RADIANT MioYuiTHOLOGY
「こんにちは……あれ、唯だけ?」
ホームルームを終えて部室へ向かうと、唯が窓際に立っていた。
「他のみんなは?」
「……んー、りっちゃんとムギちゃんはお掃除。あずにゃんはまだみたい」
鞄とベースを下ろし、唯に近づく。
普段もボーッとしてる唯だけど、今日は一段と輪を掛けて呆けている。
話しかけても空を見上げているばかりだ。
「何見てるの?」
私も隣に立って、同じように空を見上げる。
雲がぽつぽつと浮かぶ、どこまでも澄み切った、青い秋の空だ。
「……うん、雲、見てるの」
「雲?」
「雲が流れていくのが、気になって」
確かに、真っ青な空に流れる綿のような雲がよく映えた。風に乗って南に吹かれていく。
暫くその様子を、二人して眺めていた。
「雲って自由だよね」
ポツリと、唯が呟く。
「自由?」
「うん、気まぐれに流れていけるから」
「ふふ、唯も詩人に目覚めたか」
からかわないでよー、と眉をほんの少し吊り上げ怒る唯。あ、初めてこっち見た。
「私も自由になりたいなぁ」
唯はすぐに窓の外に視線を移し、窓の縁に肘をかけて顎を乗せ、そうこぼす。
「どうして?」
「だって何処へでも行けるんだよ?なんでもできるもん」
「……」
何処へでも。なんでも。……それなら唯は。
「唯なら、もう自由だよ」
一年の時の合宿。初めてのライブ。それにこの前の、トラブルだらけだった学園祭での演奏。
どれを取っても、唯は輝いてた。心の底から楽しそうだった。その輝きこそ、自由なんだと思う。
「そうかなぁ」
「うん。そうだよ」
私は、どうだろう。
「唯なら、何処でも行ける。なんだってできるよ」
「ほんと?」
「私が保証する」
「……えへへ」
私は唯のようには輝けない。太陽に憧れる事はできても、太陽そのものにはなれやしない。
自然と、暗い気持ちになる。
「……大丈夫だよ」
「え?」
いつの間にか、唯は私を見つめていた。その瞳は、私を映すほど近い。
「その時は一緒だよ。何処でも、なんでも」
「ゆ、唯……」
考えてたことがバレた?それよりも近い。顔が自然と熱くなる。
「澪ちゃんと一緒だから、きっと私は自由なの」
ぎゅ、と手を握られ、胸元に引き寄せられた。
真摯で優しい視線が、柔らかく私を見つめる。
「そう、かな」
「そうだよ。私が保証する」
私の真似をして、にっこり微笑む。この笑みが、私をいつも救い上げてくれるんだ。
「いつも私の失敗をフォローしてくれるし。澪ちゃんがいないと私、ダメダメだよ」
「そ、そんなことないだろ。私だって唯に助けられてる!」
そう強めに言うと、しゅんとした表情が笑顔になる。
唯に助けられてるから、私も唯を助けたくなる。
何より、唯の笑顔が私は好きだった。
「私は、唯の力になれてるかな」
「もちろん!」
唯にとっての太陽になれてるのかな?自惚れじゃないかな?
「いつもありがと、澪ちゃん」
「こっちこそ。ありがとう、唯」
二人で笑い合う。握られてる手を、しっかりと握り返した。
もう一度、空を見上げる。窓の枠に切り取られた青い蒼い空は、まるでキャンバスのようだ。
「なんだかいい詩ができそうだ」
「ほんと?どんなの?」
「完成したら、唯に一番に見せるよ」
やったー!と喜ぶ唯の隣で、頭の中で次々浮かぶ言葉を繋いでいく。
「風の翼で……もっと……」
「おー、流石だね澪ちゃん」
ほら、もっと。高く高く飛んでいけ。両手を広げて掴むよ、輝く欠片。
「こんな青空だと、紙ヒコーキ飛ばしたくなるね!」
「子供じゃないんだから……」
「えー楽しいよきっとー」
紙ヒコーキ、か。大きな大きな青空を、小さな翼で自由に飛ぶ。いいな。
「詩の題名、決まったよ」
「はやっ!」
小さな翼でも、唯と一緒に輝いて飛んでいきたいな。何処へでも、何があっても。
ねぇ唯。
なぁに、澪ちゃん。
ずっと一緒がいいな。
うん!あ、みんなも一緒だよ?
あぁ、もちろん。
きっと、光り輝ける。
「……なんだか入りづらいですね」
「あんなにしっかり手を繋いじゃって、まぁまぁまぁ♪」
「へへへ、写メ撮って後でいじり倒してやろっと!」
このSSを書くに当たり、植村花菜さんの「紙ヒコーキ」を題材にさせてもらいました。
よろしければBGMにどうぞ。
よろしければBGMにどうぞ。
初出:3->>596
- ちなみに植村花菜さんはタイトルの元ネタになったであろうTOWレディアントマイソロジーの1の主題歌を歌っていたりする(蛇足) -- (名無しさん) 2011-01-09 14:42:12