「はぁ・・・はぁ・・・何で電話に出てくれないの・・・!!」

私は今にも泣きそうな表情で走っていた。目指す場所は私達の家だ。

「お願い・・・電話に出てよ・・・唯!!」

唯の身に何かあったんじゃないか・・・そう思うと、私は胸が張り裂けそうな思いになった。



――――――――――



今年、私は大学生になった。

「私・・・唯先輩の事がずっと好きでした!私、唯先輩から離れたくないです!!・・・ずっと、一緒に居たいです・・・」
「・・・私も大好きだよ。だから、あずにゃんも同じ大学においでよ! 私、待ってるからさ!」

唯先輩と離れるのがどうしても辛くて・・・思い切って告白した。唯先輩はいつものように優しい表情で私にそう言ってくれた。
だから、大学で唯先輩と再開した時は、嬉しくて嬉しくて・・・思わず抱きついてしまった。そう、高校の時に、唯先輩が私にしていたように・・・。
1年振りに見た唯先輩は、とても大人っぽくなっていて、私は惚れ直していた。

「1年前の約束・・・私守りました。唯先輩と一緒に居たいから、この大学にしました!」
「私も待ってたよ・・・。この1年、梓と一緒に居られなくて寂しかったよ」
「梓って・・・/// 今まで、あずにゃんって呼ばれてたから、何だか逆に恥ずかしいですね」
「えへへ、私は逆にあずにゃんって呼ぶのが恥ずかしくなっちゃったよ。呼び出しっぺは私なのにねっ」

唯先輩が恥ずかしがるなんて・・・やっぱり、1年という時間は人を成長させていくみたいだ。
唯先輩と過ごす時間はいつも楽しくて、すぐに過ぎてしまう。これは高校の時から変わらない。

「あ、もうこんな時間ですね・・・」
「ホントだ・・・。そうだ、梓・・・今晩、私の家で夕飯食べない? 一人暮らしを始めたばっかりで、まだ寂しいんだよね~」
「い、良いんですか?」

唯先輩は、憂が高校を卒業するのと同時に、一人暮らしを始めた。
両親がよく家を空ける事情から、高校生の憂を一人にはさせられないということで、大学1年の時は実家から大学に通っていた。
しかし、唯先輩が大学に通うにつれ、高校の時よりも見違えるくらいに自立した事で、憂も一人暮らしを認めたようだ。
それでも相変わらず、唯先輩よりも憂の方がしっかりしているけれど・・・。ちなみに、憂は私達とは違う大学に通うことになった。

「これは・・・」

私は、唯先輩の部屋で1枚の写真を見つけた。大人っぽくなってはいるけれど・・・見覚えのある顔だ。

「へへっ、澪ちゃん達だよ!私達、大学は違うけれど、外バンを組んで、今でも放課後ティータイムとしてバンドを続けてるの」
「皆さん、元気ですか?」
「も~、相変わらずだよ!4人で居ると、高校の気分に戻れるんだよね!」
「・・・やっぱり、皆さんと一緒だと楽しそうですね。・・・ギター、1人募集してますか?」
「梓の席は予約済みだよ♪」
「あ、ありがとうございます///」

久しぶりに放課後ティータイム5人でバンドが組める・・・そう考えるだけでワクワクしてきた。

「唯先輩、ちゃんと自炊もできてるんですね!昔は憂に頼りっぱなしでダメダメだったのに」
「まぁね♪・・・って、酷いなぁ~。私も成長したんだよっ!」

私は、キッチンで料理を作る唯先輩の後ろ姿を見ていた。正直、初めて見る光景で、新鮮な感じがする。

「1年の月日って、あっという間に過ぎるけど、人も大きく成長しちゃうんですね」
「そうだね~。・・・梓も、久しぶりに見た時はちょっと大人っぽくなってて、ビックリしちゃったよ♪」
「そ、そんな・・・唯先輩の方が大人っぽくなってて・・・ドキッとしちゃいました・・・///」
「まぁ、梓は可愛さも倍増だけどね♪・・・いや、3倍増かな!?」
「な、何言ってるんですか!/// そんな事ないですよぉ///」
「照れてる姿も可愛いよ?」
「もう・・・/// その辺は、唯先輩は変わってないですね・・・」

高校の時と同じやりとり・・・。だけど、久しぶりに言われるとやっぱり恥ずかしいものだ。
私は照れながらも口元が緩んでしまった。そんな表情を見ながら、唯先輩はニコッと笑っていた。



「今日はご馳走様でした。唯先輩の手料理、美味しかったです♪」
「本当?こんな物で良ければ、いつでも作るよ!」
「・・・そんな事言って、調子に乗らないでくださいよ~?昔、マシュマロ豆乳鍋とかチョコカレー鍋を作ろうとしてましたし・・・」
「そ、それは・・・若さ故の過ちということで・・・」

唯先輩は、照れた表情で私を見ていた。大人っぽくはなったけど・・・こういう表情は、高校の時と変わらず、やっぱり可愛い。

「時間も遅くなりましたし・・・そろそろ帰らせていただきますね」

時計はもう夜の10時を過ぎていた。
唯先輩の家から私の家までは1時間程かかるが、夕飯はご馳走になったし、帰ってもお風呂に入って寝るだけだ。

「ねぇ、梓・・・」
「何ですか?」

唯先輩から、さっきまでの可愛らしい表情が消えていた。また大人に戻ったような・・・真剣な表情だった。

「私・・・梓から離れたくない・・・」
「えっ・・・///」

その言葉を聞いた時、唯先輩の卒業式を思い出した。
私もその時、唯先輩から離れたくないと・・・今の唯先輩と同じ事を言っていた。
あの時の私は、離れる事が寂しくて、泣きながら想いを伝えていたっけ・・・。
思い出すと恥ずかしいけれど、今の唯先輩みたいに、カッコいい表情ではなかった。

「ギュッ」
「ゆ、唯先輩・・・?///」

私は力強く抱きしめられた。こんな感覚は初めてだった。
高校の時にも、唯先輩からはよく抱きつかれていたけど、あの時は優しく抱いてくれていた。
同じ抱かれるでも、今までとは違う感覚・・・でも、安心できる感覚は同じだった。

「久しぶりに梓に会えて・・・感情を抑えようと思ったんだけど・・・やっぱりダメみたい」
「唯先輩・・・」

唯先輩は、私の耳元でそっと囁いた。私を完全に陥落させる言葉・・・。
私は唯先輩に身を委ね、彼女からの言葉を受け入れていた。



「好きだよ、梓・・・」
「私も・・・好きです・・・」


それから間もなく、私は彼女の家に住むことになった。友達には先輩とルームシェアをしていると言うが、勿論それだけの関係ではない。

「おはよう、梓♪」
「お、おはよう、唯///」
「その呼び方、慣れてきたね」
「ま、まだ慣れないよぉ///」

恋人同士になった今、何の遠慮もいらないから、私の事は唯って呼んでと言われて数日・・・まだ照れの方が強くて、この呼び方に慣れていない。
だけど、今まであった先輩と後輩という壁を崩せた事に私は幸せを感じていた。

「あ~ずさっ・・・んー♪」
「もう・・・唯ったら・・・甘えん坊なんだから」

そう言いつつも、私は唯のおねだりに応える。朝の至福の瞬間だ。

「えへへ、ご馳走様♪」
「唯だけずるいよぉ」
「じゃあ・・・私からも・・・」

そう言うと、唯は嬉しそうに私にキスしてくれた。
朝から唯の愛を感じられる・・・何て幸せなんだろう。

私達は毎朝一緒に登校し、一緒に下校する。
さすがに受ける授業は違うけれど、時間が合えば大学でも一緒の時間を過ごしている。

「梓・・・私達、ずっと一緒に居ようね♪」
「勿論だよ!ずっと、一緒・・・だよ///」

そんな中、私にとって決して忘れられない出来事が起きた。

それは普段と変わらない1日・・・だったが、唯の最後の講義が臨時休講になった。
それだったら、私も休んで一緒に・・・と思ったが、私の方は必修科目だった為に休めなかった。
今日は近所のスーパーの特売日という事で、唯が先に帰って買い物を済ます事になった。

「さてと、私も講義が終わったから帰ろうかな。帰って、唯と夕飯の準備をしなくちゃ・・・」

講義が終わった事を唯にメールする。すると、1分と経たないうちに唯からメールが届いた。

「唯からだ。返事早いなぁ・・・『早く!』?」

メールの題名は『早く!』・・・題名からでは、何があったのかはわからなかった。

「・・・何?どうしたの?」

私は、メールを恐る恐る読む。

『早く!梓、帰ってき』

これが私に届いたメールだった。文章が途中なのに送信されている。何か、切羽詰まったような感じの文章だ。
何が起きているのかわからなかったが、唯の身に何かあったのではないか・・・そう感じた私は居ても立っても居られず、講義室を飛び出していた。

「そうだ、電話してみよう!」

何度も聞こえるコール音・・・しかし、何度かけても、唯の声を聞くことはできなかった。

「お願い・・・電話に出てよ・・・唯!!」

私の必死の思いは届く事なく、唯の声を聞く前に家に着いた。
私がドアノブに手をかけると、すぐにドアが開いた。どうやら、鍵もかかっていなかったようだ。
しかし、今の私にとってそれはどうでも良い事だった。ただ、唯が何事もなければ・・・。

「唯ー!!」

私の叫び声が部屋中に空しく響いた。唯のケータイは、先ほど買ってきたであろう夕飯の材料と共にテーブルに置かれたままだった。
彼女のケータイには、着信が20件以上残っている。気付かないうちに、私はそんなに電話をかけていたんだ・・・。

「唯・・・唯ぃ・・・どこなのぉ・・・」

私は家中を探し回った。ただ、唯会いたくて・・・必死に探した。
『なーんだ、見つかっちゃった。さすが梓だね』そんな子供のようなかくれんぼでも良い・・・。
風呂場、トイレ、クローゼット・・・いたる所を探し回った。しかし、そこに唯の姿はなかった。

「唯ぃ・・・お願い、戻ってきてぇ・・・」

止め処もなく流れてくる涙・・・これだけ泣いたのは何時以来だろう・・・。
愛する人が居ない・・・探しても探しても居ない・・・。愛する人に会えないって、こんなに辛いものなんだ・・・。

「唯・・・唯・・・唯ぃ・・・」

私は何度も何度も、その人の名前を呟いた。この名前を呟いていないと、本当にこのまま会えなくなってしまう気がして・・・。
だけど・・・そんな私の不安を吹き飛ばす声が聞こえてきた。

「・・・だ~れだ♪」

不意に遮られた視線。急に目の前が真っ暗になったけれど・・・私の目に覆いかぶさる感触はとても温かかった。

「ゆ・・・い・・・?」
「当ったり~♪」

どうしても聞きたかった、あなたの声・・・。どんなにコール音を鳴らしても出てくれなかった、あなたの声・・・。
今、私の耳元でしっかり聞こえる・・・。

「唯・・・」

私は、もう一度名前を呟いて、唯に体を預けた。泣いている姿を見られたくなくて・・・。

「あ、梓・・・!?泣いてるの?」
「あんなメール送っておいて・・・どれだけ心配したか・・・」
「・・・あ、その・・・ゴメン・・・」
「今は・・・唯から離れたくないの・・・私の事、強く抱きしめてよ・・・」

色々言いたい事はあった。だけど、ひとまずその想いをしまいこんで、唯の温かいぬくもりを感じていたかった。
それに・・・唯に何事も無くて本当に良かった・・・。

「あのー・・・お取り込み中悪いんだけど・・・」
「たのもぉー・・・」
「あらあら・・・久しぶりに良い物を見させてもらいましたわ♪」

何だろう、この聞き覚えのある声・・・。何だか懐かしい声が聞こえる・・・。
      • あれ?この部屋、私と唯の二人だけじゃないの・・・?
私はゆっくりと顔を上げた。すると、唯の後ろに女性が3人・・・3人の女性が・・・居る!?

「ふぇ!?・・・あっ・・・み、澪先輩と律先輩、ムギ先輩!?・・・ど、どうしてここに!?」

私は状況が理解できなかった。大人っぽくなった3人と久しぶりに会えた事に、嬉しさよりも驚きの方が大きかった。

「梓を驚かせようと思って、澪ちゃんとりっちゃん、ムギちゃんを呼んでたの。5人での放課後ティータイムの再結成を祝してね♪」
「それなのに、唯・・・家にケータイを忘れて、どこに行ってたんだっけ?」
「近所に美味しいたい焼き屋さんがオープンしてたから、そこに・・・。だって、梓がたい焼き好きだし、どうしても食べさせたくて・・・」
「ほ~ぉ、私達をほったらかしでかい?私も澪もムギも、何度も電話したのに、なかなか出なくて・・・心配したんだけど~?」
「うぅ、りっちゃん・・・ゴメンなさいぃ・・・」
「くすっ♪」

唯と律先輩のやりとりを見ていると、ふと昔の軽音部を思い出した。
あんなやり取りが普通だったけど、先輩達が卒業して、もう見られないと思っていた。
だけど大学生になって、再度放課後ティータイムのメンバーになれるかと思うと嬉しかった。
      • というか、唯のケータイに着信があんなにあったのは、皆も電話してたからなんだ。

「でも梓・・・悪いなと思いつつ、一部始終見ちゃったんだけど、何で泣いてたの?」
「そ、それは・・・唯が、あんなメール送ってくるから・・・心配しちゃって・・・」
「メール?」

私は、澪先輩に問題のメールを見せた。

「うん、確かに梓だけじゃなく、皆心配させる内容だな、これは」
「本当は、澪ちゃん達に送る内容だったけど、間違えて梓に送っちゃった・・・」
「しかも文章の途中だし、私達にはメール届いてないし。まったく・・・高校の時とあまり変わってないんじゃないか?」
「うぅ、澪ちゃん・・・ゴメンなさいぃ・・・」

どうやら、ちゃんとしたメールは澪先輩達に送る物だったらしい。
『早く!梓、帰ってきちゃうよ~!皆、あとどれくらいで来れそう?』

だけど、メールを打ってる途中、近所に出来たたい焼き屋さんがテレビで紹介されているのを見て、慌てて外に出たみたい。
文章の途中でメール送るし、送る相手は間違えるし、鍵はかけないし、ケータイは忘れるし・・・。
何だか、急に高校生に戻ったような気分だったけど・・・でも、私の為に買ってきてくれたと思うと・・・とっても嬉しかった///

「梓ちゃん、唯ちゃんの事は名前で呼んでるのね♪」
「はい・・・あの、恥ずかしいんですけど・・・私達、恋人になったので・・・///」
「唯ちゃんから、そんな話聞いてなかったから、ビックリしちゃった~♪」
「だってぇ~・・・何か恥ずかしくて・・・」
「言ってくれれば、今日はお祝いしたのにな~♪・・・言ってくれれば良かったのに~♪」
「うぅ、ムギちゃん・・・ゴメンなさいぃ・・・」
「唯、皆さんに謝ってるね・・・」

近いうちに、ちゃんとした形で再会する事で、今日はお開きになった。
ギー太とむったんの久々の共演も近そうだ。

「梓、あーん♪」
「あーん・・・///」
「たい焼き、美味しい?」
「うん・・・で、でも、こんなんじゃ許さないんだからぁ!」
「ゴメン~・・・許して?」
「もう・・・高校生の時みたいに抱きついてきても、そんな簡単には許さないもん///」
「よしよし♪」
「そんな、頭を撫でてきたって・・・///」
「大学の近くに、美味しいケーキ屋さんができたんだって!明日、一緒に食べに行こうよ♪梓の好きなバナナケーキもあるってさっ!」
「もう・・・私の好きな物で釣るなんて・・・ずるいよぉ・・・。それに、私の1番好きな物・・・」

まだ私が喋ってるのに・・・。その唇を奪うなんて・・・。
こんな事、唯だから許せるんだからね・・・? 私の事を全てお見通しの唯だから許せるんだよ?

「1番好きな物が・・・何だって?///」
「・・・唯には敵わないなぁ。でも、今日は本当に心配したんだからね・・・。私を安心させる言葉・・・言ってほしいな///」

―――もう心配させないよ、とか、これからは梓から離れないからね、とか・・・。私はそんな単純な言葉でも良かった。
唯から聞ける言葉なら、何でも良かった。唯の言葉なら、何でも安心できるのに。





「ずっと梓を守っていくよ・・・だから・・・結婚してください・・・」

私に選択肢を一つしか与えてくれないなんて・・・やっぱりずるいよ、唯・・・。

「よろしく・・・お願い・・・します///」



私はまた泣いてしまった。今度は、寂しくて、じゃなくて嬉しくて、だけどね。

「・・・泣いてばっかりだと、可愛い顔が台無しだよ?」
「もう、誰のせいだと思ってるの・・・」

私達はまた口づけをした。いつもよりも、今までよりもずっと深く・・・愛を確かめるように・・・。


私達の未来が見えた日。
ずっと一緒に居ようと誓い合った日。
今日は忘れられない日になった。


終わり


  • まったく忘れられないなよ。いやでも忘れないな。(いやじゃないけど。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-19 23:55:17
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最終更新:2010年06月23日 22:52