それはいつもの通学路でのことだった。
唯「ふわ~、今朝は眠いなぁ…」
憂「お姉ちゃん、昨夜は遅くまでギター弾いてたもんね」
唯「えへへ~、ちょっと触るだけのつもりだったんだけど、つい熱中しちゃって…」
憂「お姉ちゃんは一度集中するとすごいもんね。
だけどちゃんと勉強もしないとダメだよ?受験生なんだから」
唯「うぅ、面目ない…」

憂とそんな他愛も無いおしゃべりをしながら歩いていると、前方に黒いツインテールをぶら下げた小柄な女の子を見つけた。
私がそれを誰かと見間違えるはずが無い。その子はまさしくマイスイートハニーあずにゃんだ!
寝不足でテンションの低かった私は、あずにゃんを見つけたことで水を得た魚のように一気に元気を取り戻した。

唯「あっずにゃ~、あれ?」
ほとんど条件反射であずにゃんに抱きつこうと走り出した私の足は、
けれどあずにゃんが見知らぬ女の子と話していることに気づいて、すぐに止まってしまった。

唯「あずにゃんと話している人、誰なんだろう?」
憂「う~ん、私もあの人には見覚えが無いなぁ…。
それにあの人、リボンの色からしてお姉ちゃんと同学年だよね?」
あ、本当だ。よく見るとその女の子は私と同じ色のリボンをつけていた。
そういえば、よく考えるとあの子の顔は廊下で何回か見かけたことがあるような気がする…。
唯「でも、なんであずにゃんが軽音部以外の上級生と…」
憂「今日、私が学校で聞いてこようか?」
唯「うぅん…いいや、私が部活で直接聞いてみるよ。」
とりあえず、その場はあずにゃんに声をかけずにそのまま学校へ向かった。
それにしても、あずにゃんはあの女の子とどういう関係なんだろう。私の知らないあずにゃんがいるという事実にとてつもない不安がわいてきた。
あの子は私の知らないあずにゃんを知っているのだろうか。あずにゃんは私には見せない姿をあの子には見せるのだろうか。
突然嫌なイメージが頭に浮かんできて胸が締め付けられた。
結局その後ずっとあずにゃんのことが頭から離れず私は落ち着かない一日を過ごした。
もちろん授業の内容なんか全然頭に入っていない。いや、それはまぁ…いつものことなんだけれども…。
今日はりっちゃんたちは掃除当番や進路面談やらで遅れるらしいので午後のHRが終わると私は一人で部室へ向かった。
音楽室の扉を開けるとちょうどあずにゃんがトンちゃんにえさをあげているところだった。

梓「あっ、唯先輩こんにちは」
唯「あずにゃんは本当にトンちゃんが好きだよねぇ…」
梓「べっ、別にいいじゃないですか!トンちゃんだって軽音部の大切な部員です!」
唯「いやぁ、そんなあずにゃんもかわいいなぁって思って…。あずにゃ~ん、私もトンちゃんみたいにお世話して~」
そういって、私はあずにゃんにだきつく。あぁ、やっぱりあずにゃんはちっちゃくてあったかくてかわいいなぁ。
梓「お、お世話って…////何馬鹿なこといってるんですか!むしろ唯先輩はもっとしっかりすべきです!」
唯「えぇ~、あずにゃんのいけずぅ~」スリスリ
梓「もういい加減離してください。唯先輩はもっと上級生らしくなってください」
唯「ちぇっ…」
もっと上級生らしく…か。そういえば今日あずにゃんと一緒にいた子は姫子ちゃんみたいに大人びた感じのきれいな子だったな…。
あずにゃんはやっぱり澪ちゃんやあの子みたいな大人っぽい感じの子が好きなのかな。
「ねぇ、あずにゃん」
梓「はい?何ですか?」
唯「えっと、あの…その…」
梓「?」
言葉がうまく出てこなかった。真実を知ってしまうのが怖かったから…。
もしあずにゃんが私の知らない人と特別な関係を持っていたとしたら…。そんなの許せない、認めたくない。

梓「唯先輩?」
唯「……ねぇあずにゃん、今朝誰と話してたの?」
私は意を決してあずにゃんに質問した。
梓「えっ…!ゆ、唯先輩あれ見てたんですか?」
唯「うん、あの子私の知らない子だよね?ねぇ、どんなお話してたの?」
梓「え、ええっと、あれはですね…」
律「おいーっす!りっちゃん参上、待たせたな!」
梓「あ、律先輩…」
もう、りっちゃんタイミング最悪だよ…。今回ばかりは誰も待って無かったよ…
梓「あの、唯先輩…」
唯「うん、この話は帰りにね…」
律「あれ…もしかして私スベった?」

帰り道、りっちゃんたちと分かれた後、私はあずにゃんに話を切り出した。
唯「あずにゃん、さっきの話なんだけど…」
梓「あっ、はい…えっと、あれはですね…」
あずにゃんが説明をはじめようとしたその時、突然後ろから声がした。
?「あっ、あ~ずにゃんっ!」
唯「!?」
私は耳を疑った。思えば私は私以外の人間があずにゃんのことをあずにゃんと呼ぶのを聞いたことが無い。
すぐに声のしたほうを振り向くとそこには今朝あずにゃんと話していた例の子ともう一人これまた私の知らない子がいた。

A子「すっごい奇遇だね~また会うなんて」
梓「あっ、は…はい…」
B子「A子、この子達って軽音部の…?」
A子「そうそう、梓ちゃんと平沢さん…だよね?はじめまして。近くで見ると本当にかわいいよね~」
A子とよばれたその子はとても積極的なようで初対面の私に向かって気さくに挨拶をしてきた。
A子「あずにゃん、やっぱりちっちゃくてかわいい~」
B子「ほんと、手もすごい小さい、こんな体でギター弾くんだもんね。かわいい~」
梓「あ、あの…//」
A子ちゃんたちはあずにゃんの頭をなでたり、手を触ったり、どさくさにまぎれて抱きついたりしてる。
それなのにあずにゃんはまんざらでもないような感じ…。なんで?私が同じ事したら反抗するくせに…。
なんだかすごくムカムカしてきた…。あずにゃんのバカ…。
A子「ねぇねぇ、にゃーっていって。にゃーって。」
梓「にゃ、にやあ…」
A子B子「か~わいい~~!!」
唯(ムカッ)
唯「あずにゃん、もう行くよ!」
梓「あっ、唯先輩!」
いい加減に我慢が出来なくなった私は無理やりあずにゃんの手をとって歩き始めた。
二人は少し驚いたような顔をしていたけど、そんなの知ったことじゃない。これ以上あずにゃんに触らせたくないもん。

しばらく歩いて二人の姿が見えなくなったところで私はあずにゃんの手を離した。
唯「ねぇ、あずにゃんあの子達と仲いいの?」
梓「い、いえ。あの人たちとは今日初めて会いました。今朝も突然話しかけられて…。
唯先輩が所構わずあずにゃんあずにゃんって抱きついてくるから有名になっちゃったんですよ」
そうか、そういうことだったのか。別にA子ちゃんとあずにゃんは深い関係じゃなかったんだ。それが分かると少し安心した。だけど…
唯「あずにゃん、なんか満更でも無さそうだったよね」
梓「なっ…そんな事!!」
唯「嘘だ…。だってあずにゃんちょっと嬉しそうだったもん。にゃあなんて言っちゃってさ…」
梓「そ、それは…」
唯「あずにゃんは私のこと…嫌いなの?」
梓「っ!!なんでそうなるんですか!!」
唯「だって、あずにゃんあの子たちにはすごく素直なんだもん。私が同じ事したら絶対反抗するのに…」グスッ
梓「……唯先輩、もしかして嫉妬ですか?」
唯「!?」
あずにゃんに言われて初めて気がついた。そうだ、私はあの子達に嫉妬していたんだ。
さっきのムカムカの原因はこれだったんだ。今更ながら自分の醜さに嫌気がさした。
梓「ちょっと意外です。唯先輩ってそういうの気にしない人だと思ってました。」
どうしよう、こんな私、あずにゃんに嫌われて当たり前だよ。
唯「ごめんねあずにゃん。私意地悪だったよね…。でも…お願い、お願いだから嫌いにならないで…」
梓「嫌いになんかなりませんよ。むしろ…嬉しいです」
唯「えっ?」
そう言ったあずにゃんは優しく微笑んでいてくれた。

梓「いいですか?唯先輩、私が唯先輩に反抗してしまうのは唯先輩が特別だからです。」
唯「え…ど、どういう事?」
梓「唯先輩に抱きつかれたりするとですね、なんていうか…洒落にならないんですよ。
上手く言えないんですけど、ドキドキするというか、とろけてしまいそうになるというか…。
と、とにかくっ!私は唯先輩のこと嫌いなんかじゃありません!むしろ、その、すっ…す、す、好きです!!」
唯「あ、あずにゃん…。あずにゃ~~んっ!!!」ダキッ
梓「きゃっ……」
私は無我夢中であずにゃんに抱きついた。嬉しい!
あずにゃんが好きって言ってくれた!!こんなに嬉しいのは生まれて初めてだよ!!
唯「あずにゃん、私嬉しいよ!私もあずにゃんのこと大好きだよ!」
梓「唯先輩、きっとその好きと私の好きは違います…」
唯「?どういうこと?」
梓「私がしたのは、その…愛の告白ですよ」
唯「な~んだ、それならやっぱり私とおんなじだよ!」
梓「なっ!ほっ、本当に分かってるんですか、唯先輩!?」
唯「失礼だな~そのくらい私にだって分かるよ!」
梓「むぅ…本当ですか~?怪しいです…」
唯「あずにゃんは疑り深いな~。今までだってずっと大好きとか愛してるとか言ってたのに…。」
梓「え?あれって本気で言ってたんですか…?」
唯「いつだって私は本気だったよ~。あずにゃんが気づいてくれなかっただけだもん…」
梓「なんだか、そもそも唯先輩が恋愛というものをちゃんと理解しているのか疑問に思えてきましたよ…」
唯「もう~、たしかに私は大好きな人がいっぱいいるけど、その中でもあずにゃんだけは特別なんだよ?
あずにゃんだけは誰にも渡したくないもん…私だけのものにしたい…。本当に愛してるんだよ、あずにゃんのこと…」
梓「だったら…その証拠に…キ、キス…してください…」
唯「ふおう!!今日のあずにゃんはいつになく積極的だね!でも分かった!チューすればいいんだよね?」
梓「ほっぺやおでこじゃダメですよ?ちゃんと口に、口にですよ!?
唯「分かってるよ~、それじゃ行くよ~」チュウ
梓「んっ…ちゅう…んちゅ…」
唯「ちゅう…んんっ…ちゅぱ…」
ヤバイ、あずにゃんのお口あったかくてぷにぷにしててすごくきもちいいよぉ…。
頭がおかしくなっちゃいそう…。

唯「んっ、はあっ」
唯「えへへ~////どう?これでわかってくれた?」
梓「はい…////あの、私たちこれで恋人同士ってことでいいんですよね?」
唯「うん!これからよろしくね、あずにゃん!」
梓「唯先輩、私唯先輩にひとつ言っておきたいことがあります」
唯「えっ、なになに?」

梓「私、唯先輩なんかとは比べ物にならないくらい嫉妬深いんですから覚悟してくださいね♪」

おわり


  • やべぇ…なんだこれ…読んでてトキメキがはんぱなかった… -- (名無しさん) 2010-10-14 00:18:42
  • あずにゃんの最後のセリフが地味に怖い・・・ -- (名無しさん) 2010-10-17 15:19:18
  • さっきから読んでてずっと元カノを思い出してつらい 梓って名前だけど唯みたいに抱きついてきてて わたしはあずにゃんの立場だから あんなに上手に弾けないけど -- (名無しさん) 2011-10-16 12:15:55
  • 積極的なあずにゃん もサイコー! -- (あずにゃんラブ) 2012-12-28 23:21:45
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最終更新:2010年10月12日 04:00