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M34 - (2010/05/28 (金) 14:37:09) のソース
テスタメントガンダム(カイト機)はローズガンダムとの戦闘で破壊され、テキストが起動してミキオの配備エリアに移った。 姉さんの本国は、――デメリットのある――このカードをわざわざ防御に使わなければいけないほど薄いかといえば、否。 この時点で少し不自然に見えるかしら、と姉さんはミキオに表情を確認するが、彼は彼でウント・ドランクがリングで敗北したことのほうがショックだったらしく、ジャンクヤードに移ったそのカードをまだ見ている。 「ダメージ判定ステップ規定後、いい?」 小さくため息をついて、姉さんはそう宣言する。 未だ戦闘エリアには、宇宙のローズガンダム、地球のゴッドガンダム、リングのマーズジャケットが残っている。 当然帰還ステップまでいくものだろうと思っていたミキオは「え?」と聞き返す。 「マーズジャケットの効果を使うわ。このカードの上にあるMJコインを配備エリアのバックホームに」 「それ、なんの意味が?」 「気付かない?交戦に一方的に勝利したといっても、マーズジャケットには8ダメージが蓄積されている。つまり、戦闘修正コインを失った時点で破壊状態になるのよ」 「んっ!?」 ミキオはなおも意味が解らず唸るが、その答えはすぐに姉さんの手札から示されることとなる。 彼女が握っていた2枚の赤いスリーブの1枚が表になり、その内を見せた。 「マーズジャケットの廃棄にカットインで、ジェネシスのカードをプレイするわ」 「ジェネシス?」 「このカードは、ダメージ判定ステップに破壊状態の自軍ユニットがいれば、全てのユニットを破壊するカード」 リングでの敗北に続き、ユニット全てを失う羽目になったミキオは絶句する。 全てのユニットが破壊状態となった。 「あんたの勘違いは…手に持っているカード全てが、”使っていいカード”だと思ってるところよ」 姉さんは確信を持った口調で、そう言い放った。 *第28(34)話 ミキオと姉さん 「引いたから、条件を満たしているから、とりあえず使ってみよう。最近のカードはパワーがあるから、それで乗り切れる場面も多いのかもしれない」 姉さんはジェネシスの効果で破壊されたバックホームをフリーダムガンダム&キラの効果で破壊無効にした後、そう口を開いた。 何かを思い返すような表情で、場のカードを見る。 「でも、それの繰り返しはゲームじゃない。ただの作業よ」 「作業…」 姉さんの言葉を小さく繰り返すミキオ。 バックホーム以外のユニットは、廃棄の効果が解決されジャンクヤードに移る。 テスタメントガンダム(カイト機)もこのターンに1度テキストが起動しているため例外ではない。 「相手との間合いを知り、今が使うタイミングなのかをしっかり考えなさい」 具体的にどこが悪かったとは彼女は言わなかったが、ミキオには少しだけ見当がついた。 この対戦で言えば…自分の5ターン目だろう、と。 「それが解らないようなら…あんたはもう、リングではおろか対戦自体マトモに勝てないわ」 彼女は静かにそう言ったかと思えば、「あ、そもそも連戦連敗中だっけ?」と小さく笑って続けた。 「言いすぎだ」と仲裁しようとした武志を、真理が無言で引き止める。 「姉さんテメェ…!」 ミキオは言い返そうと言葉を捜すが、思いとどまり「ターンエンド」とだけ告げた。 バルチャーの効果でマーズジャケットを手札に加える姉さんの指先を見ながら、ミキオは思案する。 勘違い、失速、作業、間合い、タイミング…。 「配備フェイズ、レッドフレームマーズジャケットを再配備。戦闘フェイズにいくわ!」 姉さんは2枚のユニットを、それぞれ戦闘エリアに移動させる。 バックホームの効果で、空になったハンガーに2枚カード…歌姫の騎士団とハッキングが送られ、ミキオは大人しく13ダメージを本国に受ける。 手札のない彼にはどうしようもないことだったが、一気に本国は薄くなる。 「次のダメージで…最後」 ミキオは黙ってターンを開始する。 規定の効果のドローに続き、ACEの追加ドローをした手札は2枚。 ロールコストとして使われたのは、Gとニュータイプの排除だ。 「配備フェイズ、宝物没収をプレイ」 「いいわ」 「さらに、ディアナ帰還を配備」 ナツキはそわそわしながら対戦を見守る。 いつもの彼女なら「ミキオはまだ行ける!」と思うところなのだが、この対戦は姉さんの雰囲気からか、盤面以上にミキオが不利に見えてしょうがなかったのだ。 「…」 口では何度「勝ちたい」「強くなりたい」と言おうが、そのためにオレは何かしたのか?考えたのか? 勘違い、失速、作業、間合い、タイミング…。姉さんの言ってることが全部解るわけじゃあない。 でも、だた引いたカードをプレイし続けるだけじゃ、絶対に…ダメだ! ミキオは黙って、手札、場、姉さんと順に見た後に一拍置き、場のGカードを握った。 「戦闘フェイズ!Gカード4枚とディアナ帰還をロールして、ゴッドガンダム&ドモンに地形適正をッ!」 なんだ?を首をかしげるタンサン。 ディアナ帰還で本国を少しでも伸ばすのがセオリーじゃないのか?と考える彼だったが、ミキオの考えは違う。 この勝負、姉さん側の攻撃力は既に絶大なもので、本国を数枚水増しても手遅れ。ならば、彼女の本国を削って”ギリギリの勝負”にするしかない。と。 「攻撃規定で宇宙エリアに出撃ッ!」 「6ダメージを受けるわ。残り本国は…10枚よ」 「オレのは…4枚」 お互い聞かれてもいないのに本国をチェックしてそう告げる。 自分に言い聞かせているとも取れるその光景。 ナツキには『口に出さずとも意思疎通が取れている光景』に見えて、彼女は少しイラついた。 「配備フェイズ。ハンガーの歌姫の騎士団を配備後、ハッキングをプレイ!」 ドローフェイズにACEの効果も含め手札を補充した姉さんは、ハンガーのカード2枚を次々とプレイして戦闘フェイズを告げた。 向かい合うミキオの本国は自己申告で4枚とわかっている。となれば、彼の手札に攻撃を凌ぐ策があるのか、それとも無策か。 姉さんはミキオが握った2枚のカードを見る。ゴッドガンダムが書かれたスリーブの奥、その切り札を想像するように。 「宇宙にマーズジャケット、地球にバックホームを出撃」 ハンガーにはデスティニーガンダム《18》と救国の英雄が移る。 「攻撃規定後…昨日の敵はをプレイ」 「いいカードね。了解よ」 昨日の敵は。 ジャンクヤードのユニット1枚を敵軍配備エリアに出すことで、そのカードと同じ合計国力かコストの合計を持った敵軍ユニットを奪取するコマンド。 コマンドによるトリックが少ない茶色では、条件さえ揃えば有効な逆転手段にも成り得る。 「対象はこっちのジャンクのシャイニングガンダムと…姉さんのマーズジャケットだ!」 シャイニングガンダムのコストは、指定国力2・合計国力4・資源コスト2の合計8。 そして、マーズジャケットのコストも、指定国力2・合計国力5・資源コスト1の合計8なのだ。 「あら、ウント・ドランクが欲しかったわ。カットイン、このカードの上のMJコインをバックホームに」 「それは織り込み済み。俺が欲しかったのは、コイツのバルチャーさッ!貰ったマーズジャケットを防御に出撃させるぜ!」 ミキオは手元に来たばかりのマーズジャケットを握り、地球エリアの――今や9/1/9のサイズと「砂漠」を持った――バックホームと向かい合わせる。 「砂漠でロールした後、ダメージ応酬で破壊。さ、バルチャーポイント5を得たんだから、見せてみなさい」 「言われなくても…姉さんのターン終了時にポイント決済でガンダムシュピーゲル(シュツルム・ウント・ドランク)を回収!」 「ターン終了」 ミキオはリロールフェイズ規定で、ロール状態だった全てのカードを起こした。 本国は増えも減りもしない4枚。 「規定ドロー前に、ディアナ帰還を1回使用するぜ」 「ここ…かぁ」 ジャンクヤードには月光蝶が落ち、ミキオはカードを引く。 回復、ドロー合わせて本国はまだ4枚。 「配備フェイズ、ガンダムシュピーゲル(シュツルム・ウント・ドランク)をプレイッ!そして…」 ミキオは一拍置いて手札のカードを出した。 オペレーションカードだ。 「冷凍刑を配備ッ!」 「…」 姉さんは、まるで対戦相手ではないかのような表情でミキオのプレイを見守る。 ウント・ドランク、冷凍刑をプレイした彼の残り手札は1枚。 「使いたいと思う心を、制御すること」 ミキオはそう言いながら姉さんの目を見る。 「冷凍刑の効果でG1枚をロールし、手札からエネルギー吸収を廃棄。バルトフェルドをロール。戦闘フェイズだ!」 「エネルギー吸収、よく前のターンに撃たなかったわね」 「…散々ヒントを貰ったからね」 ほほぅと口に手を当てる姉さんに、ミキオはニッと笑って答えた。 宝物没収で引いた瞬間、昨日の敵はと共に使うことでMJコインを2個一気に取り除く選択肢が脳裏をよぎったが、こらえた。 それはあの場では意味のない行為。姉さんの言う『作業』なのだから。 結果、今引きの冷凍刑のコストにすることができた。無駄にACEドローしなくてすんだため、ACE自身もロールコスト5枚で出撃できる。 一連の動きは、この両面攻撃のためにあったとミキオ自身確信が持てた。 「いくぜッ!」 ミキオは手早く3枚のGカードと2枚のオペレーションをロールし、ACEに地形適正を得させると共にウント・ドランクをリロールさせる。 狙うのはこの1撃だけ。姉さんの本国は枚数を宣言したときよりも6枚少ない。 「宇宙にゴッドガンダム&ドモン、地球にウント・ドランクを出撃ッ!」 姉さんの配備エリアで防御に出られるのは、昨日の敵はで送りつけたシャイニングガンダムのみ。 彼女は手札をチラリと見てから身構える。ミキオの手札は今回も0枚。だが、先ほどの0枚とはワケが違う。 なるべくして、そうなった0枚なのだ。 「諦めなかったオレの勝ちだッ!!」 姉さんはミキオが息巻いて言った台詞にハッとし、彼の顔を見る。 彼女は「…ったく」とクスリと笑い、手札を閉じた。 「投了よ」 「よっしっあ!」 ミキオは両手を高く上げて、そのまま後ろに寝転んだ。 盤面は、2枚のユニットが戦闘エリアに出たところで止まっている。 姉さんはそれをしみじみと見て、深呼吸をする。 「そろそろ…師匠面も卒業かもね」 ぽつりと漏れた彼女の台詞に、寝転んだミキオは慌てて起き上がる。 「もともと師匠って柄じゃないしな」と笑う武志を手で掃いながらデッキケースを取り出す姉さんが、再び視界に入る。 「今度から京子センパイでいいわ」 シャイニングガンダムを返しながら、彼女はそう言った。 それを受け取りながらミキオは、彼女との初対戦と、そのときの「あんたが負けたら、あたしのこと『姉さん』って呼びなさいよ?」という言葉を思い出す。 思えばその試合が、彼女との師弟関係の始まりだったのかもしれないな。 ミキオはそう思いながら、「じゃあ遠慮なく」と彼女に向き直る。 「き…京子」 「センパイはつけろや!」 間髪いれずにミキオを叩く姉さん。 本田京子は、彼らより3つ年上の女性で白デッキを好んで使用するプレイヤーだ。 「うがー!お前、ミキオになんてことすんのよー!」 「いてェ」と頭を押さえるミキオと、憤慨するナツキ。それを「またか」と言う顔で見るタンサン。 真理が「夜も遅いので、あまり騒ぐのは」と注意したのは、約1分後のことである。 ゴタゴタがあったが結局、今後も『姉さん』と呼ぶことになったのだった。 つづく