「梓ちゃんってホントに軽音部の事好きだよね!いつも話してくれるよ」
「えへへー照れますなぁ」
夕食を取りながら憂と他愛もない話をする。う~ん、ごはんもおいしいし幸せな時間だなあ。
今日の会話にも
あずにゃんが登場。二人の共通の友人だし、よく話題に上るんだよね。
可愛くてちっちゃくてちょっぴり頑固でそんでもって可愛くて…私の初めての後輩。
なんだか最近、あずにゃんの事を考えてばかりいる気がする。文化祭が近づいてきて会える時間も減って、あずにゃん分が足りなくなったのかな。
「この前は紬さんが可愛らしい話だったけど、律さんがご飯作ってくれた話とか―」
「そうそう、りっちゃんのご飯美味しかったんだよ~」
「梓ちゃんの先輩自慢に純ちゃんもたじたじになっちゃってさ。皆さん本当にいい先輩なんだね」
「うんうんそうだよね。澪ちゃんはかっこいいし、ムギちゃんは優しいし、りっちゃんは頼りになるし…ハッ」
「どうしたのお姉ちゃん?」
ここまで話を聞いて私はあることに気付いた。
「私、先輩らしい事してない!」
「えっ、そうかな」
そう、後輩のあずにゃんは私にギター教えてくれたりするけど、先輩である私は抱きついたり怒られたり呆れられたり…。
わ、私ってあずにゃんにどう思われてるのかな。さっきの憂の話にも私の自慢話ってなかったような。
「これはまずいよ!」ガタッ
「ひゃあ!びっくりした」
「決めたよ憂。私、先輩らしくなるよ!」フンスッ
「そっか、頑張ってねお姉ちゃん」
先輩らしくなれば、あずにゃんも私の事褒めてくれるかな。私の事好きになってくれるかな…。
私、あずにゃんにもっともっと好かれたい。なんでだかよく分からないけど…まいっか。先輩のお手本は私の周りにいるもんね。
「よーし、やーるぞー!」
「ふふっ頑張るお姉ちゃんも可愛い」
「ごちそうさま。まずはお皿洗いするよ!」
「えっ!?いいのに」
「任せて任せて~」カチャカチャ
「ああっ危なっかしいよ~」
(ふふっお姉ちゃん、梓ちゃんのこと本当に好きなんだろうな。でもそんなことしなくてもいいと思うけどな)
(梓ちゃん、凄い分かりやすいんだもん。お姉ちゃんのこと褒めたりはあまりしないけど、1番お姉ちゃんの事…)
「って、私が言うのも野暮だよね」
「ういーなんか言ったー?」
「ううん、何でもないよっ。私も手伝うねお姉ちゃん!」
今日は文化祭の練習で私以外遅くなっちゃうみたい。だからこれは私が先輩らしく振る舞うチャンスだよ!
あずにゃんが来たら先輩らしさを発揮しなきゃ。それまでは木の練習してよう。時間を無駄にはしないよ。
ガチャッ
「こんにちはー。あれ、唯先輩だけ。やっぱり他の先輩たちは劇の練習ですか」
「…」
「唯先輩?…あ、木の練習か。イスにでも座ってよ」
「…はっ!」
しまった。いつの間にかあずにゃんが来ていた!
「や、やっほーあずにゃん」
「ふふっいいんですか、木の練習してなくて」
あうう笑われてるよ。これは不覚だよマイナスポイントだよ…。
「ううん大丈夫。それより練習する?お茶にする?そ・れ・と・も…」
「えっ唯先輩練習するんですか?」
「舐めてもらっては困るよ。私だってやる時はやるのです!」フンスッ
「そうですか。それじゃあ練習しましょう。今用意しますね!」
うーんあずにゃん嬉しそう。やっぱり練習が好きなんだなぁ。
「それじゃごはんはおかずのイントロから行きましょうか」
澪ちゃんみたいに真面目だったら、もっと尊敬されてたかなぁ。
「って唯先輩、聞いてます?」
「あ、うん。よーしじゃんじゃん行くよ!」
「は、はい!」
そう、今日の私は今までとは違うよ!先輩らしくどんどんあずにゃんを引っ張って行っちゃうんだから!
「…でここがこうなるわけです」
「ほほう」
「でサビの所はこうしたほうが」
「ふむふむ」
あずにゃんのほうが上手だからこれはしょうがないんだよ!
ジャカジャカジャン
「フンッ…よっ…」
「…」
ジャカジャ …ジャ…
「あ、あれっ?」
「大丈夫ですか?」
「う、うん」
ジャカ…ジャ
「うう…力が入らなくなってきた…」プシュー
「けっこう頑張りましたし、休憩しましょうか」
「そーだn…」
ってまずいまずい。先輩が先に音を上げるわけにはいかないよ。
「まだいけるよっ!先輩だからね」
「は、はぁ」
「えいやー!」
「…そんなに無理しなくても」
「すいません…」シュン
だけど私の体力はもう底をついていて、無理に頑張ろうとしてめちゃくちゃな演奏になってしまった。
合わせてくれたあずにゃんに悪いことしちゃったな。はぁ。
「とりあえず休憩にしましょう。私もちょっと疲れちゃいました」
「…そうだ!」
そうだった。練習頑張るだけが先輩じゃないよ!今度はムギちゃんの代わりをしよう。
「私がお茶入れるよ!ムギちゃんからお菓子も預かってるし、先に食べてていいって!」
「ええっ唯先輩が!?大丈夫なんですか」
「ここは先輩にまかせてまかせて~。あずにゃんは先に座ってるがいいさ」
「はぁ。いきなり元気になっちゃって…まあ唯先輩らしいか」クスッ
「えっと、紅茶はこれを使えばいいんだよね。でもって…」カチャカチャ
「うーん、でも心配だなぁ」ソワソワ
なかなかいい調子。えっとお湯沸かしたから、あとは熱湯を注いで三分待つ。あれこれってカップラーメンだっけ?えーと
「うわっ!?」ガシャン
「!!だ、大丈夫ですか!?」
「あっつーい!」
「唯先輩!!」
「…」
「もう、軽い火傷でよかったです」
「…うん…」
「じゃあちょっと待っててくださいね」
やかんを倒して指を火傷してしまった私は、保健室で手当てをしてもらい、いまは部室で座らされている。
あずにゃんは代わりにお茶の用意をしてくれている。私がやると危ないって。あずにゃんが。
私って駄目な先輩だな。改めて思い知ったよ。頑張るって言って迷惑ばかり。
澪ちゃんやムギちゃんのようになんてとても出来なかったし。りっちゃんみたいに頼りにならないし。
あずにゃんに、嫌われちゃうよ…。
「用意できましたよ。唯先輩?」
「…うぅ…ぐすっ…」ポロポロ
「どうしたんですか!?まだ、火傷痛いですか!?」
「ふぇ…うぇぇん…ごめんね…あずにゃん…ぐすっ」
「えっちょ、唯先輩?」
「私…全然先輩らしくないし…えぐっ…迷惑掛けるし…ひっく…」
「…なに言ってるんですか。ちょっと落ち着いてください。ほら鼻でてますよ」
「…うん」チーン
そういってあずにゃんは落ち着くまで背中をなでてくれた。
「先輩らしい所を?なんですかそれ」
「先輩らしくなれば、あずにゃんが、もっと…」
「もっと?」
「す…好きになってくれるかなって」
「な///」
「だって!だって私普段からあずにゃんに呆れられてるし、ほかのみんなと違って憂達に自慢されないし…」
「…」
「だから先輩らしくなればって思って。だけど全然ダメで…」
「…もう。今日はなんか変だなって思ったら、そんなことでしたか」
「そんなことって…」
「そんなことしなくても、唯先輩は唯先輩のままでいいですよ」
「ふぇ?」
「だから、唯先輩らしくしてください」
「私らしく…」
「そうですよ。そうじゃないと嫌です。先輩の唯先輩じゃなくて、唯先輩って人が私はすk…」
「す?」
「す、推奨します!」
「…あずにゃん!」ギューッ
あずにゃんはくるっと後ろを向いちゃったけど、私は背中から思いっきり抱きついた。
「もう…今日やっと抱きついてくれましたね」ボソッ
「ほぇ?」
「なんでもないです。それに私には、唯先輩もいい先輩なんですからね」
ほっぺたがくっつくくらいの距離で、私はあずにゃんの話を聞く。
囁くくらいの小さな声が、二人だけの部室に響く。
「例えば…皆さんと行く合宿、とっても楽しかったです」
「うん、そうだね」
「だけど私にとってみれば、他の皆さんは年上なわけで」
「もちろん皆さん優しいし、全然構わないんですが、やっぱりどこか気を遣っちゃいそうで」
「でも唯先輩は、私と同じ目線でいてくれました」
「唯先輩がいてくれたから、私は何も気にせず楽しめたんです」
「…そっか。全然気が付かなかったよ」
「それに、唯先輩は無意識にちゃんと先輩をしてくれていますよ」
「無意識に?」
「はい。ちょっとした気遣いや私を思ってくれての事が、数え切れないほどあります」
そう言うとあずにゃんは、あずにゃんを抱きしめる私の腕をそっと握った。
「その度に私は嬉しくて、心が温まって、そんな唯先輩の事をもっともっとすk…」
「す?」
「…」
あずにゃんが俯き、静かになった教室。気が付けば日はだいぶ傾いていて、窓から夕日が差し込んでいた。
すると急にあずにゃんが体をくるっと回し、私と向き合う形になった。
腕はまだあずにゃんの体に巻き付けたままなので、距離が凄く近い。そしてじっと見つめあう。
いつものあずにゃんなら恥ずかしがる所なのに、なんだかおかし―
「好きです」
………へ?今、なんと?
「好きです。私、唯先輩の事好きです。大好きです」
最初はちょっと信じられなかった。でも確かにそう言った。
私の目の前の、可愛くてちっちゃくてちょっぴり頑固でそんでもって可愛くて…私の大好きな人が。
なんだろう。心が満たされていくってこういうことなのかな。ただ私は、目の前の女の子が、愛しくて愛しくてしょうがなかった。
こんな気持ち初めてで、だけどすぐに分かった。私は、この娘のことが…。
「…私もね。私も、大好きだよ。あずにゃんの事、大好き」
言葉にした瞬間、自然と涙が零れ落ちる。あずにゃんの目にも、同じものが光っていた。
私はあずにゃんを思いっきり抱きしめた。私の好きを全部伝えるため。
あずにゃんも負けじと抱きしめてくれた。ただただ抱きしめあった。
暫くして、あずにゃんが体を離しながら言う。
「…前にも言いましたけど、私、唯先輩とだけは
先輩後輩の関係を強調して欲しくはありませんでした」
「前って、もしかして川原で?」
「そうです。唯先輩がへんなユニット名言い出すから」
「ごめんごめん。でも、なんで?」
「だって先輩と…先輩後輩なんかよりもっと特別な関係になりたかったから…」
「あずにゃん…結構恥ずかしい事言うね」
「だ、だって唯先輩が///」
「えへへ、でもなれたね、特別な関係」
「…はい」
「あずにゃーん好きーっ」ギューッ
「もう、唯先輩。それじゃあ今までと変わらないじゃないですか」
「だって好きなんだもん」
「…そういえば特別な人同士は、愛を伝えるとっておきの手段があるみたいですけど、ゆ、唯先輩は分かります!?」
「え、それって…」
「せ、先輩ですから、分かりますよね。先輩ですもん///」
顔を真っ赤にして、眼は合わせないようにキョロキョロさせて、なんていうか可愛い。
それに、そのくらい私解っちゃうよ。だって私
「…先輩だもん。今日1番先輩らしい所見せてあげる」
「あ…」
そういって私はあずにゃんの頬に手を添える。
あずにゃんと顔を見つめると、彼女はそっと目を閉じた。
「好きだよ、梓」
「はい…」
次の瞬間、
私たちの距離はゼロになった。
「カットー!」
「ふいー疲れた」
「うう本番まであと少しか…」
「りっちゃんに澪ちゃんも凄く良くなってきたわ!」
「ありがとさん!ところでムギ」
「なあに?」
「髪の毛が一か所ピーンってなってるけど、それ寝癖か?」
「あ、これはね。乙女電波アンテナなの」
「…ふ、ふーん」
おしまい!
- 二人とも可愛い~ -- (鯖猫) 2012-08-31 17:02:31
- ほっこりするね。所々の小ネタもなんか嬉しい -- (名無しさん) 2012-09-06 02:12:17
最終更新:2010年08月24日 04:08