私は4歳の頃、夏祭りでお父さんとお母さんとはぐれ、迷子になった事があった。
不安で泣きじゃくる私に、ある女の子が話しかけてくれてきた。

「ふぇぇん・・・ひっく・・・おとぉさん、おかぁさん・・・どこぉ・・・ひっく・・・」
「・・・どぉしたの?」
「ひっく・・・おとぉさんとおかぁさんと・・・はぐれて・・・まいごに・・・ひっく・・・なっちゃ・・・った・・・」
「そぉなんだ。・・・じゃぁ、わたしがおとぉさんとおかぁさんがみつかるまで、いっしょにいてあげるよぉ」
「・・・ぐすん・・・ほんとぉ?」
「うん。だから、なかないでね」

そう言うと、その女の子はハンカチを取り出し、私の涙を拭いてくれた。

「えへへ・・・あ、そうだ。これ、はんぶんこしてたべようよ♪」
「え・・・いいの?」
「うん、これをたべると、げんきになれるよぉ」

その女の子が差し出してくれたのは、屋台で売られていたたい焼きだった。
私はその時、初めてたい焼きを食べたけれど、凄く美味しかったのを覚えている。
      • そういえば、この時からだったなぁ・・・私がたい焼きが大好物になったのって・・・。

「おいしいねぇ♪」
「おいしいねぇ♪」
「あ・・・」
「どぉしたの?」
「このたいやき・・・いもうとと、たべようとおもってたんだ・・・」
「えぇ?・・・ご、ごめんなさい・・・」
「いいよぉ♪またかってくるから♪」
「・・・このおまつりには、いもうとときてるの?」
「おとぉさんとおかぁさんもいっしょだよ♪いもうとも、おとぉさんとおかぁさんといっしょにいるけど・・・あっ・・・」
「・・・どぉしたの?」
「・・・わたしもまいごになっちゃったみたいだよぉ♪」
「えぇ?」

思わぬ言葉に目を丸くした私・・・。だけど、その女の子は泣く事もなく、むしろクスッと笑っていた。
私と同じ状況だった事が面白かったのか、よくわからなかったけど・・・。
だけど・・・その時のこの女の子の笑顔が、両親とはぐれて不安だった私を救ってくれたのは間違いなかった。

「梓ー!!どこに居るの、梓ぁ!!」
「あっ、おかぁさん・・・」

「唯ー!!どこだ、唯ぃ!!」
「おねぇちゃーん、どこぉ?」
「あっ、おとぉさんと、ういだ♪」

「ふたりとも、おとぉさんとおかぁさんがきてくれてよかったね♪」
「うん、そうだね・・・たいやき、おいしかったよ。ありがとぉ」
「えへへ、どぉいたしまして♪」

時間にして、おそらく5分くらいの出来事・・・だけど、私はその子と別れるのが寂しかった。
ほんのちょっとしか一緒に居られなかったけど、何だか楽しくて、安心感があったから・・・。

「じゃあねぇ、バイバーイ♪」
「ねぇ・・・わたしたち、また、あえるかなぁ?」
「きっとあえるよぉ♪・・・おまつりで、まいごになっちゃったけど、まいごになっちゃったから、きみとであえたんだもん♪」
「うん、そうだね」
「うんめいだったんだよ、きっと・・・だから、またあえるよぉ♪」
「うんめい・・・?」

運命・・・まだ4歳だった私には、ちょっと難しい言葉だったけれど、その子はどういう事なのか教えてくれた。

「しょうらい、であうふたりは、うんめいのあかいいとで、むすばれているんだって♪」
「うんめいのあかいいと?」
「そうだよ♪・・・こんなかんじで・・・」

その女の子は、前髪に結っていた赤いゴムを外し、ゴムを8の字の形にした。
そして、片方に私の小指を通し、もう片方にその子の小指を通した。

「これで、きっとまた・・・きみとあうことができるよ♪」
「ほんとぉ?」
「うん、わたし、うそつかないよぉ♪」
「じゃぁ、ゆびきりしよぉ♪」
「うん♪」
「「ゆびきりげんまん、うそついたら、はりせんぼんのーます、ゆびきった♪」」

私は約束の指きりをすると、その子に赤いゴムを返した。
その子は、それを受け取り、ニッコリとしながら私に聞いてきた。

「ねぇねぇ、あなたのおなまえは?」
「なかのあずさだよ」
「あずさちゃんかぁ・・・かわいいおなまえだね♪わたしは、ひらさわゆいっていうの♪」
「ゆいちゃん・・・ゆいちゃんも、かわいいおなまえだね♪」
「えへへ・・・ありがとぉ♪」

その後、私達はそれぞれの両親に手を引かれ、笑顔で別れていった。
運命の赤い糸――――――――――私は、その子と再び会える事を信じていた。
あの子の笑顔が忘れられなくて・・・きっとすぐに会えると思っていた。
だけど・・・その願いは叶う事は無かった。


月日が経ち、私は高校生になり、もうすぐ最上級生になろうとしていた。
小学生、中学生、高校生となり、沢山の人たちとふれ合う事で、あの夏祭りでの思い出も過去の物となっていた。
髪留めのゴムで交した『運命の赤い糸』・・・そんな出来事も、私の中では忘れ去られてしまっていた。

      • そう、あの時までは・・・。


3月1日・・・今日は唯先輩達の卒業式だ。
部室で過ごせるのも今日が最後とあって、先輩達は最後のティータイムを楽しんでいた。
そこに私も加わり、今までの出来事を振り返りながら、色々とお喋りをしていた。
普段となんら変わらない光景・・・だけど、こんな事ができるのは、今日が最後なんだ・・・。

「じゃあ、そろそろ行かないとな・・・」

律先輩の言葉を合図に、澪先輩、ムギ先輩も席を立った。

「ほら、唯も行くぞ」
「私は・・・もうちょっとここに居て良いかな?」
「ん?・・・まぁ、あんまり遅くなるなよ?」

私は律先輩、澪先輩、ムギ先輩と、また一緒にバンドをやる事を約束し、3人を見送った。
部室から見ていた3人の後ろ姿はどんどん小さくなっていき・・・そして、校門を出た3人は私の視界から消えてしまった。
もう高校では皆とバンドが組めない・・・そう思うと、私は涙が止まらなくなっていた。
悲しさと寂しさで震える私を・・・唯先輩がそっと抱き締めてくれた。

「よしよし・・・泣かないで、あずにゃん
「どうして・・・唯先輩は・・・残ったんですか・・・」
「私も一緒に行っちゃったら・・・こうやって、あずにゃんを慰める事はできないでしょ?」
「唯先輩もこの後行っちゃったら・・・私はもっと泣いちゃいます」
「おおぅ・・・」

困った表情を見せる唯先輩・・・。だけど、これが最後なんだもん、我儘言っても良いよね。

「唯先輩の力で・・・私の気持ちを落ち着かせてください」
「ぎゅっ・・・」

確かに唯先輩から抱き締められると、落ち着くけれど・・・今日はそんな事だけでは満足できないよ・・・。

「そんな事だけでは、またすぐに泣いちゃいます」
「あずにゃんは・・・昔から泣き虫さんだねぇ♪」
「な、なんの事ですか!?」
「えへっ、なんでもなーい♪」

すると、唯先輩は私から離れると、私の胸元のリボンを外した。
時は夕方・・・部室には私と唯先輩の2人だけ・・・。あえて唯先輩が残ったのは・・・2人きりになりたかったから・・・!?

「ちょ、ゆ、唯先輩・・・!何する気ですか!?」
「ふふっ、あずにゃんを泣きやますおまじない♪」
「ふぇ!?///」

そう言うと、唯先輩は私の小指にリボンを結びつけた。そしてリボンのもう片方の先は、唯先輩の小指に結び付けられた。

少しずつ少しずつ蘇ってくる、幼き日の思い出・・・。

「私は大学生で、あずにゃんは高校3年生・・・。立場は違うけれど、私達、またすぐに一緒になれるよ♪
 この、運命の赤い糸・・・いや、今度は運命の赤いリボンが、私達をまた結び付けてくれるから・・・」
「また・・・?」
「私達が初めて出会ったのは、お祭りでお互いに迷子になっちゃったからだっけ・・・」
「・・・えっ・・・」
「その時、私があげたたい焼きを美味しそうに食べてた黒髪の小さな女の子は・・・こんなに可愛くなったんだねぇ♪」
「・・・あっ・・・」
「あと、赤い髪留めのゴムを、運命の赤い糸に見立てて指切もしたけど・・・だからこそ、私達はこの高校で出会う事ができたのかな」
「唯先輩、もしかしてずっと前の・・・まだ小さかった時の、夏祭りの事を覚えていてくれたんですか!?」
「あっ♪あずにゃんも覚えてたかな?」
「だんだんと思い出してきました・・・。高校で再び唯先輩と出会えたのは、唯先輩が私に運命の赤い糸を手繰り寄せてくれたからなんですね・・・」
「えへへ・・・。どんなに離れてようとも、私達は結ばれる運命にあるんだよ・・・それをあずにゃんに伝えたかったんだ。
 あずにゃんの気持ちが落ち着くまで、傍に居てあげる・・・だから、もう泣かないでね」

唯先輩は、私の目に残っていた僅かな涙をハンカチで拭いてくれた。
そう・・・あの夏祭りの時と同じように、そっと・・・。

「・・・約束してくれますか?」
「ほぇ?」
「あの時はお互いの名前しか知らなかったから、会いたくても会う事ができませんでした。でも、今はお互いの連絡先もわかるんです・・・。
 私が寂しくなって電話をしたら、声を聞かせてください・・・。唯先輩に会いたくなったら、急に会いに行っても怒らないでください・・・」
「うん・・・指切しよっか・・・あの時のように」
「はい・・・」

私達は、リボンで結ばれた小指と小指を、深く絡め合わせた。
ギュッと・・・離れないように・・・。

「「指切げんまん、嘘ついたら針千本呑ーます、指切った♪」」

絡め合った小指が離れる・・・。だけど、リボンはお互いに結ばれたままだった。

「私からも・・・約束してほしい事が1つあるんだ・・・」
「・・・何ですか?」
「あずにゃんには・・・笑って私を見送ってほしいんだ・・・あの夏祭りの時も、お互いに笑ってお別れしたのを覚えてる・・・。
 だから・・・今回も、あずにゃんには笑って見送ってほしいの」

正直、それは自信が無かった。今までにも、何度も唯先輩が卒業してしまうと考えただけで、涙が出そうになったから。
でも・・・またすぐに一緒になれるという唯先輩の言葉を信じて・・・私は黙って頷いた。

「ありがとう、あずにゃん・・・」

何だか、いつもより弱々しい唯先輩の声・・・。そんな唯先輩の目には、大粒の涙が溜まっていた。
もう・・・言ってる事が正反対じゃないですか・・・。そんな文句を言いたかったけど、私は黙って唯先輩の涙を拭いてあげた。

「すぐに会えるって・・・一緒になれるって・・・そう言ったの、唯先輩じゃないですか」
「うん・・・ゴメン、あずにゃん・・・」
「もう・・・泣いてる唯先輩なんか見たくなかったですよ・・・私も、唯先輩が泣きやむおまじないをしますから覚悟してくださいね」
「え・・・あず」

私は間髪入れずに唯先輩の唇を奪った。女の子同士でも、結ばれる運命ならキスしても良いよね・・・。
唯先輩との初めてのキスは、とっても甘かった。そして・・・とっても美味しかった///

私は唯先輩からリボンを受け取ると、ニッコリ微笑んだ。その表情を見た唯先輩も、同じように微笑んでくれた。
2人の目には、もう涙はなかった。

その後、私達はそれぞれの道を歩むべく、笑顔で別れていった。
運命の赤い糸――――――――――私は、唯先輩と再び一緒になれる事を信じていた。
唯先輩の笑顔が忘れられなくて・・・きっとすぐに一緒になれると思っていた。
その願いは・・・1年後に叶う事になるが、それはまた別のお話・・・。


今日、唯先輩は高校を卒業した。
私に甘酸っぱい幼少期の記憶と高校での思い出を残しながら・・・。


END


  • こういうのもいいよネ♪GJ! -- (ゆいあず信者) 2010-09-23 12:38:32
  • チビにゃんの破壊力で桜高がやばい -- (名無しさん) 2010-12-19 03:20:50
  • 小さい思い出はいいね。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 15:28:51
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最終更新:2010年09月16日 14:04