受験生だというのに、勉強も部活も中途半端にやっていたら、とうとうあずにゃんがキレた。
これからはもっと心を鬼にしていきますからね!!」
 それじゃあ“あずにゃん”と“鬼”で“あおにゃん”だね、とか言ったら叩かれました。りふじん!
 ―――そんな“あおにゃん”が降臨して、初めての土曜日。
「ほら唯先輩!またそこのコード忘れたんですか!?あ、ほら、また間違えた!!何回ミスすれば覚えるんですか!?」
「ふぁい…………」
 時刻は、0時を過ぎた午前2時。場所はあずにゃんの部屋。
 なんでも、あずにゃんのご両親がちょうどライブに出かけていて、今日(昨日?)は一人なのだとか。
 てことは、『今日、うちに両親いないから、泊っていく……?』とかいう有名なアレですね!!お泊りひゃっほう!!……とか思っていた私がバカでした。
 家に着いた途端、「おじゃまします」も言わせぬままあずにゃんの部屋へ。あずにゃん気早すぎですと思ってまず目に入ったのはあずにゃんのギター。
 まぁ部屋にあるんだから当たり前だよね、とか思ってたらなんと私のギー太までいるではないですか。なぜ。今日は君は家に待機のはずだよ。
 あずにゃんに訊くと、「憂に持ってこさせました」。さすが私の妹。姉に気付かれずにマイスイートギー太を持っていくとは。
 とかそんなんじゃない。なんで?別にギー太持ってこなくてもいいんじゃない?ただのお泊りでしょう?
「誰が、『お泊り』だと、言いましたか?」
 あずにゃんは、わざとらしくゆっくりと言った。
「え?」
 不安げに首をかしげる私に、あずにゃんは微笑んだ。
「今日は、『強化合宿』です」

―――

「梓先生、もう私眠いです……」
 強化合宿宣言からずっと、私達は向かい合い、ギターの音を鳴らすため、指先だけを動かしている。
 お昼ぐらいにきたから、かれこれ12時間はやってるのかなぁ……。
 ちなみに晩ごはんはカップラーメンだけで、今猛烈におなかがすいています。でも今なんか食べたら肌に悪そう。てゆうかまだ起きてる時点で肌に悪そう。
「この曲が弾けたら、寝てもいいですよ」
 私と同じくらい眠いし、おなかもすいてるはずなのに、あずにゃんは淡々としている。
 てゆうか、私先輩なのに、なんでこんなことされてるんだろう……?
「唯先輩は、自覚が足りないんです!!受験生なんだから、もっとやる気を見せてください!勉強でも、部活でも、なんででも!!」
「そんなこと言ったら、りっちゃんだって同じじゃない?」
「律先輩はいいんです。あの人なんとなくフリーターが似合ってますから」
 見捨てられたねりっちゃん。君は今、泣いていいよ。
「でも、唯先輩が路頭に迷うのは嫌なんです!!後輩として、恋人として!!」
「えー。なんとかなるって、おおげさだなー。だいじょーぶだって」
「大丈夫に見えないから心配してるんですよ!!」
 あずにゃんは知らない。私は勉強をがんばるより、思い出を作りたいと思っていることを。
 そりゃあさ、良い大学に行きたい!っていう人は、この時期がんばる―――いや、もっと前からがんばってるかもしれないけれど。
 でも、私はそうじゃない。
 それよりも皆で、わーわーはしゃいで、もっと素敵な思い出をいっぱい作りたいと思っている。勉強は、まぁ、なんとかなるさ、と。
 だから、そんな心配は無用だよって言ってるのに、
「さぁ!続きやりますよ!つづき!」
 相変わらずあずにゃんはやる気満々で音譜に沿ってきれいに音を出す。近所迷惑にならないかしら……。
「今夜は寝させませんよ!唯先輩!!」
 そのセリフ、今じゃなかったらもっと嬉しかった。


 午前3時48分。しにそう。瞼がふるふるする。頭がぽわぽわ。ああ、ああ、ううう。
「唯先輩、しっかりしてください」
 あずにゃんの声が聞こえる。たしか途中でコーヒーでも飲んでたっけ、あずにゃん。私はトイレに行きたくなるから飲まなかったけど、飲んどけばよかったかな。
 ギターの音。あずにゃんが「あともう少しです」と私に話しかけてくる。その曲良い曲だけど、難しいから苦手だよ……。あずにゃんはそうでもないんだろうけど。
 てゆうかさ、なんで合宿なんてやってるんだろう。嬉しいよ?あずにゃんが心配してくれるのは。でも流石にやりすぎじゃない?3時だよ?あとちょっとで4時だよ?
 朝が早いお年寄りとか、朝刊運ぶおにーさんとか、もう余裕で外に出てる時間だよ?
 なのになんで私たち合宿なんてやってるの?変だよ。眠いよ。眠い。「大丈夫ですか?」あずにゃんの声だ。あずにゃんはなんで大丈夫なの?コーヒー?コーヒーの力?
「コーヒー……」
 知らないうちに、私は声に出していたらしい。それに反応したあずにゃんが、聞き取れないのか、私に顔を近づけ、訊いてくる。
「へ?すいません」目の前にあずにゃんの顔。「もう一回言ってください」コーヒーの匂いがする。「聞こえませんでした」あずにゃんが口を開けるたびに、コーヒー。
 ああ、コーヒー。良い香り。コーヒー。持ってきてくれたんだね。ありがとう、コーヒー……。
「、!?」
 私はコーヒーの匂いがするほうに口を近づけ、そのまま口付けした。
 それは予想外にやわらかく、かつ甘い。けれどやはり、コーヒーの味がして、ああ美味しい、と私は目をつむった。
「ち……、ゆ……、ん、ふぅ……、あ」
 あずにゃんの声が小さく聞こえる。もっと味わいたい。私はさらに舌を入れ、コーヒーを存分に味わおうと、その“中”を舐めつくす。
「んぁ……、っ……、ゆいせん…………ふっ……、」
 甘い味に、甘い声が味覚と聴覚を刺激する。その刺激に、私はつむっていた目を開いた。
「……ちゅ……ん、……」
 あずにゃんの、くりくりした目。真っ赤な顔。近い。あれ?私……。あれ?
「っ、んっ……」
 唇を離すと、つと透明な糸が、私達の舌を結び、消えた。
 顔を伏せたあずにゃんの顔は、耳まで真っ赤で、かすかに前髪から覗く目は、とろんとしている。息も荒い。
 ああ……、私。もしかして、
「ちゅーしちゃった?」
 ビクン、とあずにゃんの身体が揺れた。
「じ、じ、自覚なしで、ですか!?」
「え?あ、うん。まぁ……」
 なんだろう。コーヒー飲みたいな、と思っていたとこまでは覚えてる。でもその先が思い出せない。
 ……どうやら私は、完全に寝ぼけていたみたいだ。眠すぎて。
「っ……、通りで、いつものらしくないなぁ、と……」
「え?何が?」
「~~~~っ!!な、なんでもないです!!」
 慌てるあずにゃん。相変わらず赤い顔をそのままに、あずにゃんはすっくと立ち上がり、部屋のドアへと早足で向かう。
「あれ?どこ行くの?練習は?」
「お風呂!!終わり!!」
 バタン!!と荒々しくドアを閉め、あずにゃんは去って行った。近所迷惑だよ?
 ……えーと、とにかく。「どこ行くの?」→お風呂。「練習は?」→終わり、ってこと、かな?
 …………なんだか、よくわかんない終わり方だけど、まぁいいか。眠くて頭の回転が追いつかないや。ギー太とあずにゃんのギターしまって、ベッド借りて寝よう……。
 ああ、あずにゃんのにおいだ、このベッド。当り前だけど。ねむい。おやすみなさーい……。
 …………ぐー。

―――

「もう、あんな、あんなキスしたくせに、その気なしって。うう、ううううう……!!!」
「……だめ、お風呂。お風呂入ろう。さっぱりしよう。うん……。…………はぁ……」

―――
 それから、
 鬼な“あおにゃん”は、なぜか出てこなくなって、強化合宿もなくなった。
「ねーねーあずにゃん。なんでやめたの?」
「えっ……。ほ、ほら、あれですよ。受験生だから、あんまり無理しちゃだめだし……」
「……ふーん?まぁ、いいけどね」
「……唯先輩、暴走するとこっちがやばそうだし……」(ボソッ
「え?何か言った?」
「な、なんにも!!」

おわり


  • あずにゃん+鬼はあおにゃん(笑) なんかおじ○る丸だなwww -- (名無し) 2012-08-17 17:13:53
  • ちょw律wwwフリーターwww -- (名無しさん) 2012-09-03 18:35:26
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最終更新:2010年04月07日 12:39