11月26日。
私は風邪をひいて寝込んでいた。
「こんな時に風邪ひいちゃうなんてな……」
明日に向けて色々準備していたのに、こんな状態じゃ明日唯先輩の家に行けないよ。
「はぁ……」
色々考えても仕方が無い。とりあえず寝て、明日までに治しておかなきゃ!
そう思い、私は目を閉じた……。
「う~ん……」
誰かの気配がする……。
「あ、
あずにゃん起きた!」
「ゆ、唯先輩!?」
起きてみると、ベッドの傍らに唯先輩がいた。
「ど、どうして……」
「いや、あずにゃんが寝込んでいるって聞いて飛んできました!」フンス!
いつの間に来たんだろう……。
「だめですよ、私の風邪うつっちゃいます……」
「大丈夫だよ。私にはおミカン様がついているからね!」
そういえばそんなこと言っていたな……。
「あずにゃんにもあげよう」
そう言うと、唯先輩はみかんをひと房私に差し出した。
「い、いいですよ……」
「そう遠慮せずに……」
「うぅ……」
私はみかんを口に入れてもらった。
「おいしい?」
「おいしいです……」
甘酸っぱい果汁がおいしい。いがいがと痛い喉でも気持ちよく飲み込める。
「では、もう1個……」
「も、もういいです。自分で食べます!」
「あずにゃんは病人なんだからおとなしくしていて?」
「……もう」
私はそれから唯先輩にみかん1個を食べさせてもらった。
「だいぶ楽になったみたいだね?」
「はい、熱もそんなに無いようですし」
「でも、寝てなくちゃだめだよ?」
「はい、そうします……」
「おやすみ……あずにゃん」
「おやすみなさい……」
「……はっ!」
私は急に目が覚めた。
時計の針の音がよく聞こえる。
まわりを見回しても誰もいない。
「夢か……」
唯先輩がお見舞いに来るなんて、私もとんだ夢を見たものだ。
「喉、乾いた……」
私は台所に水を取りに行った。
「あ、あずにゃん起きた!」
……あれ?
「今おかゆつくっているから待っていてね」
うちの台所で唯先輩がおかゆを作っている。
……これも夢?
私はほっぺをつねってみた
「……いひゃい」
「何しているの? あずにゃん」
「……唯先輩こそ、何しているんですか」
「いや、あずにゃんのお母さんがいたんだけどね、仕事ができちゃって出かけたの」
だからお母さんがいないのか……。
「それで晩ご飯なかったから、作りました!」
じゃあ、あの時唯先輩が来たのは夢じゃなかったのか……。
「そうだったんですか……。ありがとうございます」
しかし、唯先輩が料理をするとは……。
「さぁ、どうぞ?」
「おかゆの上に目玉焼き……?」
「これがおいしいんだよ~?」
「はぁ……、いただきます」
おかゆを掬って口に入れた。
「あ、おいしい……」
「でしょ? おかわりもあるからね」
唯先輩、明日誕生日なのにこんなことしていていいのかな……。
おかゆを食べながらそう思った。でも、こうやって気にかけてくれているのはとてもうれしい。
でも、時計を見るともう8時を過ぎている。明日がいくら休みだからといってこんな時間までいるのはまずい。
「唯先輩、帰らなくていいんですか?」
「大丈夫、今日お泊まりしてくるって言ってあるから」
「何ですと!?」
「だって、あずにゃん1人だし、お母さんに頼まれちゃったし……」
お母さんめ……なんてことを頼んでいるんだ。
「でも、何だか悪いですよ……」
「気にしないで。私がしたいからしているだけだから」
そう言ってにこっと笑う唯先輩。
「風邪うつっても知りませんよ?」
「大丈夫だよ。私にはおミカン様がついているからね!」
本当にこの人には敵わないな。ただいてくれるだけで元気になる気がする。
その後の片付けも全部唯先輩がやってくれた。
「さて、そろそろ寝ようか」
「……何で私の部屋で寝るんですか?」
「だってあずにゃんの部屋しか寝られないよ」
「別にリビングとかでもいいじゃないですか」
「あそこは寒いし、あずにゃん心配だし」
……本当に風邪がうつってもいいのだろうか?
「もう、知りませんよ?」
「うふふ、本当は嬉しいくせに~」
「からかわないでください」
でも、嬉しいのは本当だ。こんなときに独りだと心細くてしょうがない。
「唯先輩……」
「なぁに?」
「……今日は、ありがとうございます」
「……ふふふ、どうしたの急に改まって?」
「だって、唯先輩……」
「いいの。あずにゃんは気にしないで?」
「そうじゃなくて……」
「?」
時計を見ると、あと10秒で12時になろうとしている。
「だって、唯先輩……」
「私が何?」
「今日、誕生日じゃないですか」
そう言った途端、長針と短針が出逢った。
唯先輩が時計とカレンダーを確認して、あぁ、と納得した顔をした。
「そうか、だからあずにゃんがあんなに悪そうな顔をしていたのか」
「そうですよ。……唯先輩、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。あずにゃんがお祝い一番乗りだね!」
「そうですね……」
私が一番乗りか……。なんだか照れくさいな。
「明日……じゃなかった、今日か。今日は元気になって、私の家に来てね?」
「はい。絶対行きます」
「
プレゼント楽しみだな~」
「あ、あんまりハードル上げないでください……」
「あずにゃんのだったら何でもいいよ。何だったら風邪でもいいよ!」
「何言っているんですか、もう」
誕生日に風邪をうつすなんて、相当ひどい事だと思いますけど。
「あずにゃん、元気になってね?」
「唯先輩がいてくれますから、大丈夫です」
「おおぅ、嬉しいこと言ってくれるねぇ」
「……本当のことですから」
「うふふ……、おやすみ、あずにゃん」
「おやすみなさい……」
今日はお礼を込めて、いっぱい唯先輩をお祝いしてあげよう。
そう決心して私は眠りに落ちた。
END
- この状況で「風邪をうつす」と言う事は最も効率的な方法で粘膜感染…唯ちゃん大胆♪(激違 -- (通りすがりの百合スキー) 2010-12-09 01:34:49
最終更新:2010年12月08日 09:41