新歓で彼女を見た瞬間、私は心を奪われた。

軽音部で再会した時、彼女の実像に失望した。

彼女と日々を共にする内に、色々なものが見えてきた。

もっと彼女の事が知りたくて、自然と目で追うようになっていた。←いまここ


気だるい午後の休み時間、友人の鈴木純が唐突に言い出した。
「梓ってさ、女の子同士の恋愛とかOKな感じ?」
「突然、何の話をしてるのよ…」
あまりにも唐突なその質問に、私は呆れ顔でそう返した。
「梓って憂のお姉さんといい感じじゃない?」
「ぶはっ!?」
私は飲んでいたバナナジュースを盛大に噴き出した。
「わっ!何してるのよ、もう」
「あんたが変な事を言うからでしょうが!」
「えー、でも毎日のように抱き合ってるじゃない」
「あれは唯先輩が一方的に抱きついて来てるだけでしょ」
「夏休みにプール行った時だって、なんだかんだで褒めてたし」
「それは、軽音部の先輩として一応は尊敬してるから」
「しょっちゅう、メールのやりとしてるし」
「そのくらいは普通にするでしょ」
「いつもすっごい嬉しそうにメール見てるじゃん」
「それは唯先輩が…って、私そんなに嬉しそうな顔してた?」
「してた」
「…」
思わず言葉に詰まる。
「そう行った諸々の事情を踏まえて、さっきの質問をするに至った訳なのだけれども」
「まぁ、いいわ…それで?そんな事を聞いてどうするつもりなの?」
「いや、今はまってる漫画がね…所謂、そう言うノリなのよ」
「どう言うノリよ…」
「とにかく、梓にその気があるなら応援しようかなぁと思って」
「応援も何も、私はそんな気持ち微塵も持ってないから」
「な~んだ、残念」
「まったく…」
「あ、憂のお姉さん」
「え!?」
純が指差す方向に思わず目が行ってしまった。
「ウ・ソ」
「…」
「やっぱ、気になってるんじゃん」
「だから、そんなんじゃないって…」
その後も何かにつけて煽ってくる純を諌めつつ、その日の授業を終えた。

翌日、何の気なしに廊下を歩いていた私の前に渦中の人物が姿を現した。
「あっずにゃ~ん!」
「にゃっ!?」
「おはよー、あずにゃん♪」
「唯先輩!いきなり抱きついて来ないでっていつも言ってるじゃないですか!」
「えへへ、ごめんね~」
「わ、わかってくれればいいんです」
「あずにゃん、やさしー…なでなで♪」
「むぅ…」
(昨日、純があんな話をしたせいで変に意識しちゃうじゃない…)
「そうだ、あずにゃん」
「何ですか、唯先輩」
「今日さ、学校終わってから時間ある?」
「特に用はありませんけど」
「じゃあさ、たい焼き食べにいかない?」
「たい焼きですか?」
「うちの近くに新しくたい焼き屋さんが出来たんだよ」
「たい焼き屋って…屋台ですか?」
「そうそう」
「へぇ」
「あずにゃん、たい焼き好きでしょ?」
「大好きです」
「そこのチーズ入りたい焼きが美味しいらしいんだよ」
「餡子にチーズですか…?」
「あずにゃんはチーズ苦手?」
「いえ、そう言う訳じゃないんですけど…何となくイメージ的にどうかなって」
「食べてみないとわからないよ」
「まぁ、それはそうですけど」
「じゃあ、決まりね!今日、部活終わったら一緒に食べに行こ!」
「わかりました…あ、でも他の先輩方は誘わないんですか?」
「澪ちゃん達は帰る方向が違うからね、それに…」
「それに?」
「やっぱり、好きな人と食べたいでしょ?」
「!?」
キンコンカンコン
「あ、予鈴なっちゃった!また後でね、あずにゃん!」
「ちょ、ちょっと唯先輩!…って行っちゃった」
「…」
(今、好きな人って言ったよね…)
「まさか、唯先輩が私を…?」

「もうすぐだよ」
「え…あ、はい」
学校が終わって二人きりの帰り道、私は今朝の出来事をずっと考えていた。
「何かぼーっとしてるね、どうかしたの?」
「い、いえ別に何も…」
「そう?ならいいけど」
「…」
唯先輩は別段いつもと変わらない。
今朝、あれだけストレートに告白(?)したのも何のそのな感じだ。
「あそこだよ、あずにゃん」
色々と考えてる内に目的のたい焼き屋さんに到着してしまった。
「へぇ、こんな場所に出来てたんですね」
「早速、買って食べようよ~」
「ふふ、そんなに慌てなくてもたい焼きは逃げませんよ」
子供みたいにはしゃぐ唯先輩を見てると、自然と顔が綻んでくる。
「はい、あずにゃんの分」
「ありがとうございます…えっと、いくらですか?」
「良いの良いの、ここは先輩の私が奢ってあげるから!」
「そうですか、じゃあ遠慮なく頂きますね」
「いただきまーす」
『………』
オーソドックスな粒餡をはじめ、チョコ、カスタード、サワークリームなどバラエティに富んだ数種類のたい焼きが売られていたが
そんな中で唯先輩が買ってきたのは、当初の予定通りチーズ入りのたい焼きだった。
「へぇ、思ってたより良い感じですね」
チーズの程よい塩味が餡子の甘さを引き立て、更にコクを増している。
「うん、美味しいね~♪」
「…」
ちらりと唯先輩の方に目をやる。
満面の笑みでたい焼きを頬張るその姿はとても愛らしい。
「あれ?もう食べないの、あずにゃん?」
「あ、いえ…いただきます」
私は手元に目線を移し、たい焼きを口に運ぶ。
(今朝の言葉の意味…ちゃんと聞いた方が良いかな?)
美味しい筈のたい焼きもその事が気になってちゃんと味わえていない。
私は意を決し、唯先輩に声を掛けた。
「ゆ、唯先輩!」
「どうしたの、あずにゃん?」
「その、聞きたい事があるんですけど…」
「なぁに?」
唯先輩は可愛らしく首を傾げながら聞き返してくる。
その仕草に思わず胸が高鳴った。
(やば…何かすっごい意識しちゃってる)
「あの!唯先輩は…その、私の事が…」
「あずにゃんの事が?」
「す、す、す…」
「す?」
「好きなんですか!?」
「うん、好きだよ」
早っ!…ってか軽っ!?
「本当…ですか?」
あまりの即答ぶりに思わず聞き返してしまう。

「勿論、あずにゃんの事は大好きだよ~♪」
あれ、何となくだけどニュアンスが違うような…?
「あの、唯先輩…今朝、私に言ったこと覚えてますか?」
「今朝?」
「だから、その…す、す、好きな人と食べたいって…!」
「うん、覚えてるよ」
「それってつまり…」
「やっぱり食べるなら『たい焼きが好きな人』と一緒に食べたいもんね♪」
「………え?」
「あずにゃんがたい焼き好きなのは知ってたから、この店の事を教えてあげたいなって思ってたんだよ」
「……………」
「どうしたの、あずにゃ…?」
「にゃああああああああああああああああ!!!(恥)」
「あ、あずにゃんが壊れちゃった!?」
勘違い!勘違い!盛大に勘違い!!全部、私の一人相撲だったって事ですかあああああああ!?
「あ、あは…あはは…」
「あずにゃん、大丈夫?」
唯先輩が心配そうに私の顔を覗き込む。
「だ、大丈夫です…」
「具合が悪いなら無理しちゃ駄目だよ」
そう言って、優しく私を抱きしめてくれた。
「あ…」
その時、私はある事に気がついた。
(ああ、そっか…)
気がつけば、彼女を目で追っていて。いつの間にか、彼女に抱きつかれる事を受け入れてる自分が居て。
彼女からのメールを見ては顔を綻ばせ。彼女が褒められれば、まるで自分の事の様に嬉しくなって。
「…そう言う事だったんだ」
「あずにゃん?」
私が漏らした言葉の意味がわからず、唯先輩が首を傾げる。
そんな唯先輩の姿を見て、可愛らしいなと感じてしまう私がそこに居た。

純の発言が原因だった訳じゃなかった。
何の事はない、私はもうずっと前から彼女に恋をしてたんだ。

「ねぇ、唯先輩」
「なぁに、あずにゃん?」
「何だか少し具合が悪いみたいなので、家まで送ってくれませんか?」
「うん、任せて!私があずにゃんを無事に送り届けてあげるからね!」
「お願いします、唯先輩♪」

図らずも気付いてしまった自分の気持ち。
突然の事で気持ちの整理はまだついてないけれど、折角のチャンスは逃せない。

唯先輩の本当の気持ちはわからずじまいだったけど、今は彼女の優しさに甘えてしまおう。
きっと明日からは彼女の一挙一動に振り回される、そんな目まぐるしい日々が待ち構えているのだから。

おしまい!


  • やはり梓がいくら否定しても純から見たら唯梓はイチャラブしてるようにしか見えないんだろうな -- (名無しさん) 2010-07-31 04:15:36
  • 恋の始まりって何か良いよね -- (名無しさん) 2010-07-31 08:22:20
  • いまここに吹いたが梓の口調がおかしい気がする -- (名無しさん) 2010-08-07 20:35:06
  • まったく純は凄いな。さすがあずにゃんの友! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-20 00:18:42
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最終更新:2010年07月07日 23:03