「うぅ……」
「ほら、しっかり立って……」
私はお酒臭い
あずにゃんの肩を抱いて、なんとか玄関までたどり着いた。
「はぁ……。まったく、何でこうなるまで飲むかなぁ」
あずにゃんが友達に飲み会に誘われて出て行ったと思ったら、携帯が鳴って迎えに来てほしいと連絡がきた。
タクシーとかで帰ってくると思っていたから少しびっくりしたけど、私は車を出して迎えに行った。
で、行ってみると友達に抱えられてぐでんぐでんに酔っぱらっているあずにゃんがいたのでした。
帰る途中の車の中ではあずにゃんはずっと寝ていて、家についたら起こすのも大変だった。
「えへへ~」
私が一息ついていると、あずにゃんは玄関でにこにこ笑っていた。
「もう、とりあえず靴脱いで。ほーらっ!」
「あ~ん、やめてぇ~」
「へ、変な声出さないでよ」
甘えるような声と可愛い仕草に、ちょっとドキッとしちゃったじゃん……。
私は何とかあずにゃんの靴を脱がして、部屋にあげた。
「はい、お水」
コップに水を汲んで渡すと、あずにゃんはそれをこくこくと飲みほしていった。
「ぷはぁ……。えへへ」
「上機嫌だね」
「そうですかぁ?」
空っぽになったコップをテーブルに置くと、あずにゃんが四つん這いで近寄ってきた。
「な、何?」
とろんとした目と、ほんのり赤く染まった顔がいつもと違うあずにゃんを引き立たせていた。
後ろに逃げようとする私の体にすり寄ると、そのまま押し倒してきた。
「あ、あの……、顔が近いんだけど……」
「いつもこれぐらい近いじゃないですかぁ~?」
そう言いながら、あずにゃんは私の首元にすりすりと顔を埋めてきた。
「わっ、ちょっと。もう……」
まるで子猫のように丸くなって甘えてくるあずにゃんを抱きしめて、私は何か引っかかっていた。
何かおかしい。
いつもと違うあずにゃんの行動がとてもかわいく見えるんだけど、それ以上に気になることがある。
「と、とりあえず離れて。服とか着替えたほうが良いでしょ?」
「……そうですね」
そう言うと、あずにゃんは体を起こして私に馬乗りになったままボタンを外し始めた。
「ちょ、ちょっと! 何でここで脱ぐの!?」
「だめですか?」
「だめに決まってるよ!」
最近ご無沙汰でただでさえ余裕を無くしているって言うのに、目の前でストリップなんてされたら堪らないよ!
「……そっかぁ。ゆい……」
「うわっ」
何やらよからぬことを思いついたようで、あずにゃんはにやにやしながら私の胸に倒れ込んできた。
「ねぇ、ゆい……」
「な、何? んっ……!」
頭を起こしてあずにゃんを見ようとしたら、そのままキスされてしまった。
「ちょ……、っとぉ……。ちゅっ……! 待って……、んんっ……!」
「んっ……、っはぁ……! はむっ……」
私が止めるのも聞かずに、あずにゃんは私の舌を絡め取っていった。
「はぁ……、ゆい……」
「あず、にゃん……」
あずにゃんの瞳はきれいに潤んでいて、熱い吐息はゆっくりと鼓動を伴って私の背筋を駆けあがっていった。
───この顔は、私を誘うときの顔だ。
今までたくさん見つめ合い、お互いのことを貪り合ったあの顔だ。
「えへへ……」
私がそのことに気がついたのが嬉しくなったのか、あずにゃんがいたずらっぽく笑った。
「ゆい……。ちゅっ……!」
「いや、だから……、んんっ……!? ちゅる……」
あずにゃんの口に残っていたお酒が何となく香って、唾液と一緒に舌に絡まされていくと体がふわりと熱くなっていった。
お互いに忙しくてご無沙汰だったから我慢もそろそろ限界だ。
でも、何かが引っかかって私はどうしても素直にする気になれなかった。
「ちょっと待ってってば……!」
肩を掴んで引き放すと、あずにゃんの目に涙が浮かんだ。
「ゆい……?」
「ち、違う! 嫌ってわけじゃないよ!」
慌てて言い訳をするけど、あずにゃんの顔はどんどん不安げな色に染まって崩れていった。
「だから……、その……。とりあえずシャワー浴びようよ」
「いやですぅ」
「でもさぁ……」
私が無理にどかそうとすると、あずにゃんはぎゅっと私の体に抱きついて甘えてくる。
「……何かあったの?」
「ん~?」
頭を撫でて落ち着かせながら、私は聞いて見ることにした。
「何だか、あずにゃん変だよ?」
酔っぱらった勢いもあると思うけど、それとはまた違った理由があるような気がした。
「言いたくないなら言わなくていいけどさ、お酒でごまかすのはよくないよ」
「……」
あずにゃんの頭がゆっくりと動いて、私の目の前に現れた。
その目は涙で濡れていて、壊れてしまいそうだった。
「ん?」
あずにゃんのことを見つめ返してあげると、震える声であずにゃんが話し始めた。
「唯は、幸せですか?」
「えっ?」
「幸せですか?」
突然そんなことを聞いてくるなんてびっくりしたけど、私はすぐに答えた。
「幸せだよ。すっごく幸せ……」
「……」
やさしく抱きしめてあげると、あずにゃんは黙りこくってしまった。
「……今日はどうしたの?」
しばらく抱き合っていると、あずにゃんがぽつりぽつりと話し始めた。
「今日会った友達が、結婚するって言っていたんです」
「その子、すっごく幸せそうで新しい家庭を築くんだって実感があったんです」
「そしたら、私は一体何をしているのかなって考えちゃって……」
「唯は私といて幸せなのかなって不安になっちゃって……」
そっか。だから今日は妙に私に甘えてくるわけだ……。
車で迎えに来てほしいって連絡してきたり、抱きついてきたり、キスしてきたり……。
「大丈夫だよ」
私はあずにゃんをしっかりと抱きしめて答えてあげた。
「あずにゃんと一緒にいて、色んな事があったけど全部いい
思い出だって言えるよ。幸せだったって言える」
「本当ですか?」
「うん。それに、梓って言う字はね、心が幸せって書くんだよ?」
一体何を言っているのかわからないと言った感じで、あずにゃんが首を傾げた。
「ほら、幸せって漢字から一本取ってきて、りっしんべんにくっつけると梓ってなるじゃん」
それを聞いてあずにゃんはしばらく考えると、私の胸に顔を埋めてくすくすと笑い始めた。
「おかしかった?」
「いや、唯が漢字の部首の話をするなんて意外だったので……」
あずにゃんが笑いながら申し訳なさそうに謝った。
「よかった」
「何がですか?」
「あずにゃんがやっと笑ったからさ」
さっきまでずっと無理をして、酔いに任せて自分の心を抑えた笑い方だった。
でも、今は心の底から嬉しそうに笑えているよ。
「私たちなら大丈夫だよ。ただ、こころがしあわせだから……」
「唯、心が幸せ……。で、唯梓ですか?」
「そうだよ」
あずにゃんはまた私の胸に顔を埋めて、すりすりと甘えてきた。
「私も、こうしていると幸せです……」
私たちには、
これから辛いこととか悲しいことがたくさん待っていると思う。
でも……。
「あずにゃん」
「はい」
「私とどんなことがあっても
ずっと一緒にいてくれる?」
私が聞くと、あずにゃんは言葉で答えずにそのままキスしてきた。
「んっ……、ちゅっ……、はぁっ……!」
「ちゅる……、んっく……、んんっ……!」
───ずっと一緒にいます。ずっと一緒にいてください……。
───ずっと一緒にいるよ。ずっと一緒にいて……。
言葉にしなくてもキスを重ねていくたびにお互いの気持ちが溢れていくようで、通じ合っている気がした。
存分に気持ちを伝えあい、ゆっくりと舌を突き出して離れるとつつーっと一筋の光がお互いを繋いでいた。
私は我慢が出来なくなって、脱ぎかけていたあずにゃんの服に手をかけた。
「あっ……」
少し酔いが醒めてきたのか、服をするすると肌蹴ていくとあずにゃんが恥ずかしそうに短く声をあげた。
「嫌?」
「……そんなわけ、ないですよ」
嬉しそうなあずにゃんの顔を引きよせて、さっきよりもっと深く激しくキスを交わし合った。