チクタクチクタク
時計の音だけが部屋に響く。
私の目の前にはちょっと緊張している
あずにゃん。
……私も実は結構緊張してたりするんだけどね
「えっと……あずにゃん、今日からよろしくね」
「こ、こちらこそ!よろしくおねがいします!!」
晴れて私達と同じ大学に進学したあずにゃんは、今日から私と一緒に暮らし始める。
いわゆる『ルームシェア』ってやつ。
「そ、そんなに緊張しなくてもいいよぉ~」
「ゆ、唯先輩だって、緊張しているじゃないですか」
「ま、ま~ね~」
チクタクチクタク
うぅ……間がもたないって、こういった状態を言うんだね……
どうしたらいいのかなぁ……昨日まであんなに色々と考えてたのに、何一つ思い出せないよぉ
「あ!あの!!」
「な!なに!?」
「取り敢えず、役割分担、きめませんか!?」
「そ、そうだね」
あぅ……あずにゃんに先手を取られちゃった……
ま、でも……おかげでちょっとだけ落ち着けたかな?
「えっと~、何があるかなぁ?」
「ご飯係がありますね」
「それと、お掃除……洗濯……」
「そんなもんじゃないですか?」
「んじゃ順番に決めてこうか」
「はい!」
そんなこんなで私達の『ルームシェア』がスタートした。
最初のうちは戸惑う事が多かったけれど、それも徐々に慣れてきた。
でも、一つだけ。
『ルームシェア』を始めてからあずにゃんに抱き着く回数が激減した。
激減ってのはおかしいかな?
だって、全く抱き着いていないから。
傍に居るんだから、いつでも抱き着けるのに……なんでだろう、とても怖い。
だって
もし抱き着いて
拒絶されたら
全てが壊れてしまいそうだから
……あずにゃんはどう思ってるのかなぁ?
変に思われてなきゃいいけど……
でも、ついにその時がきた。
私が抱き着くのを我慢できなくなった……わけではない。
「ごちそうさま~、美味しかった~!」
「おそまつさまでした」
「あずにゃんも随分と料理上手になったねぇ」
「まぁ……流石に回数こなしてますし……」
「そだね~。……もう一ヶ月かぁ~、早いねぇ」
「そう……ですね」
そう言ったきり、あずにゃんは黙ってしまった。
……どうしたんだろ?
「……どうしたの?」
「あの……唯先輩」
「ん?」
「変な事を聞きますけど……どうして……一度も……」
「……一度も?」
「どうして、一度も、だ……抱き着いてこないんですか!?」
「……へっ!?」
「わ、私……グズッ……なにか……いけないこと……ヒック……しましたかぁ?」
「そ、そんな事無いよ!」
「嘘!!」
「う、嘘じゃないよぉ」
「だって……エグッ……一緒に……暮らし……始めてから……ヒック……一度も……抱き……グズッ……着いて……こない……ウゥッ……から……」
……私は、何を恐れていたんだろう
……私は、どれ程愚かなんだろう
大切な……大事な……
大好きな子を泣かせてまで
一体何を守りたかったの?
守るどころか……
壊しているじゃない……
「あずにゃん!」
「……グズッ……」
私に出来る事はただ一つだけ
それは、あずにゃんが求めていた事
私が臆病であったがために敢えて封印していた事
「唯……先輩……?」
「今まで……こうしてあげなくて……ごめんね……」
「……エグッ……唯先輩……グズッ……ゆいせんぱーい!!!」
あずにゃんは私の腕の中で泣きつづけた。
私はその頭を優しく撫でつづける事しか出来なかった。
「わた……わたし……グスッ……不安で……なにか……いけな……ウゥッ……いけないこと……したんじゃないかって……」
「そんなことないよ……悪いのは全部……私」
「
ゆいせんぱい……が?」
「そう。……私ね、怖かったんだ……。もし、あずにゃんに抱き着いて、嫌がられたら……グズッ……」
「……グスッ……そんなこと……あるわけないじゃ……ないですか」
「でも……」
「……私は……唯先輩に……抱きしめられるのが……好きなんです……」
「あずにゃん……ヒック……ホントに?」
「はい……だから……グスッ……もう泣かないでください……」
「あずにゃんだって……まだ……泣いてるじゃん」
「……これは……嬉し涙です……」
「……グスッ……そっか……」
その後も暫く私達は抱き合っていた。
お互いの呼吸、体温、感触、それら全てを確かめるかのように……。
「あの……唯先輩」
「……な~に?」
「
これからは……いつでも抱き着いてきて構いませんからね……」
「……いいの?」
「……唯先輩だけの……『特別』……ですから」
「そっか……ありがとう」
「あ!でも、お風呂とかベッドとかではダメですよ!」
「えぇ~?」
「『えぇ~?』じゃありません!そういったのは、ちゃんと……ちゃんと、お付き合いし始めてからです!」
「……へっ!?」
今……なんと?
「あ、私お風呂入ってきますから!食器洗いお願いしますね!」
私が呆気に取られている間に、あずにゃんは私の腕から抜け出して自室へと向かって行った。
……さっきの言葉……そのままの意味でとらえちゃっても……いいのかな?
「えへへ~」
自然と笑みがこぼれてくる。
「……唯先輩……何にやけているんですか?」
「あずにゃん……のぞき見なんてしないでよぉ~」
「のぞき見って……お風呂行くのにはここを通らないと無理じゃないですか」
「……それもそうだね」
「はぁ……私がお風呂出るまでに洗い物終わらせてくださいね」
「……は~い」
「……お風呂出たら、ベッドに入るまでなら抱き着いても構いませんから……」
「うぉっ!あずにゃん大胆!!」
「……今までの分を取り返すだけです」
「……そか」
「……そうです。それじゃ、行ってきますね」
「ほ~い」
お風呂場へと向かうあずにゃんの後ろ姿を見ていたら、とある感情が芽生えている事に気が付いた。
でも、それって……私だけがそう思っているのかな?
だから私は問い掛ける。
精一杯の期待を込めて。
はにかみながらそう答えるあずにゃん。
えへへ……かわいいなぁ~
「唯先輩は……」
「ん?」
「唯先輩は、今、幸せですか?」
久し振りに見せる心からの笑顔でそう問い掛けられた。
だから私も、今までに見せたことのない最高の笑顔で答えよう。
「うん!今までに無いくらい、最高に幸せだよ!!」
おしまい!!
- あずにゃんセンパイ!さらっと告白ですか!! -- (名無しさん) 2013-08-21 20:53:36
最終更新:2011年03月05日 13:19