パルスィは俺の妹
仕事のため伊豆地方を訪れていた私は、帰路に就くため駅のホームにたたずんでいた。
仕事にはパートナー(家主の娘)もいたのだが、彼女は「人の姿をした、人にあらざる者」つまり人外の存在であり、
電車よりも「飛んだ」ほうが速いと言い残し、さっさと行ってしまったのだ。
ともあれ、今は私一人だ。
時間は夕刻。
人は誰一人としておらず、ホームはがらんとしていた。
……と、そこに一人の少女が現れた。
大きく、そして美しい緑の瞳を持った、とても可愛らしい少女。
だが、その表情は悲しげで、言いようのない不安をたたえていた。
何故ここに来たのかは分からないが、彼女には帰る場所も無く、また行くあても無い。
家出などではなく、「いるべき場所」も「いても良い場所」すらも無い、真に孤独な存在。
名を水橋 パルスィという。
私はいたたまれなくなり、彼女を保護するため妹として連れ帰ることにした。
幸いにも、特急券はパートナーのも含めて2人ぶんある。
我が家には家主と同棲する人外の存在が普通に跋扈しているし、今更家族が増えても問題は無いだろう。
私は彼女を連れ、停車している特急に乗り込んだ。
※※※
列車に乗り込んだ私たちは、それぞれ指定席に向かった。
だが、残念ながら私は進行方向左側の窓側、妹は進行方向右側の窓側であり、通路を挟んで反対側になってしまった。
私は、妹の不安を少しでも和らげるため、彼女の隣に移ろうとした。
しかし、どうやら先客がいるようだ。
たった2人ではあるが、乗客がやってきたのだ。
私の横には、スーツを着こなした真紅の髪の女性。
我が妹パルスィの横には、大きな荷物を持った屈強な大男がそれぞれ席を取った。
男は、席に座るとさっそく愛用のM-16ライフルを取りだし、手入れを始める。
その様子と、男の顔を見て怯えるパルスィ。
こ、この男は……!
獣狙う 非情の性。
奴らを殺るのは 誰の 誰の為でもない。
そう、その男こそ、かの超A級スナイパー・デューク東郷。
コードネーム・ゴルゴ13だったのだ!
迂闊なマネをすれば即座に俺の狙うマトになってしまうだろう!
だが、ゴルゴは落ち着かない様子だった。
ライフルをしまい、新聞を読み始めるが、しきりに我が妹の顔を伺っている。
どうやら、怯える我が妹パルスィが気になるようだ。
しばしの沈黙の後、ゴルゴはついに口を開いた。
そして、ここで放たれた一言に、我々は耳を疑った!
「席を……替わろうか?」
なんと、ゴルゴは怯える妹の為に、席を移ってくれると言いだしたのだ!
どうしたゴルゴ!
冷酷な殺人マシンとまで言われた男に、いったい何が起きたのだ……!
だが、ゴルゴの表情は嘘ではなかった。
獲物を狙う鋭い目つきはなりを潜め、怯え震える我が妹をいたわるような優しい表情。
人間としてのデューク東郷が、そこにいた。
その様子に安心した妹も落ち着きを取り戻し、結局席を移ることなく、その場は収まった。
やがて列車が動き出し、すぐに時速200kmまで加速する。
ゴルゴは妹を気に懸けてくれているのか、時折顔を見遣りながら、極めて普通に振る舞っていた。
一方、私の横に座った女性(七瀬さんというそうだ)は、スーツケースを開け、当然のように拳銃を取り出した。
なんということだ!
私の横に座った女性、七瀬さんこそがゴルゴのターゲットだったのだ!
いや、違う!
ゴルゴが、彼女の標的だったのだ!!
緊張が駆け抜け、ゴルゴが警戒態勢に入る。
我が妹パルスィを体全体で庇護しつつ、七瀬さんから目を離さない。
一方の七瀬さんは、そんな様子を意に介すでもなく、黙々と作業を進めていた。
どうやら、スーツケースは爆弾でもあるようだ。
だが、彼女の方も今すぐ爆破するつもりは無いらしい。
そのまま完成したスーツケース爆弾を閉じると、何事もなかったかのように瞳を閉じ、列車の揺れに身を任せ始めた。
※※※
一触即発の雰囲気が辺りを支配する中、列車は数多の橋を越え走り続けた。
微動だにしないゴルゴ。
静かに瞑想する七瀬さん。
いつしか、列車は荒野にさしかかっていた。
次の瞬間、七瀬さんはついに、爆弾を通路に置き起爆させた!
刹那のタイミングで、私は七瀬さんに抱えられ列車から脱出、そのまま荒野のくぼみに身を潜めることとなった。
全く同じタイミングで、ゴルゴも脱出に成功したようだ。
爆風に乗り、私のおよそ3m上方を駆けるゴルゴ。
その腕には、しっかりと我が妹が抱えられていた。
無事だったのだ!
妹は、私に気付くと空中でゴルゴから離れ、上方より降下し始めた。
そして、見事な回転受け身を取りつつ私のもとに駆け寄ってくる。
あれほどの高さとスピードでありながら、カスリ傷ひとつ無いとは……!
活動的な見た目に違わぬ、素晴らしい運動能力である。
私はそんな妹を抱き寄せると、そのまま2人の勝負を見守ることとした。
対峙する、ゴルゴと七瀬さん。
2人は互いに得物を構え、その銃口は確実に互いを捉えていた。
数瞬の間……
パァン!
乾いた銃声とともに、ゴルゴと七瀬さんが跳ぶ!
交錯した2人は、空中でなおも射撃しつつ位置を入れ替え、互いの反対側に着地する。
勝負の行方は……!
だが、私の目に飛び込んできたのは驚愕の光景であった。
ゴルゴと七瀬さん……2人の後ろには、隠れていた別のヒットマン達の屍が転がっていたのだ!
そう、これはゴルゴと七瀬さん、2人の危険人物を同時に抹殺しようという狡猾な罠だったのである!
しかし、この2人にそんな罠は通用しなかった。
気が付くと、荒野にはゴルゴと、その「仕事」を目撃した我々だけが残されていた。
ゴルゴの鉄の掟。
「仕事」を見られた者は生かしてはならない。
ゆっくりと銃口をこちらに向けるゴルゴ。
その目にはもはや、人間の感情は宿っていなかった。
ここまでか……
すまない、パルスィ。
お前だけは助けてやりたいのだが……
意を決し、ゴルゴとパルスィの間に割って入る。
私はどうなってもいい。
でも、妹だけは助けてやってくれ……!
そして、祈るように瞳を閉じる。
……
再び目を開けたとき、ゴルゴは我々から銃口を背け、後ろを向いていた。
そして、一つの言葉を残し、男は荒野に去っていった。
「……お前達は、何も見なかった。」
※※※
家路につく、私とパルスィ。
お互い、何も喋らなかったが、その手はしっかりと握られていた。
もう。
一人ぼっちになんて。
させない。
※※※
我々は、ようやく家へと辿り着いた。
扉を開ければ、家主とその同棲者たちが出迎えてくれるはずだ。
私の妹も、きっと受け入れられるだろう。
そして、私は扉を開けた。
そこには、私が仕事に行く前にはいなかった新たな少女(もちろん人外)がおり、家主を困らせていた。
彼は、助けを求めるように私の方を見ると、次にパルスィを見遣り、また私の方を向き、終いに諦めたような表情を浮かべた。
彼は何も言わなかったが、その顔にはハッキリと、こう書かれていた。
「また、家族が増えるのか……」
end of dream.
※あとがき
えーと、うん。
本当の話なんですよ、すべて。
脚色無し。
本当にこんな夢を見てしまったんです。
あのゴルゴが、あの渋い声(深夜アニメ版なのでCV:館ひろしさん)で「席を、替わろうか?」ですよ。
あのゴルゴが、新聞を読みながら、チラチラとパルスィの様子をうかがっているんですよ、心配そうに!
もうね、アホかと。
どんだけパルスィが大事なのかと。
そして、年齢的には娘でもおかしくないくらいなのに、何故か妹。
あらゆるフラグがセーフになる魔法の間柄、義妹。
つーかなんで特急ロマンスカー時速200kmも出しますか。
なんで伊豆地方にサボテンの生えてそうな荒野がありますか。
なんで回転受け身の時にパルスィのスカートの中を覗きませんでしたかおのれ。
ちなみに、ちょっと調べてみたところ、この夢を見たのは2008/10/1のようです。
ちょうど地霊殿製品版をプレイし始めた頃ですね。
言うまでもありませんがパルスィが可愛いから買ったんですよ。
ゆかりんは顔を見せてくれず期待外れでしたから。
どーでもいいですが、私の一人称は「自分」もしくは「私」「YukaRin」であり「俺」は基本的に使いません。
今回は「~は俺の嫁」ネタに沿って使っているだけです。
なお、この夢には当時関わっていたモノが色濃く反映されてますが、そこの元ネタは伏せておきます(笑)
この企画名そのものが結構アレだったりしますが、まぁ大丈夫でしょう(ぇ
|