初めてよりも2度目の方が難しいのかもしれない。
タイミング、とか・・・?
何がって・・・・・・ねぇ?
放課後の部室。私は、餌を食べるトンちゃんを一人眺めていた。
先輩達はまだ来ていない。
私は大きく溜息をを吐く。
唯先輩と初めてごにょごにょしてからもう1カ月が過ぎていた。
その間、遊びに行ったり
お泊りしたりしたけれど、どうにもそういった雰囲気にはならなかった。
いや、それだけが目的で遊びに行っているわけではないけれども。
一緒に居るだけでも十分楽しいし。
ただ、ここまで期間が空いてしまうとさすがに不安になる。
あの時私、何かおかしかったかな?とか。
お互い初めてだったし、最中は私もいっぱいいっぱいだった。正直記憶も曖昧で。
覚えているのは、唯先輩の甘い匂いと、私に触れる温かな手。
もしや、私に何か不手際があったのだろうか?
でも・・・。
「唯先輩、可愛かったって・・・言ってくれたし。」
この1ヶ月間、唯先輩の様子に特に変わりはなかった。
キス以上の事はしてこない。ただそれだけだ。
あの日触れ合った事で、唯先輩に何か心境の変化があったのだろうか?
好きのベクトルが違う事に気付いたとか?
私を恋愛対象として好きではなかった?
う~ん。けど、キスはするし。
「・・・・・・。」
ああ、いやだな。悶々とする。
唯先輩に聞くのが一番なのだけれど、そんな事恥ずかしくて聞けないし。
「・・・1カ月か。」
あの日のキスマークも、もう消えてしまった。
「何が?」
「ひゃいっ!?」
突然の声に私は飛び上がる。
「澪先輩・・・。」
振り返ると少し固まっている澪先輩がいた。どうやら、驚いた私に驚いたようだ。
「あ、わ、悪い。びっくりさせたか?」
「あ、いえ。こちらこそすいません。」
微妙な空気の中、2人してぎこちなく席に座る。
あ。
私はそこで思いついた。
唯先輩に聞けないのなら、澪先輩に聞いてみるのも手かもしれない。
少し、いや、かなり恥ずかしくはあるが、澪先輩は私達が付き合っているのを知っている
し、澪先輩自身も律先輩と恋仲だ。
そっち方面の先輩でもあるし、相談相手としては申し分ない。
「あの、澪先輩。」
私は思い切って話を切り出した。
「それで、私としてはですね・・・、って、澪先輩?」
「・・・・・・。」
大体の経緯を話し終えると、私はある異変に気付く。
あれ?
いつの間にか澪先輩が顔を真っ赤にして頭から煙を出していた。
「あの~・・・?」
私は澪先輩の顔の前でひらひらと手を振ってみる。
すると澪先輩がハッと我に返り。
「大丈夫ですか?」
「い、いや。だって・・・。」
顔を真っ赤にしたままみるみる小さくなっていった。
「そ、そんなに照れないで下さいよ。私だって恥ずかしいんですから。」
むしろ、内容が内容だけに言っている私の方が恥ずかしいと思う。
詳細を話したわけではないが、つまりはにゃんにゃんの話だ。
「そ、そんな事言われても・・・。」
しかし、お互い恥ずかしがってこのまま話し損になる事だけは避けたいところ。
ここは少し強引に行くしかない。
「で、どうなんですかね?」
私は身を乗り出した。
「どうって・・・。唯の気持ちを知りたいのか?」
「というか、澪先輩の時はどうだったのかなー?と思いまして。」
「私の時?」
「はい。」
「で、でも、私と律はまだそんなんじゃないし・・・!」
澪先輩あたふた。
「・・・・・・え?」
あれ?
「澪先輩達、中学の時から付き合ってるんですよね?」
「そ、そうだけど、高校生はやっぱり健全なお付き合いをだな・・・。いや、これは私個
人の意見だから強要する気はないけど・・・。」
「・・・・・・。」
律先輩の苦労がしのばれる。
というか、私の方が先輩ですか?
どうやら人選を誤ったようだ。
「と、ところで梓・・・。ちょっと聞きたいんだけど・・・。」
「はい?」
「や、初めてって、その、どんなかんj「じゃあ私はギターの手入れでもしますね。」
思わず遮ってしまった。
「梓あああぁぁぁ!!」
席を立つと、澪先輩が私の腕にしがみ付いてきた。
「・・・・・・。」
「私も本当は、まるっきり興味がないわけじゃないんだ・・・。ただ、どうしても踏み切
れないっていうか・・・。」
なんだか雲行きが怪しくなってくる。
「とりあえず座ってくれ、梓。」
断れるはずもなく、私は元の場所に戻った。
「で。ど、どうだったんだ?梓。やっぱり痛かったりしたのか?」
身を乗り出す澪先輩。あっという間に立場が逆転してしまった。
というか近いです。
それでも、このままでは律先輩があまりに不憫なので、少しくらいならと、話す事にした。
「いや、痛いとかは・・・あんまりなかったです。唯先輩優しかったですし・・・。」
「唯が、梓にしたのか?ちょっと意外だな・・・。」
「あ、それは私も少し思いました。そういう知識皆無だと思ってましたから。でも、知識
云々より本能で行動してる感がありましたね。」
「ああ、それなら分かるかも。」
正直、私も初めてがこんなに早いとは思わなかった。何せ唯先輩だし。まだまだ先の話だろうと思っていた。
「・・・それで。き、気持ち良かったり、した・・・のか?」
「え!?」
「だって、そういうもの、なんだろ?」
「・・・えと、まぁ・・・。それは、好きな人・・・ですし。」
ごにょごにょごにょ。
「そ、そうか。どんな感じで、そういう雰囲気になったんだ?」
質問が多い。何ですかこの羞恥プレイは。
だんだん遠慮が無くなってきてやいませんか?
「それは、何となくというか・・・。唯先輩の家に泊りに行った時部屋でキスしてたら、
いつの間にか押し倒されてて、ダメ?って聞かれて・・・。」
「おおっ・・・それで!?」
「いや、だから、そのままですね・・・。てかそれより、澪先輩こそ律先輩とどうなんで
すか?キスくらいはしてるんですよね?」
反撃。私ばかりではちょっとズルいので聞いてみる。
「え!?い、いや、今は私の話じゃ・・・。」
「ちょっとくらい聞かせてくれてもいいじゃないですか。私も話してるんですし。」
「う・・・。や、キスくらいなら時々するけど・・・。」
「時々?」
「梓達はどうなんだ?」
「えと、ほぼ毎日ですけど・・・。」
「毎日!?」
「だって唯先輩ですもん。私だって困ってるんです。もっと節度というものをですね・・・。」
「ちなみに今日は?」
「えっ・・・。・・・お昼休みに少し・・・。」
「最近の若者は凄いな・・・。」
「・・・・・・。」
あえて突っ込まない。
というか。
「だから悩んでるんですよ。いつもそんな風なのに、遊びに行っても泊りに行ってもキス
以上はしてこないんです。もう1カ月ですよ?やっぱり私に何か問題gバンッ!!!「誘い受けyバンッ!!!
「「・・・・・・。」」
唖然とする。
突然の事に、漂っていたピンクっぽい空気が消散、場が凍りついた。
今勢いよく扉が開いた音がして誰かが何事か叫んだと思ったら、また勢いよく扉が閉まった。
たぶん、勢いよく開け過ぎて反動で閉まったのだと思われる。
一瞬の出来事でそれが誰だったのか、一体何が起きたのかは視認できなかったが、大方の予想はついた。
「澪先輩。そろそろ練習しましょうか。」
ついたので、何も無かった事にした。
すると、徐ろに扉が開かれる。
そして予想通りの人物が姿を現した。
「誘い受けよ!」
やり直すんですね、ムギ先輩。というか何時から居たんですか。
「ムギ・・・?」
澪先輩はまだ呆然としている。
そんな中、ムギ先輩はツカツカと私の元までやって来ると、両手を力強く掴んだ。
「誘い受けよ!梓ちゃん!」
「ああ、今日はほんとにいいお天気ですね。」
とりあえず聞き流す。
「真面目に聞いて!私も相談に乗るわ!」
間に合ってますと言いたい。
「でもほら、もう唯先輩達も来ちゃいますし、練習しないと・・・。」
「大丈夫!2人とも追い帰したから!」
「・・・・・・。」
何やってんすか。
どうやら逃げ道は無いようだった。
「やっぱり誘い受けがいいと思うの。」
「「・・・・・・。」」
私と澪先輩とムギ先輩は、紅茶とお菓子を前に3人で顔を突き合わせていた。
正直私と澪先輩は、やる気満々のムギ先輩とはかなり対照的な表情をしている。
「なぁムギ。サソイウケってなんだ?」
澪先輩がおずおずと発言した。
「誘って受けるのよ。」
「まんまですね。」
「というのは冗談として。澪ちゃんはりっちゃんを、梓ちゃんは唯ちゃんを誘惑したらど
うかなって話なんだけど。」
「「無理です(だな)。」」
「諦めたらそこで試合終了なのよ?」
これはバスケの試合かなんかですか。
「澪ちゃんはいいの?このままだとりっちゃんに愛想尽かされちゃうかも。」
「うっ。」
「梓ちゃんも、あの唯ちゃんが相手なのよ?下手したらずっとこのままかもしれないわ。」
「ううっ。・・・でも私の場合唯先輩に直接聞けばいいd「そこで誘い受けよ!」
被んないで下さい。
「溢れる魅力で2人を誘惑しちゃいましょう!」
「でも、どうやって?」
え?澪先輩乗り気ですか!?
「それを
これから3人で考えるのよ!」
「・・・・・・。」
ノープランか。
そもそも主旨がズレている。
私の相談に乗ってくれるのではなかったのか。
私は唯先輩を誘惑したい訳ではない。唯先輩の真意が知りたいのだ。
何故キス以上の事はしてこないのか。
私に原因があるのか。
そうでないのなら、別に理由があるのか。
それは何なのか。
「・・・・・・。」
こうなったらもう唯先輩本人に聞くしかない。
なんだか大事になってきたし、恥ずかしいなどと言ってはいられない状況だ。
とりあえず、背中を押してくれるかたちにはなったし、ムギ先輩には感謝しておこう。
「私、ちょっとトイレに行ってきますね。」
私は席を立った。勿論ここから逃げ出す為の口実だ。
これ以上ここにいても嫌な予感しかしないし。
すると、ムギ先輩の双眼が光った。
「ダメよ・・・。」
「え?」
ゾクリ。
「や、トイレくらい、いいじゃないですか・・・。」
「じゃあ私も一緒に行くわ。」
見抜かれている。
逃がさないわよと、その目が語っていた。
「「・・・・・・。」」
張り詰めた空気。
2人の視線が交錯する。
次の瞬間。
私は勢いよく駈け出した。
ソファに置いてあった鞄を掴むと、扉を開け一目散に逃げる。
心の中でむったんごめんと謝った。さすがにむったんまで持って逃げるのは無理である。
階段を駆け降りる私。
後方から足音が聞こえた。
どうやらムギ先輩が追ってきたようだ。
私はちらりと振り返る。
しかし、それが失敗だった。
「ぎゃあっ!!!」
そこには、髪を振り乱し物凄い形相で迫ってくるムギ先輩がいた。
こ、怖あぁぁぁっ!!!
恐怖に足が竦んで一瞬立ち止まりそうになったが、そこは何とか堪えて自分を奮い立たせる。
捕まったら、終わりだ。
「にゃあああぁぁぁああぁぁっ!!!」
私は懸命に逃げた。私達の様子に何事かと皆驚いていたが、周囲など気にしていられない。
というか必死だ。
怖い!怖い!怖いっっ!!!
涙目で廊下を駆け抜け、下足箱も突っ切り外へ出る。靴を履き替える余裕などない。
迫りくる恐怖に、私はもう何故逃げているのかも分からなくなっていた。
とにかく捕まってはいけないという本能が私を突き動かしている。
学校を飛び出し、私はいつもの通学路に出た。
後方からの足音が止む事はなく、まだ私を追っているようだった。
私は走り続ける。
今50メートル走でも測っていたら間違いなく自己ベストを更新していただろう。
と。
前方に見知った姿を発見した。
よく知る2人の後ろ姿。
「ゆいせんぱーーーいっ!!」
私は叫んだ。
振り返る唯先輩と律先輩。
「ん?・・・梓?と・・・・・・ムギかっ!?」
「あれぇ?あずにゃ・・・ひいっ!!」
「ゆいせんぱーいっ!」
私は唯先輩の胸に飛び込もうとした。
ああ、助かった。これで・・・
と思ったのに。
「なんで一緒に逃げてるんですかあぁぁぁ!!!」
「そ、そんな事言われたって怖いもんっ!!あれほんとにムギちゃん!?」
「つかなんで梓は追われてるんだよっ!?」
3人で疾走する。
しばらくぎゃあぎゃあ言い合いながら走っていると、いつの間にか住宅街に入った。
「ハァハァハァ・・・うわっ怖っ!!」
「振り返っちゃダメです!律先輩!」
みんな死に物狂いで走る。
しかし、とある曲がり角。
「ごめん、りっちゃん!」
「「え?」」
突然の唯先輩の声に、私と律先輩の声が重なった。
考える暇もなく私は唯先輩に手を引かれ、よそ様の玄関先に引っ張り込まれる。
「なっ!!?」
驚く律先輩。
「!?唯先ぱ・・・」
「しぃっ!」
玄関先に入り壁に背を当てると、唯先輩は私を正面から抱きしめた。
近づいてくるムギ先輩の足音が壁越しに聞こえてくる。
その音は私達の近くを通り過ぎると、律先輩へと向かっていった。
つまりは、囮。
「裏切り者おおおぉぉぉぉぉっっ!!!」
律先輩の悲痛な叫びが木霊する。
徐々に遠退いてゆく足音と叫び声に、唯先輩はやっと私を解放した。
手を繋いできょろきょろと辺りを警戒しながら道路に出る。
「もう、大丈夫・・・みたいだね。」
「そう、ですね・・・。」
しかしムギ先輩、私を追ってたんじゃなかったのか。
まぁいいですが。・・・って、よくない。
「でも、律先輩は大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫・・・だと思うよ?りっちゃんだし。」
「根拠ゼロですね。ほんとに良かったんですか?後できっと色々と・・・。」
「りっちゃんなら平気だよ。それに相手はムギちゃんだよ?軽音部の仲間なんだし、大丈夫だって。」
まぁ確かに、見知らぬ誰かに追い回されてるわけではないから、大丈夫と思えなくもないけれど。
「それより、何があったの?」
ぎくり。
私は唯先輩の言葉に肩を揺らした。
「ムギちゃんがあんな風になるなんて・・・。
あずにゃんなんかしたの?」
いや、私が何かしたわけじゃ・・・。
「あ~ずにゃ~ん?」
「ううっ・・・。」
私は観念した。
唯先輩の部屋で、私達はテーブル越しに向かい合っていた。
大体を話し終え、私は顔を真っ赤にして俯いている。
ちなみに、先程律先輩からメールがきた。ムギ先輩から謝罪のメールも。どうやら何とか
なったようだ。さすがは部長である。
「なるほどね~。」
と唯先輩。
「ごめんなさい・・・。」
私は素直に謝る。
澪先輩とムギ先輩に勝手に話してしまった事も、こんな事に巻き込んでしまった事も。
「ん~ん。私の方こそ、ごめんね?」
「っ!そんな、唯先輩が謝る事なんて・・・」
何も無い、と言おうとして顔を上げると、唯先輩がふわりと私を抱きしめた。
「でも、不安にさせちゃったのは私だもん・・・。」
「唯先輩・・・。」
私も唯先輩の背に手を回す。
あたたかい。
「あずにゃん、しよっか?」
「・・・へぇ!?」
「私、あずにゃんの事ちゃんと大事にしたくて。だからほんとは、ちょっぴり我慢してたんだ。」
「唯先輩?」
「あずにゃんからちゅーしてくれる事もあんまりないし、あずにゃん実はこういう事好き
じゃないのかな~なんても思ったりして・・・。」
「・・・そんな事・・・ない、ですよ。」
「ほんとに?」
唯先輩の声が、少し震えている。
ああ、そうか。
「ほんとです。」
唯先輩も、不安だったんだ。
私は少し体を離すと、唯先輩の瞳を覗き込んだ。
まだ不安げに揺れている。
私がいつも素直じゃないから。
私が望まないんじゃないか、私に拒否されるんじゃないかって、唯先輩もきっと不安だったんだ。
思わず笑みが零れた。
だって、悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。結局想いは同じだった。
「あずにゃん・・・?」
何故不安になんかなってしまったんだろう。
こんなにも、想われて。
ちゃんと話せばよかった。
唯先輩はどんな事にだって、きっと一生懸命応えてくれるのに。
「本当に嫌だったら、たぶん、引っ掻いてますよ。」
唯先輩がきょとんとする。
けれど、すぐに笑顔になって。
「だね。」
私は、自分から唯先輩に口付けた。
「唯先輩は、私の好きな人なんですよ。」
だから、信じて下さい。
「私の好きな人は、あずにゃんだよ。」
私も、信じますから。
もう、あなたの気持ちを疑ったりしない。
私達はもう一度口付けた。
体が傾いで、私は押し倒される。
「だいすき。」
こうして、私達は2度目の・・・。
「・・・・・・あ。」
「?あずにゃん?」
「・・・・・・。」
澪先輩。
「もう帰ろうかな・・・。」
おわれ。
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最終更新:2010年10月15日 13:32