一ヶ月がすぎた

季節はもうすぐ夏

新しい教室に、新しいクラスメイト

あれから一ヶ月がすぎた

部室の雰囲気は変わった

憂と純の協力もあって新入部員も入り、部活には活気がある

真っ白だったホワイトボードは練習予定でびっしり埋まり

ミーティングにはお茶をしてみんなと盛り上がった


教師「みなさんは今年大きな壁を乗り越えなければなりません。受験です」

梓(今日の授業は…、数学と世界史と化学はちゃんと受けなきゃ。それ以外はあんまり受験に関係ないところだし、英単語と古典をやろう)

教師「そのためには3年生の春、まさに今このときが大切なのです」

梓(センターの過去問は家に帰ってからかなあ。今日は部活に行って後輩に練習見て欲しいって言われてたし…)

教師「長く辛い戦いになりますが、今からの準備があれば大丈夫。ですから…」

梓(はあ…)

梓(…もしも、私が先輩たちと同じ学年だったなら…)


唯先輩たちがいなくなってから、一ヶ月がすぎた


「中野せんぱい!今日は練習見てくれてありがとうございました!」


梓「ははは、いいのいいの」

「とっても勉強になりました!また練習みてください!」


梓「うん、いつでも言って」

「ほんとにありがとうございます!じゃあ、お先に失礼します!」


「おつかれさまで~す!」


梓「うん、じゃあまたね」

純「おやおや、さすが中野部長。後輩たちに慕われていますなあ~!」

憂「うん!みんな梓ちゃんみたいに上手くなりたいって言ってたよ~」

梓「ちょ、ちょっと二人とも!茶化さないでよ!」

純「おやおや、まんざらでもない様子で!中野部長!」

憂「いよっ!中野部長!」

梓「…まったく」

純「さ~て、うちらもそろそろ帰ろうよ」

憂「うん、結構遅くなっちゃったもんね」

梓「そだね、片付けるから少し待ってて」

純「ほ~い」

純「じゃあ、私ここからバス乗るから」

梓「うん、じゃあね~」

憂「また明日~」

テクテク

憂「ねえ、梓ちゃん」

梓「ん?どしたの、憂?」

憂「…最近、どう?疲れてない?」

梓「え?…いや、そんなことないよ。憂も純もいるし、後輩たちもいるし…」

憂「部活のことだけじゃなくて。いろんなこととか」

梓「…何言ってるの、憂。私は今すごく充実してるよ」

憂「私たちと一緒で?」

梓「も、もちろん!二人にはすっごく感謝してる」

憂「…そう。あ、じゃあ私こっちだから」

梓「あ、うん。バイバイ」

憂「うん。梓ちゃん、また明日ね」

梓「…」


カリカリカリカリ

梓「…」

カリカリカリカリ

梓「…ふう」

カリカリ…パタ

梓(センターの過去問、とりあえず3年分やったな…。ちょっと休憩しよう)

梓(…もう11時か)

梓(…)

梓(このままだとセンターのもN女のもすぐにやっちゃいそう。なんで私こんなに焦ってるんだろ)

梓(…)

憂『…最近、どう?疲れてない?』

梓(…)

梓(私、疲れてるのかな…)

憂『私たちと一緒で?』

梓(…先輩たちが卒業して私が一人になったとき、憂と純が入部してくれて本当に良かった)

梓(それは紛れも無い何の装飾も無い私の本当の気持ち。そして今の部活もとても楽しい)

梓(でも…)

梓(…どうしてだろう。あのときと違う。何かが足りない)

梓(…)

ピッ ピッピッピッ

『唯センパイ』

梓(唯先輩、今何してるのかな?)

梓(一人暮らし、大丈夫なのかな?ちゃんとごはん食べてるのかな?)

梓(…ちゃんと、私のこと覚えててくれてるのかな?)

梓(…)

梓(何考えてるんだろ、私…。勉強しよう)

梓(もう夜遅いし、今電話とかしたら迷惑だよ)

プルルルルルルルル....

梓「!?」

着信『唯センパイ』

梓(あ…)

ピッ

梓「…あ、あの」

唯『あ、あずにゃん?』

梓「は、はい、そうですけど」

唯『やった~!!寝てたらどうしようかと思ったよ!って、あれ、もしかして勉強中だった?』

梓「まあ、そうですね、勉強してましたけど…」

唯『ええ!お邪魔だったかな!?ごめんね、じゃあもう切った方がいい?』

梓「い、いえさっき一段楽したとこです!少しなら大丈夫ですから!!」

唯『そ、そうなの?よかった~』

梓「…それで、どうしたんですか?急に?」

唯『ううん、特に用はないんだけど、あずにゃんそろそろ疲れてるころじゃないかな~と思って!!』

梓(…え?)

梓「…私が疲れてるって、どういうことですか?」

唯「え?なんとなくそう思っただけなんだけど…。あずにゃん、頑張り屋さんだし、きっと勉強に部活に無理してるだろうな~と思って」

梓「!? 今の私はすごく充実してますよ!何って言ったって、部長ですからね!!」

梓(何言っちゃってるんだろう、私…)

唯『そうなんだ。あずにゃんは充実した高校生活をすごしてるんだね!』

梓「もちろんです!当たり前じゃないですか!」

梓(あああ…、大うそつきだ、私…)

梓「そういう唯先輩は大学生活、どうですか?」

梓(…どうせ、唯先輩たちは楽しんでるんだろうなあ)

唯『私?』

梓「はい…」

梓(どうせ、私のことなんか)

唯『私は、寂しいよ?』

梓「そうですよね、実は私も…って、ええ!??」

梓(唯先輩が寂しい?…なんで?)

梓「唯先輩、…どうして?」

唯『あずにゃん』

梓「はい…?」

唯『私たちは5人でひとつだよね』

梓(…)

唯『あずにゃんがいない大学生活なんて考えられないよ。こんな生活何も楽しくない』

梓「唯先輩、やめて…」

唯『あずにゃん、どうして、私たちは一緒じゃないのかな…?』

梓「…唯先輩、すいません。そろそろ私は勉強しないといけないので」

唯『え!あずにゃん!?』

梓「すいません、唯先輩。おやすみなさい…」

唯『あ、うん…。おやすみ…』

ピッ

梓(…)

梓(唯先輩…)

梓(…だって)

梓(どうしようもないじゃないですか…)

グスッ

キーンコーンカーンコーン

梓「zzz」

教授「では、午前の授業はここまでですね」

「きりーつ」


梓(あ、いけない…、昨日あれからあんまり眠れなかったから、つい居眠りしちゃった…)

憂「…」

「礼、ちゃくせ~き」


ザワザワ

梓(もうお昼か。お弁当食べよう)

憂「梓ちゃん、大丈夫?昨日は夜遅かったの?」

梓「ぎくっ…、もしかして、寝てるのバレてた…?」

憂「うん。だって、梓ちゃん今日は1限目から眠そうだったから」

梓「バレちゃってたか、あちゃー…。先生もわかったかな?」

憂「梓ちゃん、席目立たない位置だから大丈夫だと思うよ。ねえ、お昼ごはん食べよ?」

梓「あ、うん。どこで食べる?憂の席行こっか?」

憂「う~ん、今日はお天気も良いし、たまには外で食べない?屋上とか」

梓「そうだね、今日は久しぶりに青空だもんね。いいかも。純は?」

憂「純ちゃんは今日他の子と約束があるんだって。だから二人で食べようよ!」

梓「うん、わかった。じゃあ、行こっか」

憂「あ、ごめん、ちょっと職員室に用があるから先に行ってて?すぐに行くから」

梓「そう?それじゃあ、先に行って待ってるね」

憂「ごめんね、じゃあちょっと行ってくるね!」

梓「うん」

梓(それじゃあ、先に行ってよう…)

ガラッ 

梓(…いい天気)

フワッ

梓(瑞々しい青葉の香り)

梓(そっか、もうすぐ夏が来るんだ)

梓(春は、嫌いじゃなかったんだけどなあ…)

梓(…)

梓(よし、この辺りで場所とって憂を待とうかな)

ポカポカ

梓(それにしても本当にいい天気)

梓(ふわぁ…)

梓(疲れてたから、何だか眠くなって…)

梓(…)

梓「zzz」


梓「zz」

梓「z」

梓(…ん、私寝ちゃって…)

梓(あれ、緑の匂いに混じっていい匂いがする…。何だか懐かしいような)

じー

梓(うん?何か視線を感じる??)

パチ

梓「わわ!う、憂!?…って、え?」

「…」


ニコッ

梓(あれ、憂?違う、憂の格好がした人がいるけど、この人は…)

梓「あ…」

梓(どれだけ似ていても間違えるはずがない)

梓「ゆい、せんぱい…」

梓(いつだってこうやって現れて)

唯「おはよう、あずにゃん」

梓(いつも私の頭の中にいる…)

梓「どうしてここに…」

唯「えへへ~」

梓「っていうか、ちかいですっ!?ちょ、ちょっと離れてください!」

唯「本物のあずにゃんが目の前にいるからつい~。やっぱり本物はかわいいねえ」

梓(ほ、本物だ…。唯先輩が…目の前にいる…)

唯「あれ、あずにゃん、どしたの?もしかして驚かせちゃった?」

梓「あ、当たり前じゃないですか!どうしたんですか、その格好!…っていうか、どうしてここに…?」

唯「あ、ごめんごめん、憂に頼んで変装して侵入したんだ~」

シュル バサッ

唯「じゃ~ん、唯先輩でしたっ!」

梓「見ればわかりますよ」

唯「う…、一ヶ月ぶりなんだよ?何か他にないの?」

梓「髪、伸びましたね…」

唯「うん。あずにゃんも、何だか大人っぽくなったね」

梓「…」

唯「うわぁ~、久しぶりだなあ、この景色。最後に見たのは5人で、しかも夕焼け空だったかな?」

梓「…唯先輩」

唯「久しぶりのいい天気だから、気持ちいいね!やっぱりここからの眺めは格別だねえ」

梓「唯先輩!!!」

唯「…なあに、あずにゃん?」

梓「どうして、今日はここに来たんですか?」

唯「…これを、あずにゃんと一緒に食べようと思って」

パカ

梓「…お弁当?」

唯「そうだよ。今日のためにがんばって私が作ったの!!あずにゃん、もちろん食べてくれるよね!?」

梓「わ、私がですか!?…いいですけど。っていうか、私のお弁当もあるんですが」

唯「それは私が食べるから大丈夫!さあさあ、座って座って!」

梓「はあ…。わかりました」

ストン

唯「よいっしょっと」

ズズ

梓「唯先輩…?なんで私の後ろに座るんですか」

唯「ん?こっちの方がくっついていられるじゃん。ほら」

ギュー

梓「う、そ、そうですね…。でも、これじゃ唯先輩は食べづらいんじゃないですか?」

唯「私は後でいいよ!ほら、あ~んしてあげる!」

梓「こ、こんな姿勢で…」

唯「じゃあ、まずは玉子焼きからね!ほら、あ~ん」

梓(はあ…、仕方ないなあ、唯先輩は)

梓「はあ…、仕方ないなあ、唯先輩は」

唯「……あずにゃん、口に出てるよ…」

梓「ふぅ、ごちそうさまでした」

唯「えへへへ、どうだった?」

梓「とてもおいしかったです。ホントに唯先輩が作ったんですか?」

唯「そうだよっ!!まあ、憂にちょ~っとだけ手伝ってもらったけどね!」

梓(やっぱりね。でも…)

梓「…ありがとうございました」

唯「え?」

梓「お腹いっぱいになったら眠くなってきました」

トスッ

唯「ふおおっ!?」

梓「…少し、このままでいてもいいですか?」

唯「…うん」

梓「…」

唯「…」

梓「…」

唯「…」

梓「…唯先輩の、心音がします。ホントに唯先輩がいるんですね」

唯「こんなにくっついてるのに信じられないの?」

梓「だって…」

唯「…じゃあ、こうしよう」

ギュ

梓「あ、唯先輩…手…」

唯「こうやってくっついて、こうやって手を繋ぐと、全身の体温が伝わって、もうあずにゃんとひとつになったみたいだね」

梓「この繋ぎ方、ちょっと恥ずかしいですね…」

唯「組み体操、みたいだね」

梓「どんなですか…。でも、唯先輩の手、温かいです」

唯「そうかな?あずにゃんの手も温かいよ」

梓「…今日はすいませんでした」

唯「…どうして謝るの?」

梓「今日は、私を慰めるために来てくれたんじゃないんですか?私の勘違いですか?」

唯「そうだよ。私が会いたいから来たんだよ」

梓「そうですか…。まあ、何だっていいです。こうやって来てくれたんですから」

唯「むー…、何か投げやりな言い方…」

梓「……………んです」

唯「え?」

梓「照れくさいんです」

唯「…そっか」

梓「…」

唯「…」

梓「…」


梓「…はい?」

唯「迷惑、だったかな?」


唯「うん?」

梓「昨日はすいませんでした。だから、だからそんな寂しいこと言わないで…」

唯「あずにゃん…」

梓「私、そんなにしっかりしてないんですよ…」

唯「…」

梓「唯先輩たちがいないとダメなんです。だから、来年になったら私も…」

唯「…そう。じゃあ、約束しよう」

梓「え?」

唯「あずにゃんががんばれるように、また会いに来るね」

梓「…それなら、私も約束します」

唯「…」

梓「来年、必ず会いに行きますから」

唯「…待ってるよ。4人で」

梓「…はい」

唯「それにしても、唯先輩〝たち〟かあ~…」

梓「!? そ、そういう意味じゃなくてっ!いや、そう意味なんですけど…でも違うんです!」

唯「あはは、わかってるよ~あずにゃん♪」

梓「! 知りません…!唯先輩のばか…!」

唯「ありゃりゃ、ご、ごめんね~あずにゃん」

梓「知りません」

唯「…だって、私だって確認しないと不安なんだもん」

梓「え?」

唯「あずにゃんのばか」

梓「あ、あのっ!唯先輩っ!!」

唯「な~んてね、あずにゃん、顔真っ赤だよ~!」

梓「くぅ…」

キーンコーンカーンコーン

唯「あ、予鈴だ。あずにゃん、そろそろ戻らないと怒られちゃうよ~」

梓「あ、いけないっ!行かなくちゃ!」

唯「うん。じゃあ、あずにゃん、またね」

梓「あ、戻る前に…」

唯「ん~?忘れ物~?」

ギュ

梓「唯先輩分充電するの忘れてました」

唯「はわわっ!!」ボッ!

梓「やっぱり唯先輩はあったかいです」

唯「あずにゃんばっかりずるい!!私もあずにゃん分充電する!!」

キーンコーンカーンコーン...

梓「あ、ちょっと唯先輩!もう行かないと!」

唯「まだだめ~」

梓「唯先輩っ!!」

唯「先に火をつけたのはあなたでしょ~♪」

梓「あああああああ、もうっ!!!!」

教師「それでは、今のところは重要なのでよく復習しておくように」

キリーツ レイ チャッセーキ

純「ふわああ」

梓「今日も眠そうだねえ、純」

憂「梓ちゃん、純ちゃん、部活行こ~!」

純「え~!今日はミーティングでお茶にしようよ~!」

梓「ダメだよ!後輩たちもいるんだからしゃきっとしないと!!」

純「へえへえ、さすが中野部長、お元気ですねえ~」

憂「さすが中野部長~!」

梓「ほらほら二人とも、行くよっ!!」




あれから、一ヶ月と少しがすぎた

季節はもうすぐ夏

私と唯先輩は、今は離れたところにいるけれど

私と唯先輩は、少しだけ距離が近づいた


END


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最終更新:2011年02月09日 22:52