温かさも知らず、愛する事も愛される事も知らない。表面的には栄華を誇っていたミッドガルドの、その陰の中でその日その日を生き抜いていた。希望も何も無く、ただその日を生きていられた事だけに感謝するだけの、呪われた日々。

ランディーという名前は男名である。少女は身を男子にやつし、男名を名乗る事で、人身売買商人の目を眩ましていた。身寄りのない少女が捕らわれて、どのような末路を辿るかは、想像に難くないだろう。

そんな絶望の中で、少女は力を渇望した。力こそが、この呪われた自分を解放してくれる。そう信じて・・・。彼女は暗殺者になった。

暗殺者としての日々は、自分を解放してくれるはずも無かった。浴びる返り血が彼女の精神を蝕む。敵の息の根を止める時の断末魔が、彼女の心に狂気を生んだ。

呪われた日々に終止符を打つのは、自分の人生の終焉しかない。何時しか死に場所を求めるようになっていた。とある任務に失敗し、深手を負った彼女は、ひたすらに逃げた。いざ死に直面したとき、かつての生き抜こうという心理が働いたのかどうか定かではない。

「多くの命を奪った報いか・・・。」

自嘲的な呟きを残し、もはや自分の意志で動く事すらままならなくなった体をその場に横たえた。呪われた自分の終焉に相応しい、孤独で、静かな瞬間だった。
その時、薄れ行く視界の先に人影を見た。その影は、真っ直ぐに自分の方に近づいてきた・・・。



【ランディー (Randy)】②  [人物/Two-Swords-Asassin]


私は夢を見ていた。それは、いつもいつも同じ夢。そして、いつもいつも同じ悪夢・・・。

どす黒いぬかるみの中にたたずむ自分。だがしかし、そのぬかるみから漂う匂い・・・血の匂いだった。幾度となく、その身に浴びた血の匂い。しかもその血の海は、ランディーを拘束するかのように纏わり付いた。重く、そして冷たい血の海だった。
突然、その血の海が隆起した。ある塊は手の形を成し、ある塊は人間の顔を具現化した。その顔は・・・すべて自分が屠った者達だった。しかも一様に、絶命する直前、断末魔をあげる時の、苦痛に歪んだ顔だった。
「や・・やめろぉおおおお!!」
無数の手が、ランディーを血の海に引き倒す。手は数を増し、血の海でもがくランディーに襲い掛かった。

形容しがたい鈍い音が4回響いた。その音のがする度に、両椀・両肢が胴体から離れた・・・というよりも引きちぎられていた。
「・・・・・!!!」
もはやショックで声を出せなくなっていた喉元にも、その血塗られた手がかかり、そして・・・

「うわぁぁああ!!」

叫びとも悲鳴ともつかない声を出して、ランディーは目覚めた。
「またか・・・。相変わらず、吐き気のする夢だ。」
そういって、自分の手足を見、首をさする。無事なようだ。
いつもいつも同じ悪夢。暗殺者になったときに鍛錬した、恐怖心のコントロールがなければ、もうすでに自我の崩壊に至っていたはずだ。自分に巣食う狂気が、確実に精神を蝕んでいるのを実感する瞬間だった。そして、今の自分にはそれを止める手段が無いという事も・・・。

脂汗にまみれて、身体にへばり付いていた下着を脱ぎ捨てる。とりあえず、今の自分の状況を確認してみる事にした。
自分の記憶が確かならば、任務に失敗して、逃げ彷徨い力尽きたはずだ。それが今ベッドの上にいる。どこかの宿の一室らしいが・・・。
「ぐぅっ」
唐突に体に痛みが走る。体を確認すると、あちこち負傷していた。だが、重傷であったろうその傷は、適切な処置を施されていた。この分なら、傷が残る事もなさそうだ。幸いにも、何とか動く事はできそうだ。
重い体を起こすと、部屋にある窓の傍に立って外を眺めた。
「首都プロンテラ・・・」
目の前に広がるのは、久方ぶりに見るプロンテラの街並みだった。

宿の主から、自分がもう一週間近くも眠りつづけていた事を知らされた。主に宿代を渡そうとしたが、すでに貰っているとの事だった。そして主は、私の宿代を立て替えた酔狂な人物を呼んできた。その人物を見るや、私の記憶が途絶える前に見た、人物の影と一致したのだった。
「何だ貴様か・・・。」
「何だとは挨拶だな。せっかく助けてやったというのに。」
「助けてくれと言った覚えはないがな。」
目の前の人物に、私は悪態をついてやった。まぁそいつも、はいはいといった感じで受け流していた。

聖職者と呼ばれるものに、神に祈祷する事で奇跡の力を行使するプリ―ストと呼ばれるものと、肉体を極限まで鍛え上げ、悪しき者を祓うモンクと呼ばれるものがある。その人物は後者の方で、逆立てた髪が印象深い男だった。
ひょんな事で妙な縁が出来た。暗殺者と縁が出来るところをみると、そいつも聖職者とは怪しいものだと思うが。
「偶然通りかかったんだが。まぁ、助けるつもりなんて無かったんだがなぁ・・・。」
にやにやしながら私にそう言い放った。そして、こう続けた。
「うわ言のように、死にたくないって言ってたからな。まぁ、気まぐれだ。」
前言撤回。こいつは聖職者の欠片も無いな。とんだ破戒僧だ。
「礼はいわんぞ。」
礼の一つでも言ってやろうと思ったが、止めた。

とりあえず宿を払って、久方ぶりに首都の街並みに歩を進めた。表向きには活気に溢れているが、その裏にはどす黒い影がある事を私は知っている。皆いい気なものだ・・・。
街の郊外まで来ると、人もまばらになってきた。頃合を見計らって、その逆毛のモンクに質問を投げかけてみた。
「で、何で私を助けたんだ?」
そう言うと、モンクはやれやれといった感じで
「だから、気まぐれだと言っただろうが・・・。でもまぁ、最近お前さんがどうも死に場所探してるような感じだったんでな。」
見抜かれている・・・。なんとも食えない奴だ。
「ただ犬死するよりは、いい場所紹介してやるよ。どうせ暫くは身を隠すつもりだったんだろ?なら都合がいいわ。」
そのモンクは、またにやにやしながら歩き出した。取り敢えず私もその後を付いて行った。奴の言う、いい場所という所に・・・。


【ランディー (Randy)】③  [人物/Two-Swords-Asassin]


石畳の上を歩く二人。モンクと暗殺者・・・なんとも奇妙な光景だが、誰も気にとめることはなかった。プロンテラとはそんな街だった。

ランディーは、モンクが言ったある事に思いを巡らせていた。
(うわ言のように、死にたくないって言ってたからな)

(死にたくない?私が?)
暗殺者になってから、例え命を落としても骸を野に晒す事を運命付けられ、ましてや自分が死に場所を求めているのというのに・・・。
(心の奥底では、生を望んでいるというのか・・・)
このまま自分の終焉を迎えれば、それで終わりだった。にもかかわらず、目の前のモンクに生かされたのだ。
やり場のない思いが胸に沸き起こる。これからどうすればいいか?その事だけを考えていた・・・。

「おい」
その言葉で、ハッと我に返る。知らないうちに街の中心付近まで戻っていたようだ。
「着いたぞ。ここだ。」
どうやら、奴の言う「いい場所」って事らしいが・・・。

その場所には、数多の人間が集まっていた。騎士やクルセイダーをはじめ、おおよそ全ての戦闘職が網羅されていた。その中には、自分と同じ暗殺者らしきものも居た。
同じ職種でも、王国直属の騎士団のように装備が統一されていなかった。ましてや、各々で歓談に勤しむ者、魔物狩りのパーティーを募る者と、統制なく皆自由に行動していた。
「自由騎士団か・・・」

王国は、最近の魔物の増加による治安の悪化を懸念していた。すでに直属の騎士団で対応できるような状況では無かった。そこで、国中の腕利きの戦士達に、魔物を退治したときの戦利品を代償に魔物狩りを推奨したのだった。だが、辺境の地の調査が進むにつれ、奥深いダンジョンに巣食う凶悪な魔物も確認された。戦士達はそんな魔物に対抗すべく、同志を募り、(ギルド)と呼ばれるコミュニティーを形成していた。自由騎士団もその一つで、騎士団とは名ばかりの傭兵の集まりであった。

「ここが今俺が厄介になってるギルドだ。」
この場所に幾つかある自由騎士団の中で、とある旗印を指差してモンクは言った。
「アルカナ騎士団・・・」
それが、私とアルカナ騎士団との出会いであった。

モンクは、こっちだといわんばかりに指をくぃっとさせると、私を騎士団の人間に引き合わせた。
私は絶句した。ここに所属している人間は、傭兵でありながら一角の武人ばかりであった。王国に仕えれば、皆中核をなすであろう実力を備えている者達だった。どうしてこんな所に居るのかとすら思った。
そんな中に抜きん出ている二人が居た。一人は常人では引き絞る事も難しいぐらいに強化した弓を携えた女性ハンター。華奢に見えるその腕は、強弓をいとも簡単に引き絞った。あれで何体の凶悪な魔物を撃ち落したか、想像も出来なかった。
もう一人は、若いが才気溢れる青年騎士だった。幾つもの戦場を駆け抜けたのだろう、歳に似つかわしくない精悍な顔をしていた。
ハンターは騎士団の副団長で、騎士はその補佐であるという。

唐突に、その2人が左右に下がった。うやうやしく2人が頭を下げるその間を縫って、その人物は現れた。
長く美しい金髪。印象付けるのは、頭に被った山羊の角を模したマジェスティック・ゴートと呼ばれる装備品。先の傑物2人をして尊敬の念を抱かせる魅力の持ち主。それを鼻にかけない屈託の無い笑顔をする不思議な人物だった。
彼女がこのアルカナ騎士団を束ねる団長である事は容易に判断できた。
「ようこそ、アルカナ騎士団に。歓迎します。」
満面の笑みを浮かべて、私を迎えてくれた。
「訳ありなんで、暫く置いてやって欲しいんですがね」
モンクが口添えする。
「うちの騎士団は、訳ありの人間多いのよねぇ・・・」
苦笑しながら団長は言う。なんかとんでもないところに来てしまったのかも知れない。私は少し後悔した。
「申し訳ないが、騎士団に所属するつもりはない。」
私はそう言った。いきなりといえばいきなりだし、今自分を支配する虚脱感を何とかするのが先決だ。とにかく一人で自分を見つめる時間が欲しかった・・・。
「それでは、取り敢えず客分としていてもらうのはいかがですか?」
せっかくの申し出を断る道理も無く、客分として、騎士団の末端に置いてもらうことにした。
「それでは、新しい客人を迎える宴をしましょう」
団長は嬉しそうだった。どうもこっちが目的では?と邪推してしまった・・・。
その夜、宴は何時終わることなく続いた・・・。団長の酒豪ぶりに閉口してしまったが・・・・。

こうして、私のアルカナ騎士団での生活が始まった。この先どうなる事やら・・・。


【ランディー (Randy)】④  [人物/Two-Swords-Asassin]


アルカナ騎士団に身を寄せて数日が経とうとしていた。王国からの依頼で魔物狩りに出たり、個別で任務をこなす以外は自由行動が許されていた。自由騎士団だけあって、最低限の規律を守りさえすればいいらしい。

私も客分とはいえ、一宿一飯の恩がある。何度か任務にも携わってもいた。他のギルド員も気のいい連中ばかりだったし・・・。

だが、もともと個人で活動するのを旨とする暗殺者である。そして、生き抜くためには他人を信じずただ己を信用する事を、過酷な幼少時代に悟っていた自分である。いつのまにか、騎士団の中でも孤立するようになっていた・・・。

プロンテラの街の南門を抜けると森がある。そこのとある木の上が私のお気に入りの場所。その上に腰を掛けては一人毎日空を眺めていた・・・。

「よぉ、ランディー」
いつものように木の上に居ると、不意に下から声がする。
「ああ、お前か・・・。」
見慣れた面だった。あいつもこのアルカナ騎士団ではそれなりの地位に居るらしく精力的に行動していた。普段じゃ考えられないといっては悪いかな・・・。
「また魔物狩りの人員を募ってるんだが、行かないか?」
私はまた空を眺めていた・・・。そして、
「そんな気分じゃないな。第一、騎士団の人間だけで事足りるだろ?」
投げやりな返事。今の私の心を支配する虚無がそういわせたのだろうか?目的を失った暗殺者なんてこんなものだろうか・・・?
「そうか・・・わかった」
モンクは肩をすくめると、プロンテラの街の方に帰っていった。
(すまん・・・)
あいつなりに心配してくれてるのは痛いほど分かった。だが、今の自分には心の中で謝ることしか出来なかった・・・。

過ぎていく日々。満たされる事の無い心の虚無。今は平静であるが、侵食は止まる事の無い狂気。毎日が綱渡りだった。綱から落ちることは、自我の崩壊に等しい事は十分分かっていた。空でも眺めていたら少しは和らぐかと思っていた自分が愚かだったか・・・。それを知らずか、空は澄み渡る青空だった・・・。

ある日、自由騎士団の待機場所、通称「溜まり場」にふらりとやってきた。特に目的があるわけでもなく・・・。
人の数がまばらだった。どうやら騎士団合同で魔物狩りにでも行ってるのだろうか・・・。
「・・・・・・?」
溜まり場の一角に、異質の気配を感じた。私はそちらに目をやった。

そこには、見ただけでかなりの年代を感じさせる書物・・・古文書みたいなものだろうか?そして、羊皮紙の巻物、スクロールが幾つも積まれていた。そして、その書物の山の中に、熱心に書物に目を通す人物が居た。

淑女を具現化したような容
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