唯×紬 @ ウィキ

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匿名ユーザー

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この前のバンド練習から2週間が経った。
2人の関係に変わりはない。

授業が終わったら連絡を取り合って一緒に帰る。
寄り道したり、お互いの部屋に行き来したり。
ごくまれにスタジオを借りて練習したりもする。

このとき4人揃うこともあれば、1人だけ欠けることもあった。

でも、割合的には2人でいることが断然に多かった。

なぜなら、何かあると律が澪に(あるいは澪が律に)泣きつき、
唯は紬に泣きつくという図がすっかり定着していたためだ。

授業を終え、今日も2人で校舎から駅までの道を歩く。

唯「ムギちゃ~ん、今日もおうち行っていい?」

唯は眉をめいっぱいハの字に曲げ、懇願する。

紬「うん!もちろん」

紬は笑顔でそれに応える。

頼られることは嬉しかった。
しかし同時に、紬はある種の不安を感じていた。

からすが群れを成し、徐々に大きな影を形作る。

(私は、あのクールで聡明な幼馴染の代わりでしかないのだろうか?)

律と澪の関係は幼いころからの変わらないものだ。
それに比べて、自分たちの関係はどうなんだろう。

客観的に考えようとすればするほど、仄暗い感情に足をからめとられる。

あのバンド練習の日から、紬は自分の中で何かが膨らんでいるのを感じていた。
まるで風船のような何か。

(破裂しちゃったら私、どうなるの?)

(―もしくは、しぼんでしまったら?―)


唯が口を開く。

唯「こないだね、和ちゃんと久しぶりに電話で話したの」

紬は自分の体がピクリと強張るのを感じる。

―――和ちゃん。

唯「でね、私自慢したんだ」

紬「……何を?」

恐る恐る訊ねる紬。

唯は進行方向へと視線を移す。
そして、意を決したような表情を一瞬見せたあと、
それを完璧に覆い隠すように、はにかんだ。

唯「私ね、今、ムギちゃん一人占めなんだよって」

そう呟く唯の横顔は、年齢よりもいくらか幼く見える。
それから、視線を紬の半歩先に投げかけた。

唯「ムギちゃんの、ぽわぽわなところも、それ以外のところも、全部一人占めしてるんだよって」

紬「唯ちゃん……」

唯「えへへ。あ、あとお茶とケーキも、だね」

と、唯は悪戯っぽい笑みを浮かべて付け足した。
それから踵を大きく前に振り上げ、トーン、トーン、と跳ねながら先に進む。
柔らかい癖毛が、ステップに合わせてふわりと揺れた。


―――唯ちゃん。

大股で3歩ほど先に進んだ唯の後姿に向かって、紬は話しかける。
きちんと、聞こえるように。

―――じゃあ、私も自慢する。

―――私、今……。


紬「私、今……」

紬「唯ちゃんに、全部一人占めされてるの」


オレンジ色、青色、薄紫色のグラデーションの上に、細い三日月が浮かんでいる。

どこか神秘的な夕空を背景に、紬の方へと振り向く唯。

紬は、自分の体がこのまま宙に飛んで行ってしまいそうな、そんな気持ちがした。

湿り気を含んだ風が頬を撫でる、ある5月の出来事である。


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