唯×紬 @ ウィキ

1-948~

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yuimugi

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だれでも歓迎! 編集
その日、唯ちゃんはなぜか膨れっ面でした。

「……」
「唯ちゃん、どうしてそんなに怒ってるの?」
「…知らない」
「やっぱり怒ってるじゃない。理由聞かせて?私が何か悪いことしてるなら直すから」
「…体育のとき」
「え?体育?」
「…今日の体育のとき、りっちゃんとべったりだった」
「それで…怒ってるの?」
「……」コク
「唯ちゃんあのね、それは番号順でペアになったからなのよ。りっちゃんと浮気したとか、そういうことじゃないの」
「…でも、すごく楽しそうにしてた」
「それは…お話してたから」
「…それにムギちゃん、一回も私の方見なかった。私のことなんか忘れちゃってたんだ」
「そうじゃないわ!今日はバスケだったし、ボールから目を離したら危ないでしょ?」
「…もういいもん。ムギちゃんなんか知らない」
「唯ちゃん…」

唯ちゃんはそっぽを向いてしまいました。その目はうるうると潤んでいて、今にも涙がこぼれ落ちそうです。
…もう、唯ちゃんは本当にかわいいんだから。

「唯ちゃんっ♪」ギュ
「……!」

私は背中から覆い被さるようにして唯ちゃんを抱きしめます。
一瞬その体はびくっと震えたけれど、すぐに大人しくなりました。



「唯ちゃんが本当に怒ってるのは…私がりっちゃんと仲良くしてたことじゃないわよね?」
「……」
「唯ちゃんはそういう子じゃないもの。唯ちゃんが怒ってるのは、私が唯ちゃんのこと気にしてなかったからよね」
「……」コク
「ごめんね、唯ちゃんのこと見てあげられなくて。唯ちゃんはずっと私のこと見ててくれたのに」
「……」
「でも、もしボールがぶつかって怪我しちゃったらどうする?唯ちゃんが怪我しちゃったら、私嫌よ?」
「私も…ムギちゃんが怪我したらやだ」
「じゃあ、集中しなきゃいけない時はちゃんと集中しなきゃね。放課後はこうやって好きなだけ一緒にいられるんだから」
「…うん」
「でも、私も見れる時は唯ちゃんのこと見てる。だからご機嫌治して?」
「…わかった」
「うん、いいこね♪」ナデナデ
「…ちゅーしてくれたら、もっとご機嫌治す」
「うふふ、唯ちゃんはしっかりしてるんだから♪いいわよ、目、つぶって?」

私は肩越しに、そっと唯ちゃんの頬にキスをしました。
唯ちゃんはポッと赤くなりながら、私を見つめます。

「…ごめんねムギちゃん。ふてくされちゃって」
「ううん、いいのよ?」
「…もうちょっとだけこうしてていい?」
「うん♪」





最近ジェラシー唯に凝ってしまってます
ジェラシームギも書いてみようかな…





お休みの日、特に予定という予定もなかった私は、普段来ることのないスーパーへと足を運んでいた。
わざわざ電車に乗ってまでやってきたけど、何を買いに来たとか、明確な用事があるわけじゃない。
ただ、もしかしたら会えるかもしれないって思っただけ。そういう理由で出かけるのも、悪い気分はしないのだ。…帰りは別として。

「意外に混んでるんだなぁ…」

主婦で賑わう野菜や魚の売り場を通りすぎて、お菓子売り場へとやってきた。
あの子は、いつもこういうところでお菓子を買ったりするのかな。何の気なしに手に取った奇抜なパッケージイラストの駄菓子を新鮮な気分で眺めていると、不意に肩を叩かれる。
まさか、店員さんに怒られる…!?私はびっくりしてしどろもどろなことを口にしてしまう。

「あ、あのすいません!ちゃんと買いますからごめんなさい!」
「あ、やっぱりムギちゃんだ!」
「え…?」

聞き覚えのある声に、私の胸はドキンと高鳴る。まさか、本当に会えるだなんて――
振り向いた先で無邪気なほほえみを浮かべていたのは、私が会いたかった人…平沢唯ちゃんだった。

「偶然だね、ムギちゃんにこんなところで会うなんて」
「う、うん、偶然、だね…」



「ムギちゃんはここのスーパーよく来るの?今日は家族の人と来たの?何買いにきたの?」
「え、えっと…」

好奇心をまったく隠そうとせずに、瞳を爛々と輝かせて私の顔を覗き込む唯ちゃん。
そんな姿を見るだけで私の体はカーッと熱くなって…

「あ、あの、あのね、私は、今日は、ひ、ひと、一人でっ、き、きたの!」グシャ
「あぁっ、ムギちゃん今なんか潰しちゃったよ?」
「え…あぁっ!」

思わず手にしていたお菓子を握り潰してしまった…!

「わぁ懐かしい、ちっちゃい頃よく食べたな~♪ムギちゃんこういうの好きなの?」
「え?う、うん?」
「そっかー意外!私も久しぶりに買ってみようかなー♪」
「あ、あの…今日唯ちゃんは誰と来たの?憂ちゃんとかお母さんとか?」
「ううん、私も一人だよ。お腹空いたからおやつ買いに来たんだー」
「そ、そう…」

どうしようか、言おうか言わないでいようか、でもこのままじゃすぐ唯ちゃんとお別れになっちゃう…それはいや!

「唯ちゃん!」
「なっ、なに?」
「い…一緒にお菓子選びましょ!」



―――

「あ、それはおいしいよー♪あたり付きだし!」
「あたりって?」
「あたりが出るともう一本もらえるの!」
「え、お金はいらないの?」
「いらないいらない!あたればあたっただけもらえるんだよ~♪」
「すごい…そうやって子供の心を掴んでるのね!なんか憧れちゃう!」
「あ、これなんかどうかな?」
「な、なんかすごいっ!」

あぁ、お休みの日に唯ちゃんとこうやってお買い物できるなんて夢みたい…
唯ちゃんは楽しそうにお菓子を選んでいて、何かを見つけるとムギちゃんムギちゃん、と手を引く。
その時の笑顔が本当にかわいくて、私の手を掴む指先はとても柔らかくてあったかくて…私はでれでれと浮かれていた。

だから…つい言わなくてもよかったことまで言ってしまったのだ。

「ムギちゃんは、こういうお菓子よく食べるの?」
「ううん、全然食べないわ」
「じゃあ初めてなんだ?」
「あ、でも初めてじゃないの!こないだもりっちゃんと食べたの。
 夏休みにりっちゃんと駄菓子屋さんに行った時にね、このお菓子食べたのよ」
「…!へー、そうなんだ。だから好きって言ってたんだね」
「え…あ、あれ…?」



いつの間にか唯ちゃんの顔からは天使のようなほほえみは消えていた。
かわいいことに変わりはないんだけど、その表情は明らかに不機嫌な様子。
それでもその時の私には、その原因がよくわかっていなかったのだ。それどころか…

「あ、そうだ、りっちゃんがおすすめって言ってたお菓子があるのよ。確か…これ!」
「…ありがと」
「あ、あとね、りっちゃんは…」
「……」

私は勘違いしていた。唯ちゃんが不機嫌なのは、私ばかりがお菓子を選んでもらっているからだと思っていたのだ。
だから私も選んであげようとしたのだけど、普段こういうお菓子を食べない私が何を選ぶかの基準は当然、以前にりっちゃんと出かけた時のものになってしまう。

でもそれは、唯ちゃんにとって…

「…ムギちゃん」
「な、なに?何か食べたいお菓子ある?」
「私、もう帰るね。お菓子いっぱい選んだから」
「え、でも…」
「ムギちゃんはもうちょっと見てなよ。…りっちゃんと食べたお菓子がまた食べたいみたいだし」
「え…」
「じゃあ、また学校でね」

妙に穏やかな口調でそう言うと、唯ちゃんは歩き出してしまった。
その横顔はどこか悲しそうで…切なそうなものだった。



唯ちゃんがいなくなってから、私はしばらくさっきのやり取りについて考えていた。

…どうして唯ちゃんは急に帰っちゃったんだろう。それは…不機嫌になったから。
じゃあ、どうして唯ちゃんは不機嫌になったの?それは…私が唯ちゃんにお菓子を選んでもらってばかりいたから…よね。
でも、ずっと唯ちゃんは笑ってた。本当に急に不機嫌になっちゃったような…

もしかして、私が何かを言ったから唯ちゃんは不機嫌になっちゃった…?
じゃあ、私は何を言ったの?それは…りっちゃんと出かけたこと。

「…まさか、ね」

そんなのあるわけない。唯ちゃんが私に、し、し、嫉妬するなんて…
でも…でも、あの時の顔にはなんとなく…そうだ、私もたまにあんな顔をする。
夜に鏡の前で唯ちゃんのことを考える時、梓ちゃんたちとくっついているのを思い出すと、あんな表情をした自分がそこにはいるんだ。

「…そうだ、お礼…お礼しなくちゃ」

私はレジに向けて早足で歩き出した。
唯ちゃんの元に追い付くために、どんなことでも理由が欲しかった。
たとえ、本当の目的とはまったく別物だとしても。



「唯ちゃんっ!」

束ねた髪が乱れるのも構わずに走ったからか、単に唯ちゃんの歩く速さが遅かったからか…
どちらかはわからないけど、私はすぐに唯ちゃんの背中を見つけることができた。

「…なに?」
「はぁ、はぁ…えっと…お、お礼渡すの忘れてて!はい、クッキー」
「…それもりっちゃんと食べたやつなの?」
「ち…違うよ。ちゃんと私が選んだわ。だから…」
「…誘えばいいのに」
「え?」
「ムギちゃんはりっちゃんと買い物したかったんでしょ。だったらそう誘えばいいんだよ」
「ち、違うの、私は…」
「なんなら私がメールしてあげよっか。ムギちゃんがまた遊びに行きたがってるって」
「唯ちゃん…」

そして私に背中を向けたまま、唯ちゃんは呟いた。

「…今日、来るんじゃなかったな」

私は確信したと言ってもいいくらいに、唯ちゃんの気持ちを理解した。
唯ちゃんは、勘違いしてる。私がりっちゃんのことを好きだって思ってる。そして、そのことを嫌だって思ってる…

「唯ちゃん」

私は唯ちゃんを背中から抱きしめた。自分でも、この行動が正しいのかどうか分からなかった。
それでも…こうしなきゃダメだって思ったんだ。



「違うの唯ちゃん。私は唯ちゃんが考えてるみたいにはりっちゃんのこと意識してないの」
「…でもさっき、あんなにりっちゃんのこと…夏休みに出かけたのだって、楽しかったんでしょ」
「楽しかったのは本当だけど…でもね、今日はそれ以上に楽しかったのよ。…なんでか、分かる?」
「…分かんないよ…」
「唯ちゃんと一緒だったから」
「私と…?」
「うん」
「な、なんで…?」
「…私が今日スーパーに来たのはね、唯ちゃんに会いたかったからなの」
「え…?」
「ここに来れば唯ちゃんがいるんじゃないかって…そう思ってここに来たの。それも、初めてじゃないんだから」
「な、なんで…?会いたいならメールとか電話すればいいのに」
「…できなかったの。する勇気がなかったの」
「どうして…?」
「…好きな人に連絡するのはね、とっても怖いのよ」
「…!」

唯ちゃんは驚いたように体を強張らせた。その体を抱きしめる腕に力を込めて、私は意を決して言った。

「私は、唯ちゃんのことが好きです」

私の心臓ははち切れそうになるくらいに鼓動を速めていた。
唯ちゃんの肩に回した手が小刻みに震えているのが、自分でもわかった。

それでも…言えた。



どれくらいそうしていただろう。
道を行く人の視線を感じながら、私は唯ちゃんのぬくもりを感じながら抱きしめていた。

そして――

「…私」
「…!?」
「…分かんないんだ。私、ムギちゃんのことどう思ってるのかな」
「私のこと…?」
「りっちゃんのこと言ってた時は、すごく嫌な気持ちだった。胸がもやもやして、ぐちゃぐちゃになって…すごく、嫌だった。」
「…うん」
「でも…今は嬉しいの。ムギちゃんに好きって言ってもらえて、すごく嬉しい」
「うん…」
「こういう気持ちって…なんなのかな。ムギちゃんのこと、どういう風に思ってるのかな…?」
「…私と、同じじゃないかな。私だって唯ちゃんが誰かと仲良くしてるともやもやするし、唯ちゃんが好きって言ってくれたらすごく嬉しいと思う」
「同じ…?」

唯ちゃんは首を動かして私を見つめた。

そう、私はあなたのことが好き。そして、あなたも私のことが――

「好き…なのかな」
「うん。そういう気持ちが好きっていうんだと思う。私も唯ちゃんも、おんなじなんだと思う」
「…ムギちゃん」
「ん…?」
「私も…好きなんだ。ムギちゃんのことが、大好きなんだ」
「唯ちゃん…」



唯ちゃんは体を動かして、私と向き合った。そして…

「…ムギちゃん」

私の体を抱きしめて、そっと呟いた。好きだよ…その言葉が耳に届いた瞬間、目から涙が溢れた。

「ム、ムギちゃん?」
「えへへ…ご、ごめんなさい。夢、みたい…だから…その、嬉しくて…」
「…私も嬉しいよ。ムギちゃんのことを好きだって気付けたから。ムギちゃんに好きって言ってもらえたから」
「うん…」
「ムギちゃん…後でさ、一緒にお菓子食べよ?」
「うん、食べよう。…でも、もうちょっとだけ…」
「あ…ムギちゃん、やっぱりすっごくあったかい♪」
「そ、そう…?なら…」

しばらく、こうしてても大丈夫よね。

そのまま、私たちはいつまでも抱き合っていた。いつまでも、いつまでも。

おわり






それから1週間。私と唯ちゃんの関係は劇的に変化していた!

「さぁムギちゃん、上がって上がってー」
「お、お邪魔します!」
「憂はお買い物みたいだから、ゆっくりしてていいよー♪」
「う、うん…でもいいのかしら。こんなに毎日お邪魔しちゃって」
「いいんだよー、宿題一緒にやるんだし。それに…」ギュッ
「ゆ…唯ちゃん」
「…学校じゃ、こうやって二人きりになれないでしょ?」
「そ、そう…だね」

――あのスーパーでの一件以来、私は毎日のように平沢家に通っていた。
憂ちゃんへの名目は一緒に宿題をするということだけど、本当は…まぁ、そのへんはまた後で。
とにかく、私は幸せな日々を送っていたのだ。…ある点を除いて。

「唯ちゃん…」

甘えたように私に抱きつく唯ちゃんにどぎまぎしながら、私はおそるおそるその背中に手を回した。…その瞬間。

「あ、なんか飲み物ー」ヒョイ
「あら…」

その動きはまさに神業。
唯ちゃんは私の手が触れるか触れないかというところでごく自然に身をよじり、私から離れてしまったのだ。
空振りに終わった自分の手のひらを見つめながら、私はため息を付いた。

本当に、悩みはこれだけなんだけどなぁ…



幸せなはずの私の唯一の悩み。それは…

「はいムギちゃん、あーん♪」
「あーん…モグモグ…」
「どう、おいしい?私頑張ってねるねるしちゃったよー♪」
「ゴクン…う、うん、独創的な味ね♪」
「あ、粉一袋入れるの忘れてた」
「え…」

部屋でこの間大量に買った駄菓子の残りを消費しつつ、私は唯ちゃんの横顔を見つめた。
…私たちはあの時、お互いのことを好きって言い合った。それは間違いない。
私の記憶が何者かに都合よく改ざんされていない限り、それは100%事実だ。
だけど…それだけなのだ。好きって言ったはいいけど、これからどう関係を変えていきたいのかを何も言っていないのだ。
普通は、好きって言い合ったら付き合うもの…なんだと思うんだけど、私たちはそのことについて全く触れていない。
もちろん唯ちゃんは私に対して積極的にアプローチしてくれているし、私だって唯ちゃんの行動に応えている…つもりだ。
なのに、私たちの関係は『大好きだよっ♪って言い合う友達同士』でしかないのだ。
もちろん実際は違うかもしれない。でも付き合おうって言い合っていない限りはそうなのだ。

…一言、『私たちは付き合ってるんだよね』って言ってくれたら解決するのに…



「……」ネルネルネルネル
「ムギちゃんどうしたの?そんなにねるねるしなくても大丈夫だよ?」
「あ、あのね唯ちゃん。一つだけ確認したいことがあるの」
「確認したいこと?」
「わ、私たちって…」

ガチャ

「宿題進んでますかー?」
「きゃん!」

勢いよく扉を開いたのは憂ちゃん。それだけならちょっと驚く程度で済んでいたんだろうけど…

「おーす!」
「はかどってるか?」
「お邪魔します」

りっちゃん、澪ちゃん、梓ちゃんのトリオには仰天せざるを得なかった。
な、なんで勢揃いしちゃうの…?

「買い物してたら、ちょうど3人に会ってね。2人が宿題してるからご一緒にどうですかって誘ったの」
「へー、そうなんだー♪あ、3人ともスーパーで何してたのさ?抜け駆けなんてずるいよ!」
「それはこっちのセリフだ!お前らこそ2人で何こそこそやってんだよー?」
「ちなみに、私たちは律が頼まれたお使いに付き合わされてたんだ」
「弟さんかわいそうでしたね。偶然鉢合わせしたばっかりに荷物押し付けられて…」

まだ見ぬりっちゃんの弟さんはどうでもいいとしても、この状況は非常にまずかった。
ただでさえはっきりしない私たちにおかしな質問をされたら…



それでも、しばらくは何事もなく時間が過ぎていった。
りっちゃんは電話でお母さんに怒られて意気消沈していたし、澪ちゃんは唯ちゃんに宿題を教え、梓ちゃんは憂ちゃんと二人で宿題をしていたから。

このまま解散してくれたら…そしたら、唯ちゃんに…

「…それでさぁ、唯とムギはなんで急にべたべたし始めたんだ?」

…一番危険なりっちゃんが、唐突に一番危険な直球を投げ込んできた。
油断してた…意気消沈してるわりに漫画を読んでると思ったら!

「……」ジーッ

その問いかけに、皆は食い入るように私たちを見つめる。

「そ、それは…その…」

どうしよう、なんて言えばいいの?…私たち、付き合い始めたから…?
ううん、だからそんな確信のないこと言えないんだってば。だって、だって私も唯ちゃんも何も…
そうしてひたすらに悶々としていると、急に柔らかい何かが私の頭を包み込む。

「ゆい…ちゃん…?」

それが唯ちゃんの腕と胸だということに気付くまで、それほど時間はかからなかった。

「えへへー…♪実は私たち、最近付き合い始めたんだよっ♪だから…」

…その言葉の意味を理解するまでにも。

「私たちのこと、二人きりにして?」



「…どうして?」

10分後。皆がリビングに下りて再び二人きりになった部屋で、私は唯ちゃんを見上げた。
私を優しく抱きしめるその表情には、一点の邪気もない。

「んー?」
「どうして、あんなこと言ったの…?」
「どうしてって…ただ単にムギちゃんと二人きりになりたかったからだよ」
「…そのままじゃない」
「そのままじゃ、ダメ?」

そう言って微笑みながら私の頭を撫でる唯ちゃん。
…正直、ずるい。こんな女神のような表情を見せられたら、何も言えなくなっちゃう…

「…私と付き合ってるって言ったこと」
「うん?」
「あれって…いつからそう思ってたの?」
「最初からだよ?ムギちゃんに好きって言った時から
「だ、だったら…付き合おうって言ってくれたらよかったのに」
「あれれ、ムギちゃんは付き合ってるって思ってなかった?」
「そんなことない!ないけど…」

私は唯ちゃんの胸にぎゅうっと顔を押し当てた。…すごく、落ち着く。

「…聞けなかったんだもん」
「ムギちゃん…ごめん。私もちゃんと言っとけばよかったね」
「…いい。ちゃんと言ってくれたから」
「でも、ごめんね」
「…うん」



私は、心の底から幸せだ。
好きな人と付き合えて、恋人同士になれて、抱きしめてもらえる。抱きしめてあげられる。
これ以上に幸せなこと、この世界に存在するだろうか。少なくとも、今の私には考えられない。

だから…今は目一杯、この幸せを噛みしめよう。

「…ムギちゃん」
「ん…?」
「私たちのこと、皆に知られてよかった?私、勝手に…」
「いいのよ。別に隠す必要なんてないじゃない」
「そう…だね。そうだよね!」
「だから…見せつけちゃいましょう?」
「えへへ…うん♪」

私たちは手を繋いだまま立ち上がると、扉を開いて廊下に出た。
きっとリビングに行ったら、皆それぞれの反応を示すだろう。もしかしたら、半信半疑に思われてるかもしれない。

うふふ…いいわ、見せつけちゃいましょう。私と唯ちゃんが付き合ってるっていう、確固たる証拠を♪

おわり



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