───
夏休みで家に帰って来ていても、サークルの練習は忘れない。
自分の部屋でギー太を弾く。
「ギー太……。ギー太は、寂しい?」
問いかけながら弦をはじくと、悲しそうな震えが響いた。
「……そっか。そうだよね」
私はちょっとおかしくなって軽く笑った。
「私が寂しがっているんだよね」
音楽は奏でる人の心が表れる。だからこのギー太の悲しい震えは私の心……。
ビィン……、ビィン……。
「ギー太、私どうしたらいいかな」
答えを求めて弦をはじいていく。その度にギー太はいろんなメロディを奏でて私の心をくすぐる。
あずにゃんに会いたい。でも、勉強の邪魔をしたくない。
一度会えば、また会いたくなって、もっと一緒にいたくなって、あずにゃんに迷惑をかけちゃう……。
それに、この思いはしまっておこうって決めたんだ。
あずにゃんのことが好き。愛しているっていう気持ちと一緒に……。
でも、会いたい……。会いたいよ……。
「ギー太……、教えてよ。私どうしたらいい……?」
”もう、答えは出ているだろ?”
「えっ……?」
何か優しい声に囁かれた。昨日の夜と同じように……。
「ギー太……」
答えは出ている、か……。
そうだよね。答えが出ているのに踏ん切りがつかないから、こうやって君に背中を押してほしかったんだ。
「……ありがとう、ギー太」
私は携帯を取り出すと、すぐさまアドレス帳を開いた……。
───
─8月12日。
N女子大の学園祭で、私は唯を尾行していた。
さて、唯がうまく梓を呼び出してくれていればもうすぐ来るはずなんだけど……。
「あっ……」
「唯先輩……」
きれいな黒髪をツインテールにした梓が唯のもとに来た。2人ともしっかりとおしゃれして来ているじゃない。
とりあえずいい雰囲気だ……。
「じゃあ行こうか」
すっと唯が手を伸ばすと、梓が戸惑った。
「えっ……、でも……」
「いや?」
「……っ」
そして、おずおずと手を握ると、2人は嬉しそうに歩きだした。
「よしよし。このまま行けば大丈夫そうだ……」
しばらく見守っていると、2人に誰か近寄ってきた。
見た感じ知り合いではないようだけど……。
あれ? 何だか雲行きが怪しくなってきたぞ……!
「なぁ、2人とも俺たちと遊ぼうよ! せっかくなんだから楽しまないともったいないよ?」
「唯先輩、行きましょう」
「う、うん……」
「おいおい、そうつれない態度取らないでよ? 2人だけじゃ楽しくないでしょ?」
「そうそう。俺たちといたほうが絶対楽しいって!」
「大丈夫です。道を空けてください」
本当に絡まれている。助けに行かなくちゃ……!
「ねぇ、遊ぼうって言ってんの。わかんない?」
梓の手を引いて、2人を引き離していく。
「せ、先輩!」
「放してください!」
「そう怖い声出さないでさ。行こうよ、ねぇ」
私は意を決してその間に入ろうとしたら、唯が急に男の人に掴みかかった!
「放してくださいって言っているんです」
「何だよ。せっかく誘ってやっているのにさ」
ぎりぎりと唯に迫っていく男は唯の腕に掴みかかろうとした。
「危ないっ!」
しかし、唯は軽くそれを避けると腕を掴み返した!
「い、いたたた!」
「こいつ!」
もう一人の男が後ろから掴みかかった!
「くっ!」
唯はそれに動じることもなく相手の足をかかとで蹴飛ばした!
「うあぁっ!」
「あずにゃん、逃げるよ!」
「は、はい!」
唯は2人の男を撃退すると、梓を連れて逃げて行った。
「す、すごい……」
唯ったら、あんな護身術どこで覚えたんだろう。
しかし、これで梓は唯のこと見なおしたりしたんじゃないかな。
「……あれ?」
確認してみると、何故か愛の姿は戻っていなかった。どうして?
唯と梓はあんなに仲がいいのに、何がいけなかったんだろう……。
しばらくうろうろしていると、何やら人だかりができていた。
「ねぇ、どうしたの?」
「今日の目玉のライブが中止になるみたいなんだ」
「中止!?」
そうか! このライブがあったからあの2人の仲は良くなったのか! 中止になったら……!
「ちょっと、みんなライブはどうなったの!?」
「ごめんね、愛生が手を怪我しちゃってギターを弾けないんだ」
「そこを何とか! これがないとあの2人の仲が……!
「残念だがな。ギターを弾ける人がいるなら別だがな」
ギターを弾ける人……か。
ジャーン、ジャーン……。
私はステージの上に立ってギターを弾いていた。
何としてもこのライブは成功させないと……。
ギターを弾きながら会場を見ると、唯と梓がいた。
やっぱり、このライブが鍵なんだ……。
写真を見ると、愛の姿は完全に消えていて私の体が少しずつ透け始めていた。
やばい! やばいよ!
「ちょっと失礼。俺と踊らない?」
「ちょ、ちょっと!」
あっ! 梓がまた男の人に連れられてしまった!
どうしよう。ここにいる限り何もできない……。
唯に賭けるしかない!
「先輩、先輩!」
「君、かわいいね。どう? この後ちょっとカラオケにでも」
「放してください。私は……!」
まずい、力が入らなくなって来た……。
「唯先輩……!」
ゆ、唯……!
「……すみません。ちょっといいですか?」
「あ? 今、この子と踊っているんだけど……うわっ!」
ぐいと唯が梓の手を引いて、男の人から引き離した。
「先輩……」
「……行こう?」
唯が梓とどこかに行っちゃう……! 大丈夫なのかな……。
───
「ここなら誰も来ないよ」
「……何で、こんなところに?」
「2人っきりで話したかったから、かな?」
「……」
「……」
「あずにゃん……」
「何ですか?」
「夏フェスのこと、覚えてる?」
「あぁ……。私が高校2年生の時でしたね」
「あの時も、こうやって2人で音楽を聞いていたね」
「そうですね……」
「……その、ごめんね」
「何がですか?」
「あずにゃんの為だと思ってしていたことが、余計にあずにゃんを不安にさせちゃったみたいでさ……」
「あっ……」
「私、こういうこと鈍いからさ」
「……ばか」
「……うん、そうだね」
「ばか……。先輩のばかぁ……! ずっと、寂しかったんですから……!」
「ごめんね……」
まずい……。本当に力が……。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい……」
写真を確認すると、自分の姿がうっすらと透け始めていた。
もう、ダメなのかな……。ピックを握る手もゆっくりと透け始めて、意識が遠のいていく……。
唯……。
「ねぇ……」
「何ですか……?」
「キス、しようか」
「……ここまで顔近づけておいて言いますか?」
「えへへ……」
「もう……。するなら……」
「……?」
「……ちゃんとしてください」
「……わかった」
「唯、先輩……」
「梓、好きだよ……」
「……」
「んっ……」
───
「……!」
体に力が漲ってきた……!
手も透けてないし、写真を確認すると私達の姿がはっきりと写っていた。
よ、よかった……。うまくいったみたいだ!
ジャー……ン。
「いやぁ、いい演奏だったよ」
「あぁ、ありがとう。じゃあそろそろ私は……」
「そんなこと言うなよ。もう一曲やってくれないか?」
「いや、ちょっと用事があるんですけど……」
「まぁまぁ、いっちょホットな奴を頼むよ」
……ホット、ね。
みんながこんなに期待しているのに降りるなんてできないよね?
「じゃあちょっと古いけど……、あ、えっと、私が住んでいたところだと古かったってことです」
くるりとバンドの人たちに振り向くと、コード進行とリズムを伝えて後は合わせてくださいとだけ言った。
「あぁ、それじゃあ行きます」
最初はドラムから……。音が乗ったところで……!
「Please don't say "You are lazy" だって本当はcrazy 白鳥達はそう 見えないところでバタ足するんです」
「本能に従順 忠実 翻弄も重々承知 前途洋々だし… だからたまに休憩しちゃうんです」
バンドの人たちも私のギターに合わせてきてくれて、とてもいい音が出ていた。
私もそれが嬉しくって次々とテクニックを駆使して演奏した。
早弾きにタッピング、テケテケもやって私の興奮は最高潮に達していた!
キイイイイイィ……ン!
「……あ、あれ?」
気がつくと、ステージの上の私を見つめたままみんなが固まっていた。
「は、ははは……。少し先取りしすぎたみたいだね……。でも、君たちの子どもには受けるよ」
慌ててステージから降りると、唯の姿が見えた。
「あ、唯!」
「柚ちゃん、さっきのすごかったよ!」
「いやぁ、ちょっとやり過ぎちゃったよ」
「そ、それで、悪いんだけど、さっきあずにゃんに会っちゃって、それで……」
「あぁ! そのほうがいいよ! 私もちょっと用事ができちゃってさ」
「そ、そう? ごめんね」
梓の顔は本当にうれしそうで、心なしか頬が赤くなっているように見えた。
「柚ちゃん、色々とありがとう」
「いいや、こちらこそ」
「また会えるかな?」
「……きっとね」
私は2人に別れを告げると、急いで桜が丘高校に向かった。
「遅かったわね」
「ごめんごめん! ちょっと手間取って」
急いでデロリアンを用意し、エンジンをかけた。
「ずっと向こうの方に白線を引いてあるわ。この時計のアラームが鳴ったらフルスロットルでデロリアンを出しなさい」
「ありがとう、ドク」
「寂しくなるわね……。次に会うのは30年後ね」
私は堪らなくなってドクの体を抱きしめた。
「また、未来で……」
「うん、元気でね?」
ゆっくりと放してくれたドクがポケットに手を入れて、何かに気付いた。
「何? この手紙は」
「あっ……」
「30年後に開けてって……。柚ちゃん。こういうのはしちゃいけないって言ったでしょ?」
「でもその価値があるんだ! ドクの命にかかわることなんだ!」
「だめだめ! こんなので未来に悪影響が出たら、たまったものではないわ」
そう言いながらドクは私の手紙をビリビリと破いてしまった。
「もう、そんなことならこの場で言っちゃうもん!」
バリバリッ!
「うわっ!」
激しい音に驚いて見ると、木がケーブルを外してしまっていた。
「ケーブルが外れた! 私が付けてくるから柚ちゃんはケーブルを!」
「ちょ、ちょっと!」
ドクはロープを持って急いで校舎に入って行った。
仕方ない。もうすぐ10時になっちゃうし、ここは協力するしかない……!
しばらくすると、時計の近くからドクが現れた。
「これにケーブルを!」
「わかったー!」
投げられたロープにケーブルを結ぶと、ドクが引き揚げていく。
「ドクー! 言っておきたいことがあるんだー!」
「えっ!? 何ー?」
「私が未来に戻った夜に、ドクは───!」
バリバリバリィ!
「きゃあぁ!」
「うわあぁ!」
凄まじい音で雷がどこかに落ちた!
「ドクー!」
「行って! 落雷まであと4分しかないわ!」
「でも!」
「行って!」
「……っ!」
私は後ろ髪を引かれる思いでデロリアンに飛び乗った。
ドクが裏で手をまわしてくれたようで、桜が丘高校の周りの一本道は通行止めになっていた。
そこにデロリアンを指定位置まで移動させた。
いよいよ未来に帰るのだ。
ったく折角書いた手紙を破っちゃうなんて……!
もっと時間があれば、ドクを助けられるのに……。
「……時間があれば? そうだ!」
私はタイムサーキットを操作し、ドクが襲われる10分前に設定し直した。
「これでドクを助けに行ける! あとは合図を待って……」
意気込んでハンドルを握ると、変な音を立てて、エンジンが止まってしまった。
「あ、あれ?」
キーをまわしてみるけど、咳込むような音がするだけでエンジンがかからない。
「ったく、こんな時にエンスト……!?」
必死にキーをまわしてみるけどかかる気配なはい。
「くそっ! かかれ! かかれぇ!」
何度まわしてもだめだ……!
「お願い! かかって……!」
だめか……! くそっ……!
腹いせに思い切りハンドルを叩いてみた。
……ブウウゥン!
「……かかった!?」
景気よく音を鳴らし、エンジンがかかった。
私は勢いよくアクセルを踏み、デロリアンを走らせた。
───
柚ちゃんを見送った後、私は外れたケーブルを付けようと時計の辺りを登っていた。
何としても、これを繋げないと……!
ほとんどない足場を何とか歩きながら避雷針につながっているプラグを掴む。
……バキッ!
「きゃあぁ!」
あ、足場が……! 壊れた!
プラグにぶら下がり何とか堪えたけど、地上へ繋がるのを落としてしまってズボンの裾に引っかかっている。
「と、取れない……!」
手を伸ばして取ろうとすると、ビリッ! っと布が破れる音がした。
見ると、コードの重さでズボンが破れていた。
いけないわ……。このままじゃコードを落としてしまう!
「……っ!」
力を振り絞って足を上げると、コードを掴むことができた。
「よし……。これで!」
私はケーブルをつなごうと引っ張った。
「……あれ?」
長さが足りないみたいで、うまくプラグに届かない。
「うーん、うーん!」
思い切り引っ張ってみると、急にケーブルの張りが無くなった。
どうやら地上のプラグの方が抜けてしまったようだ……。
「どうしよう……」
そんなことをしているうちに時計の長針は3を差した。
それに、道路にデロリアンのライトが伸びて来ていた。
もう、迷っている暇はない!
「くっ……!」
私はケーブルを時計の針に巻きつけると、息を整えた。
「よし!」
私はそのままケーブルを伝って下まで滑って行った!
ドスンッ!
「い、いったぁ……」
何とか地上に降りられた……! 背中が痛いけど、痛がっている暇もない!
私はケーブルを木から取り外し、道路脇のプラグに刺した。
その瞬間───
バリバリバリバリイイイィ!
あまりの衝撃に驚いてしまったけど、目の前で私の繋いだケーブルに雷が流れて行った。
そして、爆発に似た光と共に道路にいたデロリアンは2本の炎の線を残して消えた……。
「はぁ……!」
どれくらい経ったんだろう。
ゆっくりと立ち上がると、私は道路に出てみた。
デロリアンの姿は無い。未来に帰れたのだ!
「……やったあああぁ!」
私は、1つのことを成し遂げた達成感に酔いしれていた……。
───
「また突っ込んだ……」
どうやら時空を超えたらしいけど、またどこかに突っ込んでいた。
デロリアンをバックさせると、いつもの見なれた町が私を出迎えてくれた。
「よかった……。もとの町だ!」
よし、このままドクのところに知らせに行かないと……。
「……あれ? またエンスト!?」
キーをまわしてもエンジンがかからない。
「ったく……。あ、あれは……!」
あの車は……、過激派の車だ!
「ちょっと、待って!」
急いで止めに行かないと!
走って行くけど、全く追い付けない! 早くしないと……!
「はぁっ! はぁっ!」
アーケードに着いた時には車のブレーキ音が響いていた。
慌てて覗いてみると、ドクが過激派の銃弾に倒れるところだった……!
「やめろー!」
私が叫ぼうと思ったら、この時間の私が叫んでいた。
そして、そのまま追われて、デロリアンに乗って逃げ回り始めた。
デロリアンは軽快にスピードを上げて、光を3回ほど放つと2本の炎の線を残して消えた。
「うわあああぁ!」
デロリアンを追ってきた過激派の車は路肩の建物に突っ込み、静かになった……。
「……ドク!」
私はアーケードに降りて行き、ドクの元に駆け寄った。
服にはいくつも穴があいていて、ドクはぴくりとも動かなかった……。
「そんな……! 嫌だよ……!」
間に合わなかった……! ドクが……、ドクが……!
「あっ……」
何だ……? 後ろの方で誰か動いている。
「はぁ……」
あ、あれ? ドクが驚いたような顔で私のことを見つめていた。
「い、生きてるの?」
むくっと起きたドクは、服を脱いで見せた。
「防弾チョッキ……!? 何で知ってたの!?」
ドクはニコニコしながら胸からあの手紙を出した。
「ドク、ずるいよ……。あれだけ未来に影響が出るとか言っておいてさ……」
「この際よ。言いっこなしってことで」
私は嬉しくなってドクの体を抱きしめた。
「送ってくれてありがとう、ドク」
「いいえ」
「
これから……、どこに行くの?」
「30年後かな? 切りもいいし」
「そっか。なら、私にも会ってきてよ」
「わかったわ」
「じゃあ、元気でね」
「すぐ戻ってくるかもね?」
軽くウィンクすると、ドクはデロリアンを走らせて2本の炎の線を残して私の目の前から消えた。
「はぁ……」
私は家に帰ってくると、自分のベッドに突っ伏してそのまま眠りに落ちていった……。
「うーん……」
朝か……。酷い夢を見たな……。
リビングに降りていくと、お姉ちゃんが朝食を食べていた。
「おはよう、柚」
「おはよう、お姉ちゃん」
何も変わってないみたいだ。よかった……。
「あ、柚、起きたの?」
玄関から新聞を取ってきたお母さんと梓さんが帰ってきた。
「うん、おはよう」
にこにこしながら2人は食卓に着いた。
「おはよう、お母さん達」
お姉ちゃんがさらっとそんなことを言った。
「おはよう、愛」
そして、お母さんと梓さんは同時に言うと、にっこり笑った。
……あれ? 今、お姉ちゃん何て言った!?
「お、お母さん!?」
あまりにもショックで少しくらっとした……。
「どうしたの、柚?」
「お、お、お母さんって……。梓さんが……?」
「そうだよ?」
そう言うと、2人とも幸せそうに腕を組んでいちゃいちゃしはじめた。
ど、どういうこと……? 唯と梓が私のお母さん!?
「愛と柚は私達の子どもなのよ。今まで黙っていてごめんなさい」
「そうだよー? あずにゃんと愛し合っていたから2人は産まれたのでーす!」
「ゆ、唯ってば……」
な、何、この桃色空間……? 甘くて胸焼けしそうだよ……。
「まぁ、話したのは1週間前だしね。受け入れられないのもわかるけど……」
そういうと、お姉ちゃんが私の肩をぽんぽん叩く。
嘘……。本当に!?
確かにiSP細胞で子どもはできるって言っていたし、法律も私が生まれる前に出来たけど……!
「最近だとそういうのも受け入れられてきているから、私達に話す気になったんだって」
「お、お姉ちゃんは何とも思わないの!?」
「そりゃあ、ちょっとあったけど。でも、あの2人を見ているとどうでもよく思えるんだよね」
少し嬉しそうにお姉ちゃんがお母さん達を見つめながら言った。
「あーずにゃん!」
「だから、そうやって呼ぶのやめてくださいよ」
「えへへ~、いいじゃん」
……まぁ、お姉ちゃんの言いたいことはわかるけど。
あの2人と見ていると、自分の考えなんかちっぽけなものに見える。
「さ、みんなそろった所で朝ごはんにしようか」
唯お母さんが嬉しそうに言うので、そのまま朝ごはんになった。
どうやら私が過去に行ったせいで未来が少し変わったみたいだ。
私が知る限りではこんなにiSP細胞で子どもをつくるというのは受け入れられなかった。
それに、私自身もそれで生まれたなんて知らなかったし……。
でも、こういう未来でも別にいいのかもしれない。
愛する2人がこうやって一緒にいられるんだから……。
「うーん、いい朝だ!」
私は外に出ると、いつもと同じ朝を体いっぱいに感じていた。
いつも退屈な大学へ行く準備も嬉しく感じられる。
さて、遅刻しない様にそろそろ行こうかな……。
キキイイイィ!
「う、うわっ!」
すごいブレーキ音と何かがぶつかった音がした。
驚いて見てみると、なんとデロリアンだった。
「ま、まさか……」
ガルウィングが開くと、中からドクが出てきた。
「柚ちゃん! 私と来てちょうだい!」
「ど、何処へ?」
「未来へよ!」
ドクはそこに捨ててあったごみをいくつか拾うと、プルトニウムを入れていたところに次々と入れていく。
「さぁ、乗った乗った!」
「待ってよ、ドク。私、今から大学に行くんだから!」
「そんなことより重大なことがあるのよ。それにこの時間に戻ってくれば問題ないでしょ?」
「そ、そうだけど、何で未来なんかに……。まさか私の未来に何かまずい事でもあるの!?」
「いや、柚ちゃんじゃないのよ。柚ちゃんの子どもがね? 急がないと手遅れになるわ」
「子ども!?」
私はドクに引かれてデロリアンに乗り込んだ。
「ドク、140キロに加速するにはこれじゃあ道路が短いよ」
「道路? これから行くところにはそんなの必要ないのよ?」
ドクが何かのスイッチを入れるとデロリアンは宙に浮いた!
「わっ、す、すごい!」
「じゃあ行くわよ! しっかりつかまって!」
そして、私はまた時間旅行に旅立つことになってしまった……!
TO BE CONTINUED……
- 何度、読み直しても面白い!唯と梓が幸せになって良かった -- (名無しさん) 2012-05-07 23:03:03
最終更新:2011年05月27日 20:39