―――チリーン・・・
轟々と吹き荒ぶ吹雪の中から、美しい鈴の音が鳴り響いた。
「・・・む」
鈴の音を聞いた青年は、動かしていた手をピタリと止めて音の聞こえた方向を向く。
―――チリーン・・・
再び鳴る鈴の音。それに続いて、屋敷の廊下を歩く軽い足音がこちらに近づいてきた。
トットットットット、ガラッ
「神龍。話が―――」
『ヲォヲォヲォヲォ』
『ガキーン!!ガキーン!!』
『ヒィィヤァァァァ・・・・』
襖から入ってきた少女を迎えたのは、大量の埴輪とその中心に座る青年だった。
「ギンか。お前がわざわざこんな所に来るとは珍しいな」
「・・・・・・」
部屋に入ろうとした少女の動きが、ピタリと止まる。
『ゲキョキョキョキョ!!』
『キュゲロッゲー!キュゲロッゲー!』
『ポロロロロロロ』
それからゆっくりと左を見て、右を見て、もう一度左を見て、そして正面であぐらをかいて座っている青年を見た。
「む?どうした」
「・・・・相変わらず凄いなここは。この埴輪オタクめ」
「アイテムマニアと言ってほしいものだ」
自称アイテムマニア―――神龍丸は表情を変えないまま、さっきまで磨いていた埴輪の一体を床に置いた。
すると埴輪は床に置かれた途端、『アッポォーウ!!』という音を発しながら激しく見悶えしだした。
見様によっては踊っているようにも見える。
ついでに、さっきの変な声は全部埴輪から発せられた音である。
「マニアであることは認めるのか・・・」
少女は呆れたように呟いた。
「あくまでアイテムマニア、だ。俺の趣味は別に埴輪に限定されたことじゃない」
「なるほど、部屋中のガラクタがその趣味という訳か」
少女の言うように、青年の座っている部屋には埴輪の他にも、武具や何に使うのかよくわからない物で溢れかえっていた。
「俺のコレクションをガラクタ呼ばわりか。ギンもまだまだ見る目が無いな。残念だ」
「ガラクタはガラクタだろう?」
「・・・まあいい。この件についてはまた後でじっくり話し合うとしよう」
「・・・まさか、またガラクタの自慢話を聞かせるつもりか?」
ギンと呼ばれた少女は心底うんざりした目で神龍丸を見た。その視線を軽く受け流し、神龍丸は床に並べていた奇声を発したり踊ったり光ったりする埴輪を何処かへ片付けていく。
「それで、話とはなんだ?」
後ろ姿を見せたまま、神龍丸が訪ねた。心なしか、その声色が真剣身を帯びている。
「む、ああそうだった。実は―――」
トットットットット、ガラッ
「神龍丸様、報告します」
ギンが話しだそうとしたその途端に、まるで示し合わせたようなタイミングの悪さで一人の女性が襖を開けて部屋に入って来た。
「朝香緒か。どうした」
「それが・・・って、あら、どうしたのですか神月様。なにやらご機嫌が悪そうですが」
「・・・なんでもない。さっさとそっちの要件を言え」
話を中断されたギンは不貞腐れたように持っていたキセルを吹かしていた。
「はぁ、では。報告です。―――白王が、本土・・・人里へと向かうのを見たという報告が」
「・・・何?」
***
「なにやら騒々しいのう」
「そうだね。どうしたんだろう」
さっきの大声を合図にしたわけではないけど、既に町中は大混乱に陥っている。
あちらこちらの家の扉が開いて、出てきた人たちが自警団の誘導で次々と逃げていっていた。
「ちょっと、どうしたんですか?」
状況がさっぱり分からないから、近くで町の人達を誘導していた自警団っぽい人に聞いてみる。
「うん?なん―――」
怪訝そうに振り向いた自警団っぽい人の動きが、おれを見るなりピタリと止まった。あれ?どうしたんだろう?
「・・・あの?」
「―――はっ!すいません。つい見とれて・・・じゃなくて」
我に帰ったらしい自警団っぽい人が何やら呟きながら首を振り、それからまたぼ・・おれに向きなおった。なぜだか少しだけ頬が赤くて、目が泳いでる。
「こ、ここは危ない。君たちも早く逃げるんだ。ほら」
「え?あ、ちょっと待ってくださいよ。一体なにが起こったんですか?」
おれとつららの背を押してみんなが逃げる方向へと誘導しようとする自警団っぽい人にまた訪ねてみた。
「う・・?え、えっと・・・」
自警団の人の顔がみるみる内に赤くなっていく。おかしい。赤面するような質問はしなかったはずなんだけど。
なんだか様子のおかしい自警団の人の代わりにこれを聞いて答えてくれたのは、近くで誘導していた別の自警団の人だ。
「竜だよ!すごくデカイ竜が町を襲ってるんだ!」
「・・・竜?」
ちょっと単語がしっくりこなかったのでことりと小首を傾ける。
ええと、竜ってあの?
「でも・・なんでまたこんな町の中に竜が?」
「そんなの俺が知る訳ないだろう!!」
自警団の人も動揺しているのかちょっと涙目だ。
そうだよね。うん。予想はついてたから使えないとは思わないよ?
でもそうか・・・竜か。うまくいけばいい稼ぎになるかもしれない。
「よし、じゃあ行くよつらら」
「む?どうしたのじゃアキ」
疑問符を浮かべるつららの手を引いて―――自警団の誘導に従うおれ。
だって竜になんか勝てるわけないしね。そこまでおれも馬鹿じゃないよ。自慢じゃないけどCランクの肩書きは伊達じゃない!
「これはぼ・・おれの手には余る問題だから、巻き込まれないように避難するんだ」
「う・・うむ。よくわからぬがわか―――」
頷こうとしたつららの動きが、突然止まった。
「・・・つらら?」
どうしたんだろうと思ってつららが見ている方向を向いてみたら、そっちは町の人たちが逃げてきている方向。つららが見ているのは多分そのさらに奥だと思う。
たぶん、自警団の言ってた竜が暴れているはずの方向だ。
それから、つららは首をひねって小さく一言呟いた。
「・・・父上?」
「え?」
きょとんとつららを見る。父上って、つららに名前を付けなかったどころか自分の子供がいなくなっても心配しないロクでもない親だよね?
つららの視線の先には自警団と支援士しかいないはずだし、つららの親は自警団か支援士なのかな?
「もしや、父上・・・!」
「あっ、つらら!?」
突然つららが人の波に逆らうように走り出した。呆気にとられている内に、つららが人の波の中に消えてしまう。
「もう、しょうがないな・・・!」
「あっ、君!?」
自警団の静止を無視して、つららの後を追いかける。
しょうがないよね。その父親っていうのは別にどうでもいいけど、つららは心配だしさ。