「それでは後輩の成人を祝って、かんぱああぁい!」
「かんぱああぁい!」
りっちゃんの声に合わせて、グラスのキンとした音が響き合う。

今年は、あずにゃん達の成人式。

憂と純ちゃんと一緒に会場で写真を撮ったりして、帰ると思っていたら成人祝いということで私の家で飲み会をすることになった。
「梓は大人になってもあんまり変わらないなぁ~」
「っ!? 律先輩にだけは言われたくありません!」
「私は身長のことを言っただけだぜ~?」
「胸見てたじゃないですか!」
「りっちゃん、あんまりちょっかい出しちゃだめだよ。それに……」
「それに、何だよ?」
「あずにゃんはこのままでいいんだよ!」
私は思い切りあずにゃんにダイブする。
「わっ! ちょっと、お酒零れちゃいます……」
「零れる前に飲んじゃいなよ~」
「わ、私飲むの初めてなんですよ。そんなすぐに飲めません」
「じゃあねぇ……」
私は自分のグラスのお酒を口に含むと、あずにゃんの唇に迫る。
「ちょ、ちょっと! 自分で飲みますから!」
「ん~、ごっくん……。ちぇ~、飲ませてあげようと思ったのに~」

「唯先輩、もう酔っているの?」
「まだ全然酔っていないと思うけど」
「シラフでこれ!?」
純ちゃんはあきれるやら羨ましいやらで、少しお酒を呷った。
「うん。でも、ちょっとはしゃぎ過ぎかもね」
「唯はお酒は強いからあんまり心配しなくてもいいけどね」
憂と和ちゃんも苦笑するしかなかった。
「まぁ、ほどほどに飲めばいいよ。気持ち悪くなったりしたら大変だしな」
澪ちゃんはあまり飲めないため、水割りをちびちび飲んでいる。
「なぁにを言っている! ここで存分にお酒に慣れておけばだなぁ……、あだっ!」
「無理に飲酒を勧めるな!」
「べ、別に進めてないでしゅ……」
「相変わらずね、りっちゃん」
ムギちゃんがニコニコしながら持ってきたお酒の瓶を出していく。
「今日はあんまり強くないのを持ってきたから、憂ちゃん達も飲めると思わ」
「ありがとうございます」
「さて、飲むぞ~!」
「律、お前は自重しろ!」


それから1時間後。

弱いお酒だけだったけど、かなりの量を飲んでいたらしく全員すっかり出来あがってしまっていた。
「律ぅ! こっそり私のグラスにお酒を注ぐな!」
「何がだ~?」
「何がだ~? じゃない! 私、お酒弱いのに……」
「えへへ~、いいじゃんいいじゃん。今のうちに慣れておこうぜ~」
「もう、そんなに酔わせてどうするつもりだ……」
その言葉にりっちゃんがぴくっと反応し、とろんとした目で澪ちゃんに近づいた。
「わからない?」
「……何がだ」
「女の子を酔わせる時っていうのはな、その子が欲しい時なんだよ……?」
「っ!?」
手を重ね合わせて、2人が何だかいい雰囲気になっていく……。

「う~い~」
「ちょ、ちょっと純ちゃん……。あんまり抱きつかないで……」
「いいじゃ~ん、私と憂の仲でしょ~?」
「ちょっと、憂に何しているのよ」
和ちゃんがちょっとむすっとした顔で、純ちゃんを睨む。
「和先輩には関係ないでしょ?」
「憂が嫌がっているじゃない」
「そんなことないもん。ねぇ~?」
純ちゃんがさらに憂にすり寄っていく。
「あっ……、えっと……」
「わ、私だって……」
和ちゃんも負けじと憂の手まで握ってすり寄っていく。
「ちょっと、2人とも……。あんまり寄りかかられると……。あっ!」
どさりと3人で倒れこんで、こっちもこっちでいい雰囲気に……。

「あらあら、あんまり強いお酒は持ってきていないんだけど……」
そういいながらムギちゃんがビデオをまわしている。成人式のパーティーだからまわしていてもおかしくないけど……。
あれ? まぁいいか……。ぼーっとするしね……。
私はグラスに少し残っていたお酒を一気にあおる。
一方、あずにゃんはと言うと……。
「はぁ……」
顔を赤らめて、ため息を漏らしていました。


「……」
まったく、みんな酔った勢いでこんな……。
……ちょっとうらやましいかも。
「……私も~」
ちょっと構ってほしくて、りっちゃん達の桃色空間に突っ込んでいく。
「ちょっと、今行ったら……」
あずにゃんが止めようとしたけど、体が思うように動いていない。結構酔っているらしい。
「おぉ、唯。どうしたぁ~」
「澪ちゃんばっかりずるい~、私も~」
いつもと雰囲気の違うりっちゃんがほんわかした感じで笑いかける。
「はぁ……、びっくりした……」
澪ちゃんは解放されて一息ついているときに、私はりっちゃんをがしっと掴む。
「むちゅちゅ~」
「わっ、ちょっと、ダメだってば~」
いつものようにふざけてじゃれあう。
ふふふ、りっちゃんかわいいなぁ~……。
よし、もうちょっと押してみようかな。
「ちょ、唯……。どうした……?」
酔っているにも拘わらず、あまりにも私がしっかりと肩を掴むのでりっちゃんが狼狽する。
「ねぇ……」
舌をちょっと出して、囁いてみる。
「な、何?」
「だめ……?」
私の魅力だったらりっちゃんなんてイチコロよぉ~!
「え、あ、いや……、その……」
酔っているせいなのか、それとも 別な原因なのか顔が赤いりっちゃんを押し倒していく。
「ま、マジでダメだって。なぁ……唯……」
慌てちゃって、りっちゃんったら。うふふ~。
「うおぁっ……! なぁに?」
急に肩を掴まれて、りっちゃんから引きはがされた。
「律が嫌がっているだろ?」
なぁんだ、澪ちゃんか。ちょっと怒っているらしいけど、その顔もかわいいよぉ……。


「なぁに?」
「えっと……」
澪ちゃんが何か言いたげな顔で、もじもじしている。
……あ、わかった!
「もう、みおちゃん。さびしいならいってくれればいいのに~」
「わっ、違うって!」
「みおちゃん、むちゅちゅ~」
「わあああぁ!」
ふわふわした気分の中で、私は澪ちゃんを押し倒していた。
「うふふ~」
「だ、だめだって……!」
もう冗談なのに真剣に嫌がっちゃって……。ちょっとやり過ぎちゃったかな。
「ごめんごめん。やめますからぁ~」
澪ちゃんから離れないと……。あれ?
「は、はわぁ……」
「ゆ、唯……?」
あ、頭がくらくらするぅ……。ちょっと飲み過ぎたかも……。
「大丈夫か?」
「あ、ぜんぜんよっれませんよ?」
「まったく。ほら、手貸してやるから」
澪ちゃんが私の体を支えてくれているけど、ふらふらして座れないよぉ……。
「あ、ありがと、みおひゃん」
「わっ、ちょっとよりかかるな……!」
「わああああぁ……」
どたーん!
「!?」
う~ん、いったぁい……。頭がくらくらするぅ……。
ぼーっとして目を開けると、目いっぱいに澪ちゃんの顔がある。
「……」
あ、あれ? どうなったんだろう……。
あぁ、まずい……。眠くなってきた……。
誰かが呼んでいる気がするけど、眠い……。
ま、いいかな。家だし。おやすみなさ……い。

━━━
「ううううぅ……。あたまいたぁい……」
翌日。
結局私はリビングで朝まで寝てしまっていた。
「寒い……」
肌寒さを感じて、私は毛布にくるまったまま起き上がる。
リビングにはお酒の空き瓶や、お酒を拭いたのだろうか、布が散乱している。
うっすらと明るいリビングを見回しても、誰もいない。
「みんな……、どこいったの?」
何だか喉も痛いし……。焼けちゃったのかなぁ。
と、とりあえず水でも……。
「……んっ?」
よく見ると、少し離れたところに毛布の固まりがある。
「あ、あずにゃん……」
あずにゃんが毛布にくるまって、水を飲んでいた。
「……唯先輩」
ちょっと腫れぼったい目。寝不足なのかな。
「あぁ、ごめんね? 私、酔い潰れちゃったみたいで……ははは」
きっとみんなに迷惑かけたんだろうなぁと思っていると、あずにゃんはむすっとしてグラスの水を飲む。
「あずにゃん……。どうしたの?」
肩をわなわな震わせて、あずにゃんがそっぽを向く。
まずい。私、酔った勢いで何かしちゃったんだ……!
「あの……、とりあえずごめんなさい!」
くらくらする頭を何とか下げて、あずにゃんの様子を見る。
「……本当にそう思っているんですか?」
「えっと、とりあえず昨日何があったのか教えてください……」
ぼんやりとしか覚えていないんだよね。えっと、確かりっちゃんと澪ちゃんに何かしたような……。
「……っ!」
「わっ! ほ、本当にごめんなさい!」
キッっと睨むあずにゃんの顔、怖いよぉ……。
絶対何かやったんだ。しかも、あずにゃんが嫌がるようなことを……。
「……ばかっ」
あぁ、これは相当機嫌が悪いようです。
一体何をやったんだろう……。
……。
あっ……。
昨日意識を失う前のことを思い出した。
りっちゃんと澪ちゃんにキスを迫ったんだっけ……。
ふざけただけだったのに、体勢を崩して澪ちゃんのほっぺには本当にやっちゃって……。
本当に冗談では済まないことになってしまっていた。
私のせいで、飲み会が楽しくなくなっちゃったんだろうな……。
「……あずにゃん、昨日のことで怒っているんでしょ?」
あずにゃんがぴくっと跳ねる。やっぱりそうなんだ……。
「あれは、酔っていたからなんだけど……、その、やったのは事実だし……」
あずにゃんは何も言わず、背を向けて水を飲み続ける。
「責任はちゃんと取るから、そんなに怒らないで下さい……」

あずにゃんはゆっくりとこっちに振り向いた。
「……責任をとるって、どうするつもりなんですか」
「それは……、これから考えます……」
我ながら情けないです。
こういう時は、やっぱり私が何かおごったりすればいいのかな……。
「私、初めてだったんですよ?」
「台無しにしてしまって、すみません……」
初めての飲み会でいきなり酔い潰れたりしたら、嫌なイメージついちゃうよね。
はぁ、修復までに時間がかかりそうだ……。
「私、なんでもするから……」
あずにゃんは、毛布にくるまったまま私を見つめる。
しばらくの沈黙の後、あずにゃんが口を開く。
「……じゃあ、キスしてください」
あぁ、キスね。キス……。
キス!?
「……へ?」
い、一体何を言いだすかと思ったら、キスぅ!?
あずにゃんが自らキスをねだるだと……!? 何かの間違いだ! いや、これも夢か!?
ああああぁ! 一体どういうことなのぉ!?
「……昨日あんなにしてきたくせに」
き、昨日!? あずにゃんにはしていない気がするんだけど……。
思い出そうとしてあずにゃんから視線をそらすと、薄いピンクの布が見えた。
「……?」
その布は明らかに雑巾とかの類じゃなくて、もっと薄くて、えっと、そうだ、ショーツのようで……。
……ショーツ? よく見つめてみると、確かにショーツだった。ショーツが何でこんなところに?
しかも、まだまだ布は落ちている。どれも見たことのあるような……。
……あっ!?
私は気を失うまでの行動の続きを思い出して、一気に酔いが醒めた。
あの後、私はあずにゃんに迫って、挙句の果てに服を剥いでそのまま……。
血の気が引いた。
人生で初めて本当に血の気が引いた。
あ、あわわ……。これは本当に取り返しのつかないことをしてしまった……!

「あ、あの……、えっと……」
勢いに任せてあずにゃんと……、しちゃったんだ……。
「唯先輩……」
あずにゃんは私がキスをするのを待っている。
もうどうしていいのかわからないよぉ!
「……やっぱり、酔った勢いでしたんですね」
「違うよ! 私は、本当に……」
……本当にあずにゃんのことが好きだ。これは嘘じゃない。胸を張って言える。
「でも、お酒の勢いでこんなことになって……、ごめんなさい」
私はただ謝るしかなかった。あずにゃんのことを襲った挙句に汚してしまった。
「……信じていいんですね?」
あずにゃんの真剣な眼差しが私を射る。
「……うん。あずにゃんがよければ」
私がしたことだもん。私が責任を持たなくちゃ……。
「じゃあ、ちゃんとしてください」
あずにゃんが目を閉じて、唇を差し出す。
「……いいの?」
「唯先輩が本当に私のことが好きなら……、いいですよ」
私は、戸惑いつつもあずにゃんの肩を掴んだ。
「あずにゃん……、ありがとう」
私はあずにゃんにキスをした。
「んっ……、んぅ……」
「ちゅ……、はぁ……」
舌を絡ませる大人のキス。酔いのせいもあるのか、頭がぼーっとしていくる。
そっと唇を離すと、あずにゃんの顔が赤く染まっている。
「唯先輩……私……」
「えっ……?」
どたっという音と共に、ぐるりと視点が変わる。
「ちょ、ちょっと……」
はらりと毛布がはだけると、あずにゃんの胸が目に入った。
「わっ! あ、あずにゃん……」
恥ずかしくて目を覆うとしたけど、その手はあずにゃんにがっちりと掴まれていた。
「責任、取ってくれるんですよね?」
お互いに裸同然で、こんな状態だと私だって……。
「や、優しく……、って言える立場じゃないか」
「……いっぱい、い~っぱいしてあげますね」
あずにゃんのその淫らな笑顔に、私は不覚にも期待してしまうのだった……。

END


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最終更新:2011年02月09日 23:27