「はい、到着~。 おつかれさま」
螺旋階段の最上部。 四方に大きな窓が設けられた、展望部屋。
さすがに一気に登ってきたためにエルナの呼吸も若干乱れていたが、酸欠を起こしそうな勢いで息を荒げているアウロラと比べると軽いものだろう。
……もっとも、南部最高の高さを誇る建物だけに、この部分の酸素はほんの少しだが薄いものであると考えられるのだが。
「そ…ソールちゃんは……?」
「ちょっと待ってねー。 多分、『上』にいると思うから」
「……上?」
……少なくとも、一般人が踏み込める範囲で最も高い場所はこの部屋に間違いは無いだろう。
ここより上に行くと、時計の機関部だったりといろいろ重要な部位にさしかかるという話なので、さすがにありえないはずなのだが……
「ソールちゃん、連れてきたわよー」
そう考えていると、何を思ったかエルナは窓から身を乗り出し、更に上……つまりは文字通りの登頂部に向けて、少女の名を叫んでいた。
「ちょっ……エルナさん、いくらなんでも『外』は無いんじゃ……」
常識的に考えて、外壁を登って垂直の壁を登ろうなどという行為に走るものは、よっぽどのバカくらいのものだろう。
さらに言えば、この高度まで外から登る事など、人間には不可能に等しい。
……ただ、先程エルナの言っていた”人目を忍ぶ”という点においては、夜間と言うこともあり外の方が確かに可能性は高いかもしれないが……
「ふふ、まぁすぐに分かるわよ」
エルナは、悪戯っぽく笑って乗り出していた身体を部屋の中へと戻す。
恐らく、目的は達したのだろう。
「……うーん……」
さすがにわけがわからなくなってきたのか、思いっきり首を傾げるアウロラ。
すぐに分かると言っても、この状態から何が分かると言うのだろうか。
……そう、思った時だった。
「もー、アロちゃん遅いよー。 もうすぐ時間なのに」
そんな聞き覚えのある声と共に、窓の外からふわふわと浮かぶ小さな光の球が、部屋の中に入りこんできた。
「……え!?」
……もはや、自分が何に驚いたのか。 そしてどこから驚いていいのかすらも分からない。
その球体の内側には、光を発する小さな妖精の姿。
真っ赤な衣装と白金色の腕輪が、薄暗い部屋で彼女自身の輝きをさらに大きなものへと変えているようだった。
「『ソール』は、とある世界の『太陽』を意味する言葉。 この子は、異世界において太陽の力を司る、<ruby>古代妖精種<rt>エインシェントフェアリー</ruby>。
それだけの力を秘めているんだもの、人間の姿に化けることなんて、造作も無い事なのかもしれないわね」
くすっと笑って、ただそれだけの説明を加えるエルナ。
……そうしている間に、妖精の姿をしていたソールの全身を強い光が包み……一瞬の後、昨日見た少女の姿を現していた。
「……太陽の妖精……」
「まぁ、私も始めて見せられた時は驚いたわね……そんな子が<ruby>前衛<rt>セイクリッド</ruby>やってるっていうのも信じられないけど」
妖精というものは、基本的に非力で魔法の力に長けている事が多く、あえて人間の定義で
ジョブを設定するなら、マージナル系がほとんどとなる。
人間の姿のままでならそれも可能かもしれないが、やはりいまいち考えづらいかもしれない。
「ま、いいじゃない。 この道を選んだのは私自身の選択なんだし、他の人にとやかく言われても仕方ないよ」
そんな疑問すらも、ばっさりと笑顔で一刀両断するソール。
だが、その一言は……アウロラの心にも、強く響く一言だった。
―この道を選んだのは、自分自身の選択―