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ラグランジアンの落とし穴 - (2009/04/17 (金) 15:19:43) のソース

****ラグランジアンの落とし穴
[[「かぎしっぽ掲示板」の質問>http://hooktail.maxwell.jp/cgi-bin/yybbs/yybbs.cgi?room=room1&mode=res&no=23434&mode2=preview_pc]]から。
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中心軸Oのまわりに自由に回転する質量$$M$$、半径$$a$$の円板に糸をかけて、一方は地面に固定され、一方は質量が$$m$$のおもりが吊り下げられている。円板の中心Oは天井からヤング率$$k$$のバネで吊り下げられている。糸の質量は無視でき、糸は伸びず、すべらないとする。
いま、おもりの垂直方向の変位が$$x(t)$$、円板の垂直方向の変位が$$y(t)$$、中心からの回転角が$$\theta(t)$$で表されるものとする。変位、速度、加速度は下方に向かって正とする。横方向への移動はないものとする。
ばねに力が加わらない初期長さ$$l_0$$のときを、初期位置$$x(0)=0$$、$$y(0)=0$$、$$\theta(0)=0$$とする。

問1 O点まわりの円板の慣性モーメントを求めよ。
問2 $$x(t)$$と$$y(t)$$の関係、$$x(t)$$と$$\theta(t)$$の関係を求めよ。変位は微小であるとして、$$\sin(a)=a$$、$$\tan(a)=a$$ and $$\cos(a)=1$$とみなして良い。
問3 バネのポテンシャルエネルギー$$V_s$$、円板のポテンシャルエネルギー$$V_c$$、おもりのポテンシャルエネルギー$$V_w$$をそれぞれ求めて、ポテンシャルエネルギーの和$$V$$を$$y(t)$$の関係式で表せ。
問4 A点回りの円板の慣性モーメント$$I_A$$を求めよ。
問5 円板の運動エネルギーを$$T_c$$、おもりの運動エネルギーを$$T_w$$として運動エネルギーの和$$T$$を求めよ。
問6 LAGRANGE関数を用いて、$$y(t)$$に関する微分方程式を求めよ。
問7 $$y(0)=0$$、$$y^\prime(0)=0$$、$$M=2m$$の時の運動方程式を解け。

&ref(http://www14.atwiki.jp/yokkun?cmd=upload&act=open&pageid=102&file=Lagrange.bmp)
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大学院入試の過去問らしいのだが。
問1
 $$I=\frac{1}{2}Ma^2$$
問2
 $$x(t)=2y(t)$$,$$x(t)=2a\theta(t)$$
問3
 $$V=\frac{1}{2}ky^2-(M+2m)gy$$
問4
 $$I_A=I+Ma^2=\frac{3}{2}Ma^2$$
問5
 $$T=\frac{1}{2}m\dot{x}^2+\frac{1}{2}M\dot{y}^2+\frac{1}{2}I\dot{\theta}^2=2m\dot{y}^2+\frac{1}{2}{I_A}\dot{\theta}^2=\left(\frac{3}{4}M+2m\right)\dot{y}^2$$
問6
 $$L=T-V=\left(\frac{3}{4}M+2m\right)\dot{y}^2-\frac{1}{2}ky^2+(M+2m)gy$$
 $$\frac{\partial L}{\partial y}=-ky+(M+2m)g\quad ,\quad \frac{\partial L}{\partial \dot{y}}=\left(\frac{3}{2}M+4m\right)\dot{y}$$
 $$\therefore \quad \left(\frac{3}{2}M+4m\right)\ddot{y}=-ky+(M+2m)g$$
問7
 $$\ddot{y}=-\frac{k}{7m}\left(y-\frac{4mg}{k}\right)$$
 $$\therefore \quad y=\frac{4mg}{k}(1-\cos\omega t) \quad ,\quad \omega=\sqrt{\frac{k}{7m}}$$
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と,解いたつもりのところに指摘が入った。$$t=0$$でばねは自然長なのだから糸がたるむのではないかと。どきっとして上の結果を確かめると,何と$$t=0$$で
$$\ddot{y}(0)=\frac{4}{7}g \quad , \quad \ddot{x}(0)=\frac{8}{7}g$$
と,おもりの加速度が$$g$$を超えてしまう。つまり,糸の張力(図の$$L$$)が抗力になってしまっているわけだ。もちろん,実際に起こることは「糸のたるみ」に他ならない。出題の流れを見ると,このことが全く忘れられているのではないかと思われる。また,全く必要のない「微小近似」を前提するなど,きちんと検討されていない問題の不備が疑われる。

ラグランジアンを用いた運動方程式の導出は,張力などの束縛力を見なくてよい点で味をしめればやみつきになる便法である。しかし,張力が負になれないというように束縛力の制限については何も語ってくれないから,運動方程式を与えられた初期条件のもとで解いた結果がその制限を破っていないかチェックする必要が生じるのである。
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なお,上の問題は結果的には自由度1の単振動であるから,運動方程式を立てなくともエネルギーの形式を見ることで自ずと解は得られる(束縛力が制限内にあるとして)。系の力学的エネルギーは,
$$E=\left(\frac{3}{4}M+2m\right)\dot{y}^2+\frac{1}{2}ky^2-(M+2m)gy$$
定数の違いは許容されるから,
$$E^\prime=\left(\frac{3}{4}M+2m\right)\dot{y}^2+\frac{1}{2}k\left[y-\frac{(M+2m)g}{k}\right]^2$$
単振動の標準形と比較すれば,
$$E^\prime=\frac{1}{2}\mu\dot{Y}^2+\frac{1}{2}kY^2\quad ,\quad \mu=\frac{3}{2}M+4m\quad , \quad Y=y-\frac{(M+2m)g}{k}$$
したがって,
$$\omega=\sqrt{\frac{k}{\mu}}=\sqrt{\frac{k}{\frac{3}{2}M+4m}}$$
となる。
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