唯「あずにゃん、私彼氏できたんだー♪とっても優しい人なんだよ!」

梓「は…?な、なに言ってるんですか!?先輩に彼氏なんて出来るわけ…」

唯「あ、デートの時間だ!それじゃまたねー♪」

梓「ちょ、待って…そんな、嫌ですよ先輩!唯先輩!!」

梓「…はぁ」

紬「梓ちゃんどうしたの?ため息なんてついて」

梓「いえ、なんでも…ちょっと嫌な夢見ちゃって」

紬「夢?」

梓「あはは…ちょっと…」

――今日私は、夢を見た。唯先輩に彼氏が出来る、そんな夢だ。

現実にあって欲しくない、一番見たくない夢をどうして見たのか、自分でもよく分からない。
けどもしかしたら…それは私の心の奥底にある不安が形になったものなのかもしれない。

そんなこんなでもやもやと考えながらお茶をすすっていると、さわ子先生が突然言った。

さわ子「あんたたち毎日部活がんばるのもいいけど、彼氏の一人や二人いないの?」

梓「ぶーーー!!」

律「梓!?」

澪「だ、大丈夫か!?」

梓「ゲホゲホ…だ、大丈夫です…」

この人は一体なにを言い出すんだろうか。
よりにもよってこのタイミングでそんな話しなくたっていいのに…

さわ子「特に唯ちゃん!あんた毎日ギターいじってばっかでいいの!?」

唯「えー?私は別に…」

さわ子「ダメよもっと青春を謳歌しなきゃ!唯ちゃんかわいいんだから、いい男捕まえて色々貢いでもらっちゃいなさい!」

唯「はぁ…」

律「いや、貢ぐって…ん?どうした梓?」

梓「い、いえなんでも…ゆ、唯先輩は彼氏なんていりませんよね?」

唯「え?あ、うん、そうだよねー」

さわ子「なんでよ?」

唯「だって私はあずにゃんと…」

梓「あ、あぁ!もうこんな時間ですよ!早く練習始めないとー!」

澪「え、まだお茶飲み始めて5分くらいしか経ってないぞ?」

梓「なに言ってるんですか!練習はいくらやったところで損はないんです!努力は嘘をつかないんです!」

澪「お、おう…?」

紬「それで、どうして唯ちゃんは彼氏いらないの?」

唯「だって私、あずにゃんとつき…」

梓「さ、さぁ唯先輩も練習練習!!皆さんもぼんやりしてないで早く準備してください!」

唯「わ、ちょっとあずにゃ…むぐぐ」

唯先輩の口を押さえつけながら、私はふと思った。
今日あんな夢を見たのは、私と唯先輩が付き合っているから、なのかもしれない…

唯「へぇ、そんな夢見たんだー」

部活が終わった後の二人きりの部室で、私は唯先輩に今日の夢のことを話した。
なんとなく、心の中にしまいこんだままにはしたくなかったのだ。
でも予想外に、唯先輩の反応はあっさりとしたものだった。

梓「へぇって…もっと真面目に聞いてください!」

唯「ごめんごめん…でも、なんでそんな夢見たのかな?」

梓「そ、それは…」

唯「だってあずにゃんは私の恋人なのにさ、私に彼氏ができる夢見るなんて変だと思わない?」

梓「…思います」

唯「だよねー、なんでかなぁ?」
梓「多分、ですけど…」

唯「ん?なに?」

梓「……」

その理由はなんとなく分かっていた。
けどそれを言葉にするのは恥ずかしいというか、自分の弱い一面を見せるようで、なかなかはっきり言うことができない。

唯「なに?あずにゃん」

梓「その…なんていうか…」

唯「なーにーあずにゃん!気になるよー♪」

唯先輩に抱きつかれて、私はようやく素直に話せるような気持ちになる。
…というか、ちょっぴり抱きつかれるのを待っていたんだけど。

梓「…私、不安なのかも」

唯「不安って?」

梓「今はこうして唯先輩と恋人同士でいられるけど…いつか唯先輩にも彼氏ができて、別れなきゃいけなくなるんじゃないかって」

唯「あずにゃん…」

梓「…でも考えてみればさわ子先生の意見も一理ありますよね。やっぱり唯先輩も私といるより男の人といる方が…きゃ」

私の言葉を遮るように、唯先輩は私の頭をすっぽりと胸の中に抱きしめた。
私は呼吸ができなくなって、唯先輩の背中を叩く。

梓「ん…んー!」

唯「…あずにゃんのバカ」

梓「ぷは…え?」

解放されて唯先輩の顔を覗くと、先輩はなんだか悲しそうな顔をしていた。
まさかこんな表情をしているとは思わなかった私は、思わずあわててしまう。

梓「せ、先輩?どうしてそんな顔…」

唯「あずにゃんは、私のこと好きじゃないの?」

梓「好きですよ!好きに決まってるじゃないですか!」

唯「じゃあ、別れなきゃいけないとか、他の人がどうとか…そういうこと、言わないでよ」

梓「え…」

唯「私、あずにゃんのこと大好きだよ?だからいつまでも一緒にいたいよ…」

梓「唯先輩…」

唯先輩は私の胸に頭を寄せた。私は優しく、その背中を抱きしめてあげる。
そうだ、私はなにを言っているんだろう…どんな夢を見ようが、それは夢でしかないのに。

梓「…ごめんね唯先輩。私…」


梓「はい?」

唯「もう一回言って?…私のこと、好き?」

梓「…はい。大好きですよ、唯先輩」

唯「ありがと…私も大好きだよ」

私の言葉に、唯先輩は安心したように私にしがみついた。そして私も、いっそう強く先輩を抱きしめる。

唯「…あ、ねぇあずにゃん」

梓「なんですか?」

唯「女の子同士って、結婚できるのかな?」

梓「…多分、日本じゃ無理なんじゃないですか?」

唯「そっかー…残念だなぁ。あずにゃんと結婚できたらよかったのになぁ」

梓「大丈夫ですよ。結婚できなくても、一緒に暮らすことはできますから」

唯「あ、そっかー!よかった♪」
梓「ですね♪」

唯「えへへ…ずっと一緒だよ、あずにゃん」

梓「…はい。ずっと一緒にいましょうね、唯先輩」

そしてまた、私たちは抱き合った。
なんだか今夜は、いい夢が見られそうだ。


終わり


  • 俺もいい夢が見られそうだ!! -- (名無しさん) 2010-08-28 20:24:30
  • 見れるといいな -- (名無しさん) 2010-08-30 02:53:15
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最終更新:2009年11月18日 14:16