その足で向かえるところは、殆ど行ってしまったようにも感じられる。
残すは中央平原――――そして”天空”くらいなものだろうか?
プリズムヒルズでは小さな魔女に、ユグドラシアでは闇を背負った狩人に……
ヒトの姿をした何かとも、幾度となく戦い、時に勝つこともあれば、からがら逃げて来たこともある。
……気がつけば、自分もSランク支援士などという立場に上り詰めていたが……
未だに、見ることのかなわない町があった。
その名はソドム。
幻永の町と呼ばれるそこは、すべての望みがかなう場所だという。
ソドムに関する噂はいくつもあるが、その中で自分の気を引いたのは『死者にすら会える』というものだった。
……自分には、死に別れた大切な人がいる。
本来なら、死者に会うなど輪廻の均衡に触れる行為……
相応の報いを覚悟しなければならないことだが、その街ではそんなことすら関係もないという。
最初は、ごく淡い期待だった。
……だが時が経つにつれ、その人との思い出が記憶の奥に少しづつ埋もれていくごとに……
会いたい、という願望がつよくなっていくのがわかった。
いつか、その思い出が完全に記憶の底に消えてしまう前に……もう一度、その顔を見ておきたいと。
―――少し、眠くなってきた。
どうやらもう日も暮れている。
空に浮かぶ月が妙にきれいに感じる夜だ
こんな日は・・・・・・・いい夢が、見られるような気がした。
「……日は落ち、空には淡い月の光が灯る」
とある町の宿の屋根。
その上に一人の少女が腰を掛け、月明かりの中でどこか遠くを眺めていた。
「一日の闇の中、人は眠る。 次の夜明けに目を覚ますために」
そう呟きながら、すっと立ち上がる薄赤色の髪の少女。
その青い眼はいったい何を映しているのか……
なにもないはずの虚空に向けられているはずの瞳は、確たる何かをとらえているかのように一点を見つめていた。
「……目覚めることの無い、永久なる夢……」
ふと、少女が目を閉じる。
「もし、その夢がこの世の幸せのすべてを集めたものだったら?」
誰に問うわけでもない。
だが、その言葉は確かに”誰か”に問いかけるように。
……少女は続ける。
誰もが知るも、誰もが知らない幻永の町の、その姿を。
「巷で噂になっている街、ソドム。そこは楽園とも天国とも呼ばれている。
その噂に沿って、ソドムを求めた冒険者の中には、帰ってこなかった者も居て……
彼らが帰ってこなかったのは、楽園に永住する為?
それとも別のなにかがあるのか。
奇妙なことに、その街から帰ってきた冒険者が語るには……
そこに住む人々は、すべて『自分の知り合い』だったと言う。
その町にいたと言われた人たちは、そんな街には行っていないと口をそろえていた。
……『そこ』は、悩む必要など無い世界。好きな事が何でも出来る世界。
……しかし逆に、そういった沢山の悩み、そして強い悩み、欲、不満を持つ者こそがソドムに引き込まれる…と言う事実を知っている人は少ない
そのソドムの実態は、夢の国、夢の中の世界。
ソドムに囚われれば、夢の中で目覚める事がなく、ずっと眠り続け、やがて、その体が衰弱し、死に至る。
でも、現状ソドムと眠り病がイコールに結ぶ事が証明されておらず、噂とソドムから判る危険性は示唆されていない。
……でも、それは本当に悪いこと?
何の苦しみも知らず、ただ安らかで満ち足りた心でいられるのであれば……
現実の自分が眠り続けていると知ってても、それでも、と言う人はいるかもしれない
永久なる幻想――そこに救いを見るか、堕落を見るか。
それを決めるのは、貴方自身」
そこまで口にすると少女はこほん、とひとつ咳払いをし、誰に告げているのか……
一言、宣言をした。
「さあ、夢幻世界(ファンタスマゴリア)への道は開かれました。
この道の先を創るのは、他でもない皆さん自身
案内役は、ここまでです。
……良い夢を、見られますように」
最終更新:2008年12月07日 02:47