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#35 - (2010/04/14 (水) 12:54:11) のソース
*#35 始まりはここから 「お前、今の試合なんであきらめたの?」 大会が終わり、カキヨさんが見せのほうに戻った後、テーブルに突っ伏した俺に誰かが話しかけた。 透き通っているようで、どこかハスキーな感じの声に促されて、俺は顔を上げた。 「君は?」 「あたいは煉…赤坂 煉」 煉と名乗った女は俺と同い年、いや少し下に見える。 整った顔立ち。いや、素直な言い方なら…まさに俺のタイプだ。 「ふふっ”君は?”」 彼女は笑いながら、俺の口調を真似して聞き返した。 「公旗…一」 「変な名前~」 彼女は肩をすくめて立ち上がり、俺のデッキを指差した。 「あそこでゲルググが攻めれば、勝負はまだわからなかったわ」 「いや、菊池は撤退命令を握ってたのさ。それに、ロンビに弾を与える結果になる。どの道負けだ」 数点のダメージだけでは奴の本国は削りきれない。 前のターンに具現化する力《BB2》を張った段階で、奴は次のターンの決着まで全て見えていた。 「でも、やらない意味なんてないわ。バカね」 「ばっ…バカ?」 「そう、バカよ。やらないで後悔するより、やって後悔しろってよく言うでしょ?」 そうだが…。 というよりなんだ?この子は。 プレイヤーなのか?それとも試合後に入ってきた部外者? 「君はその…いつからここに?」 「ひどいわね。あたいは最初からいたよ?今日はちょっとデッキ忘れただけで、本当はむちゃくちゃ強いんだから」 「これは失礼」 俺は立ち上がり、ドアのほうまで歩いた。冬の風が肌に当たり、頭を冷やせといっているようだった。 「あたいね、強い奴と戦いたいんだ。んで、いつかガンダムウォーのてっぺん取るの!」 俺は背中越しにぶつけられた壮大な夢を笑い、振り返る。 しかし、彼女は笑ってはいない。大真面目だ。 「だから、あたいはあいつ…あいつを倒すよ」 菊池のことだろう…あいつは今この『おもちゃのカキヨ』SCSを4連覇中だ。 最後にあいつに勝ったのは、たしかおやっさんだったはず。それも先月の話。 「…面白い!」 それから俺と煉は親しくなっていった。 幾度となく対戦し、お互いの悪いところを指摘し、良いところを見習った。 月日は流れ、ついに煉は大会で菊池と戦うチャンスを得た。 SCSの事実上の決勝卓。 黒い覇道のランデスとティターンズガンダムの破壊力によって煉はゲームをものにしたかのように見えた…。 ××× 「あーもう!なんであそこで具現化する力引くわけ?散々破壊してやったのに、フルバーニアン1枚に負けたーっ!」 煉は足をバタバタさせながら愚痴をこぼす。 今日わかったこと。菊池のデッキも無敵ではない…息切れせずに攻撃を畳み掛ければあるいは。 そして、それ以上に驚いたのは、煉が黒のデッキを見たことがないくらい上手に使うことだ。 「それでもすごいさ。あの菊池の青赤をあそこまで追い詰めたんだ」 「そんなことない。ゲームで重要なのは、勝ち負けとやる気よ。追い込んだかどうかなんて…」 ずいぶん偏った思考だな。 と思いながらも、おれは腕組しながら考えた。破壊カードとユニット戦での交戦力か。 「俺の先輩に”デッキビルダー”って呼ばれる人いるんだけど、その人のところ行かないか?」 俺の考えでは、その人に作ってもらったデッキならば…というのがあった。 煉はクスクスと笑って俺の方を見返した。 「いいわよ?でも、デートの誘いなら、もっと洒落た台詞使ってよ」 「冗談。誰が君みたいなカワイイ子誘うかよ」 はにかむ彼女に、俺は荷物を持ってないほうの手を差し出した。 ××× 「ちょっと待った!ちょっと待ったあぁ!なんで恋愛ストーリーみたいになってんのよ!!」 あたしはたまらず叫んだ。 公旗があんまり普通に話すもんだから、危うくスルーするところだった。 「おい京子!いいから黙って聞こうぜ!今いいとこなんだから」 武志があたしを制止する。 それを見て詩織が吹き出した。 つづく ---- [[前へ>#34]] / [[SeasonTOP>あたしのガンダムウォーSeason2]] / [[次へ>#36]] ---- txt:Y256 初出:あたしのガンダムウォー 掲載日: 更新日:10.04.14 ----