「うう・・ひどい目にあった・・・」
再びやってきた遥かなる北の雪原。そして狙ってやったとしか思えないタイミングで発生した猛吹雪に巻き込まれ―――
「ここ、どこだろ・・・」
見渡す限り白一色。
比喩でも何でもなく本当に白しかない。雪がちらついているので視界さえ白んでいる。
「どうしよう・・・」
帰ろうにも今いる場所がどこか分からないし、助けを求めようにも人がいない。
狼煙を上げてはどうかと閃いて、我ながらよく思いついたものだと感心したけど、吹雪に巻き込まれた時に殆どの荷物を失ってしまっていて、持っている物といえば愛用の薙刀の『白雲』と、役にも立たないカエルが一匹。
「ケロー」
人が大変な時だというのに、頭の上から能天気なカエルの鳴き声が聞こえてきた。
頭の上から引き摺り下ろしてギッタンギッタンにしてやりたくなったがそれは無事に帰るまで我慢だ。
「とは言ったものの・・・」
なにか目印になる様な物はないかとキョロキョロと周りを窺う。うん。見事な銀世界。
「さて、これからどうしようかな」
水や食糧などの入った荷物は既に紛失しているし、防寒服ごしからも感じる寒さは体力を削っていく一方。
あまり長く留まっているのは得策じゃないんだけど。下手に歩いたら更に迷いそうだし・・・
「―――ええい!迷うのがなんだ!どうせもう迷ってるし、今こそおれの運が試される時!!」
そうと決めれば早速行動だ。ざっくざっくと雪を踏み掻き分けて、とにかく自分のカンに従って突き進む!!
そしてしばらく経った後、
さらに迷いました。
「・・・おかしい・・・」
ぼくの運って、こんなものなの?
不覚にも目頭が熱くなってしまったので堪えて灰色の空を見上げた。な、泣いてなんかいないぞ。これは眼から汗が出てるんだ!
「・・・ふふっ、そうさ!今のは偶々運が悪かっただけだ!今度は大丈夫!!」
そうだ、ぼくの運がこんなものだなんてありえないはずだ。おれはこんなところで凍死するわけにはいけない!!
「よっしゃー!!行くぞー!!」
涙が出てきた。おかしい。こんなはずは。
「・・・ここどこ?」
「ケロー」
そっか。ケローっていうところなんだ。変わった名前だね?(混乱中)
辺り一面にきらきらと輝いているのは、ダイヤモンドダストっていうやつだろうか?一体どれだけ寒いんだろう。
人の入った痕跡の全くない真っ白な雪原の所々には、水晶のような輝きを放つ氷柱が地面から突き出ている。
なんだろう。とんでもなくヤバい場所に迷い込んでいる気がする。
「ま、まさかねぇ?ただのCランクの支援士のぼくが、こんな秘境みたいなところに来れるわけがないよ・・・ね?」
ねえ、どうしてだれも答えないの?お願いだからなにか言ってよ!!(混乱&現実逃避)
ちょっと遠い目をしながらその場に立ち尽くす。秘境の絶景に見とれている暇はなくて、果たしてここから生きて帰れるのだろうかというお先真っ暗な不安だけが胸の内にうずまいていた。生きるって、大変だね。
だけど、捨てる神あれば拾う神ありなんだとこの時ぼ・・おれは思った。
こんな人どころか生き物がいるのかも怪しい秘境で、自分と役立たずのカエル以外の声が聞こえたのだ。
「む?人間の娘が来るとは珍しいのう?」
ああっ!ほら、やっぱり人がいた!!そう思って声のする方に振り向いたら―――
・・・寒ぅ!!
見てるだけで寒い!!
「な・・な・・・っ?」
「うむ?どうしたのじゃ?」
そこにいた小さな女の子は、よりによってこの極寒の雪原で、うすっぺらそうな白い浴衣しか身に纏っていなかった。浴衣から覗く綺麗な白い肌や細い鎖骨が、なんとも色っぽく・・・ってそうじゃなくて!
「ちょ、ちょっとお前!なんて格好してるんだよ!?死ぬ気か!?」
「ふむ?格好とはこれのことかのう?」
「わあ!?つままなくていいから!はだけちゃうから!!」
実際、胸元の生地をつまんだせいで、かなり際どい位置まで白い肌が見えていた。
くそっ、なんて危ない女の子だ。最近の子は羞恥心がないのか!?
「別に不便はしておらぬし、これで十分じゃろ?」
いや、不便うんぬん以前の問題だ。
「で、おぬしのような若い娘が、こんな所まで一体何用じゃ?」
「こんな所・・・ってことは、やっぱりこの秘境は雪原の奥なの?」
「うむ。秘境というほど大袈裟なものではないが、確かにここは雪原の中でもかなり奥にあるのう。偶然とはいえ、よくここまで辿り着けたものじゃ」
ぼくの強運を、ここまで呪ったのは今日が初めてだ。
「なにを黄昏ておるのじゃ?」
「もう少し時間をください」
じゃないとこみ上げてくるものを抑えきれません。
「・・・困っておるのなら、ワシが力を貸してもよいぞ?」
「へ?」
思いもよらない言葉を聞いて、思わず目が点になった。
「おぬしは道に迷っていて困っておるのじゃろう?じゃから、ワシが人間のいる場所まで送ってやってもよいと言っておるのじゃ」
「え?いいの?」
「うむ、おぬしの様な若い娘が、ここで力尽きるのを見るのは忍びないしのう」
人が天使に見えたのも、今日が初めてだった。
雪原のまっただ中でのふざけた浴衣姿も、その浴衣から覗く白い肌も、いまは神々しく輝いて見えるよ!―――うわっ、よく見たら裸足じゃないか!ばかだなぁ天使様は。
「・・・なにか無礼なことを考えておるような気がするのはワシの気の所為か?」
「いえ滅相もないですよ天使様」
「だれが天使じゃ」
しまった、思わず口に出てしまったか!でも天使様改め女の子はとくに気分を害した様子もなく聞き流してくれたようだ。
なんて心の広い子なんだろう。いい子だなぁ。
でも、そんないい子でも一応これだけは言っておかないと。
「ねえ、一応言っておくけど」
「うん?」
「ぼ・・おれは、女じゃないから」
面白い冗談じゃな。と言われたのはぼくの心に深い傷を残した。