「ふふふ~ん」
ある寒い日、私は
たい焼きを頬張りながら家に帰っていた。
「あ……」
そんな時、私は道端で凍えている黒い子猫を見つけた。
「寒いの?」
がたがたと震えていて今にも倒れそうな子猫。
「これ食べる?」
私はたい焼きを子猫のそばに置いた。子猫はそろそろとたい焼きをかじった。
「おいしい?」
子猫はおいしいことが分かったのか、すごい勢いで食べた。
「よかった、元気そうで」
子猫は私の足にすり寄り、喉を鳴らした。
「か、かわいい……」
頭をなでてあげると、にゃーんをかわいく鳴いた。緋色の目がとてもきれいだ。
「……」
このまま外にいたら、この子はどうなっちゃうのかな……。
悲しい考えがよぎる。
「……よし!」
「憂、しばらく置いちゃだめ?」
「かわいそうなのはわかるけど……」
私はあの子猫を家に連れ帰ってきてしまった。
「ちゃんと世話するから!」
しばらく考えた憂が、苦笑して言った。
「……わかったよ。お姉ちゃんがそこまで言うなら」
「よかったねぇ、
あずにゃん!」
「あ、あずにゃん……?」
「この子の名前! 小豆が好きな猫だからあずにゃん!」
こうして、あずにゃんは私の家で飼うことになった。
「小豆ていうより、あんこだと思うけど……」
「はぁ……、このへんにして寝ようかな」
夜1時過ぎ。ギー太の練習がはかどるといつもこんなに遅くなってしまう。
「疲れたなぁ……」
ベッドに入ろうとしたら、もう先客がいた。
「あ、あずにゃん」
いつ入ってきたのかわからないけど、ベッドで丸くなって眠っていた。
今まで外にいたとは思えない綺麗な毛並みだ。尻尾もくるりと体にくっつかせている。
「うふふ……、今日は一緒に寝ようね~」
私はそのままあずにゃんと一緒に寝た。
翌朝……。
「う~ん……」
私はいつもより苦しい感じがして、起きた。
「何……?」
何故かベッドが狭い。というより、誰か隣で寝ている。
「……憂?」
昨日の夜にでも入ってきたのかな? 私より起きるのが遅いなんてめずらしいなぁ。
でも、確か昨日はあずにゃんが隣に寝ていたんだけど、どうしたんだろう?
「起きてよ。憂」
そう言いながら掛け布団をめくると、黒くて長いものが目に付いた。
「え……?」
さらにめくっていくと、信じられない光景があった。
「……!?」
そこには子猫も憂もいなかった。
そこには長い黒髪で、裸の女の子が寝ていた。
驚いて声をあげそうになったけど、なんとか堪えた。私、偉い!
な、何なの!? っていうか誰!?
「こんなところ見られたらまずいよ……!」
すぐにそう思った。だって裸の女の子だよ!? 何だかよからぬ考えが頭に浮かんでほっぺが熱い。
どうにか隠そうと布団をかぶせようとした時、
「う……ん?」
寝ていた女の子が起きた。
長い髪を体に纏わせて、ここはどこ? というようにきょろきょろしている。
何だろう、すごく……、
「か、かわいい……」
その声に気付いた女の子と目が合った。深い緋色の目が、くりくりとしている。
「……」
しばらく見つめ合っていると、女の子が腕を大きく広げた。
「わ、ちょっと!」
そして、そのまま私に抱きついてきた。
「唯~!」
「な、何で私の名前を!?」
「……あれ?」
抱きついていた女の子が急にきょとんとした。
「こ、これって……」
何か気になっているらしく、自分の体を見ている。
でも、それどころじゃないよ!
裸の女の子とベッドで抱き合ってるなんて、誰かに見られたら大変だよ!
ガチャッ
「お姉ちゃん、そろそろ起きn……」
「あっ!」
最悪の事態が起きてしまった……。
「あ、あの、これは……」
ベッドの上に裸の女の子がいて、それに抱きつかれている私。
私は何もしていないけど、言い逃れできないこの状況……。
この光景を見て憂は顔を真っ赤にした。
「ご、ごゆっくりぃ!」
そう叫ぶと憂はドアを勢いよく締めて行ってしまった。
「ま、待って! 違うの!」
私の叫びが空しく響いた。
「……で、この子は誰なの?」
「私にもわかんないよ……」
あれから憂と話せるようになるまで時間がかかったよ……。
とりあえず、女の子に私の服を着せてリビングに連れてきた。
「ねぇ、君は誰?」
女の子はしばらく考えた後、口を開いた。
「私は、あずにゃんだよ?」
……はい?
「い、今なんと……?」
「唯がつけてくれたんですよ? あずにゃんって」
えっと、あずにゃんと言うのは子猫の名前であって、人間じゃない。
でも、昨日あずにゃんは私のベッドで寝ていて……、今日の朝に同じ位置にあの子が……。
「本当にあずにゃんなの……?」
「自分でもびっくりです」
でも、よく見ると黒い髪に緋色の瞳で……。
「でも、あずにゃんって猫だったでしょ?」
「そうだよ。昨日は子猫だったよ!?」
憂の言うとおりだ。いきなり猫が人間になるなんて聞いたこともない。
「それは……、私にもよくわからないんです」
あずにゃんも急に人間になって戸惑っているみたいだ。
「でも、昨日私は唯にお礼がしたいって思っていたんです」
「お礼……?」
「はい。あんな寒いとことから助けてもらって、うれしかったんです」
そうだったんだ……。でも、それと人間になるのとは違う気がするんだけど……。
「なんだか、
鶴の恩返しみたいだね」
「そういうものかな?」
憂の言う通り、助けられた動物が人間になって恩返しに来るってところは似ている。
「じゃあ正体がばれたあずにゃんはいなくなっちゃうの……?」
「なんでいなくなるんです?」
あずにゃんがきょとんとしている。
「鶴の恩返しはね、正体がばれちゃって助けた人の前から去っちゃうんだよ」
「?」
憂が説明しあげたけど、猫だったあずにゃんにはわからなかったみたい。
「私はいなくならないですよ」
鶴の恩返しのようにいなくなるお約束はなさそう。よかった。
「とりあえず、あずにゃんはどうするの?」
憂が聞いた。
「どうしていいかわからないけど、私は唯に恩返しがしたいです!」
う、そんなきらきらした目で見つめないで……。かわいいよぉ……!
「じゃあ、お姉ちゃんがんばってね」
「がんばってねって……」
「だってあずにゃんの世話するって言ったよね?」
「言ったけど……」
でもそれは猫の世話なんだけど……。
っていうか、恩返しって言っているから、私があずにゃんに世話される方だと思うんだけどなぁ……。
「唯、私、何したらいいかな?」
あずにゃんに見つめられると何だかドキドキする……。
「ねぇ、唯?」
「……あ、何!?」
「どうしたの?」
か、顔が近いよ……。
「顔が赤いよ?」
「な、何でもないよ!」
はぁ……、どうしちゃったんだろう、私。
「……」
「じ~……」
「……」
「じ~……」
「……あずにゃんどうしたの?」
「いや、何か恩返しをしたいと思って……」
「だからって、そんなに見られていたら勉強できないよ……」
あずにゃんが机の縁あたりからひょこっと私を覗いている。さっきからずっとこの調子だ。
「だって唯が何も言わないんだもん」
ほっぺを膨らませて不機嫌なあずにゃん。かわいすぎて存在自体が恩返し級だよ!
……なんて言えない。
「あずにゃんは、あずにゃんでいてくれたらそれでいいよ」
「だって、折角人間になったんだし……」
「私はあずにゃんが元気でいてほしいから家に連れて帰ったんだよ? 元気ならそれでいいよ」
っていうかそれ以上されたら私、耐えられないよ……。
「あ、お姉ちゃん、あずにゃんをお風呂に入れてよね」
「は~い……、って、えええぇ!?」
私があずにゃんとお風呂!?
「だって、あずにゃん、お風呂の入り方知らないんだもの」
「まぁ、猫ですからね」
「だから、お姉ちゃんが入れてあげて?」
私がお世話するって言ったけど……、言ったけど!
「あずにゃんもお姉ちゃんとがいいでしょ?」
「はい。唯とだったら何でもいいです!」
私がどれだけ我慢しているか知っているのだろうか、この猫さんは。
「……じゃあ、入ろうか」
結局、私はあずにゃんとお風呂に入ることになりました。
初めて会った時も裸だったけど、改めてこう向かい合うとすごく恥ずかしい。
「じゃあ、洗うね?」
「うん」
体を洗うという行為が猫にはないので、私があずにゃんの体を洗うことになる。
「あっ! 泡は舐めちゃだめだよ!」
「うぅ……。変な味がするぅ」
「遅かったか……。今度から気をつけてね。あと、毛繕いとかもしちゃだめだよ?」
「あっ! そこくすぐったい……」
あずにゃんの体がびくっと跳ねる。
「ご、ごめん」
「でも……気持ちいいよ。もっとして?」
あぁ、もう、何でこうかわいい反応するかなぁ!
「じゃあ、やるよ……」
何も考えちゃだめだ! 何も触ってない! 何も聞いてない!
あ、肌がつるつるしていて気持ちいい……。
……じゃなくて! あぁ、何考えてるんだ、私いいいぃ!
「お、終わったよ」
「ありがとう……」
はぁ……、今日ほど心を無にしたことは無いよ……。どうにかなっちゃいそうだった。
……もったいないとか思ってないよ!
「じゃあ、今度は私ね……」
そういうと、あずにゃんがタオルを持って私の体をこする。
「い、いいよ別に!」
「だって恩返しをするって決めたんですから、やらせてください」
「だって、あずにゃんやり方わからないでしょ?」
「唯みたいにしますから、大丈夫です」
そして、あずにゃんは私の体をこすり始めた。
「ちょ、いきなりそこはだめ!」
「だめですか?」
「だめっていうか……。とりあえず背中からお願い」
「は~い」
びっくりした……。いきなりあんなところを触るとは……。
「どう、気持ちいいですか?」
「うん、あずにゃん上手だね」
確かに気持ちいいんだけど、正直それどころじゃない。
あずにゃんが私の敏感なところばかり洗うのはわざとなのかな?
「んしょ、んしょ……」
我慢だ、我慢だ、私……!
けど、あずにゃんはどんどん私の色んなところを洗う。
「唯に、もっと気持ちよくなって欲しいな……」
「ちょっとあずにゃん……?」
けど何だか様子が変だ。洗う手に力が無くなっていく。
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ただ、体が熱くて……」
「もう、出たほうがいいじゃない?」
あずにゃんは目も虚ろで、立っているのもやっとという感じだ。
「さぁ、出よう?」
あずにゃんをお風呂から出そうと手を掴むと、あずにゃんがびくっと跳ねた。
「あぁん!」
「うわぁ! 何!?」
叫びとも悲鳴とも思えない声を出して、あずにゃんはへなっと床に座り込んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
「ゆ、唯……」
息もあがっていて、顔も赤い。湯船に入ってはいないものの、あずにゃんにお風呂はきつかったのかも。
「唯、なんか変なの……」
「わかったから、早く出よう……?」
でも、あずにゃんには悪いけどとても色っぽい。
何だか変な気分になっちゃうよ……。
「唯……」
必死に我慢しているのに、追い打ちをかけるようにあずにゃんが私に抱きつく。
「ちょ、ちょっと!?」
「唯……」
うわ言のように私の名前を呼び続けるあずにゃん。潤んだ目で私を見つめる。
「あ、あずにゃん……」
自然と手があずにゃんの肌に触れる。
「ひぅ……!」
「わ、ごめん!」
「だめ……。もっとして……?」
私の手を引いて、さらに抱き寄せる。
「はぁ……はぁ……」
もう、限界だった。
「あずにゃん……!」
「唯……!」
「あずにゃんが悪いんだからね……? あんな声出すから……」
「ちょうだい。唯をちょうだい……」
そこから先はあまり覚えていない……。
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
「あ……なんとか……」
結局私は色んな意味でのぼせてしまって、心配して見に来た憂に助け出された。
ぐったりしている所を見つかってよかった……。
最中に見られたら、どうなっていたことか。
「唯、ごめんなさい……」
「いいよ、私も悪いし……」
これからはお風呂に入る時は気をつけようと思った。
あとからわかったことだけど、あずにゃんはあのとき発情期だったらしい。
定期的に来るので私も困っている。
あんな感じに迫られたら我慢が……。
ただでさえこんななのに、あずにゃんの恩返しはまだ終わらない……。
END
- うん、そのまま結婚しちゃえ(爆) -- (通りすがりの百合スキー) 2010-12-09 01:27:24
- もう飼うじゃないな -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 06:55:14
最終更新:2010年12月08日 09:41