そして、宿代と引き替えに部屋の鍵を受け取り、向かった先は412号室。
ベッドが綺麗に三つ並んでいるが、3人部屋というには少し狭いかもしれない一室だった。
「ふぅー、やはりベッドにつくと『戻ってきた』って感じがするのじゃ」
ぼふっ、という音を立てて、ベッドの上にダイビングするエミリア。
子供にしか見えんぞ、とディンは言いかけるが、後々愚痴か何かにつき合わされるのは目に見えているので、それに関してはいつものように、口は閉ざしたままだった。
「戻ってきたって、この宿が家みたいな言い方だね」
対して少女は、落ちついた調子でベッドに腰かけ、エミリアの一言へと軽くつっこみを入れる。
「なにを言っておるか、旅をする支援士にすれば、どこの宿でも自宅みたいなものじゃろ?」
「そうだけどね。 ……私は少し前まで『家』があったから」
「ま、俺もエミィもフローナに戻れば家はあるけどな」
「そういえばフローナにも久しく戻っておらんのぉ……」
「鉱山の探索が終わったら、顔くらい見せに行ってもいいかもな」
「うむ。 おばあちゃんがちゃんと生きてるか確認せねばな」
何気に縁起でも無さそうなことを笑顔で口にしながら、帽子と上着をとるエミリア。
そして、それらを手近にあった洋服掛けに掛けて、結んであった髪もほどいてしまう。
「……っと、そういえば、まだお主の名前を聞いておらんかったのぉ」
そんな事をしながら、少女に呼びかけようとでもしたのか、一瞬セリフに詰まって、改めるように問い直す。
すると少女は、”そうだったかな?”といいつつ微笑んで、片手を軽く胸の辺りにもっていき、こう答えた。
「ティール・エインフィード、見ての通り女で、歳は13。
ジョブは……”あえて言うなら”スピード特化のブレイブソードかな」
最後の一言のあたりは、ぽん、と自分の足を叩きながら言っていた。
素早さには、それなりの自身があるという表れだろうか。
「ふむ、思っていたより歳が低かったんじゃな……15くらいに見えておったが」
「うん。 私、背は高い方だから」
「…13で盗賊退治の依頼なんて受けれるものなのか? ……いや、実力は認めるが……」
自分を囲んでいた五人の盗賊を軽々と倒した、という事実を思い返し、ディンは改めて驚いた。
……確かに支援士には厳密に年齢の規定はない。
しかし盗賊退治と言えば少なくともランクCからBの依頼。
そのレベルに達するのは、普通に考えても13歳はまだ若すぎるようにも思える
「世界は広いと言う事じゃな……」
そんなディンの意図を察してか、冷静に感想を漏らすエミリア。
……そこまで単純な問題でもない気がしたが、あまりに簡潔な結論に、ディンはかえって力が抜ける感覚に見舞われていた。
「うむ、では私の番じゃな。 私はエミリア・エルクリオ、17歳のマージナルじゃ。 で、コイツが―」
「ディン・フレイクレス。 歳は19、ジョブはパラディンナイトだ」
なにかある事無い事いわれそうになったことを察知でもしたのか、すかさず会話に割ってはいるディン。
エミリアはどこかおもしろく無さそうに口を尖らせていたが、特にこだわりも無かったのか、すぐに表情を戻し、自分のバッグを漁り始めた。
そして出てくるのは、寝間着一式。
「ティール、お風呂に行こうとおもうのじゃが、一緒に行かぬか?」
―名前の事に気がついたのはそれが理由か―
エミリアの一言で、何故唐突に名前の話題が出てきたのか理解したディン。
と言っても、特に気にする事の無い些細なものではあったのだが。
「ううん、私は後で行くから、先に行っていいよ」
「そうか。 ちょっと残念じゃが……先に行かせてもらうとしよう」
少女―ティールと入りたいと言ったのはそこそこ本気だったのだろうか。
ディンの目には、どことなく落ち込み具合が少し激しいように見えていた……と言っても、今日の探索が空振りだったという影響も加えて、の話ではあるが。
しかし、それでも特に声をかけるようなこともせず、エミリアが寝間着を持って部屋の外へ出て行くのを黙って見送る。
それはティールも同様で、相変わらずの微笑んだ表情で、同じように無言で見送っていた。