唯先輩達が大学に入って、今日でちょうど一週間。
私は春休みに唯先輩と約束した近所の公園に来ている。
「唯先輩……遅いな……」
この前届いたメールで、大学でも軽音部に入りそこで新たに三人の友人が出来たとの報告があった。
「夜桜見物しようよ!」って言ってたのに……忘れちゃったのかなぁ……
ここに着いてから一体何度ため息をついたのだろう、その回数すら忘れるほどのため息を私はついていた。
「夜桜って……こんなにも綺麗なのに……なんで寂しそうに見えるんだろ……」
それはきっと私のせい。
唯先輩に新しい友人が出来、私を忘れてしまうのがとても怖いからだ。
唯先輩に限って、そんな事は無いと思う……思いたい。
……でも……。
「はぁ……帰ろうかな……」
約束の時間を一時間も過ぎてしまったのだから……多分……忘れているんだよね……
あなたに会いたい
あなたに触れたい
でも……それも今となっては叶わない夢……
「エグッ……唯先輩……グズッ……会いたいよぉ……」
♪
「ハァ……ハァ……ハァ……」
もぉ!電車のばかぁー!なんで遅れるのぉー!?
あずにゃんと約束した時間を一時間も過ぎちゃったじゃん!!
「ハァ……ハァ……」
あ、あずにゃんだ!!
良かったー!間に合ったよぉー!!
「ハァ……ハァ……あれ?」
あずにゃん……なんで……泣いてるの?
私が遅刻したから?
……よし!こんな時は……
私は忍び足であずにゃんの背後に近付き思い切り抱きしめた。
「あーずーにゃん♪」
「グズッ……ふぇっ?」
「いーこいーこ」
「唯……グスッ……先輩……?」
「そーだよー、もしかして忘れちゃった?」
「……ウグッ……忘れたのは……グズッ……唯先輩じゃ……ないですか……」
「へっ?何を?」
「……私の事を忘れて……ウゥッ……新しい友人と……遊んでいたんですよね!」
「そ、そんなことないよぉ~。遅れたのは電車が止まっちゃったからだよぉ~」
「スン……本当……ですか?」
「ホントにホントだよぉ~。あずにゃんの事、一日たりとも……ううん、一瞬でも忘れた事なんてないよ」
「……本当に……グズッ……唯先輩……来てくれたんです……ウグッ……ね……」
「……当たり前じゃん……ちゃんと約束したんだから……忘れる訳ないよ」
「ウゥッ……唯せんぱぁーい……ウワァァーン」
「よしよし……」
「わた……私……グズッ……不安だったん……です……エグッ……私の事なんか……忘れて……ウゥッ……しまったんじゃ……ないかって……」
「ごめんね……不安にさせちゃって……私があずにゃんの事を忘れるなんて、有り得ないよ……」
「で……でも……楽しそうな……メール……だった……から……」
「そっか……。私はあずにゃんを安心させようと思ってメールしたんだけど……逆効果だったね……ごめんね……」
「ウゥッ……グズッ……ゆい……せんぱい……」
「なーに?」
「やくそく……して……グスッ……ください……」
「なにを?」
「私の事を……絶対に……スン……忘れないって……」
「うん、約束するよ」
「……グスッ……」
「言葉だけじゃ信用出来ないかな?」
「……はい……」
「それじゃ……これでどうかな?」
私はあずにゃんの頬に手を当て、そこに伝う涙を拭き、唇に優しくキスをした。
「……これでどうかな?」
「……はい……もう、大丈夫です……」
「あのね……私、
これから先もこの前みたいなメールすると思うんだ」
「はい……」
「でもね、どんなメールが届いたって、私は……あずにゃんの側に居るよ。遠く離れていても、それは変わらないよ」
「……でも、もしまた不安になったら……」
「その時はいつでも私を呼んで、例え地球の裏側に居たってすぐに駆け付けるから」
「クスッ……裏側からなんて……そんなに早く来れませんよ」
「エヘヘ……あずにゃんやっと笑ってくれた」
「フフッ……唯先輩が変な事言うからですよ」
「そっか~」
「そうですよ」
「エヘヘ……」
「フフッ……」
「さてと……それじゃ、気を取り直して夜桜見物しようか」
「はい!」
♪
「夜桜って……綺麗だね~」
「そうですね~」
「なんてゆーか……楽しい気分にしてくれるよね~」
「……そうですね……」
さっきまではあんなにも寂しそうに見えていた夜桜。
でも今は、本当に楽しそうに見える。
「気持ち一つで……こんなにも変わるんだな……」
「ん?何が?」
「あ、いえ……特に意味は無いです」
「そか」
「そうです。……あ、そうだ。あの、唯先輩」
「なーに?」
「もう一つ、約束してもらえますか?……来年も、ここで、夜桜を一緒に見るって……」
「来年……そうだね!あ、でも……来年だけじゃ嫌だな~」
「そうですね……来年だけじゃなくて、再来年も、その先も、ずっと、ずっと……」
「そう。ずっと……ずっと、一緒に見ようよ、ねっ」
「……はい!!」
来年も……再来年も……この先ずっと……毎年必ず見に来るからね……
私は心の中で小さく呟く。
夜桜はそんな私達を静かに見守っていた。
おしまい!!
- 綺麗だなあ -- (名無しさん) 2016-05-05 20:10:35
最終更新:2011年04月15日 22:22