春、それは……
桜が舞い散る季節になった。
それは、出会いと別れの季節。
私はあの時、どうして軽音部のライブを見に行ったのだろう。
ふとそんなことを考えていた。
なんだか惹かれるものを感じて、クラスメートの誘いを受けて、気が付いたら部室に足を運んでいて……。
「はぁ……」
この二年間、いろんなことがあった。
入部当初はだらける先輩達を一喝したものだった。けど、なぜかあの雰囲気がないと軽音部だと思えなくなっている自分がいた。合宿もしたし、年も一緒に越したりした。
だけど、何よりも一番の出来ごとは……。
「唯先輩……」
好きな人ができたことだった。
「あ~ずにゃん!」
「にゃう!」
あの日、私が猫耳をつけてからあの先輩は変なあだ名をつけて事あるごとに抱きつく。
「今日もかわいいねぇ~。よしよし」
「ちょっと、やめてください。こんなところで……」
そういってやめる先輩じゃないんだけどね。
最初は迷惑だと感じていた。私のことなんて考えてなくて、自分のしたいことだけしている自分勝手な先輩だと思った。
でも……、それは違った。
あの人はいつも他人を気にかけていて、思いやっていて、そして元気をあげようと努力している。そう思うと、あの抱きつきも何だか自分の中で大きな存在になっていった。
だからあの時、期末試験があるのに演芸大会に出ようとしていた先輩を放っておけなかった。
自分も、この人の為に何かしてあげたい。
そう思った。
そして、気がつけばあの人のことを考えてばかりいるようになった。
それが恋愛感情だと気づくのには大した時間はかからなかった。
だから困惑した。
これは許されざる愛だとわかっていたから。
どうしていいかわからず悩んだ時期もあった。だけど、答えは一つしかなかった。
──唯先輩が好き……。──
私は決心して告白した。
泣きながら、どうしていいかわからない感情をぶつけた。
それを優しく唯先輩は受け止めてくれた。
いつもの優しい笑顔で……。
それから私達は、恋人として歩むことになった。
世間からは認められない存在かもしれないけど、私は幸せだった。
そして、それはいつまでも続くと思っていた。
「はぁ……」
桜がまた目の前を、ひらりひらりと躍る。
卒業式か……。
唯先輩と同じ年で無いことを何度も悔んでいた時期もあった。けど、恋人になった時、あの人を繋ぎ止めていけると思い安心していた。
しかし、この春の別れのムードのせいなのか、またあの感情がぶり返していた。
「だめだね、私……」
これからも会えるのに。携帯に連絡すればすぐにでも返信が来るのに。求めればキスだって、それ以上だってできるのに。
私、独りになっちゃうのかな……。
「あ、
あずにゃん、いた~!」
「ふにゃ!」
声をかけるが先か、抱きつくのが先か、唯先輩が私の後ろから現れた。
「どうしたの~? 髪下ろしちゃって、物思いにふけっちゃって~」
「別にいいじゃないですか。私にも考えることがあるんです」
「ふ~ん。また難しいこと考えてたんでしょ?」
「そんなことないです」
放してくれたと思ったら、唯先輩は信用しきっていない目でにやにやしています。
「な、なんですか、その目は」
「いや、あずにゃんって考えこむことが多いなぁって」
「だめですか?」
「だめじゃないけど……」
「?」
そう言って、唯先輩はそっと抱きついてきました。
「独りで悩んだりしないで? 私がそばにいるから……」
「……」
「ね?」
「はい!」
「じゃあ、そろそろ部室に戻ろうか」
そういって、私達は手をつなぎ部室にもどった。
今日から違う道を歩み始める私達。だけど、また同じ道を歩めると信じることができた。
力強く引いてくれるこの手が、私を導いてくれる。
私は、独りじゃないんだ。
この人がそばにいてくれる。元気をくれる。
そして、私もこの手を引いてあげる。
助けられてばかりじゃなく、自分の出来ることを精一杯するために。
そして、あなたと同じ未来を歩むために……。
END
- これ好きです -- (名無しさん) 2014-10-10 18:40:34
最終更新:2010年11月04日 13:52