「なあ、唯。お前大丈夫なのか?」
そう話しかけられたのは、放課後の音楽室だった。
ムギちゃんは用事で遅れていて、あずにゃんはまだ来てない。澪ちゃんはそんなあずにゃんを迎えに行っているから、まだ来てない。
だから、今ここにいるのは私とりっちゃんの二人だけ。
二人きりの音楽室で、りっちゃんは私にそう話しかけた。
それが何のことか、私にはすぐわかった。あの、私が泣いてしまったあの日からりっちゃんはそのことを口にすることはなかったけど。
だけど、私はりっちゃんがそれに気付いているってことを、今まで忘れたことはなかったから。
ただ、今になってそのことに言及してきたことに、少しだけ驚いただけ。
「ん~、大丈夫って何が?私はいつでも元気だよ?」
だから、一応気付かない素振り。それでちょっと様子を見てみる。
だって、勘違いしてたら恥ずかしいしね。
「……わかってんだろ?」
そうして目を向けて見えたのは、いつもの表情じゃなくて、あの時私を教室に引き込んだときと同じくらい真剣さを交えたりっちゃんの顔。
やっぱりそのことか、と私は小さく、ごまかしてごめんねという意味も込めて苦笑を浮かべてみせる。
「うん、大丈夫だよ。りっちゃんが元気をくれたからね。私はまだ頑張れるよ」
元気、なんて小さくガッツポーズして見せたりして、おどけて見せたけど。
だけどりっちゃんの顔は全然ほころんでくれなかった。
「頑張れる、か。なあ、唯。それって頑張らなきゃ駄目ってことだよな?」
「え?」
私はきょとんと、そう言ったりっちゃんの顔を見返す。
「それって、無理してるってことだろ?……それでお前は、本当にいいのかよ」
「えっと……」
続けてそう言われて、私は少し戸惑った。
だって、そこまで突っ込んでこられるとは思わなかった。
私が勝手にそう思っていただけだけど、りっちゃんはいわゆる見守る的な立ち位置にいてくれるんだと思っていたから。
正直なところ、たとえりっちゃんでもあまり深いところまで立ち入って欲しくはなかった。
だって、これは私の想いだし。私だけが抱えるべき想いだし。私の大事な、誰にも触れさせたくないものだから。
だけど、それはつまり、それだけりっちゃんが私のことを心配してくれていると言うことなんだろう。
だから、私はそれを素直に嬉しく思った。
りっちゃんにそう思われているということは、あのときから今まで確かに私の元気の元になってくれていたから。
「いいんだよ、私は~。それで大丈夫だから」
だから私は笑って見せた。こうして笑顔を浮かべられるのも、りっちゃんのおかげなんだよってことを教えようと思って。
そして、これ以上は踏み込んできたら駄目だよって、暗にそれを示そうとして。
だけど、りっちゃんは笑わなかった。笑い返してはくれなかった。
それどころか、少し怒ったような顔で私をじっと見つめている。
何だろう、私、何か間違えたのかな。悪いことをしちゃったのかな。
私は不安になる。だっていつものりっちゃんなら、きっとそこで「そっか」なんて笑い返してくれたはずだから。
その不安が私の浮かべていた笑みを消してしまっても、それでもりっちゃんは表情を変えないまま私を見つめ続けるだけだった。
空気が重い。時間がずしっと重くなる。
どうしてだろ。何でりっちゃんは、私をこんな目で見つめているんだろう。
こんな目――どんな目?真剣なのはわかる。少し怒っているように見えるのも確か。
実際、少し怒ってるんだとは思うけど。でもそれだけじゃないとも思う。
それに、何かをこめているんだと思う。
だけど、私にはそれがわからない。
ねえ、りっちゃん。どうしたの。私に、何を伝えようとしてるの?
疑問はたくさん浮かんで、だけど私の口は動いてくれない。
じっと私を見つめ続けるその眼差しに縫い付けられているように、動いてくれない。
なんとなく、わからないままでも気付いていたのかもしれない。
もしそれを口にしてしまえば、きっと私は後悔してしまうだろうということに。

だから、私は何か理由をつけて逃げてしまうべきだったのかもしれない。
その目の届かない場所に、行ってしまえばよかったのかもしれない。
それがどこかなんて、全然わからなかったけど。
そんな場所が、この私に残されているなんて、少しも思えなかったけど。

「なあ」
沈黙を破ったのはりっちゃんの声だった。
当たり前といえば当たり前。だって、私からは何も言うことができなかったのだから。
だから、そうできるとしたらりっちゃんの声しかない。
もしくは、遅れて現れたムギちゃんかあの二人か、そのどちらかだったのかもしれないけど。
だけど、それはきっとなかった。そうなるには、まだ時間が足りない。
だって、私たちの間に沈黙が訪れてから今のこの瞬間まで、時計の秒針は一回りすらしていなかったのだから。
私にとっては、もう何十分も経っているようにも感じられていたけれど。
「私がただ友達だからって理由で、部活仲間だって理由で、あんなことしたと思うか?」
続けられたその言葉に、私は戸惑う。
それがどういう意味なのかわからなかったから。
あんなこと、というのはきっとこの間の空き教室でのことだと思う。
泣く私に胸を貸してくれたこと。泣き止むまで、慰めていてくれたこと。私を元気付けてくれたこと。
そして、その理由を私に尋ねているんだと思う。
だけど、わからない。だって、私の浮かべた理由は質問文の中で既に否定されているから。
りっちゃんは部活仲間で。
りっちゃんは友達で。もしそう言っていいのなら、私の親友で。
だから、そうしてくれたんだと思ってた。
だから、私はそれに甘えていいんだと思っていた。
でも、そうじゃないとするなら、一体りっちゃんは何を理由にして私にそうしてくれたんだろう。
「わかんないよ」
「だろうな」
私の返答に、りっちゃんは苦笑を返す。笑いの形へとその表情は変わったけど、眼差しは何も変わらない。
変わらずに、私をじっと見つめ続けている。
私もじっと見つめ続けている。
その奥にある、まだ見つからないものを見つけようと。
「だから、教えてやるよ」
ふっと無造作に、りっちゃんは目を閉じた。同時に、私をじっと見つめ続けていたその眼差しが消える。
だから、それがまだずっと続くと思っていた私は一瞬、呆けてしまっていた。
見つめ返していたものが急に無くなって、行く先のなくなってしまった視線をもてあまして、その行く先を探そうとする。
それはつまり、向こうにとってすれば隙と言うべきものだったんだろう。
だから、そこまで接近を許してしまったのは、不可抗力だって言ってもいいのかもしれない。
「え?」
焦点を取り戻した私の視界に移ったのは、その一瞬前に比べて半分以下の距離になったりっちゃんの顔。
それが何を意味するか、なんて考える暇も無かった。
だけど、その瞬間わかってしまっていた。どうして彼女がそうしてくれたか。その眼差しの奥に何がこめられていたのか。
そして、彼女が何をしようとしているのか。
「……っ」
反射的に身じろぎしようとして、動けないことに気が付く。
いつのまにか私の肩はぎゅっとその両手で掴まれていた。
だから、私は動けない。ただその瞬間が訪れるまで、身動きをとることは許されない。
――違う、その気になれば、その手を振り解けることはわかっていた。
それができなくても、ただ顔をそらしてしまいさえすれば、その行為を妨げることができることもわかっていた。
だけど、身動きをとることは許されなかった。私にはその許可は与えられていないなんて、そう思ってしまっていた。
だって、りっちゃんは私を助けてくれたから。
そんなりっちゃんを拒むことなんて、できないって思ったから。
私はりっちゃんに借りがあるから。
りっちゃんがそう望むなら、私はそれを受け入れるべきだと思ったから。
ああ、そして、ひょっとしたら。
私は疲れてしまっていたのかも知れない。
届かない想いをずっと抱え続けていることに。
大丈夫だよなんていって笑っていたけど、頑張り続けることに疲れていたのかもしれない。
誰にも触れさせたくない、その重い重いものを受け止めてくれる何かを求めてしまっていたのかもしれない。
それを、私ならできると目の前で言ってくれたから――私は。
それに揺らいでしまったのだと思う。

だって、仕方ない。頑張れていたけど、それが幸せだと感じることもできていたけど。
だけどそれはずっとずっともうどうしようもないくらい痛くて――

――だけど、逃げないって決めたんだよ、私は。

だから、私はそれを拒もうと思った。
駄目だって思った。
きっとそれはとても楽なことで、とても暖かいものかもしれないけど。
だけど、私が好きなのは。この瞬間でさえ、私が最初に浮かべてしまうのは。
あの子の笑顔なんだから。

「だめ……だよ、りっちゃん」
かすれる小さな声。その鼓膜にようやく届く程度のその声に、だけどりっちゃんはちゃんと止まってくれた。
触れ合うほんの一瞬前。その寸前。だけど、それは確かに触れてはいなかった。
間に合った、と私は思う。そしてよかったと思う。
そうしてしまえば、私はきっとたくさんのものを得られていただろうけど。
きっと、間違いなく後悔していたと思うから。
「……だよな、やっぱり」
その距離を離さないまま、りっちゃんは呟く。近すぎてその表情はわからないけど。
だけどきっと、その声色と同様の表情を浮かべているんだろうと私は思った。
「だけどまあ、間に合ったか」
「え?」
間に合った、って何のことだろう。私がそう聞き返す前に。
その視線が私ではなく、私の背後に向けられていたことに気付く前に。

「……ゆい、せんぱい……?」

私の耳に聞きなれたその声が届いていた。
勿論それは、目の前のりっちゃんの声じゃない。発生源は、私の後ろから。
おそらく、このシーンで私が一番耳にしたくなかったその声。

どさり、と何かが落ちる音。それに弾かれる様にして、私はまだ肩を抱いたままのりっちゃんを跳ね除け、振り返った。
何かの間違いだったら、って思っていた。
きっと私の頭はりっちゃんのことで混乱してて、そんな幻聴を作り出してしまったのかもしれない、と望んでいた。
そうであって欲しいと思った。
だってそうじゃなければ、今その声の主はそこにいることになってしまう。
そして、顔を寄せ合う私たちを見てしまっていたということになってしまう。

それは、駄目。

だって、確かに私たちの唇は触れ合っていなかったけど。
だけど私がそれを触れ合う瞬間まで近づけてしまったのは確かで。
そして、それが私の背後、音楽室の入り口から見てしまったときどう映るのかは考えるまでも無く明らかで。
つまり、私は間に合っていなかったということになる。
主観ではなく客観。あの子から見た私。その観点で言えば、私は明らかに間に合っていなかった。
きっとそれは、あの子が私に望んでいたものとはまるで違う光景。
だから、駄目。
だけど、振り返った私の目に映っていたのは、見間違える隙すらなく、寸分違わずあの子以外の何者でもないほどに、あの子だった。

ああ、違うかな。いつものあの子と一つだけ違う点を上げるとすれば。
まるで漫画みたいに、嘘みたいな量の涙をこぼし続けていたということ。

それは本当に魔法みたいに、私を硬直させてしまっていた。
何か言うべきだと思うのに、何も言葉が浮かんでこない。
そもそも、私にはもう何もできることは無いのかもしれない。きっと、そうなのかもしれない。
ずっと頑張って、あの子の望むだろう私を続けてきたけど。
それを、私は今裏切ってしまったのだから。
だから、私はもう何もできない。だから今、動けないんだと思う。
でも、それだけじゃない。ううん、きっとそんなことじゃない。
私が今動けずにいるのは、きっとこの子が――泣いているから。
声も出さずに、ただ溢れさせるそのままに、涙を流し続けているから。
どうして?なんで?そんな疑問が溢れる。
だって、キミにとっての私はただ傍にいるだけの、そんなに涙を流すほどの存在じゃないはずなのに。
キミにとっての一番は澪ちゃんで、私はそれ以下で。
だから仮にもし、私とりっちゃんがそうなってたとしても、キミがそんなに泣く必要は無いのに。
少し寂しそうな顔して、そうですかって笑って、私の居場所をその傍からなくしてくれるだけでよかったのに。
なのになんで、今キミは――あずにゃん、ねえ、そんなに――

どうしてそんなに、泣いてるの?
私がそうさせたの?

結局私はあの子が駆け出し、その姿が見えなくなってしまうまで、動くことができなかった。
ううん、その姿が見えなくなってもまだ、動くことができなかった。
どうすればいいのか、何をすればいいのか、全然わからなかったから。

「で、どうすんだよ?」
私の硬直を溶いてくれたのは、またりっちゃんの声だった。
そこではっと思い至る。さっきの台詞、つまりりっちゃんはもうすぐあずにゃんが来ることを知っていた。
その上で、あえてあの子からそう見えるように、私にそうしたということ。
「そーだよ。澪からメールがあったからな。梓のやつがもうすぐ来るってことはわかってた」
「だ、だったらなんで!」
「なんで、か。ま、そりゃ私も悪かったとは思うけどな」
りっちゃんは一度そこで言葉を切ると、大きくため息をついた。
そして一瞬後、まっすぐな眼差しを私に向けた。
「だけどな、唯。お前も悪いんだぞ?」
「え?」
そう言われて、私は戸惑う。それは、確かに私は悪いことだらけだったと思うけど、このタイミングで指摘されるとは思っていなかったから。
「梓のこと、好きなんだろ?」
「そ、そりゃそうだよ。可愛い後輩だし」
「誤魔化すな」
きっとりっちゃんの視線が鋭くなる。そうだよね、そう思ってたけど、やっぱりわかってるよね。
でも、何でここでそんなこと、確認してくるの。わかんないよ。
「そうだよ、私は……あずにゃんのことが好き。そうだよ、りっちゃんが思っている意味で、私はあずにゃんのことが好き」
だったらどうしたのと続けようとして、また吐き出されたため息に遮られる。
「だったら梓のやつに、そう言ってやればよかったんだよ」
そして、続けられた言葉はまた私を固まらせた。
だって、それはあまりに正論だったから。好きだったらそう伝えればいい、なんて本当にそのとおり。
私だって、そうできたらいいって思ってた。思ってたけど、だけど、そんなのできるわけ無い。
「できるわけ無いよ、だって、あずにゃんには澪ちゃんが……」
「それでもだよ」
だけど、私の言い訳はあっさりと切り捨てられる。本当にスパッと何のためらいも無く。
「何で隠すんだよ、そんなんだから無理してるって言うんだ。それって意味ないだろ、いや、むしろ悪いことだぞ、それって。
お前にとっても、梓にとっても、そして澪にとっても、……私にとっても、だ。
お前の行動は、誰にとってもよくないことだったんだよ」
畳み掛けられて、私は何も言えなくなる。
でも、意味が無いなんてことは無い。それは確かに意味があったと、私は信じてた。
だから、どんなに痛くても私は頑張ってたんだから。
でも、言い返す言葉が無い。その言葉を浮かべられない。
りっちゃんは間違ってるよ、なんていい返せない。
だって、つまり私は――
「お前は良かれと思ってやっただけなんだろうけどな…悪く言えば、自分がこれ以上傷つきたくないからそうしてた、ともいえるんだぜ」
つまりは、そういうことだったんだと思う。

ぎゅっと目を閉じて、その言葉をかみ締める。
私は確かにいっぱい傷ついた。
そうだね、またあのゲームに例えるとするなら――私の体にはナイフがいっぱい刺さってる。
外れなんて無いから、ナイフは全て私に刺さる。
逃げられないから、刺さるナイフはどんどん増えていく。
それは全部、私のせいだと思ってた。だから私はそれを全部我慢しなきゃって思ってた。
だけど、私はそれに気が付いてなかったんだ。私に刺さり続けるたくさんのもの。それは勝手に刺さってくるわけじゃない。
それを私に刺して来る誰かがいるってこと。ナイフはそれだけじゃ、動けもしないんだから。
だとしたら、それを刺していたのは誰だったのか。
あずにゃん、でも無い。
――だってあの子に悪いところなんて一つも無い。
澪ちゃん、でも無い。
――澪ちゃんだってそう。そう指摘できることなんて、一つも無い。
りっちゃん、でもない。
――むしろりっちゃんは、それを私に教えてくれたんだ。
そうだよ、考えるまでも無い。それは、あずにゃんでも澪ちゃんでも、今目の前にいるりっちゃんでも、そして他の誰でもなく。
私なんだ。
私を傷つけていたのは、ずっと私。だって私は、りっちゃんにそれを知られていた以外には、抱えているものを決して表に出そうとはしなかったから。
だから、私以外に私を傷つけられる人なんていない。
私は自分で自分を傷つけて、そしてそれに耐えることで正しいことをしてるつもりになっていて。
まるで自己犠牲のような、そんな高尚なものに浸っている気になっていて。
そんな馬鹿な勘違いをしてたんだ。
自分のせい自分のせいってずっと思いながら、その本当の意味に気が付いてなかったんだ。
そして、今更ながらに思う。
私は一杯ナイフを刺してきたけど、致命的な箇所には決して刺そうとはしていなかったということに。
苦しんでいた振りをして、逃げ続けていただけだって言うことに。

伝えてしまえば、そこで終わってしまう。
だから私は、ただ終わらせたくなかっただけ。
ただ緩やかに少しでもその瞬間を遅らせられれば、なんて考えていただけ。
そのときまで、なんて思っていたけど、それを迎えたとき私はきっとそれを受け入れられなかったと思う。
ひょっとしたら、そこに至るまで疲労しきってしまった私は、本当にひょっとしたらだけど、自分の全く望まない行動をとっていたかもしれない。
本当に、りっちゃんの言うとおり。
何の意味も無い。私はそこに意味を求めちゃいけなかったんだ。
ただ足踏みしていただけ。本当は、もっと早く先に進むべきだったのに。
次の場所へと、踏み出すべきだったのに。

「梓のところに行ってやれよ」
「……りっちゃん」
それを、りっちゃんは教えてくれた。
何もわかってなかった私に、教えてくれた。
それを私に気付かせるために、こんなことをしたんだと思う。
どうしてこの人はこんなに優しくしてくれるんだろう。
ううん、その理由は私にはわかってる。だけど、それなら。
何でこの方向の優しさを、この人は持つことができるんだろう。
私のそれとは違う。この人はちゃんとそれを踏まえさせた上で、そして私に直接そう告げている。
きっと一杯傷つけたのに。
私はこの人のことを、私の知らない間に一杯傷つけてしまったはずなのに。
だけど、りっちゃんはそんな私に、今優しく笑ってくれていた。
だから私は何も言えなくなる。
きっと謝ることも、この人は許してくれないだろうから。
だから、小さく頷いて、くるりと背中を向けた。
あの子が走り去った方へと、踏み出そうとした。

「なあ、唯」
背中に、声がかけられる。
あの時、空き教室を出ようとした私に駆けられたのと、全く同じ声。
ああそっか、あの時りっちゃんはそう言おうとしていたんだ。今更ながらに私は気付く。
「私じゃ駄目なのか?」
そして、私の予想通りの言葉が、続いた。
本当に私は馬鹿だなって思う。勘違いばっかり。やることも、空回りばっかり。
「私ならあいつみたいにお前を泣かしたりしないし、傷つけたりもしない。きっと幸せにできると思う」
そうだね、りっちゃんならきっと、そうしてくれると思う。
「だからさ……」
「駄目だよ、りっちゃん」
それを、私ははっきりと遮った。さっきの震える声とは違う。
自分でも驚くほどはっきりとした声で、否定の言葉を口にした。
「私は、あずにゃんのことが好きだから」
「そっか」
私は振り返らないまま。だからりっちゃんがどんな表情をしているのか、見ることはできない。
だけどきっと、最後に視界に映したときの、優しい笑みを浮かべているに違いないと思う。
「だから、しっかり振られてくるよ」
「ばーか、奪ってくるつもりで行って来いよ」
「そうだね」
そして、私は歩き出す。
きっとわざとなんだろうなと思う。だって、これはりっちゃんらしくない。
それがもう終わっていることをわかっていたのに、敢えてそれをちゃんと形にしてくれたんだと思う。
私にちゃんと、自分のことを区切らせるつもりでそうしたんだと思う。
それが足かせにならないように、私の背中を押してくれるような、そんなつもりで。
本当にりっちゃんは優しい。いくら感謝しても足りない。いくら謝っても足りない。
足りないけど、やっぱり言わなきゃ。
それはきっとりっちゃんのためじゃなくて、私のため。りっちゃんはきっとそうしていいって私に言ってくれたんだから。
だから、駆け出す直前、私はそう口にしてた。
「りっちゃん、ごめんね。そして、ありがと」
返事は無い。だけど、それはもう私の気にすることじゃなかったから。
私はただまっすぐと、あの子の消えた方向へと駆け出していった。


校舎中駆け回って、ようやくあの子を見つけたのは屋上の真ん中だった。
屋上の真ん中、北風に吹かれるままにただ一人、じっと空を見上げている。
息を切らせながら屋上の扉を空けた私の目に映ったのは、そんなあの子の姿だった。
駆け寄る私の気配に気付いたのか、あの子はゆっくりと振り返る。
よく私に見せる、困ったような笑顔を浮かべながら。
目元は腫れて、眼も赤いまま。きっと今まで泣いていたんだと思う。
それを私に感じさせないようにとでもするかのように、それでもあの子はいつもの笑顔を浮かべていた。
だから、私は足を止めない。
元からそうするつもりだった。そして、今はそうしなきゃって思っていた。
勢いをとめないまま近づく私に、あの子は小さく目を見開く。
かまわずに、私はそのままの勢いでただひたすらに強く、ぎゅうっと抱き締めた。
無邪気でいられた、あの頃のように。だけど、あの時とは違う想いを込めて
「せ、先輩?どうしたんですか?」
あずにゃんはそんな私に、いつもの口調で問いかけてきた。
本当にいつものように、だけど震えてかすれた声で。
仕方ないと思う。だって、どう見てもついさっきまで泣いていたに違いないんだから。
だけど、なんで、それでもこの子はなんでもない振りをするんだろう。
まるで、さっきまでの私みたいに。
声だけじゃなくて、抱き締めている体も震えている。
今にもまた、泣き出してしまいそうなのに。それでもこの子は――あずにゃんは、私に抱き締められるまま、それがいつもことだと言わんばかりに笑みさえ浮かべていて。
そんなはずは無いのにね。だって、私はそうなってから、ずっとこの子を抱き締めることをやめていたんだから。
ねえ、あずにゃん。私ね、あずにゃんに言わなきゃいけないことがあるんだ」
そう言った私に、そこで初めてあずにゃんは明らかな狼狽を見せた。
「な、何言ってるんですか。先輩が私に言うことなんて、何もないはずです」
「あるんだよ。ホントは、ずっと前に言わなきゃいけなかったことだったんだけど。私が弱かったから、ずっと言えなくて」
「違います!そんなの、あるはずが無いんです!」
その強い否定に、私は少しひるんでしまう。どうしてだろ、何でここまで強く否定しようとするんだろう。
あずにゃんは私の腕の中でもがきだして、私は思わずそれを離してしまいそうになる。
わからない。だけど、だけどやっぱり伝えなきゃ。
だから、離さない。ぎゅっと抱き締めて、暴れようとするあずにゃんを押さえ込む。
りっちゃんは言ってた。それは私やりっちゃんにとってだけではなく、あずにゃんや澪ちゃんにとってもよくないことだって。
私もそう思う。
はっきりとはわからないけど、そう言われたからじゃなくて、私は確かにそう思っている。
だから、ちゃんと伝えないと。
「……唯先輩は、律先輩のところにいればいいんです!もう、私の傍なんて、こなくていいんです」
「やっぱり、そう思ってたんだ……違うよ、私がいるべきなのは、りっちゃんの傍じゃない」
「……え?」
「今私がいるべきなのは、ここだもん」
私の言葉に、あずにゃんの動きが止まる。私の胸の中におとなしく納まって、きょとんと私を見上げてくる。
「違います、先輩は間違ってます……きっと先輩は優しいから、私に同情してくれてるだけなんです」
「同情って……わかんないよ、あずにゃん。でも違うよ、これはそんなんじゃない」
「だって、私唯先輩のこと一杯傷つけて……」
「それも違うよ。私は、自分で傷ついていただけ。他の誰でもないよ、それは私のせいなんだ。だから、もちろんあずにゃんのせいでもないんだよ」
「そういうとこが、優しすぎるっていってるんです」
「違うよ、優しくなんて無い……だって、私あずにゃんのこと、泣かしちゃったから」
「こ、これは違います!私が勝手に……泣いてただけですから」
「違わないよ。傷つけたのが誰かっていうなら、きっとそれは私。本当はさ、私にこんなこという資格なんて無いと思う」
だけど、それでも伝えなきゃいけない。
臆病だから隠し続けていたものを。それを勇気だって勘違いしていたものを。
「だけど、言うね」
もう、決着をつけないといけないから。終わらせないといけない。
誰かの償いなんて言葉は言い訳になってしまうから使わない。ただ、私が先に進むために。
だけどそれでもやっぱり、それがこの子の為になると信じながら。
駄目です、と首を振り続けるその仕草を遮るように、私は口にした。

「私、あずにゃんのことが好き。ずっとずっと、キミのことが好きだった」

達成感、とでも言うのかな。
私は変にすがすがしいとか、そういう言葉が似合う心境だった。
ずっと伝えたかったことを、ようやく口にできたのだから、無理の無いことかもしれない。
こんなことなら、もっと早くこうしておけばよかった。
だって、私は本当に、ずっとずっとあずにゃんのことが好きだったんだから。
私がそう気付かないときから。だから、それに気付いたときにそうしておけばよかった。
振られるのが怖いから。伝えなければ、ずっとこの気持ちを持っていられる、なんて。
そこで終わってしまうはずが無いのに。そんなことで消えてしまうはずが無かったのに。
たとえ誰の隣にいても、自分の隣にいなくても、その傍にいられなくても、私がキミを好きってことは変わらなかったのに。
変わらないままに、先に進んでいけたはずだったのに。
だけど、私はそこで足踏みしてしまっていた。そして、私自身を、りっちゃんを、そしてあずにゃんを傷つけた。
だけど、それもこれで終わり。
きっとあずにゃんは、澪ちゃんを選ぶ。
だけど、それでいい。
それでも私は変わらない。その上で、私はやっぱりキミのことが好きだって、胸を張っていえるから。

「……あずにゃん?」
だけど、その言葉はいつまでたってもやってこなかった。
そういうべきこの子は、私の胸に顔をうずめて、身を震わせている。
小さく嗚咽をあげている。
「……先輩はずるいです。折角あきらめたのに、私はもう大丈夫って、そう思えたのに」
ずるいって言われた。
どうして、なんでだろう。あずにゃんが何を言ってるのかわからない。
どうして、また泣いてるの。私、また何か間違えたのかな。
これで正解だって思ったのに。
私は想いに区切りをつけて、キミはまた澪ちゃんのところに戻る。そして私は今度はちゃんと、それを見守り続ける。
それでいいと思ったのに。
「……唯先輩には、律先輩がいるじゃないですか」
呟く声に、私はそっかと思う。あずにゃんはアレを誤解したままなんだ。
「何でそんなこというんですか……何で!律先輩と、キスしてたくせに!」
だから、戸惑ってるんだ。私がりっちゃんとそういう関係になっていると思っていて、それなのに私から好きなんて言われたから。
「違うよ……りっちゃんはちゃんと止まってくれたから。だからキスなんてしてない。それにそんなんじゃないよ」
あれは、ただ私がりっちゃんにしかられていただけだから。
私が駄目だったことを、教えてくれただけなんだから。
「そんなんじゃない、なんてことないです。律先輩は――」
うん、知ってる。知ってるよ、それは。
「それでも、だよ。それ以上の意味なんて、私には持てっこない。だって、私が好きなのはあずにゃんだもん」
「……なんで、どうしてなんですか。律先輩なら、唯先輩を傷つけることない。きっと幸せにしてくれるはずなのに」
りっちゃんも同じこといってた。
多分、それは正しいんだと思う。
でも、私にはそれは選べない。ううん、選んじゃいけないことだから。
だから首を振って、それに応えた。
そんな私に、あずにゃんはぎゅっと押し黙る。
そして、ぎゅっと私の服を掴んだ。
何かをこらえるように、そんな仕草で。
またわからなくなる。この子が何をしようとしてるのか。
私に何を言おうとしてるのか。
だって、君が私に今伝えるべきことは、一つのはずなのに。
だけどあずにゃんは口を開かない。だから、私からは何も言えなくなる。私が言うべきことは、もう全部伝えたから。次はあずにゃんの番なのに。
私たちはただ寄り添いあったまま、吹き抜ける風の中それに身震いする余裕すらなく、立ち尽くしている。
まるで時間が止まっているかのよう。
待つ私と、動かないキミ――そうかも、私はまだ、この期に及んでもこのまま時間が止まってしまえばいいのに、なんて思ってしまっているけど。
やっぱり駄目だから、ね。だから――

「私は……私は――」
そんな私に応えるように、あずにゃんはようやく顔を上げてくれた。
「本当に、言うつもりは無かったんですよ。資格って言うなら、私にこそそんな資格は無いって、そう思ったんですから」
そして、涙で歪む顔でそれでもまっすぐに私を見つめてきた。
ああ、とうとうなんだ。と私は思う。
ようやく終わりになるんだって。そして始められるんだって。
同時にぎゅうっと心臓の下辺りが締め付けられる。
私が終わりにしてしまおうとしたものが、私を締め付けてくる。何でそんなことするのって。弱い私が、私を責めてくる。
それはとても痛くて、私の想像していたものよりずっとずっと痛くて、耐え難いものだったけど。
だけど、だからどうというものでもなかった。
それに耐えるなんて表現自体、私は使いたくなかったから。
手を握り締めることもなく、ぎゅっと奥歯をかみ締めることもしないままに。
私はその言葉をちゃんと耳にしようと、私にそうしてくれるこの子をちゃんと目に焼き付けようと。
抱き締める腕を離して、その肩に手を置いて、その分だけ距離を置こうとした。

それを、私を抱き締める両腕に阻まれた。
もちろんそれは、私の目の前のあずにゃんの両腕。
今までそうされたことの無かった私は、そしてどうしてこのタイミングでそうしてくれたのかわからなかった私は何事ってびっくりして。
そして続けられた言葉に、さらに驚かされることになった。

「好きなんです!」

――へ?
私はぽかーんと口をあける。だって、それは全く予想してなかったことで。
あずにゃんが口にするはずだったのは、私への断りの言葉のはずで。
だけど、あずにゃんは好きだって言った。
誰が、誰を?ええと、言ったのはあずにゃんだから、あずにゃんが、で。
そして、あずにゃんが今抱き締めているのは、私だから、私、を――え?
ううん、いやいや、まさかだよ。だって、そんなはずは――ないのに。

「そ、そんなはずないよ!だ、だって、あずにゃんは……澪ちゃんのことが――」
「やっぱりそう思ってたんですね。誤解です、それは。確かに澪先輩のことは尊敬してますけど、それとは違います」
で、でも。二人でいてあんなに嬉しそうにして――
「尊敬する先輩が仲良くしてくれたら……そりゃ嬉しいですよ」
あの時抱き合って――
「やっぱり見てたんですね。違います、アレは私が転びそうになって、支えてくれていただけです」
矢継ぎ早に訂正され、私は何も言えなくなってしまう。
それに納得してしまいそうになる。
つまり、ということは。本当にあずにゃんは、私のこと――好きだってこと、なの?
――本当に?嘘じゃなくて?だってこんなの、こうなるなんて、すぐには信じられないよ。
だって、こんな、都合よすぎだし――ああ、でも。
そっか、確かにりっちゃんはあの時、そう言ってた。
私が澪ちゃんのことを理由にしたとき、りっちゃんはそれでも言うべきだと私に告げてくれた。
りっちゃんは知ってたんだ。
私がそれを告げれば、あずにゃんが応えてくれていたってことに。
だから私の背中を押して、この子のそばに行かせてくれたんだ。
つまり、私は最初から間違えてた。
どこを、じゃ無くて、本当にもう何もかも。
本当に、手を伸ばせばすぐに届いたのに。届く場所にいてくれたのに。

「ふぇ……んぅ……」
目じりから熱いものがあふれ出してくる。
それは本当に熱くて、溶けてしまいそう。そのまま溶けてしまってもいいと思えるくらいに、嬉しくって。
溢れても溢れても、次から次へとまた溢れ出して来る。
「ゆ、ゆいせんぱ……な、何で泣くんですか」
「だって、だって、あずにゃ……んぅ……うえぇぇん……」
泣き出した私にびっくりした様子のあずにゃんにしがみついて、私は泣く。
あの時の、あの空き教室と同じ様子で、だけど全く正反対の衝動のままに。
「……絶対駄目だって思ってたから、絶対無理だって思ってたから」
「唯先輩……すみません、私がもっと早く気付けばよかったんです。もっと早く、先輩に伝えられていたら……」
「違うよ、あずにゃんのせいじゃないよ。私が……」
「違います、私のせいです。先輩は私のせいにしちゃっていいんです。だから、もう泣かないでください。先輩に泣かれると、私……私」
泣きじゃくる私に釣られるように、あずにゃんの声もだんだんと歪んでくる。泣き声へと、近付いていく。
「私、本当に最低です……先輩を、こんなに泣かせて。いっぱい悲しい思いをさせて」
私を抱きしめていたあずにゃんの腕に、さらに力がこもる。私がそうしているように、ぎゅっと私にしがみついて、泣いている。
「あずにゃん、泣かないで……」
「無理です……っ!だって、だって私……本当に言わないつもりだったんです。言える資格なんてないって思ってたんです!」
「……あずにゃん」
「なのに、先輩は……こんな私のこと、まだ好きだって……言ってくれたから。私は、そんなに言われたら、抑えられないじゃないですか……」
「先輩がずっと辛かったように、今度は私がそうなる番だって、幸せになっちゃ駄目なんだって……そう思ったのに」
ふるふる首を振って、まるでそういったことを後悔するようにあずにゃんは言う。
だけど、そんなの駄目。そんな必要、全く無いんだから。
「違うよ、あずにゃん……私、辛くなんて無かったよ」
「え、だ、だって……」
「ていうかさ、そんなの全部忘れちゃった。だって、私今こんなに嬉しいんだもん」
本当に、嬉しくて嬉しくて、泣いてしまうほどに嬉しくて。
私こそ、こんなに幸せになっていいのかなって思ってしまうほど。
いっぱい間違って、いっぱい遠回りして、そのせいでいっぱい傷つけて。
こんな風に今、本当にこんな私がこんなに暖かいものを抱きしめてていいのかなって。
「あずにゃんが私のこと好きだって言ってくれて、私のこと抱きしめてくれて、そして私のために泣いてくれてるんだよ」
「だから、私全然辛くなんて無いよ。そんな風になんて、思えないよ」
だけど、これでいいんだ。ううん、こうじゃなきゃいけないと思う。
私は幸せにならないといけないんだと思う。それを、手放しちゃいけないんだと思う。
だから、これでいいんだって教えてあげるように、私はぎゅっとあずにゃんを抱きしめた。
だって、それが自分の幸せだって、あずにゃんはそう言ってくれたんだから。
幸せになったら駄目と言ったこの子は、私の傍にいることがそれだって言ってくれたんだから。
私のことを好きで、私に好きでいられることが、幸せだって。
「だから、駄目だよ。そんな風に言っちゃ。幸せになっちゃいけないなんて、言ったらやだよ……あずにゃんは一杯幸せにならなきゃいけないんだから」
そして、それはあずにゃんにとってだけじゃない。
「そうじゃなかったら、私も幸せじゃいられないんだから」
それは、私も幸せだと思うことだから。
だから、私いっぱい幸せになるよ。あずにゃんのこと、幸せにしてあげられるように。
だから、もう遠慮なんてしない。もっと、いっぱいあずにゃんのこと好きになる。そして、あずにゃんにもっと私のこと好きになってもらうんだから。
「ゆい……せんぱい……っ」
「いいんですか、私、先輩の傍にいて。こんなに、こんなに幸せでいて……やだもう、嬉しくて……涙が止まらないです」
泣きじゃくりながら私にしがみついてくるあずにゃんを、私もまた強く抱きしめ返す。
私だって同じだもん。さっきからずっと、嬉しくて涙が止まらない。
でもぬぐったりはしない。だってこれは、私が今こんなに幸せだってことの、私たちが今こんなに幸せだってことの証だから。
だからぎゅうっと精一杯の力を込めて、私はあずにゃんを抱き締める。もう絶対離れないように。離さないように。
その可能性だってもう、私たちの間には欠片だって残らないように。
「私もだよ……あずにゃん。あずにゃん、好き。大好き、大好きだよ、あずにゃん」
「唯先輩……私もです。先輩に負けないくらい、先輩のこと大好きです。いっぱい、いっぱい好きです!」
いっぱい涙をこぼしながら、だけどいっぱい笑いながら、私たちは抱きしめあい、笑いあう。
本当に本当に幸せで、そうせずにはいられない。
こうして繋がりあえたことが、嬉しくてたまらない。
ううん、それは最初から繋がってたんだ。
私もあずにゃんもそれに気が付いてなかっただけで、そのままにずっと遠ざけてしまっていたけど。
ずっとずっと繋がっていた。
そして今ようやく、一つになることができた。
本当にようやくだけど、私たちはちゃんと繋がりあえることができたんだ。

――もう、絶対離しませんから。
そして、この子は真剣な表情でそう呟くから。
――うん、ずっと一緒だよ。あずにゃん。
だから私はふんわりと笑いながら、そう答えた。
そして、大好きだよって、もう何度目かわからない、だけどきっと何回言ってもこの想いを表しきれないその言葉を呟きながら、私は。
それでも伝わりあっているものを、少しでも形にしたくて。
ゆっくりと目を閉じたキミの、その小さな唇にそうっと優しくキスをした。

(終わり)



  • 感動した!! -- (ゆいあず命) 2010-06-13 08:17:08
  • 心から言える 感動した -- (名無しさん) 2010-08-03 00:55:08
  • 律がカッコ良すぎて号泣した -- (名無しさん) 2010-08-05 23:52:06
  • 素晴らしすぎる -- (名無しさん) 2010-11-11 23:25:42
  • ここのwikiで一番お勧めのSSをあげろと言われたら俺はこのシリーズを推す -- (名無しさん) 2010-11-19 00:04:39
  • 唯の地文がねちねち長すぎて読物には向いてない そこさえ改善すれば良い子 -- (名無しさん) 2010-12-28 11:44:42
  • 遅ればせながらゆいあずSSを最初から読んで言ってるが暫定一位。 -- (名無しさん) 2011-01-15 01:28:44
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最終更新:2010年02月07日 20:04